邪法の修練1
ウィルはドリーの話から邪法の制御方法を掴んだ。いざ実践へ。
「よお、起きたかー?」
ウィルが目を覚まし身支度を整えていると、テントにダンカンが入ってきた。
「いやあ、昨日は酷い目にあったぜ。一晩中穴堀だ。それが嫌で軍に逃げたのによ……お、なんか憑き物が取れたような顔してるな、良い話が聞けたか」
「はい!」
ウィルは晴れやかな笑顔で返事した。
「それで、どうする? 邪法の制御方法はわかったのか」
「はい。声に負けぬ強い意志を持つことです。ドリーさんがそう導いてくれました」
「あのばーさんの導きなら信じていいだろう。で?」
「ダンカンさん、よければ邪法の修練に付き合っていただけませんか。実際に戦いながら流れ込む混沌に負けぬよう、経験を積みたいんです」
ウィルの目に炎のような決意が宿っている。ダンカンはその目を真っ直ぐ見つめ返し言った。
「いいだろう、そうと決まりゃ一旦王都に帰るぞ。リーフを補給せにゃ、邪法を使ったお前の相手は務められん……何より早くここを出ねえとまた穴堀させられちまう」
「ありがとうございます!」
ウィルの嬉しそうな笑顔に背を向けると、ダンカンはウィルに聞こえぬ声で呟いた。
「――さて、手綱役はここからが本番だな。ウィルがもし暴走したらその時は……」
……
こうしてウィルとダンカンは白銀舞うディガー一族のキャンプを後にし、王都へ帰った。ダンカンは黄と緑のリーフを大袋一杯に詰めると、それをウィルに持たせ、王都からやや西にある山林へ向かった。
「よし、ここならお前も人目を気にせず邪法を使えるだろう。俺も準備するからちょっと待ってな」
ダンカンは腰掛け鞄から世界樹製の手甲と足甲を出し、手際良く身に付けた。手甲と足甲からは世界樹の枝を細く撚り合わせた綱が腰掛け鞄の中の葉壺に延びている。ダンカンはウィルに担がせた大袋を取り、中から黄と緑のリーフを葉壺に詰めた。2人は少し離れた間合いを取り向かい合った。
「オーケー、いつでもいいぜ」
「それじゃあ、邪法を使います……っ」
ウィルは目を瞑り、緊張しながら意志を込めた。
(使命は聞かない……俺の望みのため、力を寄越せ!)
ダークブラウンのウィルの髪が黒く染まり、たちまち全身を覆った。全身がメキメキと軋む音を立て、筋骨が隆起する。それと同時にまたも混沌が流れ込む――
――樹教……を滅ぼせ……界樹を滅……よ……――
(……黙れ……今度は負けない……)
「……ハアッ、ハッ……」
「ウィル、大丈夫か」
ダンカンは注意深くウィルの様子を見た。いつ"その時"が来てもいいよう、重心を前に乗せ、身構える。
「大丈夫です、いきますっ!」
「来い!」
瞬間、ウィルが地を蹴り、黒き鋼の砲弾の如くダンカンの目の前に跳び込んだ。
「うおっ!?」
ダンカンはその跳躍力と俊敏さに驚きつつも危なげ無く横に避ける。ウィルはすぐさまダンカンに向き直したが、その時には既にダンカンは後ろに跳び間合いを取っていた。
(ダンカンさんは判断が早いんだ……戦い慣れしてる……くっ……また声が……)
――樹教国を……ぼせ……世界樹を滅……よ――
ウィルの頭に混沌が強く流れ込み、一瞬立ち止まった。ダンカンはその隙を見逃さない。
「どうした、今度はこっちから行くぜ」
ダンカンは意志を込めると、その体内に雷を、その身の回りには風を纏った。足元が僅かに宙に浮いている。
(あれがダンカンさんの樹法……?)
そうウィルが認識したその瞬間には、ダンカンは疾風の如くウィルの後ろに回り、首に雷の手刀を一閃――ウィルは意識を失い、勝負はこの一瞬で決まった――





