閑話:アルファス・レステングールの感謝《上》
3話連続です!
師匠がこの町を出て、約1週間ぐらいが経ちました。
「アル。今日もどこかへ行くのですか?」
「おう。今日から少し遠出をするから、3日程は戻らないと思います」
「そうですか…気をつけてください。あなたはまだ成人もしてないのですよ」
「わかってます。じゃあ、行ってきます!」
「ええ。いってらっしゃい」
俺は冒険者ギルドに向かって歩き出す。
俺の生活は、師匠と会って変わった。
俺は今、孤児院のみんなのために冒険者ギルドで依頼を受けて、お金を稼いでいる。
今はもうすぐで…というよりこれからBBランクの試験を受けられることになったし、師匠が言うにはもう俺はBBランク以上の実力はあるらしい。
師匠にはいくら感謝してもし足りないぐらいだと思う。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
夕方。日が沈みかけ、辺りが暗くなり始める頃。
『おい、子供を連れて来な』
いつものように、また兵士が俺らのことを連れに来た。
扉の向こうの廊下から、アンリねぇちゃんが兵士を止めようとしてくれている声が聞こえてくる。
『だ、だめです。この子たちは、身寄りのない可哀想な子どもたちなんですよ。そんな奴隷にするなんて許しません!』
『うるさいぞ!おとなしくどけ!』
ガタッとねぇちゃんが突き飛ばされたような音がした後、兵士1人が俺らがいた子ども部屋に入ってきた。
「確か今回は…ああ、そいつがいいな。よし、貴様。こっちに来い」
兵士は、そう言ってシモンを指差す。
シモンはそれに気づかず。部屋の端で震えている。
シモンは、気が弱いやつだった。そして、俺の一番の友達だった。
「チッ…聞こえていないのか!そこの桃髪の子ども。こっちに来いと言ってるんだ。早く来い!」
この孤児院には桃色の髪はシモンしかいない。
「え?…え?え、えっと僕?」
「そうだ、早く来い。さもないと、外の女を殺すぞ」
「や、やだよ!アンリねぇさんを殺さないで!」
「そうされたくないなら早く来いと言ってるんだ」
シモンは脅されて、兵士のところに歩いていく。俺はその時、怖くてただただ立ち尽くしていた。
『だめです。シモン!早く逃げなさい!』
『チッ…黙ってろ』
廊下からアンリねぇちゃんの声が聞こえてきたが、ガシャン…と何かが割れるような音がした後、静かになった。
「あ、アンリねぇさん!やめてよ!なんでこんなことするの!」
「うるさいぞ。いいからついて来い」
兵士は、近くまで歩いて行ったシモンの腕を強引に引っ張り、外に連れ出そうとする。
俺はその時、一瞬安堵していた。そして、そんな自分に腹が立った。
気がついた時には、走り出していた。
「うりゃあぁぁああああ!シモンを放せぇ!」
そして、兵士に後ろから殴りかかろうとした。
次の瞬間には、視界が逆さまになった。
兵士に殴り飛ばされたのだった。
腹に痛みを感じる。けど、そんなことよりもシモンを連れて行かれるのは嫌だった。
そして何より、何もできない力のない自分に腹が立った。
俺は立ち上がり、再び兵士に殴りかかろうとして、アンリねぇちゃんを抑えていた兵士に後ろから蹴り飛ばされた。
そして、シモンを捕まえている兵士にボールのように蹴られ、またアンリねぇちゃんを抑えていた兵士に蹴られる。
「ガキは殺すなと言われてるのだが…一匹くらいはいいよな?」
「止めとけ。足がつく」
「そうだな」
「あ、アルくん!」
シモンがこっちに向かって走ろうとしているのが見える。
しかし、兵士の腕を振り払うほどの力はなく、シモンは兵士に首を掴まれ、連れて行かれた。
そこで、俺の意識は途絶えた。
次に目が覚めた時には朝だった。
目も前には見慣れた天井がある。元は白かったが今は少し灰色が立ってしまっていた。
「…なんで、なんで。アーノルドなんか死んじまえよ!」
なんであんな奴が後を継いでしまったのか、わからなかった。
俺の頬を涙が零れ落ちる。
悔しかった。
そのまま、しばらく天井を見ていた。いつしか涙は乾いていた。
