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世界樹と星の守人 ~七色の光の王女と黒き鋼の英雄は【最高の加護】×【最強の物攻】で人魔大戦を切り開く~  作者: 星太
第2章 樹歴400年ー 穴堀好きの少年ディグ

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夕焼け染まる魔王城

魔王城へ連行されるディグ。

待ち受けるのは鬼か蛇か。

 ディグは魔族に連れられ、南大陸の中心にそびえる魔族の城へと向かった。海岸から離れ大陸の中心に進むにつれ、草木は減り、岩や砂だらけの土地が目立つようになってきた。ディグはおそらく初めて南大陸へ渡った北大陸の人間として、興味深く周りを見回す。


(南に往くほど荒廃が進んでるな……)


 やがて前方に、その頂は雲を貫き、その山麓は地平を横断する巨大な岩山が見え始めた。よく見ると岩山には穴が多く空いており、堅牢な城として開発されていることが伺える。魔族は岩山を指差し、言った。


「あれが我らの城だ。お前を王に会わせ処遇を判断していただく」


 魔族の物言いに、ディグは違和感を感じた。


(問答無用で処分されるってわけじゃなさそうだ……何ていうか、魔族ってもっと粗暴なもんだと思ってたが)


 暫く無言で歩き、ようやく城に着く頃には日が沈みかけており、辺りは夕焼けに朱く染まっていた。城に入るとき、城前の訓練場と思われる広場で、隊列を成した魔族軍に、上官らしき魔族が檄を飛ばすのが横目に見える。


「良いか、我らアストラの民の誇りに懸け、必ずや世界樹を滅ぼすぞ!」

「オオオオーーー!!!」


(そうか、俺達は勝手に魔族って呼んでるが、自分達ではアストラの民って自称してんだな……アストラってどういう意味だろ、地名か?)


「おい、ぼさっとせず歩け!」


 魔族に急かされ、ディグは早足で城に入った。


 岩窟城の中は薄暗くひんやりとしていた。所々岩壁に空いた穴から日の光が射し、一定間隔で燭台がありゆらゆらと蝋燭の灯が揺れている。長く入り組んだ岩穴の通路には幾つもの扉が並び、方々から魔族の声が聞こえる。


「――やはり第3根橋を攻めんことには――」

「しかしあの砦の将は侮れんぞ――」


(中はだいぶ広そうだ、天然の岩穴がもとになってるだろうが、それにしてもかなりの掘削作業だったろうな)


 石段を登り、大きな岩の扉の前に立つと、魔族が扉を開け、ディグを見て言った。


「ここが王の間だ、入れ」


 そこは岩山の中とは思えぬほど広く天井の高い空間だった。部屋の奥にはやや高い岩棚があり、とても座り心地が良いとは思えない岩の玉座があった。入り口から岩棚までは紅い絨毯が敷かれ、絨毯の左右には金の燭台が並び、その灯は長く立ち上ぼり不気味に揺れている。


 玉座には1人の魔族が座っていた。その魔族は意外なほど細身で、その身は鋭く尖った白毛に覆われていたが、天井の岩壁の隙間から射す夕陽で朱く染まっている。ディグにはそれが樹教国軍の返り血のように思えた。


「良く来たディグよ、待っていたぞ。連行ご苦労だった、下がれ」

「はっ」


 ディグを連行した魔族は王の間を後にし、部屋は白毛の魔族とディグの2人きりになった。


「どうして俺の名を……待っていたって、どういうことだ?」


 白毛の魔族は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「我は"声"がよく聞こえるのでな、そなたも聞こえるであろう、その右腕がその証」


(??? 何だって……? 大地の声のことか?)


 混乱するディグを岩棚の玉座から見下ろし、魔族は続けた。


「……さてディグよ。北大陸の人間として生きるそなたが、何故ここへ来た。我を討つためではあるまい」


 ディグは少し考えたが、試すような魔族の視線の鋭さを感じ、嘘が通るとは思えなかったので正直に答えることにした。


「樹教国で、魔族と間違われ追われた。ここへ来れば何かわかるかと。……あと、南大陸に穴を掘ってみたくて」


 白毛の魔族は突然笑いだし、上ずった声で言った。


「ふははっ、穴だと? どうやってこの南大陸へ渡ったかはわからんが、尋常な道程ではあるまい。危険を冒してまで穴が掘りたいか」

「……悪いかよ、俺はそれしか能がないんでね」


 ディグは馬鹿にされたようで不貞腐れた。魔族は急に冷静になり真剣な眼差しでディグを見据え、言葉を紡ぐ。


「いや、悪くはない。それがそなたの使命なのだろう。"声"がそう導くならば。……気に入った。ディグよ、半年間、好きなだけこの南大陸に穴を掘るが良い」

「へっ? いいのか?」

「ただし半年の後、出土品は全て我に報告せよ。必要なものがあれば言うが良い、供をつけよう……おい、セトラ!」


 魔族が呼ぶとどこから現れたのか、ディグの横に両腕が紅い体毛に覆われ、ディグと同等の背丈で引き締まった肉体をした女性の魔族――セトラが跪いていた。セトラは上質な紅い生地の長布を艶やかな褐色の身に纏い、首には銀の輪を2つさげている。ディグにはある程度位の高い女性に見えた。


「はっ、お呼びでしょうか」

「この者に半年間付き人として世話をせよ。大事な客人だ」

「はっ」


……


「お客人、これからしばらく暮らしていただく客室へご案内しましょう」


 王の間を出ると、セトラはディグの顔も向かずスタスタと石段を降りていく。その言葉は丁寧だが温かさは微塵もなく、伏し目がちの切れ長な目と相まって非情に感じた。


(王に命じられたから仕方なく……って感じがアリアリだな)


 ディグはセトラの対応も当然だろうと思った。何せどこの馬の骨ともつかぬ北大陸の者を世話するのだ。通路ですれ違う魔族はみなディグを奇異な目で見た。


(樹教国では魔族と言われ、魔王城ではこの扱い……俺はコウモリか……鉱山街がちょっと恋しいね)


 またも入り組んだ岩穴の通路を奥へ進み、突き当たりの部屋へ着くとセトラは扉を開けた。岩壁をくり貫いて作られたであろう客室は、床に板が張られ、壁や天井も大きな深緑のタペストリーで覆われており、岩穴の中とは思えないほど整えられている。おそらく貴賓室のように、この城の部屋の中でも質の高い部屋を用意してもらったのだとディグは思った。


「こちらを自由にお使いください。今日はもう日も暮れますので、穴堀は明日になさってください。ご用の際は名前をお呼びいただければ直ぐに参ります。それでは」


 セトラは一気呵成に用件を言うと風のように消えた。


「……嫌われてんのかね」


 ディグは独り言を呟き、部屋の中央奥に据え付けられた大きな寝台に寝転ぶと、緊張感から一気に解放され、そのまま泥のように眠った――

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