第3根橋戦を終えて
戦いの最中気を失ったエマとウィルは、王城へ戻る機関車の中で目を覚ます。2人はこれからどんな道を歩むのか。
エマが目を覚ますと、そこは機関車の寝台室だった。剣戟は聞こえずガタゴトと揺れる音だけが響き、窓からは景色が過ぎ去るのが見え、穏やかな陽の光が射し込んでいる。
「姫様、お目覚めですか。丸1日お休みでしたので心配しましたぞ」
寝台の横に座っているジールが笑みを浮かべ声をかけた。エマは自分が戦場で樹法を使った記憶を思い出し、慌てて聞く。
「丸1日!? そんなに寝てたのね……私、意志を込めた後のこと覚えてないの、ねえジール、何が起きたの? 戦いは……収まったのね?」
「はい。姫様の樹法とこやつの力で無事魔族軍を退かせることができました。援軍も到着し、第3根橋はもう大丈夫でしょう」
ジールはエマの隣の寝台をちらりと見て言った。そこにはウィルが寝ている。
機関車がカーブにさしかかり大きく揺れると、その振動でウィルは飛び起きた。
「……はっ、ここは!? 魔族軍は!?」
「落ち着けウィルよ、戦いは終わった」
ジールはウィルをなだめ、続けた。
「ここは機関車の中、王城に向かっておるところじゃ。戦いの様子を王に報告したところ、急ぎ2人を連れ王城に戻るように言われたが、2人が寝ておったのでな。飛行するわけにいかず、第3根橋に補給に来た機関車に乗せてもらったのじゃ」
ジールが話しているところに、汗だくの補給部隊班長のダンカンが駆け込んできた。
「じーさん、ウィルは起きたか! ……おー、ウィル、砦の兵から聞いたぞ、単身敵軍に飛び込み一瞬で敵将を討ったんだってな! いやー俺の目に狂いはなかったな」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうなの!?」
ダンカンの言葉にウィルとエマは驚いた。
「ん? 覚えてないのか?」
「ダンカンよ、2人は戦いの記憶がないようでの、今から話すところじゃ」
「お、俺も詳しく聞きたいね」
ジールは戦いの様子を話した。エマが樹法を使うと皆のリーフが輝き各兵の樹法が強まったこと、ウィルが邪法を使い魔族より一層獣化して敵将を討ったこと、ウィルが暴走したこと、2人とも生命力を使い果たし丸1日昏睡していたこと……
エマは時折喜びや驚きの声を上げつつ聞いたが、ウィルは黙って聞いていた。ジールの話が終わるとウィルは重く口を開く。
「邪法を使っている間、声が……聞こえたんです。よくわからなかったけど、おそらく、樹教国を滅ぼせ、世界樹を滅せよと」
「なにっ……」
ジールとダンカンは目を見開いた。ダンカンが言う。
「ウィル、そいつは黙っとけ。ここだけの話だ、じーさん、いいな」
「うむ……」
4人はそのまま黙った。エマは何と声をかけて良いかわからず、ウィルを見つめた。ガタゴトと揺れる音だけが寝台室に響いていた。
……
機関車が王城に着くと、ジールはエマとウィルを連れ作戦室に行った。3人が入室すると王が優しく声をかける。
「おおジールよ、帰ったか。エマもよくぞ無事に帰った。ウィルとやらも話は聞いたぞ、ご苦労だった」
王は突然厳しい顔になり、続けて言った。
「してジールよ、2人はあとどれくらいで使い物になる。ここ数年の戦況は良くない。守るばかりでなく打って出なければ。2人はその突破口になりうる。そうじゃな?」
父の言葉に、エマは自分が寝ている間にジールがしたという戦況報告の内容を察した。今回のような一時凌ぎとしては強力無比、ただし通常の戦ではまともに使えぬとでも報告したのだろう。ウィルは話が見えず困惑していた。ジールが答える。
「仰る通り。戦略に組み込むためにはおそらく3年は訓練が必要かと。一度に全力を使い果たしその後は丸1日昏睡する始末。ウィルに至っては暴走までしております、2人とも力を制御する術を身に付けなくてはなりません」
王は少し思案の後、答えた。
「……3年では遅い。魔族は年々獣化の深度が上がり、強力になっておる。2年じゃ、訓練はそなたに任せる。何とかしてみせよ」
「……はっ」
3人は作戦室を後にし、ジールの自室へ向かった。早足で進みながらジールは言う。
「さて2人とも、これからは忙しくなりますぞ」





