3話【戦〜ready〜】
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15隊中12隊が出陣して行った。
僕は、まぁ若僧だからみんなが帰ってくる陣を死守しなくちゃいけない……
と、言っても結局は暇なんだけどね。
とりあえず俺は暇を潰すため、陣をウロチョロ歩き回っていたが……
「あの…アメリアさん、ちょっと離れてもらっていいですか?」
そう彼女は先程、戦が始まってからずっと俺にピッタリくっついたまま離れない。
いや、別に隣でいるぶんにはいいのだが完全に僕のパーソナルスペース割り込んじゃってるし、余計な感触が伝わってくるし……
とりあえず俺の精神状態が持たない。
「あっ…ごめん…その…嫌だった…?」
と、彼女は覗き込んできた。
が、いつもみたいにニコニコ笑うことなく彼女はやけに顔を青くして、声を震わせて言った。
「えっ?待って、アメリアさん大丈夫なの?」
「…え、えぇ…一応大丈夫なんだけど、ちょっとこういう光景初めてで…」
と彼女は俯きながら言った。
よく見ると体が震えている。
ーーあめねぇとはるねぇが普通じゃないんだなってことはここでよーく分かった。
「OK、えっとじゃあその、アメリアさん一旦バーチャル世界SINPUを抜けて学校の方に戻りましょうか?」
「えっ?」
「いや、その、別にここで見なくてもいいんですよ、学校の方でも上から見ることが可能ですし……サッカーみたいに」
「え、あ…そうなの?…えっじゃあ…出たい…というか先言ってよそれ…」
「ごめんなさい、言い忘れてました…じゃあというわけで転送機の方へ行きましょ」
と、僕達は残りの13~15隊に任せて、転送機へと向かった。
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「じゃあこれで戻れますよ」
と僕は転送機に設定し終わったあと、台座に彼女を乗せた。
「ええっとその…こ、これ…転送機なの…?」
「えぇ…」
まぁ困惑するのはしょうがない。
何しろ転送機の形がが完全に"機械ぃっ!"というよりも"社ぉっ!?"と言った感じの作りをしているからだ。
聞いた話だと、どうもSINPUの製作者がイタズラ心で転送機を設計する際にふざけて作ったのがこれなんだそうだ。
ーー趣味がわからん
「ま、まぁとりあえず乗っちゃってください」
「う、うん…」
と、僕が促すと彼女は不審に思いながらも素直に従ってくれた。
そして僕は彼女が完全に座ってベルトを付けるのを確認した後、僕は端末を開き直し言った。
「じゃあいきますね、学校の方にはもう伝えていますから」
「了解…」
そして僕は【Start transfer】のボタンを押した。
が、いくら押してもちっとも動かない。
挙句には【Error】とまで出やがった。
「あ、あれ?ええーと、はいっ?」
と、つい僕は慌ててしまった。
「…降りていいかしら…?」
と彼女は不安そうに言ってきた。
「あ、はい、ちょっと降りてて下さい」
と僕が返答すると彼女はベルトを外し恐る恐る台座から降りてきた。
が、その瞬間転送機の端末の画面いっぱいに【Forced transfer】と出てきた。
「アメリア!!危ない!」
僕は彼女の手を引っ張り、こっちに引き寄せた。
「きゃあっ!」
しかしバシュッ!という音が転送機の方から聞こえてきた。
僕は慌てて彼女の安否を確認した。
「あ…危なかったわ…でも大丈夫よ…私は無事」
と彼女は涙目になりながらも僕に伝えてくれた。
まぁとりあえず命に別状は無かったものの、彼女の長い髪は転送機に巻き込まれてしまい、ボブぐらいの長さになっていた。
「…せっかく伸ばしてたのにな…」
と短くなった髪を弄りながら彼女は言った。
「というか、ごめんなさい。まさかこんなになるなんて思ってなくて…後、今ここに移っているのは精神だけなので、リアルの方はちゃんと髪残ってますよ」
と僕は謝ったら
「あら、そうなの…?…まぁでも大丈夫、というよりもどちらかと言うとこちらこそ助けてくれてありがとね」
と彼女は微笑んだ。
ーーマジで女神様…
と僕はつい見とれてしまった。
だが、それなりに緊急事態なので急いで浮ついた気持ちを断ち切り言った。
「とりあえず、今は完全に転送機が故障してるので陣の方に戻りたいと思います。大丈夫ですか?」
「えぇ了解したわ…」
と彼女はうなづいた。
「じゃあ行きましょうか」
と僕は陣に向かおうとした……が、その瞬間
ウゥゥ〜〜!!ウゥゥゥ!ゥゥゥゥ!!ウゥゥゥ!ゥゥゥゥ!!
