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閑話:アルファス・レステングールの感謝《下》

 魔物の騒動から、3日。


 師匠は賞金を貰ったと言って、俺に金貨を数枚押し付けた後から孤児院には来ていない。



 「今日はどこかへ行くのですか?」

 「うん。少しやってみたいことがあるんだ」

 「そうですか。何はともあれ気をつけて下さいね」

 「はい」



 俺は師匠にもらった青白かった短剣を持って、森に行く。


 短剣は魔物の騒動の後に確認した時に、色が変わっていた。

 前は青白く輝いていた。しかし今は黒く、青黒く、なんとも不気味な色になっている。

 師匠に聞いてみたら。「わかんないけど、多分アルの魔力でちょっと性質が変化したんじゃないかな〜?ま、僕が描いた魔法陣とかは無事みたいだし。それと、なんか今までと違ったところとかなかった?」何て言われた。確かに、いつものよりも魔法剣が使いやすかったことを言ったら。「じゃあ、その時にアルが使いやすいように剣の魔力構造が変化したんじゃない?多分、一種の魔法補助器みたいになってると思うよ」何て言われた。俺はあまり魔道具には詳しくないのでわからないけど、師匠は問題ないと言っていたので大丈夫だと思う。


 で、今何をしようかとしているのかというと。



 「ふぅ…『蹂炎』」


 俺は黒い炎を短剣に宿す。


 すると、今までよりずっと楽に、しかもこの間よりも早く魔法が安定する。それに、今は失敗なんてする気がしない。



 「やっぱりそうだ」


 師匠が言うように、この短剣は俺は魔法剣を使うのを補助してくれている。いや、正しくは魔法が込めやすいと言った方がいいか。 

 でも、確かに魔法が安定するのが今までに比べれば、圧倒的に早い。


 俺はそれを魔力を拡散させて消す。



 「一応他のも…『禅炎』」



 橙色の炎が短剣に纏わりつき、収縮し、安定する。


 やっぱり、今までのより圧倒的に早く安定する。

 今までのがうまくいく時は5分近くかかっていたのが、これはほんの1,2分程度で安定している。

 

 このまま練習を重ねれば、一瞬で魔法剣を発動できるようになると思う。



 そう思って、俺は一週間ほど森に入っては魔法剣を使い、魔力が切れたら休んで、回復したらまた再開するなんてことを繰り返した。













 そして、ほぼ一瞬で起動ができるとまではいかないが、かなりの速さで安定した魔法剣が使えるようになった。大体、数秒もあれば1回の魔法剣が使える。練習でかなりの魔物も狩ったので、レベルも上がって魔力も増えた。


 そんなある日、師匠がこの街を出るということを言いに来た。

 俺がいつものように森に行こうと思って、道を歩いている時だった。



 「あ、やっと見つけた。やっほーアル」


 師匠は、こちらに手を振りながら歩いてくる。



 「あ、師匠!どうしたんですか?最近ずっと来てくれなかったですし」

 「いや、だってアルはもう卒業したんだから僕がいる理由ないでしょ〜?」

 「あ、そうでした。でも、顔をみせるくらいなら普通はあると思うんですけど」

 「まぁ、ちょっと色々やってて忙しかったんだ〜」


 確かに、いつもよりも師匠の顔は疲れているように見える。



 「で、突然どうかしたんですか?忙しいって言いながら、俺を探してたんですよね?」

 「ああ、そうだった。僕さぁ、ここを出て旅に出るんだ」

 「え⁉︎どういうことですか⁉︎」

 「いやね。魔王を倒すのは勇者の仕事でしょ?僕は勇者じゃないし、他の貴族とかもうるさそうだし、どっかに遊びに行こ…ゴホン。じゃなくて、裏方から支援でもしようかなって思ってね〜」

 「…今、遊びに行こうって言おうとしましたよね?」


 俺は苦笑いしながら師匠に尋ねる。

 師匠はいつも楽しそうだと思う。

 


 「気のせいだよ。うん、気のせい。で、旅に出ようと思ったんだ〜」

 「…そうですか。俺が止めてもどうせ行くんですよね?」

 「当然。僕はその世界を満喫するんだ〜」

 「もう遊びたいのを隠す気はないんですか…」

 「あ」


 師匠はうっかりしてたとでも言いたいような顔をしてこっちを見ている。

 



 「はぁ…」

 「と、言うとこだから。報告ね」

 「師匠。1つ、いいですか?」

 「何?ある程度のことなら聞いてあげるよ」


 俺は…強くなったのだろうか…?

