76.久しぶりに移動しました
「ふぅ、やっと終わったか。長すぎだろ。」
長かった。前回は記憶の読み取りが早すぎて辛かったので、今回は一定の速度で流れるように変えていたのだが、結構な時間がかかってしまった。
「さて、これで大体はわかった。魔道具は当分作るつもりはないから、しばらくは放置だな。」
作る必要はないので、この件はしばらくは放置する。
「じゃあ、もうそろそろオービスに戻ろうかな。この間、勇者一行がルクシオに向かうって噂が流れてたし、俺もそこに用があるし。」
この間、ギルドに行ったら勇者がルクシオで行われる、”全大陸戦闘競技大会”なんていう大会に出るなんていう噂が流れていたのだ。おそらく、腕試しで参加するのだろうが、それが終わったら魔族大陸に侵攻するのだろう。勇者一行が王都から、騎士団長と第三王女と共に出てそろそろ半年と1ヶ月が経つ。もう、魔族の大陸に向かってもいい頃だと思うのだ。
「とにかく、ロメに出るって言っとかなくちゃ。『扉、メインルーム』…外に行くなら、体もどうにかしなきゃだな…」
俺は空間を移動する。
「ロメ〜。行ってくるね〜。」
「何処へですか?」
俺がいつものように扉の前でロメを呼ぶと、すぐに反応が返ってきた。
「神野たちがそろそろだから、様子見に。」
「そうですか。体はどうされるので?そちらでないと、能力も1割程度まで下がってしまうのでしょう?」
「あ〜、面倒だけど作るよ。『肉体変化』…これでよし。あ〜、だるい。」
一応作ったが、結構体が重たい。これでも、”神魂”になる前ぐらいの能力はあるので問題はないが、全身を作るのはかなりだるい。まぁ、きちんと服が変化してるのも確認できたので、見た目は問題ないだろうが。
「仕方がないでしょう。そのままでは、ギルドカードが使えませんよ。」
「そうだけどさ…まぁいいや。『扉、オービス』…行ってくる。」
「お気をつけて。」
俺は空間をまたぐ。
「さて、じゃあギルドでルシウスに、ここを出ることを伝えてから行くかな。」
俺はギルドへ向かう…
カランカラン…
ギルドに入ると、職員以外誰もいなかった。
「あれ?なんで誰もいないんだ?」
「おや、どちら様ですか?もう、大雪の時期ですよ。準備はよろしいのですか?」
「あ、そうだったね。」
この世界は地球とは違い、季節がほとんどない。普通の気候の時がしばらく続き、その後に大雪という時期が来て、また普通の時期が続き、その後に雨期が来るのが繰り返される。
最後にこっちに出たのが2日くらい前なので、全く気づかなかった。大雪は1週間ほど続き、その間はずっと雪が降り続ける。しかも、雪は4mくらい積もるので、誰も家から出ることができなくなる。まぁ、それが終わると雪はすぐに溶けて、また普通の気候が半年近く続くので、特に問題はない。
ちなみに俺らが呼ばれた時期は、ちょうど雨期が終わってすぐだ。
「はい。後、数樹間のうちに降りだすと思いますよ。私たちもギルドを閉めるので、帰ったほうがよろしいのでは?」
「あ〜、ルシウスさんいる?」
「いえ、いらっしゃいませんが。それがどうかされましたか?」
「じゃあ伝言頼める?僕はルクシオに向かうから、また会う機会があったらって。」
「伝言ですか。わかりました。ところで、お名前は?」
「シンだよ。”悪霊”の。」
「そうでしたか。では、伝言お預かりいたします。」
「じゃあお願いね〜。」
カランカラン…
俺は伝言を頼むと、ギルドを出た。
「さて、この分じゃ外には出られなそうだな。」
おそらく、門番が外には出してくれないだろう。
「仕方がない。別の場所から向かおう。『扉、外部-5』」
俺の目の前に穴が開き、向こう側にはルファーリオの門が遠くに見える。
俺はその穴をくぐり、向こう側に立つ。
「うん、うまくいってるね。さて、じゃあ行くとしますかな。」
ルクシオに向かう道のりは、登録してある中ではここが一番近いのだ。ここから、ボードで3時間弱だ。
