幼女な僕とおくるもの
日も落ち辺りはすっかり暗くなったころ、僕は家の庭を歩いていた。
庭といってもその広さはかなりのもので、屋敷から歩いて既に10分以上経つがその倍くらいの広さだ。
「この辺でいいかな」
お爺様の部屋から見易いであろう位置で足を止める。
ある魔道具を手に持ち空へと向ける。
それは、お父様からもらったあのなんちゃってライターを改造した魔道具。
お父様におねだりして買って来てもらった魔石を三つ足して、一つ一つの魔石に限界まで魔方陣を書き込んだ今の僕にとっての最高傑作。
お爺様はもう長くない。だから最後に見せたかったのだ。
それはこの世界に無いもの。
異世界人である僕とお爺様だけが知っているもの。
「間違いなく転生の事バレるだろうな~」
まあ、あのお爺様の事だ。きっとそんな事は気にしないだろう。
魔道具に魔力を込める。
大丈夫。何度も数式をチェックしたし、きっと成功する。
魔道具の先端に火が灯り上空へと打ち上げる。
まるで笛のような音を鳴らせたそれは、一際大きな音と共に爆発した。
様々な色の火がその中心から外側に向けて広がっていく。
その様は火で出来た花、つまりは花火。
「よし!一つ目成功!次は菊」
魔道具の機能を切り替えて再び打ち上げる。
同じように上空で爆発し、今度は尾を引くように消えていく。
花火の魔道具は大成功だ。
僕は、その後も次々と花火を魔力量の限界まで打ち上げたのだった。
ーーーーー
急いでお爺様の部屋へと向かう。
「お爺様…?」
お爺様は一人涙を流していた。
「ありがとうアイリス。昔、日本で弟と妻の三人で見た花火を思い出したよ」
そういいながらお爺様は僕の頭を撫でる。もう前ほどの力強さはない、弱々しい撫でかただった。
喜んでくれて良かった。きっとお爺様は喜ぶと思った。僕にとっても花火は親友達との大切な思い出なのだ。
ん?妻?
ふと、お爺様の言葉に引っ掛かりを覚えた。
異世界人はお爺様と弟の二人で、妻とは僕のお婆様、つまりこの世界の人間の筈だ。
「お婆様も花火を?」
「ああ、アイリスと同じ、ユキ…いやソフィアも転生者だった」
お婆様も僕と同じ転生者という事実に驚く。
というよりやはりバレたか。
「気付いていたのですね」
「ああ、薄々な。ソフィアと同じ銀髪と碧眼だし、それにこの世界の人間は数式という言葉を使わない」
お爺様との勉強の時によく数式と言っていた気がする。
なんだ、かなり前からバレてたのか。
「アイリスの昔の名を教えてくれるか?」
お爺様は撫でていた手を僕の頬に添える。
僕はその手を両手で包む。
「ユウです。優しいって書いてユウ」
「そうか、ユウ…いい名だ。その名の通り優しい子。キミがワシの孫で本当に嬉しく思う」
「私もです。お爺様が私のお爺様で本当に良かった」
僕の頬を涙が伝っていく。
お爺様の手は弱々しく、段々と力が抜けていくように感じた。
「いいかい、ユウ、これから先どう足掻いても解決出来ない場面に遭遇するかもしれない…だけど決して諦めないでおくれ」
その言葉はお爺様の体験からきた言葉だったのかもしれない。
だけど僕には、それが予言めいた言葉に聞こえた。
「はい、お爺様…私は決して諦めません」
それがお爺様からの最後の教え。
おくられた言葉だった。