68.少し話をしました
魔族が俺の空間に入って、魔物を片付け始めてから30分くらい。
「こいつで最後かな?」
「ギャウ?」
最後の1匹を倒し終わった。ちょうどそんな時。
「すまないが、ちょっといいかい?」
ルシウスが俺に声をかけてきた。どうやら無事だったらしい。
「どうかしたか?」
「いや、一応君は英雄のような者なんだ。少し話が聞きたい。」
「ああ、不審者は尋問ってか?」
なるほど。
魔物を連れた不審な奴が、突然やってきて助けてくれました。はい、お終いってわけにはいかないのだろう。
さすがに不審者のような者なのだ。仕方ない。
「いや、そうじゃなく…もないか。儂としては普通に話がしたいのだが…」
「いや、しょうがないだろ。突然現れた得体の知れない奴に助けられたじゃあ、ダメなんだろうし。」
「すまないね。そんなわけで、ちょっといいかい?」
「嫌だ。…と言ったら?」
ルシウスは一瞬顔を強張らせた。
「その時は力ずく…何てことなんて、できないから素直に諦めるよ。」
「冗談だ。いいよ、付き合ってやるよ。ニーズ、小さくなってくれ。」
「ギャウ?」
ズズズズ…
「そいつは小さくなるのだな…じゃあこっちだ。そこの詰所で話そう。」
相変わらず、優しげな表情で俺に微笑む。
俺は、これを失いたくなくてやったのだ。やった甲斐があったというものだ。
「了解だ。」
俺はルシウスについて、詰所に向かった。
「君、少しここを借りてもいいかい?」
ルシウスが、詰所にいた兵士に向かって言った。というか、まだ借りてなかったのかよ…
「あ、ギルド長。それは構いませんが、どうかされたのですか?」
「いや、ちょっと個人的な話なんだ。悪いね。」
「いえ、お気になさらいでください。今開けますね…」
兵士が中に入っていく…
『ギルド長がここを使いたいそうだ。ちょっと、出て行くぞ。』
『ええ〜、なんでだよ。』
「個人的な話だそうだ。早くしろ。』
『わかったよ。ちょっと待ってくれ…』
中の声は、普通に外に聞こえそうだな。中に入ったら、音は遮断しよ。
少しして兵士が出てきた。
「お待たせしました。どうぞお使いください。我々は外で待機してますので。」
「すまないね。じゃあ行こうか。」
「おう。」
俺らは中に入る。
「まぁ座ってくれ。」
「ああ、すまないな。」
俺は中に置いてあった椅子に腰掛けた。詰所の中はテーブルと椅子があり、他はに棚とクローゼットがあるだけの狭くて、特には何もはい簡素な部屋だった。
「さて、じゃあ単刀直入に聞くが、君は何者でどこの誰なんだい?」
「ああ、やっぱりそれか。ちょっと待ってくれ…『音遮断』起動。さて…どうしたもんだか。」
どうしようか。別に仮面を外してやってもいいのだが、後で騒ぎになったり目立ったりなんかは、面倒だから嫌なのだが…
「ああ、心配しなくても、君の正体については誰にも言うつもりはないよ。というか、今のは何だい?」
「今のは、声が外に漏れないようにしただけだ。気にするな。さて、どうしようか。俺は別に仮面を外したっていいのだが。面倒ごとは御免なんだ。」
「その点は心配しなくていいよ。儂は誰かに君のことを言うつもりはない。ただギルド長として、助けてもらった者として、君のことを知りたいのだよ。」
「そうか…」
俺は仮面を外す。なんというか、こいつが嘘はついてないのはわかってるし、こいつだったらバラしてもいいと思った。
「なっ⁉︎き、君は…」
「ははは〜。さっきぶりだね、ルシウスさん。」
まぁ、案の定ルシウスは驚愕の表情をした。
「な、なぜ君が?いや、その前に気には何者なんだい?」
「僕は、シン。”悪霊”の二つ名を持つ冒険者、ルンベルの塔の攻略者、ってところかな?」
「ああ、君が”悪霊”君だったのか。数ヶ月前に、定期的に送られてくるギルドの情報網に、登録して1ヶ月ちょっとでAAランクまで上がった優秀な新人がいると、書かれていて驚いたものだ。しかし、君の能力はAAランク程度じゃないな。後でギルドでランクを上げよう。」
え、まじで?これ以上ランクが上がると、それはそれで面倒なんだが…
「あ〜、ランクはそのままにしておいてよ。面倒い。」
