心の病
診察室の扉がノックされた。
「失礼します」
最後の患者は、10代の少女である。
「おすわり下さい」
少女は制服のスカートを整えて、腰を下ろした。
「本日はどうされましたか?」
「はい最近、なんだか、胸の当たりが重たくて。すごくしんどいです」
「なるほど。何か、悩み事や不安な事が蓄積されて、それが凝り固まって、君の心を蝕んでいるのかもしれないね」
「……実は、いま、学校でいじめを受けていて」
少女はぽつりぽつりと話し始めた。
「仲良くしていた子にまで……酷く当られて……。友達だと思っていたのに……。私だけだったのかな、そう思っていたのは……」
「分かりました。問題ありません。直ぐに手術に取り掛かりましょう。必ず治してみせますから」
医師は少女の手を握って、その目を真っ直ぐと見つめた。
「ありがとうございます。お願いします、先生」
そして、無事に、手術は成功した。
それから数日後、再び少女が診察室にやってきた。
「先生、あれ以来、心が軽くなりました。でも、なんだかものすごく虚しいんです」
「ええ、それは心を切除する手術が成功した証です。問題ありません。あなたが、いじめに苦しんだり、悲しんだりすることは二度とありません」
「実は、その通りなんですが……」
「まあ、副次的な効果として、パンケーキを食べて幸福感を味わったり、タピオカを飲んで充実した感を得ることもできなくなりましだがね。
しかし、虚しさを感じるということは、すこし腫瘍を残してしまったようです。直ぐに手術に取り掛かりましょう。今度こそ、完治してみせますから」