3話 頭が良すぎる大賢者
そろそろ敵さんも出てきます。
六時間後。
第五階層 「宮廷」王の間。
「よく集まってくれた、ハルシャレイン大遺跡を守る我が臣下よ。」
「ハッ!我ら一同陛下に絶対なる忠義を誓うもの共。改めて我らの忠義を誓います!!」
そういって、皆を率いて跪いているのは、クレア=ブロッサ。
八華のリーダーにして、魔王の妃という設定の妖艶な恰好をした魔人だ。
「みな、頭を上げよ。」
「ハッ。」
「壮観だな。こうして、お前たちを見るのは。」
「だねぇ。」
「しかし、こうやって、お前たち全員を集めるのは二回目だな。」
「はい。その通りでございます。」
「そして、こうやって集めるということはかなり重要なことだ。」
一回目の全員招集はゲーム内にこの砦を作り、みなに守護を任せた時だ。
「要件をいうぞ。これから俺たちは、この砦の外で活動することになる。」
「はい。聞いております。」
「でだ、この砦をがら空きにするわけにもいかんが、外での情報収集も欠かせない。」
「なるほど。」
「そこで、皆に頼みがある。心、説明よろしく。」
「はいはい。えっと、皆さんにはこの砦を町の近くまで転移していただきます。」
「……。」
全員が何を言っているのかと、理解できずにいた。
「えっと、心?何言ってんの?」
「凜兄さんが一番いい手を考えろっていうから。紫苑姉もそれでいいって。」
「一番いい手ってことは、そういうことなのよね?」
「そうだよ、紫苑姉。一番いい手。ぼくたちにも、町にいるプレイヤー、村人、全員にね。」
「だけど、それって要は、この砦に誰でもはいれるってことにならない?」
「咲渦姉、結界のこと忘れてない?」
そう、この砦は正面玄関以外から侵入することが不可能であり、一般プレイヤーが第一の壁を突破することすら難関中の難関である。
それに、地上で見える景色は遺跡であるため、さほど違和感もない。
基本的に地下に向かって伸びているこの砦を転移させるのは、無理難題過ぎる。
「わかりました。この砦をまんま町の近くに転移させればいいということですね。」
「できるの?」
紫苑が不安そうに聞く。
「用意周到。もう準備はできております。」
そう答えたのは、第一階層守護者 スレイダ=ナスタチである。
彼は禁忌を犯して不死の力を手に入れた大賢者で、ゲームの頃はよく話に出てきていた。
四字熟語で会話する男だ。
「十全十美。手抜かりなどございません。」
「お、おう。というか、どうやってやるんだ?それほど大きなものを転移する魔法なんてないはずだが。」
「当意即妙。その場に合う魔法の重ね掛けです。皆さんも戦闘でよくやられるのでは?」
「なるほど、戦闘の技術を応用するということか。」
「はい。」
「ところで、町の近くに移すなら、周りの人払いも必要だな。転移先に人がいては困る。だろ、心。」
「それはさっき、霧心さんに頼んでおいたよ。だから、今すぐでもオッケーだね。」
「そうか。じゃあ、まずは俺たちが町に転移してから、砦の転移だな。」
「季布一諾。では、早速。」
というと、スレイダは自身の研究室へと転移した。
「ふぅ。あいつの四字熟語どうにかならんの?」
「なんで?面白いじゃん」
「いや、そのうち意味わかんないのでてくるぞ?」
「細かいこと気にしちゃだめだよ。」
「用意できました。」
「お、おう。そうか。じゃ、早速行こうか。じゃあ、スレイダまずは俺たちを。」
「季布一諾。参ります。」
という言葉と共に、王の間にいた俺たちはウェタンデの町の外にいた。
「じゃ、スレイダ。今度は砦だ!」
「敢為邁往!参ります!」
「魔力増幅魔法:マナライズ。」
「広範囲化魔法:アイ・オブ・スカイ。」
「転移魔法:トランシジョン。」
「王位魔法:マーキュリー・アンド・ザ・ウッドマン。」
唱え終える瞬間、ハルシャレイン大遺跡砦はウェタンデの町のすぐ近くににょきっと生えるかのように現れた。