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DEAD OR ALIVE AND GO

作者: 弥生

 幼いころに友達と遊んだ時、お菓子として用意されたポテトチップス。

 その最後のひとかけら。

 はんぶんこして仲良く分け合うつもりが上手に割れずに、大きさに差が出てしまう。

 人によって、じゃんけんして決めたり、口論しあったり、喧嘩したり、色々ときめ方はあるんだろうけど、私は争ったりするのが嫌だったから、いつもこういう風にしていた。

「小さいほうでいいよ」

 って、自分から言い出すように。

 それが私の責任、そして誉だと思っていた。


 私、板世そこ。30歳になる魔法少女である。

(といっても魔法が使えるわけではない。男が30歳になると魔法使いになれるなら、女が30歳になれば魔法少女になれたっておかしくないだろう。んーでも少女はおかしいかもしれないからマジカルプリンセスあたりにしておくべきか?)

 典型的な笑顔の島村ファッションリーダーで、ちょっとこじらせたメガテ…サタニストをしている。ああっ今宵もバロールの魔眼が疼く……スタイル自体は……微妙だけど、顔はそこそこのつもり。あと献身的さではそう負ける気がしない。

 でも、そんなぐらいじゃ男友達はいても、彼氏が出来たことはなかった。

 人が好きになったことがあっても、ピエロ的な立ち振る舞いをして終わりになったことが何度かあったぐらいか。おのれオロバス疾風ガードキル。

 しかし、最近の私は一味違う、人を愛することを覚えたのだ。

 好きと愛はマイとアイぐらい違う。

 曖昧みー言うとイチゴ味ぐらい違う。

 大好きな人の一番になりたい。

 そう思うようになったのだ。


 ハロウィンが終わり、かぼちゃの暖色の温かみが減り、コンクリートの冷たい色が増え、肌寒さがよりましたような気がする街中をルンルンと歩いていく。

 冷たさ増した中なのに、暖かい気持ちでいっぱいなのは愛しのあの方、知里悠ちり・ゆうさんとの初デートの日だからだ。

 ネット上で知り合った人だから会うのは初めてだが、最近はライブチャットなど便利なものも増えており、お互いの顔や声、たち振る舞いは大体認識しあっていた。

 約束の時間14時の10分前、待ち合わせの場所、私は魔犬ハチ公の周りをぐるぐるとまわっている。

 一応ファッションとかは考えてきたけど、幻滅されたらどうしようとか、会話の節々に混ざる痛い言動にやっぱりひかれたらどうしようとか、そんなことを考えながら。

 約束の時間5分前に悠さんは来た。雰囲気は実際に会うとよりぽわぽわとしていて、私と同じでなんだかこういうのに不慣れな感じで、でも、頑張って整えてきてくれた感じがして親しみが持てる。

「い、本日はいいお日柄で、これもゼウスのはからいか」

「そうですね、晴れてよかったです」

 いきなり何を言ってるんだ私は、合わせてくれた相手に敬意を表さずにはいられない。

「じゃあ、あなたがゼウスに取られちゃう前に、さっそく行きましょうか」

 お、相手も神話結構しってるな。感心感心。好感度アップだ。まぁ私と遊んでくれるような人なんだから当たり前か。

「ええ、ヘラに説教されている間に」

 ゼウスも妻には頭が上がらない、おこられている間は女は安全なのだ。私はのりのりで答えて本日のデートコースに向かった。

 プラネタリウムで神話に親しんだり。

「鉄血の!」

「オルフェウスじゃない!」

 文化村で芸術に触れたりした後に。

「プハー!」

「クソバカみたいな芸術だ!」

 あえてチェーン店の居酒屋で当たり外れもなくいつもの風景を楽しむ。

「モッツァレラレラ」

「モッツァレラ」

 いたって普通、いたって普通のカップルのデート。

 私は充足感に溢れていた。

 彼も楽しそうだった。


 そして、別れ際、正式にお付き合いを私はお願いしようと思った。

「あの、私、あなたとお付き合いをお願いしたいんです。イザナギとイザナミみたいにお互いに足りない部分をおぎないあえれ……って今のはなしです!」

「ははは、それだとモロに隠語だしね」

 私の表現に彼は交合の意味を理解しつつ笑う。

「あの、私、あなたにとっての1番になりたいなんていいません。その、時折お側にいられれば…2番目でも3番目でもいいから、想っていただければ……もし他の方が好きになってしまったならすぐに捨てていただいてもかまいませんから、しばしご一緒させていただけませんか」

 彼は俯いてしまって、返事が返ってこない。

「……あの……いいんです、都合のいい女でもいいですから必要としていただけませんか」

 私は返事を促すように、ついいつもの自己犠牲の精神で、変なことを呟いてしまう。

 彼からの返事は、とても誠意に溢れたものだった。

「ありがとう、気持ちはとっても嬉しいよ、でも僕はね、自分で責任をとれないことはしたくないんだ。遊びでの恋愛もね」

「え、私は対象にはなれない、ってことですか」

 今まで散々に後ろ指を差されて扱われた経験がフラッシュバックする。

「ううん、違うよ、そうじゃない、でも人と付き合えるほど僕は成熟していない」

 ああ、なるほど責任感の強い人なんだ。

「……そんなことを言ったら成熟できないじゃないですか、だから」

「2番目や3番目みたいに扱うようなことはしたくない、だから付き合えない」

「違います、それは言葉のあや……」

「とにかく、君とは友達のまま続けていきたい」

 現在の時点での完璧な拒絶、それを感じた。

 私たち、似たもの同士なのに、どうしてこうもひねくれてるの。いや、ひねくれものだから、今まで残りものになって、同時に惹かれあったんだ。

 2番目でいいなんていう人間が、誰かの一番を獲得できるわけがないし、維持できるわけがない。また強い望みを誰かを蹴落としてまで実行することが適うわけがない。

 強い責任感を持つものが、いい加減な状態のまま付き合い始めることをよしとするわけがない、それをするときは自分のみを削ってでも相手を持ち上げ続け、やがて磨り減って消えてなくなる時だろう。

 私は、僕はまだ、普通の人というステージにいない。

 昇れるようになった時、チャンスは果たして残っているのだろうか、まったくわからない。

 いたい。

 くらい。

 ここは寒い。

 私は、私たちは、どこへ行けばいいのだろうか。

お前の感じている感情は治し方は俺が知っている俺に任せろ

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