「『扉、…あ、キャンセル』…飛べばいいじゃん。『肉体変化一部解除』『能力操作、隠密』『消滅』起動。」
そういえば、翼があるんだし、飛べばいいのをすっかり忘れていた。こっちのほうが断然早い。
バァサッ…
俺は、3対の翼のうちの一対のみを出して、周りから見えなくして、そこから飛び立つ。
「ふむ、結構早い。この分なら2時間前後で着きそうだな…」
飛んでいる速度は、時速150km以上出ている気がする。その上、結構遠くにもう橋が見えている。
俺の体には被害はないので全く気にならないが、俺の周りが風圧で酷いことになりそうなので、結構高めの位置で飛んでいるのだ。おかげで、スリングとルクシオの間の海峡にかかっている国境の橋が、少しだけ見えている。
そのまま、俺は橋まで飛ぶ…
しばらく飛んで、今俺は国境の橋を渡っている。
なんだかんだで、1時間とちょっとで着いてしまった。ついでに、飛び路を設置して、俺は橋の前の砦を通過しているところだ。
橋は幅10mくらいで石造りの、これと言って特筆すべき点のないような見た目である。だが、長さが500mくらいあるので、渡るのは結構めんどい。まぁ、今はもう少しで大雪の時期のせいで誰一人として渡っていないがな。
「わぁ⁉︎冷た!もう降ってきたか…」
もう少しで渡り切るところで、首筋に雪が当たった。どうやら降り始めたようだ。早くしないと、砦を越えられなくなりそうだな…
俺は橋を急いで走って渡り切る。
「おい、そこのやつ。国境越えたいなら早くしろ。俺らも、もう砦ので入口ふさぐから。」
砦の近くまで来たら、兵士に声をかけられた。
「ほ〜い。今行く〜。」
俺は、兵士のところへ向かう。
「よし、身分を証明するものはあるか?」
「ほい、これでいいでしょ。」
俺はいつものようにギルドカードを出す。
今更ながら、ステータスプレートでも身分証明になるが、こっちは持っている人がほとんどいないらしく、見せると貴族や身分の高い人と思われるので、出さないようにってアレクに忠告されているので、出さないようにしている。
じゃあ、ステータスプレートを持ってない人はどうやってステータスを確認するのかというと、冒険者ギルドなどにいる鑑定スキルを持った人に見てもらうそうだ。その上、見れるのは大概ステータスとレベルとスキルのみ。しかも有料で。
「よし、国境を越える目的は?」
「大会の見物。」
「よし、通っていいぞ。早くしてくれ。俺らももう砦を閉めるから。」
「了解〜。」
俺は兵士に急かされて、砦を後にする。
「この辺かな…『扉、設置』…よし。」
俺は扉を設置する。
「さて、早くしないと雪が積もるな。『肉体変換一部解除』『能力操作、隠密』『消滅』起動。」
俺は再び翼を出して、空へと飛び立つ。
大会が行われるのは、ルクシオの国境から少しのところの”リャーシャ”だ。リャーシャには大きな闘技場がある。大きさは大体、東京ドーム4つ分くらいで、見た感じはコロッセオみたい。街も数万人が住んでいる大都市である。
俺はそこの大会を見たいのだが、早く行かないと宿は無くなってしまうので、急いでいるのだ。まぁ、大会自体は魔道具でも使って見るかもしれないが、神野たちと会った時に泊まってる宿がないのは不自然なので、早めに宿を撮ろうと思ったのだ。さすがに”孤独の多重世界”がばれるのは、いろいろと面倒くさそうな気がするし。
「あ〜…つらい、限界。見えないから良いよね。『肉体変換、解除』…ふぅ、楽になった。翼ぐらいなら大丈夫だけど、全身変えるのはやっぱりつらいわ。」
俺は肉体を元に戻し、3対の翼を持つ女の子に戻る。まだ慣れていないのもあって、肉体を変え続けるのはかなりつらい。たぶん、しばらくやれば慣れると思うので、今は我慢だ。
俺は、そのまま移動を続ける…
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