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掌編集。

レジェンダリーとアドバンス ~ 転生姫(少女)は焦がれ続ける ~

作者: ぷちミント

「ねえ知ってる? ネイオット」

 二人の若者が並んで歩いている。今声を出した方は鮮やかな金髪を首のところまで伸ばした、パッと見少女と見まごうような顔だちをしている。美しい碧眼も目を引くだろう。

 

「なんだよカグハ、藪から棒に」

 少し驚いたようにチラリと左隣の少年、カグハを見て言ったのがネイオット。黒髪の一部を束ねて、角のように三つ立てた目付きの悪い少年だ。

 

「昔の転生物の物語ってさ。現世には特になにもなくって、メインキャラが前世の因縁とか更に昔からの定めみたいな物で、主人公のことを狙って来るって言うのがあったんだってね」

 歩くたびにカチャリ カチャリと鳴る装いをしている二人だが、カグハの言う内容がいまいちかっこうと合わない。

 

「ああ、なんか聞いたことあるわ。で、そいつらとかかわってるうちに主人公もその前世の因縁を思い出すのが一つ。現世の感覚のままでキャラたちと関係を深めたり 敵対して倒したりが一つ、だよな?」

 そうそう、とネイオットの言葉に頷くカグハ。

 

「けど、今そんなまだ残ってるのかわからないような物語構成の話持ち出して、どうしたんだよ?」

 もう一度疑問を返すネイオットは、左腰のなにかに左手をやる。

 

「君が、ぼくら二人が同じタイプの転生者だと思ってるからだよ」

 さらりと告げられた言葉に、しかしネイオットは「違うのか?」と軽い調子で聞き返すだけだ。

 

「そう。君とぼくはタイプが違う」

 カグハは、同じく軽い調子で頷く。

 

 

「俺は、ちかごろはやりの転生物語の感じで現世の記憶なんかを持ったままでこの世界に転生した。お前のことは、知り合って少ししてから転生者だって話を聞いたんだったよな」

「君がうっかり前世についてのことを言ってくれなきゃ、すぐには君だってわからなかったけどね」

 

 クスクスと笑うカグハに、ネイオットは不思議な感覚を覚える。これはいつものことである。

 

 男のはずのカグハが笑うと、奇妙なことに染みついたように女性的に見えるのだ。元々女性的な容姿ではあるものの、そういうことではなく もっと奥の。

 

 魂に刻まれた感じに、ごくごく自然に女性的になるのだ。まるで男であることを拒絶しているかのように。

 

 

「んで? なんで突然そんなことを。それもこの、冒険者(体張った万屋)仕事の道中で言い出すんだよ」

 君だとわからなかった、って言う言葉が少しひっかかったが、どうやらそれについて聞く時間ではないようだ。

 

 スラリ。左手をおいていた場所から、なにか取り出すネイオット。

 それは鉄製のグローブだった。いそいそとそれをはめるネイオット。

 

「ううん、そうだなぁ」

 楽しげに小首をかしげて考えるポーズを取りながら、カグハはニコリと笑う。

 

「メリハリ、かな?」

 その笑顔やめろよ、女の色気が出てるから。と思ったネイオットだが、喉まで出かかったのを胸の内まで叩き返した。

 

「どうしたんだいネイオット。目を白黒させて」

 クスクス、微笑するカグハ。だからやめろと心で大絶叫するが それは誰にも聞こえない。

 

 見るからに動揺しまくっているネイオットをひとしきり眺めると、カグハは少し先にある目的地を見やった。

 

「さて、ゴブリン退治のお時間だ!」

 動揺を握りつぶすように叫び、ネイオットは走り出した、

 

「アスタレイド!」

 右手を天に翳して叫び、その手に光を灯して暗闇を避けて。

 

「ボーっとしてんなカグハ!」

 一度振り返り声をかけると、返事を待たずに目的地 ゴブリンの群れが住む洞窟へと無警戒に駆け込んで行った。

 

 そんなネイオットを見送りまた小さく微笑むと、徐にカグハは天を見上げた。

 

 

「ぼくは……いえ。わたくしは鬼怒川鬼鵺知朗尚人きぬがわおにやちろうなおひと様。むかしむかし。おとぎ話の時代 あなたがこの名前であったころから。

 

わたくし輝夜姫てるのよひめは、あなたさまをお慕い続けております。あなたさまの魂魄が男女を経ようと、たとえ世界を渡ろうとも。わたくしの魂魄は、英豪あなたを慕い 共に歩むことを止められないのです。

 

それが、水鏡であなた様を覗き見て、一目逢いたいと願い そしてかなえてしまった、異世界人のわたくしの消えぬ そして幸せな罰なのですから。

 

肉体は男同士であったとしても、たとえ女同士になっていても。この気持ちはかわりません。魂魄はわたくし、輝夜姫てるのよひめなのですもの」

 

 

 輝夜姫てるのよひめもどったカグハはそう物憂げに、決して明かせない言葉を天に聞かせるようにそっと吐き出して。

 

「本当に。昔の昔っから勢い任せですね。わたくしがフォローしないと、あぶなっかしくてしかたありません」

 

 幸せそうに呟いて。そして一つ、深い呼吸に一瞬涙をにじませた。

 

 

「やれやれ。背中合わせがしたくて選んだ剣だけど。元々得意だった魔法。何百年ぶりかに使ってみようかな」

 少年カグハの心持に戻った少女は、最愛の人の今世いまであるネイオットのおかげで光が漏れ出している、洞窟を目指して走り出した。

 

 

 

 

 

                               おわり。

冒頭で言ってる昔の転生物の物語セオリーは、記憶に基づいただけで

しっかりと確認したわけではないので、間違ってる可能性がございます。

また、あくまで一例ですので、ご了承ください。

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