幼女な僕が起こす奇跡
「本来であれば、治癒魔法は目に見える範囲の傷しか塞げません」
自分に言い聞かせるように声を紡ぎながら少女の元へと歩いていく。
今大事なのは目の前の命を救う事。必要なのは、周りを納得させ尚且つ協力してもらう事。
「この魔道具は本来治療に使うつもりで作ったものではありません」
僕の言葉に対して周りの人々は動揺しだす。揺さぶるなら今だ。
僕が答えを出すのではなく、彼等が考え答えを導き出さなければ協力なんて得られる筈がない。
「これは、物体を透明にしその先を映し出す魔道具です。もしこの魔道具で人体の傷付いた奥底まで見えるとしたら…あなたは何が出来ると思いますか?」
僕は剣を持っていた男に問いかける。そして周りで見ていた人々に視線を向けて再び問いかけた。
「皆さんはこの魔道具と治癒魔法で何が出来ると思いますか?」
これが、最後のヒントだ。もしこれが駄目なら僕一人で治癒しなければならなくなるだろう。
背後で剣を落とす音が聞こえた。
「傷付いた内臓を塞ぐことが…出来る?」
剣を持っていた男の言葉を皮切りに、周りの人々の中にも気付き始めた者達が現れた。
それからの変化は速かった。
まず剣を持っていた男が僕の足元で土下座をし、地面に強く額を付けた。
「お願いします!貴族様、どうかこの子を助けて下さい!」
そして、周りではまだよく分かっていない者に答えを教える者が出だしたのだ。
僕は土下座している男の前でしゃがみ男と近い目線で問いかける。
「私一人では全てを賄えなせん。なので手伝って頂けますか?」
ーーーーーー
「凄い…本当に奥までみえる…」
男の呟きに答える事もなく、魔道具の魔力を調整して傷の一番深い場所にピントを合わせた。
「傷の深い場所から修復でき次第、少しずつ浅くしていきます。雑菌を入れたくないので誰か交代しながらでも常に解毒魔法を」
「あの…?私は何をすれば?」
この子の母親が僕に質問してくる。だけど、今一番動揺している人に参加されるとどんなミスがあるか分からない。
「お母さんはこの子の手を握ってあげて。この子を安心させてあげて下さい」
母親は少女の手を握り祈り始める。
それと同時に僕達は治療を開始した。
魔力が尽きては交代し、少しずつ傷を塞いでいく。
「内臓の傷は塞がりました後は腹部に溜まった血を抜いて傷を塞げば終わりです」
血を抜く為には液体流動の魔法を使わなければならない。以外と難しい魔法で集落の人達には無理だろう。最悪は僕が魔道具を使いながらでも…
「私…たすかる…の?」
意識が戻った少女と目が合う。僕は彼女を安心させるように声をかけた。
「大丈夫、必ず助かるから」
魔道具と液体流動を同時進行で行う。
思ったより集中力が必要で少しずつしか血が抜けない。
「液体流動なら俺が出来る、手伝うぜ」
治療には今まで参加していなかった人だ。ぶっきらぼうな言葉使いでそれなりに戦えそうな格好をしている。おそらく冒険者だろう。
「お願いします」
それだけ言うとその男は僕の隣に腰掛けて少女の腹部に溜まった血を抜き始めた。
普段から戦闘でも使っているのかもしれない、とても慣れた様子で、あっという間に血を抜くことが出き、その後で最後の傷を塞ぎ治療を終えたのだった。