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11. 戦艦チュラタム強襲(後編)

 やがてデブリ帯を抜け、一行は携行火器の射程に敵艦の姿を捉えた。

「うわっ……何だこれは!?」

 初めて間近で捉えた敵艦の姿。装甲板には無数の大穴が口を開け、各所には大火災を起こした跡も見て取れる。例え武装や機関部が無事だったとしても、この状態になった艦を何者かが操縦しているというのは、俄かには信じがたい状況だ。現用艦艇の制御は高度に自動化されているが、その制御システムの手綱を取るのは人間なのだ。艦内の人間が生き残れないほどに損傷した艦が動くはずがない。あり得ないことが目の前で起きている。

「どうなってやがる!?」

「怯むな! 全機攻撃開始!」

 敵艦を射程に捉えた機体から順に、携行火器の一斉射を開始した。ビームガンやアサルトライフルを装備した前衛は複雑な戦闘機動を取りつつ、敵の防空システムを攻撃して隙を作る。そして敵艦が反応できない瞬間を狙い、後衛がビームキャノンやミサイルランチャーの一撃を叩き込む──戦闘教本通りの、見事な対艦攻撃だ。

「リジーナ! 生きてるか!?」

 一度目の機銃掃射を終え、スマートPDWのマガジンを交換しながらオーヴィルは叫んだ。眼下には、部隊全力の火力投射を受け止めてなお健在の敵艦の姿。

「俺は一度離脱してもう一度仕掛ける! そっちはどうする?」

 ハリネズミのように武装した敵艦の上空にいつまでも陣取るのは自殺行為だ。訓練ではこういう時、編隊を組んで一撃離脱を繰り返すよう教わっている。だが──リジーナは違う。

「あんたはそうするといいさ! あたしはあたしのやり方がある」

 オーヴィル機のやや後方、リジーナの駆る重HF「チェルノボーグ」はその装甲に物を言わせて、小口径ビーム銃座の攻撃を正面から受け止めながら突撃する。

「ふんっ!」

 チェルノボーグの両脚が展開し、中から2本のチェーンが発射された。宙賊が商船への移乗攻撃に多用する、悪名高いフック付きチェーンだ。先端のアンカーが敵の装甲板を易々と貫徹。脚部内蔵のウインチがチェーンを巻き取り、両手斧を携えたチェルノボーグは敵艦の甲板に勢い良く降り立った。

「この様子じゃあ、盗るモノは何も無さそうねえ……」

 コクピットの中で、リジーナは凶暴な笑みを浮かべた。この至近距離では、戦艦の防空システムも役に立たない。

「せめて、あんたらの(タマ)だけは頂くとしようか!」

 砲身が触れるほど近距離の敵に対処する術を持たず、三連装プラズマキャノンを搭載した主砲塔が駄々をこねるように左右に旋回する。リジーナはその根元──主砲にエネルギーを供給するサブリアクターの位置に目星を付け、火花を散らすチェーンアックスの刃を突き立てた。

「……なにっ!?」

 リジーナは驚愕した。装甲板の下から迸ったのは火花や爆発ではなく、極彩色の組織液だったからだ。チェーンアックスから伝わるのは、金属ではなく肉を切り刻む感触だ。

「侵食タイプか! 道理で……」

 切り口から覗くのは艦内を埋め尽くす、病的に増殖した肉塊。そしてその奥には、繭のような、あるいは胎内の羊膜のような白い球状の袋が見える。直径は、目測で10メートルを下らないだろう。

「あれが本体か!? もう少し奥まで……!」

 リジーナはチェーンアックスをさらに深く押し込み、敵のコアと思しき部分に直接攻撃を加えようとした。だが、回転刃が白い膜を切り裂き始めたその時──中から粘液に塗れた腕が伸び、チェーンアックスの柄を掴み取る!

「うわっ!?」

 その腕は、HFのマニピュレータとほぼ同サイズ。華奢な外見とは裏腹に凄まじい筋力を発揮し、チェルノボーグが両腕で引っ張り返すがびくともしない。鱗や体毛を持たず、5本の指でリジーナの得物を奪い取ろうとするその姿は、冒涜的なまでに人間に似ていた。

「──シヴ1より各機へ、ヘビー・フュージョン・ブラスターの発射準備が完了した! 奴にとどめを刺す」

「タントー1、了解(コピー)! 聞いたな、全機後退!」

「バリソン1、了解(コピー)。バリソン隊全機、後退ののち再集合せよ」

 サミュエルからの通信を聞き、部隊のHFが次々と戦闘を離脱する。だが、武器を取り返さないことには引き下がれない。

「畜生、放せってんだこの野郎!」

 片腕でチェーンアックスを引っ張りながら、もう片方の腕でリボルバーの速射を浴びせるが、全く効果がない。それどころか、謎の腕は激昂したかのように一層の力を込め、機体もろとも艦内に引きずり込もうとする。

「シヴ3! 何やってる、早く撤退しろ!」

 サミュエルに促され、リジーナはようやく得物を諦める決断を下した。チェーンアックスを手放し、脚部アンカーを格納して甲板上から離脱する。

「サム、第2砲塔の真下だ! あの中に何かいる!」

「分かった!」

 蜘蛛の子を散らすようにHF達が敵艦から離れてゆく。そして全機が安全圏に離脱すると、サミュエルのデヴァステイターはついにその砲門を開いた。


「砲身冷却システム正常、射撃角度設定完了──発射!!」

 途方もない熱量を秘めた白い光線が宇宙空間の闇を裂き、遥か遠方より飛来する。射線上に散乱するデブリが熱と光を受けて、まるで星屑のように煌めいた。

 高収束の熱線を受け止め、戦艦チュラタムの舷側を固める複合装甲板が赤熱する。艦体表面に設置された銃座や副砲、アンテナといった構造物が飴細工のように溶けていくが、艦の構造自体にダメージを与えるには至っていない。

「エネルギー残量50%、40%、30%……まだ沈まないのか!」

 高熱で溶融した装甲が、火に掛けられたシチューのように泡立ち始める。そして次の瞬間──艦内から鮮緑色の爆炎が立ち上り、ビーム照射を受け続けていた箇所の構造材が灼熱の金属飛沫と化して飛び散った。

「──やった!!」

 主砲にエネルギーを供給していたサブジェネレータの誘爆だ。重量数百トンの主砲塔がオモチャのように吹き飛び、次々と起こる連鎖爆発が艦全体を炎に包む。

 無数の破片を撒き散らし、巨大な艦体が真っ二つに折れる。電源系統が寸断されたことにより、自動防空システムが沈黙する。つい先程まで空間を埋め尽くすほどだった、ビーム兵器による弾幕がぴたりと止んだ。

 宇宙空間に再び静寂が訪れた。

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