 アンリねぇちゃんや家族を守れるくらい。シモン達に大丈夫だと、言うことができるくらい。



 「もう一度。俺と模擬戦をしてくれませんか?」

 「模擬戦?」


 師匠がワケがわからないとでも言いたげな表情をしている。



 「そうです。もう一度、俺と模擬戦をしてくれませんか?」

 「別にいいけど…なんで?」

 「俺がどれだけ強くなったか、知りたいんです。それに、まだ師匠に一撃入れてませんから」

 「そう?まぁいいよ。じゃあ…2日後、いつもの場所でね〜」

 「はい!」


 そう言って師匠は、どこかへ歩いて行った。


 俺も魔法剣の練習のために森へを足を向ける。





 森の中に、一箇所だけ木も草も全く生えていない場所がある。

 俺がいつも訓練して、魔法剣を放っている場所だ。

 訓練の成果もあり、早く正確に魔法剣を発動することができるようになってはいるので、最近は発動の練習以外にも威力を抑える訓練もしている。



 「ふぅ…『猛火』」


 朱い炎が青黒い剣を燃やし尽くそうとするかのように巻きつく。

 そして数秒で安定し、俺はそれを目の前に振り下ろす。


 朱い炎は、少し青黒い魔力を帯びて俺の目の前を焼き尽くす。



 「…もっと弱くしないとダメだ。これじゃあ、俺に仲間がいたら被害が出る」



 威力を抑えられない。つまり、自分以外の人がいれば、怪我をさせてしまう可能性…いや、むしろほとんどの場合で殺してしまう可能性がある。

 なので、俺は威力を抑えるための訓練をしている。

 まだ、魔力を丁度よく剣に乗せて魔法を安定させることができなくて、かなり強めの魔法を帯びたものになっている。

 魔力にものを言わせて力任せに使っている感じだ。



 「もっと、魔法を維持することだけじゃなくて、剣に魔力を載せることに集中しないと…少しやり方を変えればどうだろう」


 俺は少しやり方を変えてみる。

 今までは、陣魔法を使うように魔力で剣に魔法を描いて使っていた。それを魔力を剣に乗せてから陣魔法を使うように魔法を描いてみる。


 「ふぅ…『猛火』」


 朱い炎が剣に巻きつく。

 しかし、今までとは違って剣を焼き尽くそうとするような炎ではなく、まるで剣に宿っているかのようだ。


 そして、俺はそれを振り下ろした。


 その炎は…俺の目の前を綺麗さっぱり荒地に変えた。



 「ダメじゃねぇか!」


 むしろ威力が上がった。

 今までより、少ない魔力を込めたのにもかかわらず、今までの数十倍の威力になっていた。



 「でも、これ。あんまり剣に負担がかかってないような気がするな」


 今までは、魔力にものを言わせた魔法剣だったため、1回使えば剣がボロボロになってしまう。訓練中に普通の剣でも魔法剣が使えるようになろうと思って、増産型の短剣で試したことがあったのだが、1度やっただけで壊れてしまったのだ。

