竜が飛ぶ日曜日
タイトルとあらすじは後で変えるかもしれません
今日は日曜日。
豆腐が五百丁届く日だ。
普段は五十丁だから十倍だ。なんだ高々十倍じゃないか……
なんで十倍発注したかって? もちろん決まってる、誤発注だ。
発注する端末になれてないパートさんがやっちまっただけだ。
気がついた時には遅かった。訂正ができなかった。
その五百丁の豆腐が今日、納品だ。
「はぁ……」
務めているスーパーまでの道が遠い。いや、足が重いのか。
今日は日曜日だ。来店数に期待できるんじゃないか? 2倍、いや1.5倍でいい。
「はぁ……」
まてまて、最初から諦めてどうする。
半額だ! そもそも豆腐の仕入れ値なんてしれてる。半額で一気に飛ばしてしまおう。
なんだ余裕じゃないか。
「うぅん」
いっそ、自腹で買い取るか?
さすがに食べきれないな。
「ん?」
デカい影に覆われて、空を見上げると竜が飛んでいた。
竜が現れたのはいつだったか? 一年、二年前か? どこからともなく現れてあちこち飛び回っていた。
世界中大混乱になるかと思ったが、そうでもなかった。
現代人はそれどころじゃない。デカいトカゲが空を飛ぼうが明日の商談の方が重要だ。
尖閣諸島に巣を作ったって知ったこっちゃない。
中国の漁船に火の玉吐いたって聞いたときは、さすがにコーヒー吹き出したが。
そう、いまはそれどころじゃない。豆腐だ。
「ドラゴンって豆腐食べるかな?」
立ち止まって空を見上げる俺はちょっとセンチメンタルな気分だ。
泣いてない。泣いてないぞ。
SNSで”誤発注しちゃいました、テヘ”って呟いてみようかな。
『トーフとはなんだ?』
今の聞こえた?
振り返るが誰もいない。
やばいな、とうとう幻聴まで。
『トーフとは、どのような物だ?』
頭の中に声が響く。
俺は空を見上げた姿勢で問いかけに答える。
「豆腐ってのは、大豆を絞った汁をにがりで固めた食べ物だよ」
『ダイズ?』
「そこからっ!」
いかん、大きな独り言なんて完全に危ない人じゃないか。
通報される前にここを離れよう。
※※※※※
スーパーのバックヤードには大量の豆腐がコンテナで積まれていた。
「冷蔵庫に入りきるかな……」
『トーフを一つ頂けるかな』
まただ、頭の中で声が響く。
俺は豆腐の入ったコンテナを一つ持って外に出る。
「でっけぇ」
狭い駐車場を目一杯使って竜が鎮座していた。
ニュースなんかで何度も映像は見たが、生で見たのは初めてだ。
とにかく大きい。たぶん立ち上がったらガン○ムと肩を並べられる。
口なんて人間を丸呑みにできるぞ。
俺は売り物なのを忘れて豆腐のフィルムをカッターナイフで切って開ける。
『小さいな』
人間用だからね。仕方ないね。
目の前にデカい口が開く。ガブッといかないでね。
舌の上にのせた豆腐がひと際小さく見える。
「どうぞ」
『うむ』
あれじゃ、味なんてわからないんじゃないか?
『うむ、わからん』
「ですよねー」
いつのまにか人が集まってた。まあ、これだけデカいんだ目立つわな。
「りゅうさん、なにたべるの?」
小さな女の子に声をかけられた。
「お豆腐だよ」
「りゅうさん、おとうふたべるの?」
『うむ、食べるぞ』
「食べるって」
ダーっと母親と思われる女性の元に走っていくちびっ子。
「りゅうさん、おとうふたべるんだってー!」
「あらそう、じゃあ私たちもお豆腐買っていきましょうか」
「うん」
今日は竜が飛ぶ日曜日、いつもより豆腐がよく売れる日だ。