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世界樹と星の守人 ~七色の光の王女と黒き鋼の英雄は【最高の加護】×【最強の物攻】で人魔大戦を切り開く~  作者: 星太
第6章 樹歴1300年 発明少女ジニー

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遥かなる時を越えて

「うーん、とっても、とっっても信じがたい話……」


 大空洞に戻る道中、ロボから人魔大戦や世界樹、星のコアの話、そして今に至る経緯を聞いたジニーは唸る。アストラルだか何だか、ジニーには見えやしないし、不思議な声が聞こえたこともない。


「でも、ロボがプログラムも無しに自我を持ってるのは、魂が乗り移るぐらいの奇跡が起きないとあり得ないし……何より、ロボが嘘をついているようには思えない。これはただの勘だけど」


 ジニーは腹を括る。


「うん、決めた。私信じる。急ごう」

「……アリガトウ」


 信じてもらえるとも思わずに話したロボは、ジニーの優しさに礼を言った。


「ジニー、コノ辺リで一番深イ場所は大空洞で間違イナイカ」

「そうね、あんなに深い穴は他に聞いたことないわ。ディガー一族がついに底の底まで到達し、穴堀をやめたって話があるくらい。私も底までは降りたことないけど」


 ロボは少しの沈黙の後話す。


「……コアは星の中心にアル。大空洞がコアまで届イテイルとイイガ……」


 2人は極寒の銀世界を早足で進み、大空洞へ急ぐ――


……


 大空洞へ着くと、2人は昇降機で最下層まで降りていく。大空洞は果てしなく深く、昇降機で降りるだけでも幾時が過ぎた。


 その間、ロボはエマを背負ったまま祈るように黙っていた。この穴がコアに続く保証もなければ、コアに着いたとしてエマが蘇る保証もない。


 だが、ロボにはエマが死んでいるとは思えなかった。樹のように堅く、しかし僅かな温もりを感じる――機械のロボが温度を感じるはずは無かったが、それでもロボは確かに感じたのだ。


(お願いだ……生きて……!)


 降り行く昇降機の上で、どれ程の時が過ぎたかわからない。ロボの焦りからか、それは永遠のように感じた。


 一方ジニーは、ロボにいくつも聞きたいことがあったが、ロボの祈るような様子に話しかけることを躊躇い、じっとロボを見守っている。


(2人はどういう関係だったのかな……)


 昇降機は2人を乗せ、大きな駆動音を上げながら下へ下へと降りていく――


……


 やがて昇降機は地熱発電所を通りすぎ、灼熱の粘石層を縦貫するトンネルを下っていく。その先に広がる空間で、昇降機は止まった。


「ヒトマズコアには辿リ着イタ……」

「え? ここがコア? 何もないけど……」


 ジニーの目の前にはただぽっかりと空いた空間があるだけだった。そこは不思議と暑くも寒くもなく、まるで視覚以外の感覚が効かないような無の世界だった。


 一方でロボには見える。目の前に浮かぶ光渦巻く球体が。しかしそれは700年前に見た姿に比べ遥かに小さく、最早光の海どころか小さな湖ほどの量になっていた。


「コアよ、コノコを治セナイカ」


 ロボはエマを降ろしコアに見せる。ジニーはロボが何に向かって話しているのか見えないが、おそらくコアというものがあるのだろうと想像し、黙って見守ることにした。


 コアから光の奔流が弱々しく伸び、ロボに語る。


――よく来たウィル。その娘はまだ生きているようだ――


「ホントウカ!」


 ロボは歓喜の声をあげる。まず何よりその事実が嬉しかった。


――しかしアストラルが世界樹に侵食され、変質しているようだ。つまり、その娘の本質が世界樹に近いものになっている。おそらく樹法を使いすぎたあまり、世界樹と同調してしまったのだろう――


「ドウスレバ治ル」


 ロボは問う。自分に出来ることがあるならば何でもする、確たる覚悟をもって。


――我と同調(シンクロ)し、その娘本来の本質を高める他ない。ウィル、その娘と共に我に還れ。その娘のアストラルの純度は高くない、お主が同調を助けるのだ――


「ワカッタ」


――奔流に自我を失わぬよう気を保ちながら、その娘の形質(カタチ)を取り戻してやれ。ではいくぞ……――


 するとコアから光の奔流が伸びロボとエマを飲み込んだ。


(ぐっ……頭が割れそうだ……! ()()()()()()()……!)


 ロボの体からウィルのアストラルが引き剥がされ、コアに引きずり込まれる。ウィルは轟々と渦巻く光の奔流に溶けそうになるのを必死で堪え、エマを探す。エマのアストラルもまた身体を離れ、コアに引きずり込まれているはずだ。


(どこだ……エマ……! エマ……ッ!)


 それはまるで荒れ狂う嵐の海の中1人の少女を見つけるに等しい行為だった。光の奔流に自我が溺れそうになりながら、ウィルは目を凝らす。


 コアはエマのアストラルは純度が高くないと言った。エマは人の姿を保ってはいないかもしれない。ウィルはそう思い、エマの欠片ひとつ見逃さぬよう懸命に探し――


(あれは……ッ!)


 ウィルは渦巻く光の奔流の中に、一筋の輝く金髪を見つけた。それは日の光に煌めく絹のような髪、ウィルが見間違えるはずのないエマの欠片だった。


(……エマ、お願いだ……自分を取り戻せ……!)


 ウィルは溺れそうになりながら一筋の髪を掴み、強く強く祈りを込めた。在りし日のエマの姿を心にはっきりと思い浮かべ、想いを込める――


(戻れ……! 戻れ、戻れ、戻れ……ッ!!)


 ――するとウィルが掴んだ髪は徐々にエマの形を取り戻す……!


 髪から頭、顔、首……順にかつてのエマの全身が半透明に輝く姿で形作られていく。


(やった……やったぞ……!)


 ウィルは喜びに魂が震え、形が戻り行くエマを強く抱き締める。やがて全身を取り戻したエマが、ウィルの腕の中で目を覚ます――


 ――瞬間、エマはウィルを突き飛ばし叫ぶ。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿ッ! どうしてあんなことしたのよッ! 生きてって約束したじゃない!」


 ウィルはエマの言う「あんなこと」が魔王を自分ごと貫かせたことだと思い、咄嗟に謝る。


「ご、ごめん、ああするしか無いと思って」


 エマは大粒の光の涙を流しながら叫ぶ。


「あれから何年経ったか知らないけど、闇の中で意識はずっとあったの。あの日の光景を何度も何度も思い返したわ……! この馬鹿ッ、馬鹿ッ、私が……どれだけ……!」


 その先は言葉にならずエマは泣きながらウィルの胸を叩き続けた。


「ごめん……ごめん……」


 ウィルは謝りながらエマを抱き締める。エマはウィルの腕の中で呟いた。


「来るのが遅いのよ……。ずっと……ずっと待ってた……ありがとう、ウィル」


……


 エマとウィルはそれぞれの体に戻った。エマの体は嘘のように元の姿を取り戻し、ウィルは再びロボとして動き始める。ずっと動かぬロボを見守っていたジニーはその様子を見てほっとした。


 エマはウィルの戻った体を見て驚く。


「……何よその姿」

「……アトデハナス」


――無事本質を取り戻したようだな――


 光の奔流が伸び話しかける。


「アリガトウ、コアのオカゲだ」


 ロボは心からコアに礼を述べた。するとコアの裏側から誰かが話しかける。


「夫婦喧嘩は終わったか?……久しいな、ウィルよ」


 そこにいたのはかつての魔王、バドラックのアストラルだった――

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