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閑話:その頃の勇者たち《上》

2話連続です!

 



 その頃、勇者たちはルクシオに向けて、シルフィード王国内を馬車で移動していた。

 勇者一行のメンバーは、神野、石井、安井の勇者3人と、アレク、ソフィの王城からの付き添い2人と、シルフィードの立ち寄った街で共に仲間に加わった、エルフのシャンディネ、獣人のジャンクの合計7人である。

 勇者一行は、シルフィード王国内をぐるっと一周しながら、立ち寄った街などで魔物の討伐や依頼を受けるなどをして、魔王討伐に向けて訓練をしていた。



 「なぁ、タクミ。次の街まで、あとどんくらいだ?」


 馬車の御者をしている神野に向かって、犬耳の青年ジャンクが気怠そうに尋ねる。


 「多分あと少しすると、城壁が見えると思う」

 「やっとかよ。この馬車って暇だよな、本当」


 馬車は上位の竜のランドが引いているために、全くと言っていいほどに魔物が近づいてこない。そのため、ひたすら馬車に揺られるだけでやることはないのであった。


 「まぁ、安全に越したことはないし、いいじゃん。な?」

 「いや、確かにそうなんだが…やっぱり暇なんだよな〜」


 馬車の中でやれることといったら、会話以外は武器や魔道具、防具の整備、睡眠をとる、じっとしている、外を警戒する以外に特にやることはないのだ。

 ジャンクが1人文句を言っていると、次の街の城壁が見えてくる。

 ここオビースでは、街は全て城壁に囲まれているのが普通だ。小さな農村でも、魔物から身を守るために丸太で出来た柵くらいはある。なのでだいたいどこへ行っても、5mから10mくらいの壁で街と外が隔てられている。


 「アレク、ここには泊まるのか?」

 「いや、ここは果実が有名なだけで、魔物の被害も報告されていない。このままスリングの方へ向かうぞ」

 「マジかよ…」

 「残念ですねぇ〜、ジャンク」


 ジャンクとは反対側に座っていたシャンディネが、ジャンクをからかうように言う。


 「はいはい。そうだな」

 「で、アレク。次はどこに向かってるんだ?」

 「リディアナ湖だ。そこで魔族の報告があった。おそらく、そこなら魔物も多くいるだろう」

 「了解だ」


 そのまま黙々と移動を続ける。

 神野たち一行は、王都を出発してから幾つかの街を辿って、あと数ヶ月後に開かれるスリングの”全大陸戦闘競技大会”に出場するために、スリングのリャーシャに向かって訓練をしながら移動をしている。その大会には、各国の貴族や富豪などの上級階級の人物が観覧に来る。そこで勇者の力を見せ各国の協力を仰ぐことと、そこで強者を発見した場合に、魔王討伐の協力を頼むことが主な目的だ。


 今現在、勇者たちの能力は一般的な値を大きく上回り、新がこっちの世界に呼ばれた当初ぐらいまでは上がっている。つまり、この世界では新などを除けば圧倒的に能力値が高い。

 だが、それは400年前の英雄たちもそれは同じだった。しかし、彼らは封印するのが限界だった。何度も封印と解放を繰り返して最初より遥かに弱体化をしている魔王相手に、封印を行うことができるギリギリのところまで魔王の魔力を消費させて封印するのが限界であったのだ。


 つまり、今の勇者では魔王を討伐することはできないのだ。今からもっと強くなるには時間が足りない。その時間があれば、おそらく魔王は世界を征服する。だから、個人ではなく量で戦う必要がある。そのために、1人でも多く仲間が必要であった。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 それから数日、


 「着いたぞ。アレク、ここでどうするんだ?」


 神野たち一行は、リディアナ湖に到着した。


 「今日は一旦休め。明日から訓練を開始する」

 「了解。和也、安井、シャンディネ、ジャンク、今日は一旦ここで野営だ」

 

 神野が馬車の中に向かって、声をかける。


 「わかった。俺らは何すればいい?」

 「じゃあ、和也と安井とシャンディネで薪を集めてくれ。ジャンクは周囲を警戒、アレクは野営の準備をソフィは夕食の準備を手伝ってくれ」

 「わかった。みんな、聞こえた?」

 「聞こえましたよ」


 ソフィが答える。


 「じゃあ頼むぞ」


 神野は馬車を湖から少し離れたところに止め、ランドから手綱を外し、それぞれ野営の準備に取り掛かる。


  