 それに対して、師匠に貰ったこの短剣は勝手に直るからいい。けれどもしこの剣がなかった時、魔法剣は一度しか使えない最後の手段になってしまう。それでは意味がない。



 「って。そうじゃなくて、威力をどうやって下げれば…」



 そんなことを思いながら、ついに師匠と模擬戦をする日を迎えた。








 「さて、ということで。審判にアレクさんを呼んでみたよ〜」

 「アレクシス・バーティだ。一応、この国の騎士団長をやっている。よろしく頼む」


 俺が訓練室に入ると、師匠は隣にいるかなり背の高い人を指差し、その人は騎士団長であると名乗って頭を下げてきた。

 それを見て、俺も頭をさげる…ってそうじゃない。



 「ええと、アルファスです。よろしくお願いします…ってそうじゃなくて!師匠、なんで騎士団長が居るんですか⁉︎」

 「いやね。アレクさんに話してみたら、是非とも見たいって言ってきたから」

 「済まないな。新の弟子だというではないか。是非ともその実力を見てみたかったのでな」

 「は、はぁ…まぁ、いいですよ。それよりも、師匠。その装備はなんですか?」

 「え?これがどうかしたの?」


 師匠はいつもの黒いローブを着ているが、腰に下げた短剣は”烈炎”や”氷獄”ではなく、



 「なんで、俺が素振りに使ってた木製の短剣なんですか?もしかしてふざけてます?」


 俺が初めて師匠に貰った気の短剣に似た、木製の短剣を持っていた。



 「いや、まったくふざけてないよ。アルはこれを見くびってるな〜?ちょっと教えてあげよう。これは、その辺で拾ってきた木片、計3859本を1本に圧縮して作りあげたもので、高度はそこらへんの剣よりずっと高いよ?そして、普通の金属よりも木の方が魔力伝導率が高いから、圧倒的に魔法剣が使いやすくなっているものだよ〜」

 「は、はぁ…つまり、かなり魔力伝導率が高い魔法剣用の木剣ってことでいいですか?」

 「そういうこと〜。最近、アルが魔法剣を使っているみたいだから、僕も練習してみたんだ〜。魔力操作がうまいと結構楽だったね〜」

 「もしかして、もうすでに使いこなしたりしてます?」

 「大体ね〜。でも僕には向かないね、これは。普通に剣を振った方が強いもん」



 大体…つまり、師匠は俺よりも遅く始めて、俺よりも早く習得したということだ。

 その言葉に、俺は少しショックを受けた。


 「じゃあ、普通にやってくださいよ。俺は真剣勝負がしたいんです」

 「いや、こっちでいいよ〜。その方が、アルが本気で戦えるし、僕が能力のセーブに意識を削がれなくて済むし」

 「そうですか…」



 俺らが話しているのをアレクさんがじっと見ている。



 「始めてもいいのか?」

 「あ、ごめんね〜。もう始めてくれる?」


 そう言われ、アレクさんは訓練室の端による。



 「両者、準備はいいか?」

 「大丈夫だよ〜」


 師匠はその木剣を右手で弄ぶ。


 「はい」


 俺は師匠に貰った剣を右手に構える。


 「では…始め!」


 

 その声がかかった瞬間。俺は剣に魔力を乗せ魔法剣を発動する。



 「『道焔』」


 俺の剣から出た赤い炎は、師匠に向かって駆けて行く。

 師匠は、それを軽く剣を振って消す。剣にはうっすら緑がかった膜が見える。


 俺は師匠がもう一度その剣を振るう前に、もう一度魔法剣を放つ。



 「『刎炎』」


 今度は、薄く黄色を帯びた炎が師匠に向かって地面を削りながら奔る。

 師匠は再び軽く剣を振るって、それをかき消す。

 そして、そのまま俺の後ろに走り込み、



 「アル、魔法剣に頼りすぎ。技術はどこに行ったのかな〜?」


 師匠はそう言って、魔法剣ではなく普通の状態の剣で俺の頭を叩く。


 「そこまで」

 

 アレクさんの声が聞こえてきた。



 「くっ…もう一度、お願いします」

 「だって。お願いできる〜?」

 「ああ」

 

 そう言って、師匠はアレクさんにもう一度審判を頼む。



 「すみません」

 「いや、気にするな。新が強すぎるんだ。俺も負けた…では、準備はいいか?」

 「はい」


 俺は再び剣を構えた。


 「いいよ〜」


 師匠も剣を投げて弄んでいる。



 「では、始め!」



 再び、アレクさんの声が聞こえてきて、俺は陣魔法を起動してから、師匠向かって走りだす。

 

 「『堕炎』…」


 黒い炎は、俺を中心に円を描くように広がっていく。地面が腐食していく。

 俺はそれに合わせるように、ゆっくりと師匠に向かっていく。


 

 「うわぁ〜。最初からこれやる?」

 「はい、やりますよ。『蹂炎』」

 「しょうがない。アレクさん〜、ちょっと気をつけて〜。『荒窓』起動」


 師匠の目の前から、強風が吹いて炎を吹き飛ばす。

 俺は魔法剣を用意し、


 

 「おりゃぁあ!」


 炎が消えた瞬間、俺は青黒い炎を纏った剣を師匠に向けて振り下ろす。

 

 俺の目の前から、青黒い炎が師匠に向かって周囲を焼き尽くしながら駆け抜けていく。



 そして、



 「はぁ…『黒風雨の脅威』起動」


 師匠が珍しく長い名前の魔法名を言ったかと思うと、突然黒雲が立ち込め、部屋の中なのにもかかわらず台風が発生した。


 

