79.修行しました
「どうだ?ギブアップするか?」
「はぁ、まぁいいや」
それからしばらく斬ったり、魔法放ったりしたが、一向に当たる気配がない。もうやだわ。
俺たちは光レベルの速度でやりあってる…というか一方的にやってるが、当たらないのは能力値の差だと思う。俺より1.2倍くらいで動いてるんだよあいつ。
こうして、俺は一撃もキャルディに当てることなく終わった。
小説とかみたいにはいかないものだ。どうにか、一撃くらいは…なんて圧倒的な力の差の前には、絶対に不可能である。
「さて、じゃあ言うが…技術はそこまで悪くない。だが経験が俺より少ねぇし、知識も俺の方が多い、それに能力値の差がでかすぎで俺に届いてねぇ。ということで、これからに期待だな」
「…やっぱ腹立つ」
「はっはっは。さて、じゃあ少し休んだら、始めるぞ」
「了解〜。どうやってやるの?」
「最初に神魂のできることについての基礎知識を教える。次にそれの実践。その次に応用。残りは、ひたすら俺と戦闘とかその他」
「ふ〜ん。わかった」
そうして、俺の修行は始まった…
開始から約1ヶ月。ただしオービスで、
「いいか?最初にも言ったが、神魂ってのは”オービス”で俺らが実験的に作った、神に最も近い生物だ。だから、俺ができることのほとんどはできる。更にお前は、もともと200に設定していた神化のレベルを異常に超えてる状態で神化した。そのせいで俺らの次に魂が強い。だから…」
神魂についてひたすら説明を受けた後、そのできることを教わりながら一つ一つやらされている。
開始から約1年。
「…そもそも、スキルは俺らが作った手順を簡略するための方法だ。つまり、スキルでできることは自力でもできるんだ。ということで、スキル使わないでやってみ?」
「…え〜」
「さっさと、すべこべ言わずにやれ」
基礎的なことを片っぱしから覚えさせられ、それを全て自力だけでやらされている。
開始から約20年。
「はい、そのまま一ヶ月な」
「はぁ⁉︎」
ここのところは、魂の操作をひたすら続けさせられている。肉体を作らず、神魂の状態に戻ることはできるようになった。
開始から約200年。
「じゃあ、そいつを殺さず体だけ乗っ取れ。痛がったらやり直しな」
「いやいやいや、無理でしょ?」
「や・れ」
「マジか…」
最近応用になってきた。今やってるのは、生きた生物の体を傷つけずに乗っ取るとかいう、魂の操作やらの応用。
他にも、魂の生成や肉体の生成のみとかを応用して、魂がない健康な体を作ったり、よく異世界転生みたいな小説にあるような、チートな魂を作ったりさせられている。
ついでに言うと、最近は元の体にも普通に戻っていられるようになった。まぁ、ただ能力値が落ちるから戻ったままでいるときは少ないけど…
開始から約600年。
「よし、そろそろ世界作るか?」
「はぁ〜⁉︎無理だから」
「とりあえず、生物がいないやつでいいから」
ここのところは世界について、というか次元についてやっている。基本的な世界の操作とか管理はやり方を教わったし、作り方も教わったが、いきなりやれというのは無理があると思う。
開始から約800年。
「これで全部やりきったな。次だ」
「次って?」
「俺との戦闘訓練その他」
「…遠慮します」
「逃さねぇぞ?」
「いやだ〜!」
神魂は世界を作ったり、長生きしたりすると格が上がり、強くなる。
だが!
…お前一体、僕の何倍生きてると思ってる。無理に決まってるでしょうが。
その後捕まり、戦闘訓練や平行思考の強化や、いろんな状態での生活をさせられた。
例えると、魔力しか使わないとか武器の使用禁止とか。
そして、1000年目の最後の日。
いろいろ教えてもらったのだが、僕とロメの頑張って検証したのが結構無駄になっているところが多く、ちょっと残念である。
「今日で1000年。なんだかんだで、エクも俺と頑張れば互角近くになったんじゃねぇの?」
「いや、無理だから。ルディが僕の本気でやってるのを、片手で頑張ればどうにかなるって時点で無理」
かなりの時間が経ち、最近僕の感情の突起が薄れた気がする。
キャルディとは師匠というよりは仲のいい友人って感じで、300年目くらいからルディって呼んでる。
ついでに一人称は本来の状態で”俺”っていうとなんか変だって言われたので、矯正した。確かに、ちっさい女の子が”俺”って言うのは変だしね。まぁそんなわけで、元に戻っているときは言葉遣いも直すようにしている。ちなみに今は元に戻って、男だ。ただし、目の色と髪色はそのまま霞んだ銀色だけど。
「そうか?いける気がするんだがな?」
「いや、無理。まぁ、そんなことは置いておいて、今日は?」
「今日は修行なし。ちょっと話したい」
「ん?何をだ?」
ルディは珍しく、ちょっと真面目な顔をしている。
「俺ら、兄弟のことだ」
「あ、そういえば、神様と神魂の違いは聞いたけど。その理由とか何も話してないね」
「それだ。聞いてくれるか?俺はずっと生きてきたが、だれかに話していいと思ったのは初めてなんだ」
「うん、聞くよ」
「そうか。じゃあ話そう…俺ら2人は突然何もないところに生まれた、いや発生したと言ったほうが正しいかもしんねぇな。とにかく、突然何もないどこを見ても、どこまで行っても真っ白いここみたいな場所に出来たんだ。
