幼女な僕の惨劇
あれから更に三ヶ月たった。
新商品の開発と売上も好調で、人口の増加に伴い街の拡大、更には工房で働く人も増えていった。
「工房も手狭になってきたし、そろそろ増築も考えないと」
僕は自室で最近の日課になってきた魔力補充用の魔石に魔力を流していった。
これのおかげで、常時発動型の魔道具も作れるようになったし開発の幅もかなり広がった。
異世界転移の第一歩と呼べる魔道具も出来たし。そう遠くないうちにあいつらに会えるかもしれない。
お父様と一緒に画策している騎士団への納付計画も水面下で着実に進んでいた。
なにもかもが順調だと思った矢先の出来事だった。
ーーーーーー
翌日、魔道具工房へと着く直前で住民から声を掛けられた。
「聖女様!ロイドが、ロイドが!」
急ぐ住民の後を追う。
「やつら税がどうのって、聖女様から頂いた魔道具を!それでロイドが!」
急ぐ道中で要領の得ない内容だったがなんとなく分かった。
ああ、クソ!僕の考えが甘かった。ここは元々やつの土地じゃないか。下級貴族に任せているとはいえ、ここもやつにとっては税を接収出来る場所だ。
案内された場所で、全身鎧の兵士数人と魔道具を奪われないよう抵抗するロイドがいた。
「カノン!」
「はい!」
僕の意図を理解したカノンが兵士達に向かって駆け抜けていく。だけど、兵士がロイドを切り捨てる方が僅かに早かった。
カノンはすぐさま兵士の両腕を鎧ごと切り落とし。他の慌てた兵士達は魔道具を持って逃げ去った。
僕は急いでロイドの元へと駆け寄る。
「すみま…せん…アイリスさ…」
「もう喋らないで!すぐに治療を」
ロイドは首を横に振った。
彼にも僕にも分かっていた、彼はもう助からない。
無くなった下半身からは血が溢れ続け、その周囲には血溜まりが出来ていた。
「あな…た…は…わた…したち…のきぼう」
「どうか…どう…か」
そう言って彼は力尽きる。
「そんな…ロイドさん!ロイドさん!」
彼はどこまでもひた向きだった。この集落を想い、仲間を想い、守る為にひたすら頑張って来たのだ。
彼は最後に何て言おうとしたのだろう?
この集落でカノンを助け、住民に知識を与えて聖女と呼ばれるようになった。
皆で魔道具を作り、工房を立ち上げた。
ああ、そうか…
ここはとっくに、僕にとっても守る場所だったのだ。
正直、聖女なんて僕のガラじゃない。だけど…
「ゆっくり休んで。後は私に任せて」
大切な場所を守る為なら聖女にもでも悪魔にもでもなってやる。
僕は、目を開いたまま力尽きた彼の目を閉じた。