プロローグ ゲームマスターとNPC
そろそろプロローグも終わります。
どのゲームにもゲームマスターというものは存在する。
その存在は、運営であったり、プレイヤーであったり、ラスボスだったりする。
そしてそのGMは異質で一般プレイヤーからかけ離れたものでないといけない。
あるいは、一般プレイヤーがGMの領域に達することも許されない。
そして、GMはその存在を悟られてはいけない。
それは、一種のゲームバランス崩壊につながってしまう。
だが、今、凜雅は独断で霧心をGMの聖地に入れようとしていた。
ましてや、自身がGMであることを教えてしまった。
それは、緊急事態だからと言って許されるのか。
はたまた、咎を受けるのは、凜雅ではなく、知ってしまった霧心かもしれない。
それを決めるのは、凛雅一人ではなく、ハルシャにいる全員だ。
「おい、凜雅さんよ、俺はこの先を知ったらどうなるんだ?嫌な予感しかしないんだけど」
それはそうなのだろう。人間が未知に突っ込むというのは全くその通りだ。
不安、心配、混乱。
それらが未知を知る前の通過点だ。
「お前がこの先を知ると、最悪幽閉、あるいは…。」
「あるいは死か。」
「まぁな、昔の仲間のよしみとして最大限にフォローする。なんも起きないかもしれねぇしな。」
これはあまりにも自分勝手だ。抱える問題と不安を二人で分かちたい。
そんな感情に任せて連れてきた。もちろんそれだけではない。
霧心だったからこそ連れてきたというのもある。
それは信頼できるクランのメンバーであり、なにより理解力と判断力に長けた男だからだ。
凜雅が昔、純粋に大人数戦闘を楽しんでいたころ、所属していたクラン「むき身の刃」
「むき身の刃」は今は失踪したクランのマスター・ユメが創り、そこにヘッドハントされた最高位のプレイヤーが集っていた。
クランのメンバー全員がこの世界を愛し、それぞれに無類の信頼を置いていた。
クラン自体は、大遺跡以外のすべてのダンジョン、クエストをクリアし、アイテム欄も空白がないという、
プレイヤーの中では一番有名で、みんなはヘッドハントされることを狙ってプレーしていた。
が今はもう解散してしまった。
原因はクラマス・ユメの失踪。失踪というよりは行方不明。
そして、俺はまだ俺たちのクランへの信頼は捨ててない。
五人のGMのなかで唯一、クランに属したプレイヤー。
そのありがたみは、十二分にわかっている。
俺は少し考え、霧心に問う。
「なぁ霧心、信頼を置いてるお前だから連れてきたけど、ほんとにいいのか?命かけることになるかも知んねーんだよ?それでも、知りたいか?」
「もちろんだね。もしかしたら、この世界から出られるかもしれないのだから。」
「それはないと思うぞ。なんてったって俺もメニュー出せねーんだから。」
「だとしても、現状を知ることができる。」
「その結果、排除されるとしてもか?」
「あぁ、そうだ!」
排除。
その現象がこの世界にとって、どんなものか今はわかっていない。なにせ、今この世界は俺たちGMの支配下にないのだから。
希望的観測をいうと、この世界、つまりアトランティスダリアからの脱出。
その次は幽閉、もしくは、拘束。
最悪、死。
しかしこの死というのも分からない。
ゲームのころのようにベッドで復活するのか。
それとも、現実世界とリンクしていてリアルでも死ぬことになるのか。
それ以外にも可能性はたくさんある。
「おいおい、凜雅。お前ゲーマスなんだろ?信じれないが。」
「あぁ。だった、がふさわしいかもしんねーけど。」
「だとしても、少しはドンと構えろよ。ここは、仮にも夢の世界なんだ。俺たちむき身のな。」
そうだった。
混乱しすぎて、思いもつかなかった。
ここは俺たちの作った、夢の世界なんだ。
「あ、ここにおられましたか。いささか遅いです。」
そういって、こっちに向かってくる影。
「どうも、お久しぶりです。」
「…………」
「まさか、わたくしをおわすれで?」
信じれない。頭の中はそれしかなかった。
さきほどの、脳内コールは、心の指示だったというので納得がいっていた。
定型文と同じ、心の作った文章なんだと。
しかし、これはありえない。
NPC、ノンプレイヤーキャラが表情を作り、定型文でない言葉を話している。
「お、お前は葵…なのか?」
「はい!そうでございますが。」
「どうして、俺と普通に会話できているのだ?」
「と言いますと?」
「NPCであるお前は定型文しか話せないはずだ。」
「そうは申されましても」
「ああああぁ!考えても分かんねぇ!」
「な、なぁ。凜雅?こいつもしかしてNPCだったのか?」
俺もだが、霧心も現状を理解できてないようだ。
「心に話を聞くしかないか。」
「はい、それが得策かと。ところで、後ろのお方はどちら様でしょうか?一般プレイヤーは立ち入り禁止ですが。」
葵は薙刀を取り出し、臨戦態勢に入る。
「まてまて、俺の連れてきた俺の仲間だ。」
「それは、知らない無礼にお許しを。ですが、勝手に入れられても大丈夫ですか?」
「責任は俺にある。それと、俺たちを第八階層、大広間へ」
「承知。」
というと葵は俺と霧心に触れ、
「転移第八、広間。」
と唱える。
刹那、俺たち三人は大広間でみんなの前に立っていた。
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