幼女な僕と魔王なお爺様
魔道具と呼ばれるライターを手に書庫へと向かう。
最近はこれが僕の日課になっていた。
諦めきれないというのもあるけど、このなんちゃってライターがどうしても気になっていた。
魔道具の先端には魔石が付いていて、その中に魔方陣のようなものが描かれているのだ。そこに書かれている文字の内容が分かれば、自分で新しい魔道具が作れるかもしれない。
まあ、製造が難しいらしいからあまり期待は出来ないけど…
調べていくうちに分かった事はこの魔石に火の属性を表す文字が描かれていた事くらい。
その近くに数字のようなものが描かれていたが、これが何を意味するのかが分からない。
「ん~、数式っぽいよな~、必要魔力と算出される威力の計算式?」
今の所は仮説ばかりで何も進んでいないのが現状だった。
「勉強かい?アイリス」
突然声を掛けられて驚きながらも振り返る。
ヤバい!独り言聞かれた!?
「お、お爺様。今日は寝てなくて大丈夫ですの?」
「今日は調子がよくてな。ああ、これは魔法言語か。魔道具の勉強かい?」
相変わらずの柔らかい口調で返事が帰ってくる。
どうやらバレてないようでホッとした。
「はい、お爺様。魔石のこの模様が気になって調べていたのですけど…」
「ああ、これは火を出す魔道具だな。分からないのはここかい?」
そう言いながらお爺様は指先で空中に魔方陣を描き、僕が分からなかった数式のような物を指差す。
指先で空中に絵や文字を描く魔法はさほど難しくはない。というより、この世に存在する魔法事態が初歩の初歩といった感じなのだが…
それよりも驚いたのが、初見で魔道具の効果や分からなかったところを言い当てられた事だ。
「はい!お爺様、この数式?みたいな所がよくわからなくて」
「アイリスは賢いな。よくこれが数式だと気付いた」
そう言ってお爺様は僕の頭をなでる。
昔からそうなんだけど、お爺様はどこか僕と似たような感じがするんだよな。
相性がいいのか、多分家族の中でも一番好きだったりする。
「火の記号の後に続く数式は、記号の属性の効果範囲、威力、まあこの場合は熱量か、そして最後に必要魔力が描かれている」
「お爺様凄い!もっと教えて」
お爺様の知識はなんというか凄かった。本に載っていない記号なんかも全て解いて見せたどころか、指先で魔方陣を描いた魔法と、僕の知らない転写という魔法を使って魔方陣の数式に追加項目を刻んだのだ、とてもボケ間近の人とは思えない。
「魔道具に魔力を流してごらん」
そう言われて渡されたライターっぽいものに魔力を流して行く。
先端に赤い火が灯る。大きさも何時もと変わらない。
何が変わったのかよく見ていくと、時間と共に色が変わっていったのだ。
最初はいつもの赤それから橙、黄、緑、青、藍、紫と次々に変わり最後はその七色の火が混ざらないように揺らめいていた。
「わあ、綺麗…虹色の火…」
たかだかライターだと思って諦めていたけど、魔道具の知識を知れば知るほど目標に辿り着けそうな気がした。
そう思えるほど綺麗な火だった。
「最近元気がないみたいだったからな、喜んで貰えてなによりだ」
「ありがとう、お爺様。でも、どうしてお爺様はこんな凄い知識をしってるの?」
他は知らないけど、この家の書物だけでもかなりの量で僕もこの1ヶ月くらい魔法言語や魔道具についてかなり読み漁ったのだ。
それでも全く理解出来なかった事をスラスラと解いていくお爺様はもはや只者じゃなかった。
「まあ、アイリスももう知ってもいい年頃か…そろそろ門も開くだろうし」
「門?」
一体何の話をしているのだろうか。
「ああ、ワシの知識はな、昔魔王をやっていたからだ」
「は?魔王?」
思わず素で聞き返した事に気付いて我に帰る。
魔王をやっていたというお爺様。
それが本当なら只者どころではなかった。