7話 下準備
「俺たち、アトランティスの目的は二つある。」
凜雅が全員の目線を浴びながら話し始める。
「まず、目的其の一、この世界を目いっぱい楽しむこと。」
「うん!そうだねぇ。」
「ここは、俺たちが作り上げた夢の世界だった。今がどうかは分からんが、とりあえず、夢の中へ来れたからには楽しむ。これが其の一!」
「そのために、俺たちはこの世界、少なくとも俺たちの周りだけでも治安維持とルールの制定は必要だ。」
「それは、さっきも…」
「そうだ。そして、ここからが続きだ。俺たちは活動拠点であるここから一番近いウェタンデの町の所有者となる。」
「…はぁ?町の購入は不可じゃ…。」
「何を…。」
「町の購入は不可能ではなく、現実的に無理だっただけです。」
ゲーム時代、小さい村を買うのにも莫大な金がかかった。
金額にしておよそ、三千億P。
これだけを集めるには、神位級ダンジョンを一人で三千回攻略しなければ集まらない。
「ウェタンデの町の金額は八千兆P。かなりの金額ですが、このハルシャレインに払えない額ではないです。」
そう、心のいう通り、払えない額ではない。が、半分は持っていかれる。
なかなかの痛手だ。
「は、払えないことはないって、そんな話じゃ…。」
「俺たちは元ゲームマスターだ。そもそもの金の出どころはここだよ。」
「だが、ウェタンデを買ってどうするつもりだ?」
「治安とルールを決め、それに従えないやつは追い出す。それが、ウェタンデを平和に保つ方法だ。」
「平和なら十分…。」
「本当に充分か?いつ抜け出せるか分からないこの世界で、いつまでも平和でいられると?」
………
「だから、最初っからすべてを手中に収め、できるだけ想定外を出さない。」
「出てしまった場合は、どうするんだよ。」
霧心からもっともな質問。
「その場合の話を今からする。さっき言ったギルドはウェタンデ内だけで創る。そしてそのギルドがウェタンデの支配者となる。」
「支配者?」
「そう、支配者。本当の所有者の俺たちだけでは不満が出やすい。それに、俺たちだけで決めきれないことだって出てくる。そのために、ギルドを創り、そこにクラマスが集まり、決めごとをする。」
「つまり、ギルドがウェタンデを治め、ルールを作り、治安を守ると。」
「そういうこと。そして、ギルドが支配する土地で犯罪もしくは、ルールに反した場合、それは咲渦の能力で判決を下してもらう。」
「能力?」
「そう。能力だ。」
能力―――。
それは、高位低位に関わらず、特定の方法で入手したスキルの事だ。
それらには、具体的な入手法はなく、能力は能力ごとに一人しか所有できない。
また、それぞれかなり強力なものが多く、それにみあった入手難易度である。
「咲渦の能力は、テミスに依存するものだ。テミスが担うのは、全てを裁く力だ。それに関しては咲渦から説明してくれ。」
「うん。じゃ、まずゲーム時代にルールに反した時、三つの罰が下されたのは、知っての通りよ。」
「おう。あれだよな。デスに始まり、初期化、そいで最高刑がゲーム外追放だったっけ?」
「まさしく、その通りよ。デスが一番軽い罰よ。構造を単純に言えば、悪を感知した瞬間、即死の雷撃が落とされる。」
「確かに、そうだった。」
「ゲーム時代は、町の外、町の中とか関係なく、悪を感知する機能が備えられていたのだけど、ここに来てそれが一切なくなったのよ。」
「なくなった?」
「そう、悪を感知するシステムそのものがなくなったの。」
「じゃ、どうやって裁くつもりだよ。」
誰もが言いたかったことを言う錬斗。
「なくなったのは悪をその瞬間、感知する能力。その代わりに、ルールに背いた者を、悪を犯した者を判別する能力となったのよ。」
「それが、ゲーム時代に罪法番と恐れられたテミスの今か。」
「そうよ。けど、それはいいのよ。私が裁判所的なところで裁いていけばいいのだから。」
「そうやね。となると裁き方どうすんの?」
「アンナさんのいう通り裁き方が問題です。」
「確かにな。一番軽い刑がデスというのでもいいが…。」
「というより、デスが刑になるのかどうかというところです。」
「痛みは感じるものの、すぐベッドで復活するあたり、刑としては弱いな。」
レオのいうことはもっともだ。
「はい。それに、初期化及び、ゲーム外追放は現状不可能な状況。」
「だな。」
「そこで考えたのが、三段階の刑執行よ。」
「どんなだ?」
「まず、一番軽い刑として、死による刑執行。これは、現実での軽犯罪に値するものに課せられます。」
「というと、喧嘩や住居侵入みたいなやつか。」
「はい。それらを犯した者には死んでもらいます。ついでに財産の半分を町に寄付しなければいけないとします。」
「ついでの方がつれーな。」
「では、二段階目の刑として、10日間の投獄及び、全財産、全アイテムの没収とします。」
「二段階目の基準は?」
「基準は、窃盗、殺人、恐喝、強盗を犯した者です。」
「殺人は最高刑じゃないんだぁ。」
「うん。最高刑の基準は、監禁、軟禁、といった身動きを束縛するものです。」
「なるほど、死んでも意味のない今それが一番つらいな。」
「それを犯した者には、無期限の投獄とします。もちろん、犯人の全てをいただきます。」
無期限の投獄、つまり、二度と日の光を見れないということだ。
「以上が、裁判の重要事項です。」
「なるほどね、一つわかんないことあるんだけど、テミス、君一人ですべて裁くつもりか?」
「そのつもりよ。なにかいけない?」
「いや、例えば、そこのクレイオーが監禁罪を犯したとしたら、どうするかね?」
「礼渦が監禁罪ねぇ、それが起こり得たとしたら礼渦は無期限の投獄が判決されるわ。」
「それが、誰であろうと変わりはないと。」
「もちろんよ、情の入る余地なんてないわ。」
「安心したよ。じゃ、裁判を開ける場所を造らないとな。」
「ありがとう、錬斗さん。」
町が稼働し始めたら、咲渦は忙しくなるだろうな。