 「じゃあ、俺らは薪拾ってくる」

 「ああ、今は魔族の情報もある、十分に気をつけておけ」

 「いってらっしゃい」


 石井たちが薪を拾いに森に歩いていく


 「じゃあ、俺らもその辺を警戒してるから、なんかあったら呼んでくれ」

 「ああ、頼んだ」


 ジャンクとアレクもそれぞれ周囲を警戒し始める。



 「さて、じゃあ俺らも始めようか」

 「はい。そうしましょう」


 神野も夕食を作り始める。


 この7人の中で、料理が最も得意なのは神野である。そう女子の安井やソフィではなくだ。


 「ソフィ、塩をとってくれ」

 「はい。でも、拓巳さんは本当に料理が上手ですね」

 「いや、でも俺よりも新ちゃんのほうが上手だったよ」


 神野が料理ができる理由といえば、家が料理屋で父親に料理を教わっていたせいだが、それでも料理を作るのは新のほうが上手だ。新は両親が喧嘩していたり、帰るのが遅くなったりと、いろいろな事情で朝食や夕食、時には家族全員分の弁当までも作っていたこともあった。おかげで、新は一般的な高校生より料理が得意だ。その上、本をよく読むので料理のバリエーションにも富んでいた。神野も時々手伝っていたので、かなり色んな種類のものが作れる。


 「そうなのですか。新さんは今どうしてるのでしょうか?」

 「多分、好きなように色々やってるよ。新ちゃんって祭りとか結構好きだし、大会にいるかもね」

 「会えるといいですね」

 「ああ、そうだな。」


 神野は嬉しそうに、しかしどこか悔しそうに笑う。


 夜が更けていく…







 「起きろ、交代の時間だ」

 「あ、ああ。わかった。今行く」


 アレクが神野と石井を起こしにくる。今は大体、夜中の2時頃だ。月が周囲を明るく照らしている。

 神野は起き上がり、武器を持ちアレクたちと交代した。


 「にしても俺ら、こっちの世界に慣れたよな…」

 「突然どうしたの?拓巳」

 「いや、日本じゃこんな大剣持ってたら普通に捕まるな、とか思ってさ」

 「はは、それもそうだね」

 「もう、半年くらい経つのか…みんな元気かな」

 「ほら、ミュロさんもこっちに来た瞬間の向こうの世界に、帰れる魔法を作るって言ってたじゃん。きっと大丈夫だよ、心配すんなって」

 「それもそうだな」


 確かに、”勇者返還”の魔法は勇者たちを元いた瞬間の世界に、肉体も元の状態に戻して送り返す魔法だ。神野たちは帰ることができる。だが実は、勇者ではない新は帰れない。まぁ、帰るつもりなら自分で作るだろうし、必要はないだろうが。


 そんな時、石井が木の陰の向こうで何か物音がした気がした。


 「ねぇ、何か聞こえなかったか?」

 「いや、俺には何も聞こえなかったぞ。聞き間違いじゃないのか?」

 「でも、確かに何か音が聞こえた気がするんだけどな…」

 「じゃあ俺が見てくる。何もないとは思うが、一応確認したほうがいいだろ?」

 「うん、そうだな。頼むわ」


 神野は立ち上がり、大剣を担いで様子を見に行く。





 少し歩いた先に、人影が見える。


 「マジで誰かいたわ…いや。もしかしたら、魔族かもしれないな」


 ほんの少し先にいる人影3人は、遠くから見た限りでは背の高い3人組だが、神野はその3人組から何かを感じ取った。


 「もう少し近づいて、確認しておこう。もし魔族なら、すぐに戻ってみんなに伝えておかないとだな」


 神野は物音を立てないように、ゆっくりとその人影に近づく。




 「マジかよ…魔族だ。一体何してんだよ」


 そこにいたのは、魔族だった。男の魔族が3人で何かを話し合っているようだ。


 『おい、聞いたか?あの爺さんたちに”通信回路”が繋がんないんだとよ』

 『どうせ、また外しっぱなしにしてんだろ?』

 『いや、今度はそうじゃないらしい。他の6人全員にもだそうだ』

 『ついに死んだか?あの不死身みたいな爺さんが』

 『それは笑えるな。ふははは』

 『ま、そんなことは置いておいて。俺らも仕事するぞ』

 『座標の設置なんて、俺らじゃなくもっと下の奴らにらやらせろよな』

 『全くだな。つーか、そこのやつどうすんだ?』

 『ああ、別に放っておいても構わないだろ。どうせ何もできやしない』


 そう、魔族たちは神野に気づいていた。だが、人が一人いた程度で邪魔にはならないと思い、放置していただけだった。


 「やば、気づかれてるし。とにかくここを離れないと。アレクたちも起こさないとだな」


 神野は、気づかれていたことを理解し、即座に野営をしている地点に向かって逃げる。さすがに、戦闘訓練を積んでいるうえに、能力も高いとはいえど、1人で3人を相手にするのは厳しい。


 『ほら、逃げ出すみたいだぜ』

 『一応、追いかけろ。すぐに作戦がバレて、準備されるのは面倒だ』

 『了解。俺が行く』



 魔族の一人が神野を追いかける…


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