どうしてその場所にいるのか全くわからなかったし、自分らが何者なのか全くわからなかった。ただ、俺とガルディはそこにいたんだ。ーー
俺とガルディは真っ白い空間の中に突然生まれた。
どうしてその場所にいるのか、自分たちが何なのか全くわからなかった。
…だが、自分たちの力はわかった。俺らは世界を作ることができた。無から有を創り出すことができた。
初めのうちは、とにかくそれが楽しくていろんなものを作った。最初のうちは慣れなくて、わけのわからない物を創っていたが、そのうち意味のある形を作り始めた。食べ物や動物、道具や武器とか様々な物を創った。俺たちは娯楽を求めた。
食べるや寝る、遊ぶなんてことは、片っ端からやった。そして…いつしか飽きてしまった。
その中でも、どうしても創った生き物は形だけで動くことはなかった。それに、俺らはのめり込んだ。
ある日、ガルディが思いついた。体にエネルギーを入れてみよう。
つまり生き物に魂を創って与えよう、と。
結果は成功だ。創った生き物たちは動き出し、俺らに娯楽を与えてくれた。その生き物たちは知能は低かったが、俺たちは楽しかった。
しかし、俺らとは違って生き物たちは食べ物が必要だし、睡眠も必要だった。だから、俺らは生き物たちのために世界を創った。
その世界も楽しかった。何千年も何万年も生き物を見ていた。
だが、それにもいつしか飽き、俺らと同じように知能の高いものを求めた。
俺らは人を創った。その世界に入れると、人は愉快に、滑稽に俺らを楽しませた。
…が、人はそのうち争いを始めた。ガルディは怒り、その世界を壊した。
俺らはまた2人だけになった。
喧嘩もし、殺し合いにも発展したが、俺らは死ぬことはなかった。傷ついたところからすぐに元のように戻っていくのだ。
俺らは争うのをいつしかやめた。
そうして、しばらく2人だけで遊んだ。いや、その頃はもう何兆年と生きていて俺らも精神が大人っぽくなり、どちらかといえばチェスやオセロのようなゲームをした。
まぁ、一度も勝ったことはなかったけど楽しかった。
そして、しばらくしてまた俺たちは新しい世界を創った。
そこには魂の元だけを入れて、自分たちで生き物を創らなかった。
…それがエクがもともといた世界だ。
そこでは、いろいろな生物が生まれ、滅びていった。
そして、いつしか再び人が生まれた。
が、ガルディも長い間生きていたせいで、少し変わった。
今度はガルディは怒ることはなく、むしろこれも一興だろうと、俺と一緒に楽しんでいた。
俺たちもたまにその世界に混じり、普通の人みたいに生きてみたこともあった。
そうして、俺らは人が気に入った。
だから、なぜすぐに死んでしまうのだと嘆いた。
そして、俺とガルディは気に入った者を連れてきては、あの手この手で長く生かそうとした。
その結果。神魂の原型とも言える方法を作り出した。
しかし、その時は世界ではできなかったので、俺が新しい世界を作り出した。神魂を生まれさせるための世界を…オービスを。
しばらくして人が生まれ、レベルを上げて、基準に達してシャルドネが初めての神魂になった。
俺たちは、いや、俺はシャルドネに簡単な知識とその世界の管理を任せた。
性格は良くないし気に入らなかったが、初めての神魂だったのでそのまま経過を見た。いつかは良くなるだろうと。
それに、管理を任せる頃には多くの神魂が生まれていたので、あまり気にも留めなかった。
なのに、シャルドネは世界の権限を使って、俺らをオービスから追い出した。
さらに俺らが創った世界と勝手に接続し、”勇者召還”なんていう魔法を作り世界にバラまき、一度世界を破滅させた。そして次は、俺らが使っていたスキルや神法の劣化版を使って世界を管理し始めた。が、それも失敗し、二度目の破滅が起きた。その後、作られたのが今の世界だ。
俺たちは、その間に別の世界を創って楽しんだ。
もともと生き物の精神は、長く生きるようにできていなかったから、神魂の幾らかは自分で消えてしまったが、それでもまだ100人くらいはいた。
それからは、しばらくいろいろなことをして遊んだ。
その間も、少しずつ神魂たちは消えていった。
そして、ついにガルディも残りの神魂たちと一緒に消ていった。
”もう飽きた。僕は先に行くよ”と言って。
それからしばらくが経った。
ふと思い出し、オービスに行った。そうしたら入れたので、シャルドネを消し飛ばそうと思ったら、エクに会った。
…そうして、今に至るんだよ」
ルディは少し悲しそうにしている。
「そっか…僕はいなくならないよ?」
「いや、またいつかきっといなくなっちまう…そんな気がするんだ」
ルディの表情は晴れなかった。
「じゃあ、僕が消える時は一緒に行こうよ?」
「…ああ」
「これから、僕らはずっと生き続けるんだ。それに飽きたら、今度こそ消えればいい。ね?」
「そうだな。まだ、ずっと先だよな。うん…」
その後も、しばらくはルディは寂しげな表情をしていた…
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