動こうとはしたのだが、体に激痛が走る。きっと、骨でも折れたのだろう。
少しして、アンリねぇちゃんがやってきた。
アンリねぇちゃんの右腕には包帯が巻いてあり、左の頬は摺りむけていた。
「起きたのですね…よかったぁ」
アンリねぇちゃんは俺に抱き付いてきた。
収まったはずの涙が、再びこぼれ始めた。
怪我の痛みは感じなかった。
心が痛かった。シモンが連れて行かれたのに、アンリねぇちゃんが無事だったことが嬉しかった。
「あ、うん…アンリねぇちゃん、痛いよ」
「ああ、ごめんなさい。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「そうですか。今日は1日寝ていてください。明日、治療院に行きますよ」
「わかった」
アンリねぇちゃんが額に乗せてあった濡れタオルを変えてくれた後。
俺の意識は薄れていった…
翌日。俺はアンリねぇちゃんに連れられて、治療院に来ていた。
ここは、孤児院のあるところから少し離れたところの大通りにあり、中には治癒魔法使いの人がたくさんいて、怪我人もそれ以上の数がいる。
アンリねぇちゃんと俺はそこにある受付には行かず、裏方に回る。
「クリア。クリアいる?」
「あ、アンリじゃん。どうしたの…ってああ、またね」
ここにはクリアさんっていう孤児院出身の人がいて、孤児院の誰かが怪我をした時にこっそり無料で治療をしてくれる。
「アルの怪我がひどいから早く見てあげて」
「はいはい。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
俺はクリアさんの前にある椅子に座らされた。
そして、クリアさんは俺の肋骨の辺りに手を当てる。すると、身体中に元気が走ったみたいにひどい痛みがきた。
「ああ、折れちゃってるね。しかも4本も。でも、綺麗な折れ方でよかったね。じゃ、そこに横になってくれる?」
「あ、はい…」
俺は促されるままに、ベットに横になった。
「じゃあ、いくよ。『神よ。我が友に安らぎを与えたまえ。ヒール』…っと、これでよし。どっか変な感じがしたりするところはない?」
「えっと、大丈夫」
俺がそう答えると、クリアさんはアンリねぇちゃんの方に向き直る。
「じゃあ、アンリも。『神よ。我が友に安らぎを与えたまえ。ヒール』…これで終わり。何かあったらまたおいで」
「いつもありがとう。ほら、アルも」
「あ、ありがとう…」
「別にいいって。早く帰んないと、子供が待ってるでしょ?ほら帰った、帰った」
「そうね。クリアもたまには帰ってきてね」
そう言って、アンリねぇちゃんと俺は孤児院に帰る。
そして、さらにその3日後。
兵士がまたやってきて、孤児院のお金をいっぱい持って行ってしまった。
『うぅ…どうしよう。これじゃあ、グスッ…みんなが』
夜中に目がさめると、アンリねぇちゃんが泣いている声が聞こえてきた。
そして、その次の日から、俺は盗みを始めた。
俺はいつもシモンといたから、仲間はいなかった。
はじめは見つかってしまって、逃げる途中で捕まりそうになったりしていたが、少しすれば慣れてきてうまくいくようになった。
時折、孤児院まで追いかけられてアンリねぇちゃんに迷惑をかけちゃうけど、全体的にいえばうまくいっていた。
悪いことだとはわかっているけれど、これしか俺に思いつくことはなかった。
心の穴を見て見ぬ振りを続けて…
そんなある日、師匠と会った。
師匠は黒いローブに、頭の上に小さい竜が乗ってる変な人だった。
その上、財布は簡単に盗めそうだった。
そして、案の定簡単に盗むことができ、急いで孤児院まで戻って中身を確認すると、何も入っていなかったのだ。
「中身がない!」
「っくくく、はははははははは。」
「な!お前、さっきの⁉︎」
俺が叫んだら、屋根の上からこっちを見て大笑いしている師匠がいたのだ。
そして、その後アンリねぇちゃんが来て、俺を謝らされた。
その時に俺が言ったことを聞いた師匠が、アーノルドの話をアンリねぇちゃんから聞いた後に、また孤児院に来ていた兵士を追い返し、どこかへ行ってしまった。
