新生バドラックと建国者ユニオン
天から星が降った日より80年。
バドラックは長き時を経てアストラルを再構築し、南大陸の中心にある巨大な岩山で新たな生を受ける。
この80年の間に、世界は大きく変わっていた。
種の衝突で世界中に粉塵が舞い上がり、日の光を遮ったため、星は凍え、木々が枯れていく。
その寒さを凌ぐため南大陸の岩山の洞穴で暮らす一族の族長の息子として、バドラックは生まれ変わる。族長は天啓を受けたと言い、息子に「バドラック」と名付け、過酷な環境に負けぬよう強く強く育て上げた。
……
バドラックが新たな生を受けてさらに20年。
20歳になったバドラックは不思議な声が聞こえるようになる。
――バドラックよ……北大陸に渡れ……――
(何だ、この声は……どこか懐かしい……)
前世の記憶を失くしたバドラックは、その声に何故か魂を揺さぶられ、北を目指す――
……
「ここが北大陸……」
バドラックは渡し船で北大陸へ渡った。この時代には両大陸を結ぶ橋はなく、渡し船だけが海を渡る唯一の移動手段だった。
バドラックは行き先を声に問う。
――大陸の……中心へ……――
バドラックは迷うことなく北大陸の中心へ向かう。まるで家に帰るように、自然と足が向いた。
やがてバドラックは前方に小さな山のような物を見つける。
それは身の丈、枝振りともに50mはあろうかという巨大な樹だった。その樹は七色の葉を繁らせ、日の光を受けてぼんやりと輝きを放っている。
遥か高みに伸びんとするその樹の上空は粉塵雲がなくぽっかりと円形に晴れ渡り、その樹の周辺は日の光を受けて豊かな水と緑に囲まれ、その自然を享受する家々が並んでいる。
その光景はまるで楽園のようにバドラックの目に映った。
バドラックが樹の周囲に栄える街に立ち入ると、そこに住まう人々の活気の声がそこかしこから聞こえる。それは南大陸では聞いたことのない賑やかさだった。
「今日は100年記念日だ、さあさあ寄った寄った!」
「世界樹のおかげで今日も良い日和だ、ありがたや……ありがたや……」
(100年記念日? ……あの樹は世界樹と言うのか……人々はあれを崇めているようだな)
バドラックは近くで見ようと世界樹に向かい街を往く。世界樹に近付くに連れ、足元から響く謎の声が大きくなる。
――……樹に……向かえ……――
バドラックが世界樹の前まで辿り着くと、世界樹前の広場に武具を纏う男たちの集まりが目に入った。その前で金髪の優男が演説している。
「我々に豊かな自然の恵みをもたらす世界樹の発芽から、今日で100年が経った! 我々自警団はこの素晴らしい日を記念し――」
演説を横目に世界樹に触れたバドラックの右腕が、突如メキメキと軋む音を上げ膨張する!
(ぐおっ!? 右腕が言うことを聞かない……!)
バドラックの右腕は白く輝く銀毛に覆われ、同時に足元から声が響く。
――世界樹を……滅ぼせ……!……――
バドラックは声に身を任せ力を解放し、人には見えぬ光の奔流を身に宿す。何故そうしたのか、何が起きたのかこの時のバドラックにはわからなかったが、魂がそうせよと叫ぶ。
――バドラックは全身を白銀の体毛に覆われ、筋骨は膨張し身の丈3mはあろうかという巨きな獣となった。その姿に人々はパニックを起こす。
「ば、化け物だ!」
「どっから現れた!?」
「逃げろ!」
その騒ぎを気にも留めず、バドラックは見た。
世界樹が光の奔流を吸い上げその身に宿し、養分として使い果たす様を。
光の奔流はその色を七色に変え、葉に溜まっていく。変質したアストラルは、星に還ることなく葉に留まり、やがて消えた――
(……あれは一体……? ……! そうだ……!)
バドラックはその瞬間前世の記憶を取り戻し、世界樹を強靭な腕で引き裂く。
――が、そこに先程の金髪の優男が横槍を入れる。
「そこの化け物め! 我らの神聖な世界樹に何をする! 世界樹の奇跡を授かった我らの力を思い知れ!」
金髪の優男が世界樹の葉を握り祈りを込めると、優男は七色の輝きを放ち始めた。それに呼応するように、優男の周囲を囲む数十の男たちの武具が輝きを放ち、バドラックに燃え盛る炎や雷の矢を放つ。
「ぐっ……!」
(……さすがに1人でこの人数を相手にはできん)
バドラックは多勢に無勢と判断し、驚くべき跳躍力で一跳びに街を出た。
退くバドラックを背に、優男が動揺収まらぬ群衆に叫ぶ。
「記念すべき日に悲劇が起きた! しかし我々はこれを戒めとし、世界樹を守らねばならない! 我々自警団は、ここに樹教国の建国を宣言する!」
見事化け物を退けた優男の宣言に、人々は動揺をそのまま興奮に変え賛同の声を上げる。
「ユニオン様、万歳!! 樹教国、万歳!!」
……
一方バドラックは、南大陸へと帰り、南大陸の人々に世界樹の危険性を説いた。人々はバドラックの言葉に不思議と魂が引かれ、賛同した。
バドラックは南大陸の人々を星を守る民――アストラの民と自称させ、徐々に星と同調できる者を増やし、戦力を鍛えた。全ては世界樹を滅ぼし、星を守るために。
こうして永き人魔大戦が始まりを告げる――
……
バドラックはそれから500年に渡りアストラの民を率いたが、樹歴602年、ついに樹教国王女エマの樹法により志半ばにしてその命を落とし、再び星のコアへと向かう。
――しかしバドラックは諦めない。真に星を救うその時まで……





