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まじめと魔人の冒険奇譚  作者: 春牧大介
第一章 まじめとまじん
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まじめとまじん 1-6B

 一人と二匹が食卓を囲んでいる。

 魔人たちの子供たちとの生活を中心に話しをした。

 

 ここシーズから西に100キロメートルほど行ったミテケイア山のを望む丘陵地にあるヴェーカーが出身地ということ。

 この地はエスカーテの勢力圏内に近いが、この村に通ずる道は、エスカーテの手下である『器動衆きどうしゅう』が襲ってこないことで有名だ。これは魔人の白い方であるエルフィーナが魔力で清めているからだそうだ。

 ヴェーカーで四人の子供と暮らしていたが、全員が家から巣立っているらしい。その内の二人がこれから向かう首都にいるという。さらにその内の一人が、八門徒はちもんとの候補であること。


 レオンたちとの経緯は、魔人達の所属するスカウトギルド『沈黙の森』の紹介らしい。


 イリアナは二人の話に興味が尽きなかった。こういうのが『楽しい』ということなのだろうと内心思っていた。二人の表情はころころと変わる。

 特に笑顔だ。終始楽しそうにしゃべる。

 自分が笑えないことを知っていてもお構いなしに笑う。けど笑えないことで同情されることはあっても、二人のようにお構いなしに振舞うのは、レオンとカーチャくらいだ。

 イリアナにとって笑えないことや楽しいと思えないことは、さして問題ではない。遠巻きに同情されるほうが辛い。

 二人は分かってくれてやっているのだろうか。少し気になった。


 三人の食事中に、扉が開いた。買い物袋を抱えたレオンとカーチャである。


「おかえり」


 イリアナは二人を出迎えた。


「よー。おかえりー」

「おかえりなさーい。あ、りんご」


 魔人の二人も、家族にでもするかのように自然に出迎えた。二人の魔人は、レオンの持つ袋からはみ出したりんごに目が行っている。


「ただいま。二人とも箱から出たんですか」


 レオンは買い物袋からりんごを二つ放り投げた。魔人たちはそれをキャッチするとおいしそうに頬張り始めた。


「ああ、一応こっちの用件は伝えた。後はイリアナ次第だな」


 りんごにかぶり付きながら黒い方が言った。


「あんたたち、りんごなんか食べて昼飯入るのかい?」


 カーチャはかるく呆れたように魔人二人に言った。


「あー、今ちょうどイリアナちゃんと朝ごはんを食べたところだから……」


 エルフィーナは、羽で頭をかいて申し訳なさそうにした。


「じゃあ、あんたらの分は要らないね」

「いや、あとで食べるから……」


 カーチャと魔人たちは台所の方へ言った。おそらく旅に出る前に日持ちのする食料を料理するのだろう。魔人たちはそれを手伝うつもりらしい。手際よく袋から食材を出しては準備に取り掛かっている。


「感想はどうだ?」

「え?」


 イリアナはレオンの言葉に少し驚いた。魔人たちを夢中で見ていたので、不意を突かれた形となった。


「あの二人だよ」

「どう……って、とりあえず嘘を言っているようには思えない。人を信じる気にさせる魅力を感じた」


 イリアナの言葉にレオンはほっとした。イリアナが感じたことは、レオンもカーチャも感じたことだったからだ。少なくとも魔人エルフィーナは、大賢者と呼ばれる人物を二人ほど鍛えた魔法使いだ。魔法などで無理やり従わせることも可能だろう。だがそれをしない。しない理由は力で服従させる気がないという意思表示だからだと踏んでいる。


「レオンたちは知っていたんだね」

「ああ。あの二人は最初、俺とカーチャをスカウトしてきたからな」

「信じたんだね」

「『魔人』という話か?」


 イリアナは黙って頷いた。


「嘘か本当かは知らん。だが、騙す為に用意された『台詞』とは違う気はしたな。あの二人は言葉を選ぶことはしても、事実を歪曲させるようなしゃべり方はしていなかった。感情を隠さなかったからかもしれん」


 感情を隠さない……か。イリアナは合点がいった。彼らは感情を押し殺していないのだ。自分の感情に素直なのだと。


「で、お前はどうするんだ?」


 イリアナ自身彼らに魅力を感じてはいるものの、やはり得体の知れないのは確か。本意がどこにあるのか分からないのはやはり怖い。弟子入りして良いのか、彼らの仲間になって良いのか。


「……わからない」

「そうか……」


 イリアナはいろいろ考えているのだろうということはレオンにも分かった。だからあれこれどうしろとは言わない。イリアナももう今年で十六歳だ。そろそろ自分の将来を自分で決めてもいい頃だ。今回の仕事を引き受けたのも、将来を左右する判断をさせてもいいと思ったからだった。

 個人的には、もう少し広い世界を見てもらいたい。魔人の申し出を引き受けてくれることを願っているのだ。

 彼らの元で修行を積めば、イリアナはきっと人生の選択肢が増えるだろう。

 レオンはそのことを口には出さない。反発するのは目に見えている。でも、そう願わずにはいられなかった。


「腕は大丈夫か?」

「うん」

「熱は?」

「熱も」イリアナは短く切り頷いた。

「腕の痛みは?」

「痛みはまだあるけど大丈夫」


 レオンとイリアナの会話は、一言の会話も多い。

 お互いに口下手だが、長い付き合だけに、お互いの真意はある程度推し量れるのだ。


「ん? 痛み?」


 白い方、エルフィーナがイリアナの方へ近寄ってきて、イリアナの左手を覗き込む。


「おかしいわねー。さっき痛そうにしてたから、私たちの話している間にこっそり治したはずなんだけど……」


 イリアナは驚いて左手を握りこんだ。……痛くない。白い方を見てみると、ニコニコと優しい笑顔を向けている。


「あ、あの」

「うん?」

「ありがとう、ございます……」


 イリアナはおどおどしつつも素直な感謝の言葉を口にした。別に恥ずかしがっていたわけではなく、単に人見知りをしているだけであった。

 それでも感謝の気持ちは十分あり、エルフィーナにもその気持ちは伝わったようで、「んふふー」と笑うと、再びカーチャのいる台所へ飛んでいった。


「じゃあ、出歩いても大丈夫だな。昼飯の後、城に出向かねばならん。一昨日の時の状況を、伯爵が詳しく聞きたいそうだ」


 レオンはイリアナに出かけることを伝えた。病み上がりといえるような消耗したイリアナを連れ出すのだ。少々思いやりに欠けているところだが、レオン自身それを理解している。イリアナにしても重要なことなのだろうと判断した。


「わかった。用意してくる」


 イリアナは、洗面台へと歩いていった。


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