突如周りが赤く染まり、サイレンが響き渡った。
「えっ!?嘘これは…」
「ねぇ!イクサ!これは何!?」
と俺は呆然とし彼女は叫んだ。
「…有り得ない…こんなこと起きるわけがない…」
「何が有り得ないのよっ!?」
「このサイレンがなる事だよ!」
とつい僕は叫んでしまった。
「本来なら有り得ないんだ!今の状態はSINPUマニュアルブックの最終章に書いてあるんだけど、このサイレンは最終!最悪な!状況でしか発動されないはずなんだ!」
「えっ…?ということは……「ーーうん、この状況はかなり不味い…!これでもっと最悪なのは…」
と僕は必死に空を見上げ探した。
あれさえ無ければ……ただのSINPUの故障であれば……
僕は無いことを願いながらも空を見ていたが無情にもそれはそこにあった。
「アメリアさん…」
「なに…?」
「ごめん、もう俺ら、リアルに帰れないかも」
「はぁ!?」
と彼女は激昂した。
「ふざけんじゃないわよ、何があったか先にせつめいしてくんない?」
と彼女は僕に詰め寄ってきた。
「まず、あの印」
と、僕は空に向けて指を指した。
そこにはドクロのマークが浮かび上がり、そのマークの下には
【Destroyer of intrusion】と書かれている。
「あれが出ている時点でまず、今SINPU内はハッカーの手の内にあると思っていい。そして、転送機までもが乗っ取られている時点で俺らはリアルに帰れない。イコール俺らは今精神をこっちに移しているわけだから殺されたら体の方は植物状態か、死亡、精神はここにて消去されるってことだ。」
と僕が説明すると彼女は…
「……ごめん、意味わかんないからもう少し略してくれない…?」
と本当に申し訳なさそうに彼女は謝ってきた。
それを見た僕はつい笑ってしまった。
いや、違う常軌を逸した事態だからこそ今笑っているのかもしれない。
しかし彼女は違ったらしく突如笑いだした僕を見て
少し怯えた顔をした。
「あ、いやごめん!えっと簡単に言うと、ハッカーを潰さない限り俺らはここから出られないし、死んだらもうリアルには戻れないってこと。」
と、僕が言った途端
彼女は驚いた顔をして俯き肩を震わせ始めた。
「えっ…あ、ごめん…ちょっとビビらせすぎちゃった…?」
すると彼女は爛々とした目をこちらに向けこう言った。
「…誰が…ビビってるですって…?」
「へっ?」
「…誰も…ビビってなんかいないわ…!どちらかと言うと…こんなに危険で…スリル満点のデスゲーム…やりたくて仕方が無い!」
ーーあ、ここにも普通じゃない方がいらっしゃいましたー。何、僕の周りまともな方いないの?
「ちょ、待って!アメリアさん落ち着いて!」
「何を言ってるの!?私はいつでも冷静よっ!?」
ーーうんダメだこれ。一旦陣に連れて帰ろう。
「あ、そうっすね、冷静ですね。ということで一旦本部に戻りましょ」
「…何で微妙に棒読みなのよ…まぁ分かったわ、行きましょ」
そして、僕達は陣の方へと向かっていった。
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僕達が陣に戻るとそこには部隊長15名と副指揮官2名と総指揮官の桐先輩がテーブルを囲んで座っていた。
「イクサ!大丈夫だった!?」
と最初に反応したのは晴だった。
「ドゥドゥ、落ち着けよ"小鹿"、中1で3人いる副指揮官の1人になれたような強者だぞこいつ。ちっとは信じろや」
と第1~5前衛部隊を率いる第1副指揮官の鞘川先輩が晴を宥めた。
「そうだけどっ…!」
「まぁ心配よね、無責任な事言ってんじゃないわよこの朴念仁」
と、晴を援護したのは第6暗躍部隊、兼第2副指揮官を勤める旭乃先輩
「あぁん?なんだこの女!?毎度毎度突っかかってきやがって……「ーーそれはあなたも同じじゃなくって?毎度毎度下品な言葉ばかり使って、だから彼女の1人も作れないのよ」
鞘川先輩がガタッと音を立てて立ち上がった。
「おい、今度こそその減らず口つぶしたろか?あ?」
「いいわよ?やってご覧なさいよ?今まで殴れたことないのに」
と、旭乃先輩も立ち上がり臨戦態勢に入った。
そして2人が同時に飛びかかろうとした瞬間、二人の間に1本の槍が割り込んだ。
「はい、ストップーもう今タダでさえ緊急事態なのにケンカしてどうすんのね?とりあえず、座りない」