 その雨で、俺の炎はかき消され、なぜか俺の体も酷く重い。



 「さて、まだやれる?」

 「え。あ、頑張ります。けど、その前にこの体が重いのはなんでですか?」

 「ああ、この魔法?風魔法で集めた水分に闇魔法の重力を全てに付加する魔法なんだ〜。ちょっと手間がかかるけど、威力は折り紙付きだよ〜」

 「なんて、大掛かりな魔法を…」



 師匠は簡単に言うが、これを普通にやろうとすれば最低でも数十人の宮廷魔導師レベルの魔法使いが必要になるだろう。

 


 「いや〜。アルが結構な魔法剣を使うから、つい対抗したくなっちゃって〜」

 「いや、ついじゃないですよ。もっと狭い範囲の魔法にしてください。ほら、アレクさんにも被害が行くところだったじゃないですか」

 「ああ、大丈夫だよ〜。しっかり範囲指定はやってるから」

 「マジですか…」

 「にしても、魔法剣ってすごいね〜。普通の魔法より威力上がるし」

 「え?そうだったんですか?」

 「え?知らないで使ってたの?ほら、ちょっと適当な魔法使ってみなよ」

 「え。はい。『蹂炎』」


 俺の目の前に黒い炎が広がる。



 「ほら、さっきのはこの場所全てを燃やし尽くさん勢いだったのに、今のはゆっくり侵食してるでしょ?」

 「あ、本当ですね。初めて知りました」

 「はぁ…気づいてなかったのね」

 「あはは…すみません」

 「ま、そのための魔法剣だしね。で、続きやる?」

 「あ、はい。おねがいします」




 そのあと十数回やったあと、師匠は自分の部屋に帰って行った。


 最後の方はしっかり師匠と剣を交えた戦闘だったし、なんとなく自分が強くなったのは実感できた。

 師匠に足をかけられて転ばされる程度だった頃が懐かしい。



 「さすがは新だな。弟子も異常に強い」

 

 俺の後ろで、アレクさんがそんなことをつぶやく。



 「そんなことないですよ。まだまだです」

 「しかも無自覚か…アル、お前一度俺と模擬戦をしないか?」

 「え?はい、構いませんけど」 

 「よし、かまえろ」

 「はい」



 アレクさんは長剣を構え、俺も師匠に貰った剣を構えた。


 「行くぞ!」


 アレクさんは俺にその剣を叩きつけるようにして振り下ろしてくる。

 しかし、その剣筋はしっかり目で追えるものだったし、軽く剣でいなすことができた。

 そして、アレクさんが剣を振り下ろしきった瞬間に、俺はアレクさんを飛び越えて後ろに回って首に剣を当てる。



 「えと…どうでしょう?」

 「そういうことだ。俺はいたって本気でやってる。しかし、新の剣は俺より圧倒的に早かっただろう?それと打ち合えるってことは、俺より強いってことだ。まぁ、実戦となれば違うかも知らないが、お前が経験を積んだら俺はもう勝つ可能性はないだろう」

 「ええと…つまり?」

 「お前は強いんだ。自信を持て。そして、経験を積め」

 「はい。ありがとうございます」



 自分ではそんなに強くなったとは思っていなかった。

 しかしその言葉を聞いて、俺は嬉しいというより…安心した。


 「もう、俺はみんなを守れる力があるんだ」と。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 カランカラン…



 俺はギルドの扉を開け中に入り、受付に向かう。ランク試験を受けるのだ。



 『おい、見ろよ。”蒼黒の剣士”だ』

 『マジか。あんなに子供みてぇなのに…』

 『あいつ、”悪霊”の弟子なんだってよ』

 『ああ、そういや悪霊って見なくなったよな』

 『知らねぇのか?最近、中央の迷宮の単独攻略したって噂だぜ』

 『マジか…とりあえず、触らぬ神に祟りなしってな』

 『そうだな。変に近付かねぇようにしようぜ』

 『おうよ』



 テーブルに座っている2人組の冒険者の話し声が聞こえる。

 確か…”高蹄”っていうDランクパーティーだったっけ?



 そんなことを思いながら、ランク試験の依頼を受ける。


 「では、BBランク試験は、こちらの依頼をこなすことです。では、頑張って下さい」

 「はい、ありがとうございます。行ってきます」


 俺は、今日もギルドの扉を開け、依頼をこなす…


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