多分、俺は師匠がアーノルドのところに行って、何かをしてきたんだと思うんだけど、師匠はいつも「何もやってないよ〜」なんて言って誤魔化していた。
その後、師匠がどこかに行ってしまっていた間に、俺は本当に師匠があの”悪霊”なのか気候と思って、ギルドに向かった。
そして、師匠が本物だってことはわかった。黒髪で長髪の人はこの王都にはほとんどいない…それどころか、おそらく師匠以外はいなかったので、すぐに確認はできた。
で、どんな人なのかをいろんな人に聞いたのだが、反応は人それぞれだった。
ある人は、「あいつは、俺らのパーティ全員でかかっても勝てねぇくらい強いし、それに結構いいやつだぜ?」などと言い。
またある人は、「あれだけには関わらないほうがいい。この王都で生きていたいんだったら止めとけ」なんて言ってきた。
師匠と仲が良さそうな人は大抵はいいやつだって言うし、あんまり仲が良さそうじゃなかった人はあいつだけには関わらないほうがいい、と俺に忠告してきていた。
俺はそれを聞いて、師匠はおそらく悪い人じゃない。それどころかきっといい人なんだろうと思って、孤児院に戻った。
「あっ!さっきの兄ちゃん。どこ行ってたんだ?アンリねぇちゃんが探してたみたいだけど。」
そして、戻ってきてからしばらく経って、師匠は孤児院に帰ってきた。
「ちょっと、野暮用を片しに行ってたんだ〜。」
「ふ〜ん、そう「あっ、シンさん帰ってきたのですね!よかったぁ…」なのか…」
すると、後ろからアンリねぇちゃんが走ってきた。
「どうかしたの〜?」
「貴族に殺されてしまったのかと、思って…」
「ははは〜。そんなやつら如きに僕はやられないよ〜?」
師匠は面白そうに笑いながら答える。
「笑い事ではないんです!もし貴族に目をつけられたりなんかしたら…」
「大丈夫だよ〜。少なくともアーノルドは、善人に生まれ変わったから〜。」
「へ?」
「まぁ、そのうちわかるよ〜。」
「は、はぁ。そうですか…」
「じゃ、報告はしたから帰るね〜。」
「ちょっと待ってくれ!」
俺は帰ろうとする師匠を呼び止めた。弟子にしてもらおうと思ったのだ。
もう、二度とシモンみたいなことにならないために…
「俺を弟子にしてくれ!Aランクの悪霊なんだろ?」
「そうだけど。なんで〜?」
「俺が孤児院と孤児院のみんなを守るんだ!この前、シモンが連れて行かれた時は、俺何もできなくて…」
「ふ〜ん…いいよ〜」
「本当か⁉︎」
「ただし、その格好じゃ魔物を狩るのも無理そうだから、4日間あげる。その間に服装どうにかしてね〜?」
師匠は簡単に承諾してくれたが、服装に文句を言われた。確かに、その時の俺の服装は古着を数枚縫い合わせたボロボロのものだったけど、お金がなくて買い変えることすらできなかったのだった。
「でも、俺らお金がなくて…」
「アンリさん。これあげるから、どうにかしてあげて〜。」
「いや、でもまだ12の子供が戦うなんて…私はアルが戦うなんて、反対です。」
「なんでだよ!」
けど、アンリねぇちゃんはそれに反対した。
「あなたは、まだ子どもです。こういうことは大人に「俺はもう、みんなが連れて行かれるのを見てるだけなのは嫌なんだ!」任せて…」
「この間、シモンくんが連れて行かれた時、ボロボロにやられたのを忘れたのですか!」
「だから強くなるんだ!今度こそ俺が…」
「大丈夫だよ〜。アルは強くなれそうだし。」
「ほら、こいつだって、そう言ってるじゃん!」
「ですが…」
「俺、強くなれるように頑張るから!お願い!」
「はぁ、わかりました。ただし、シンさんの言うことをきちんと聞くんですよ。」
俺はアンリねぇちゃんを説得し、師匠の弟子になった。
そして、師匠はアンリねぇちゃんに金貨をぽんと手渡すと、4日後にギルドで待ってると言って、帰ってしまった。
「と、とりあえず。服とかを買いに行きましょうか。みんなの分も」
「そ、そうだね。うん」
そうして、俺とアンリねぇちゃんは服とかを買いに行った。
俺とアンリねぇちゃんは金貨なんて大金持ったことがなかった。今思うと、周りから見たら変な人に見えたかもしれない。少し恥ずかしい。
そんなこんなで、俺は弟子になった。




