幼女な僕の後悔
レオナルドは屋敷から引きずられるように連れられて来た。後ろ手に縛られ、逃げ出さないようにする為なのか脚の健を切られている。
「カノン、貴女の願いは必ず叶えます。その時は呼びますので、それまでは誰も近づかないように。お姉様もお願いしますわ」
人払いを済ませた僕は、捨てるように転がされたレオナルドの上体を起こす。僕はこれから彼と向き合わなければならない。
「なんのつもりだい?殺すならさっさと殺せばいい」
「レオナルド…あなたの、あなたの一族の宿願とは、世界の改変。異世界召喚の無い世界ではないのですか?」
レオナルドは一瞬驚いたような表情を見せた。ああ、やはりそうだったのかと自分の過ちを後悔した。
僕は最初から間違っていたのだ。集落や街並みを見て嫌悪感を抱き。軍事力を見て彼への印象を決めつけてしまった。
「へぇ、良く気付いたね。君が言う通りさ。私は国の王になり、異世界人自らの手で門を破壊させ、世界をあるべき姿に戻すつもりだった。まあ、どうせ終わりなんだ。全て明かしてやるよ」
彼は開き直るかのように語りだした。スズキ家の悲劇と彼が成そうとしたその全てを…
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スズキ家の先祖が魔王として召喚されたのは、約150年前。彼は地上へ赴き勇者と出会った。いや、正しくは再会したのだ。
その相手というのは彼に残された唯一の家族、自身の大切な息子だった。彼と息子は世界の宿命を知り、審判者と共に宿命に抗った。
世界の交流期限は二年。その期間内に決着が着かなければ、両者共に魔力を吸い尽くされて死んでしまう。期限が間近に迫った時、息子は狂い、魔界の人々の殺戮をしだした。
彼は息子の狂気を止める為、息子に刃を突き立てた。息子は力尽きる直前に『ごめんなさい』と涙を流したのだ。
彼は全てを悟った。息子は狂ってなどいなかった、確かに世界を憎んでいたのだろう。だが彼は憎しみによって殺戮をしたのではなく、父親である彼に生きて欲しいが為に殺戮をしたのだと。
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「国王はそんな父親に何て言ったと思う?討伐大義であったと…。その言葉を聞き、憎しみを抱いた父親は世界に復讐を誓った。だが、門が閉ざされ魔王としての力を失った彼は、息子との旅で見つけた魔道具を使い、この世界で宛がわれた貴族の娘との間に作らされた子供に、自らの記憶と憎しみを託したのさ。それは代々受け継がれ、私の中にも深く根付いている」
その話を聞いた僕は涙を流していた。お爺様と同じ、レオナルドもこの世界による犠牲者なのだという事実と、何故最初に気付き彼と向き合わなかったのかという後悔。
もし、向き合っていれば、集落の悲劇は起きなかったのかもしれない。今とは違った関係を築き、復讐とは違う世界改変の為に共に歩む未来もあったのかもしれない。
「何故泣く?同情ならやめてくれ。どうせ私は殺され、我が一族の宿願は潰える。だがな、この狂った世界が続く限り私のような人間は必ず現れる。私は後悔など…」
「私は後悔してるよ。もし貴方と初めて逢った時にこの話が出来てたらこんな結末にはならなかったのにって」
「やめろ」
「私は復讐の道は歩めないけど、でも長い年月をかけて違う道を模索出来たかもしれない」
「復讐以外に道などない!お前に何が分かる!」
「分かるよ…きっと私は、この世界で唯一レオナルドを理解出来た筈の人間だから」
「出鱈目を言うなっ!!」
「ごめんね…日本の名字だって分かってたのに、ちゃんとレオナルドを見ようとしてなかった」
それまで、怒りに包まれていたレオナルドに戸惑いの表情が生まれた。
今なら分かる。彼は僕と同じで孤独なのだ、世界の歪さを知り、世界から孤立した。誰も本当の僕達を知らないし、誰にも理解されない。
僕には大切な家族も仲間もいる。だけど、本当の意味で理解し合えるのは、異世界を知っている者しかあり得ないのだ。
「お前は…何を言って…」
「今はちゃんとレオナルドの事理解してる。だって、私は転生者だから」
僕は最初から、彼に明かすべきだったのだ。




