初めての戦場
第2根橋砦へ向かった補給部隊が間もなく到着する。
ウィルはいよいよ初めての戦場へ。
機関車が砦へ着くと、班長は機関部から降り班員に向け叫んだ。
「みな急ぎ荷を降ろせ、白のリーフ箱が最優先だ!」
ウィルは貨物車へ走り、白のリーフ箱を荷車に積み治療室へ急ぎ運んだ。まるで講堂の様に広い治療室へ入ると、ウィルはそのあまりの惨状に息を飲む。
ひどく負傷した兵が数えきれないほど横たわり、治癒班もみな治癒の樹法の反動で息が切れている。それでも懸命に治癒を続ける治癒班が、ウィルを見つけ叫んだ。
「補給が来たか!こっちに運んでくれ、早く!」
ウィルは我を取り戻し、白のリーフ箱を中に降ろすと、次の物資を取りに機関車へ急いだ。
治療室から戻る道中、横目に窓から砦の向こう――第2根橋で火花散り剣戟響く激しい白兵戦が見えた。炎剣が舞い雷矢が降り注ぐ中、異形の怪物が大きな腕で兵を凪ぎ払い、鋭い牙で噛み千切っていく。
ウィルはすぐに前を向き直し恐怖を振り払うように走った。
(今の自分に出来ることはリーフを切らさぬことだ……!)
……
戦況は変わり、第3根橋隊からの援軍を加えた樹教国軍が魔族を橋半ばまで押し返した。補給部隊は迅速に荷を降ろし終えると、息つく暇なく王城に向かい出発する。
「急ぎ王城へ戻る。次は第3根橋砦の定期補給だ。ウィル、もう一度機関部に来い」
「は、はいっ…」
ウィルは体力には自信がある方だったが、戦場の熱気に気圧され、自分が思う以上に疲労していた。班長は炉にリーフを入れながらウィルを気遣って話しかける。
「どうだった、初めての戦場は」
ウィルは少し考えてから答えた。砦に来るときよりも機関部の熱が体に堪えた。
「……自分は無力だと思いました。子供の頃から騎士に憧れて体を人一倍鍛えたつもりでしたが、そんなの戦場では役に立ちそうもない……」
班長は優しく言った。
「強靭な魔族には力じゃ敵わんからなあ。外の戦いを見たのか。非力な人間は樹法で戦うしかない。……なに、お前の力自慢は役に立つ。補給部隊は箱を運ぶ体力がものを言う」
班長の慰めがウィルには余計に悔しかった。流れる汗に涙が混じる。
「班長、オレ……樹法を学びたいです。」
班長はやっぱりという顔をした。汗を拭い、水を飲み答える。
「軍人は大抵1年下働きする間に軍のルールを覚え、その後にリーフ適性試験を受けて樹法を学ぶ。だがお前は待てなそうだな。」
「はいっ……!」
班長は口の端に軽く笑みを浮かべ、続けて言った。
「明日王城へ着いたら訓練室へ行け。教官にダンカンの紹介で来たと言いな、話を通しておく。お前は俺の若い頃にそっくりだ……」
「ありがとうございます!」
機関車は夜通し轟音をあげて大陸を縦断していく。ウィルは悔しさと期待と不安と、言葉にできない感情が溢れ涙とも汗ともわからぬほどびしょ濡れになってリーフを炉に入れ続けた。
機関車が王城の車庫へ着く頃には、混沌とした感情の渦は研ぎ澄まされた意志となってウィルの目を輝かせていた。ウィルは砦から持ち帰った修理品などを貨物車から降ろすと、訓練室へと走る――