と2人の仲介に入ったのは桐先輩だった。
2人は渋々座る。2人がちゃんと座ったのを確認してから僕は桐先輩に報告した。
「すみません、今戻りました。」
「いや、いいってことよ…2人とも無事でよかった…」
と桐先輩はため息をついた。
「とりあえず、空いてる席に座ってくれ情報をまとめる。」
と、各部隊が報告し始めた。
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〜現時点状況把握書〜
・転送機が正常に発動できない。
・敵陣を外から観察したがほぼ動きが無かった。
・実際に敵陣へ潜入したが少し荒れているいるものの、完全に無人。
・戦うはずであった場所に敵が現れなかった。
・空に【Destroyer of intrusion】のマークが出ている。
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「少な!!」
と晴が言った。
「おい、それは言っちゃダメ」
と旭乃先輩。
「まぁ、しゃーない。現時点ならこんなもんだろ」
と桐先輩がフォローした。
「まぁあと、ハッカー側から連絡が入った。」
と桐先輩はサラッと言った。
「「「はぁぁ!?」」」
と全員が叫んでしまった。
「ちょい待て、敵さんから連絡きたの!?」
と鞘川先輩が動揺しながらも聞いた。
「ハッカーって問答無用でぶっ潰して来そうな気しかないんだけど…」
と旭乃先輩が鞘川先輩に同調するように言った。
ーーホント、仲いいんだか悪いんだか
「とりあえず、敵の申し込みは…めんどいから省くけど簡単に言えば、このSINPU及びスーパーコンピューターHIENの明け渡し
以上の条件を飲み込めばこちらの都合が悪いようにはしないそうだ。」
「…ふっざけんじゃねぇよ…」
と、呟いたのは第11~15多角部隊の15部隊長 黒銀先輩だ。
「交渉決裂だ。戦おう」
「同意する…桐総指揮官、全隊に指示を」
と旭乃先輩が立ち上がりながら言った。
「緊急事態時はあんまり暴れ回るなってマニュアルに書いてあるんだけどなぁ……まぁしょうがないか…」
と桐先輩は渋々と言った体でみんなの事を見渡し地図を取り出して、中央の山に指を差した。
「まず第1~5前衛部隊と第8近衛部隊はこの山の頂上にて陣形を組む。型はいつもは鶴翼だが、今回は敵軍の間を突っ切り本陣にいるハッカー共をぶっ潰すことが重要だから鋒矢の陣で中央突破!」
「「「「おう!」」」」
「第6遊撃部隊、第9,10奇襲部隊は俺らが山から下って敵陣に突っ込んでも頂上にて待機!臨機応変に動きやがれ!」
「はい!」「「おう!!」」
「第6暗躍部隊と第11~15多角部隊の第11,12部隊は横の林から抜け敵の横から侵入しろ!」
「「はい!」」
「第13~15部隊は陣の前方付近を守護!周りは沼地だから直接陸に接してる所だけまとめればいい!」
「「了解!」」
と先輩はここで一旦言葉を切らせ言った。
「行くぞ!」
「「「「「おう!!!!」」」」」
「散開!」
と全員が各部隊のに戻っていった。
「そういえばさ」
と桐先輩が自分の隊に戻ろうとした僕に話しかけてきた。
「第11,12部隊なんだけどさ、"イーグル"じゃなくて別の名前つけない?」
「えっどうゆう事ですか?」
「いや、なんかあの部隊ってさ多角部隊と言うよりも最近ずっと"シャドウ"にくっついてるじゃん」
「あぁ確かにそうっすね」
「だからさ別の名前考えたんだけどさ」
「はい…」
「第11,12追尾部隊"spider"は?」
「……えっいや、何でこいつらだけクッソ発音いいんすか?」
「えっダメ?カッケェじゃん」
「いや、そんだったら他の隊も…」
「えぇー新しい部隊だからよくね……
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結局押し問答したうえで決まったのが
【第11,12追尾部隊"スネーク"】
主な役割は"シャドウ"の援護ということになった。
そしてそれが決まったあと、先輩は満足そうに出陣して行ったのでまぁいいとした。
とりあえず、こっから文字通りの生き残り争奪戦だ。
僕は少し武者震いをし、陣の中へと戻った。
To be continue…
どうもありがとう!(*´∀`*)