「しかし、君ほどの能力を持つ者のランクがAAというのは…ああ、そうだ。なら、もう1つギルドカードを作ろう。ランクはSで、二つ名はそうだな…”黒龍の英雄”とかでいいだろう。それなら今までのカードも使えるし、緊急時のみにそのカードを使えば今回のようなことにはならない。本当ならSSSまで上げたいのだけど、SS以上に上げるには一定以上のギルド長の許可が必要なんだよ。それでいいかい?」
「あ〜、それならいいよ。でも、そのカードは作って大丈夫なの?」
「それなら心配ない。儂はギルド長だからね。」
うわぁ、職権乱用だ。
「まぁ、いっか。で、他は?」
「ああ、そうだったね。なんで逃げずに、儂らを助けてくれたのだ?あの時、確かに儂は君に逃げろと言ったと思うのだが。」
「ああ、そんなことか。別になんとなくだよ。強いて言うなら、ルシウスさんに逃げろって言われたからかな?」
実際のところ、あまりしっかりとした理由はないのだ。
「儂が…?」
「そ。僕に向かって優しい言葉をかけてくれたし、僕がルシウスさんが気に入ったから死んでほしくないなって思った。ただそれだけだよ。」
「そ、そんな理由で、あんな量の魔物と魔族と戦っていたのかい⁉︎」
「うん、そうだよ。僕は、自分の気に入った物が壊されるのは大嫌いなんだ。」
鈴も、母親も、俊也も、あの鈴の件があってからどこか距離を置くようになった中学の奴らも…
なんだか思い出したら、イライラしてきたわ。忘れよ。もう、今はどうでもいい事だし。
「そ、そうか。あと報酬として、何か欲しい物はあるかい?儂はこれでも長老会の末席に座る者なんだ。ある程度の事なら用意できるよ。」
いや、その前に長老会ってなんだよ。
「長老会って何?」
「おや?知らないのかい。長老会というのは、儂と他11名の合計12名の亜人族で形成された、この連合国の最高決定機関だよ。ほら、ここにえらく高い塔があっただろう。あの一番頂上にあるんだよ。」
「ふ〜ん、じゃあそれはこの国で王様のようなものなんだ?」
「ああ、まぁそうとも言えるな。で、何か欲しい物はあるかい?」
「ええと…2つ。1つはここの図書館の禁書の閲覧許可と、もう1つはこの国の魔導師に頼みたい事なんだけど…」
まぁ、頼みたい事ってのは、”勇者返還”の魔法の制作、又は再生だ。これがあれば、神野たちは元の世界に帰れるだろう。俺は自分で帰る魔法を見つけて、改良までしているので、いつでも元いた時間に戻れるが、神野たちは無理だ。俺が元の世界に返してもいいが、その時は俺は元の世界に帰りづらくなる。俺がそれをやる場合は、俺の能力をバラさなきゃならないし、そうしたらステータスとかいろんな事が嘘だった事がバレる。それはできる限りは避けたい。
「ちょっと待ってくれないか。1つ目は儂の権限だけでどうにかできるが、もう1つのことは、できれば長老会で直接今回の件は話したいな…1週間後、1度長老会に来てはくれないか?」
「え?なんで?」
「今回の件について、報告もしなくちゃならないし、報酬の件もそこで話したほうが早い。その時にSSSランクのギルドカードと図書館の禁書などの閲覧許可証も渡そう。ダメか?」
「いや、別にいいよ。1週間後だね。どこに行けばいい?」
「そうだな…儂は普段はギルドのギルド長室にいる。ギルドでカードを見せれば、儂の部屋に案内させよう。11時くらいには来てくれ。」
「了解〜。じゃあ、またね〜。行くよニーズ。」
「キュウ!」
俺は仮面を着けなおし、外へ出る。
さて…ここからどうやって逃げよう?
「そうだ、『扉、設置』…『扉、メインルーム』」
俺は詰所の陰に扉を設置した。
こうしておけば、またいつでもここに出られるし、どうやって消えたかわかんないから、俺が見つかることはないだろう。
そんなこと思いながら、俺は空間をまたいだ。
「主、おかえりなさいませ。早いお帰りですね。ところで、その仮面はどうされたのですか?」
「ただいま。ちょっと、正体を隠さなきゃいけないことがあってね。」
俺は仮面を外す。
「そうでしたか。この後はどうされますか?」
「ああ〜。昨日と同じかな。」
「そうですか。ではお気をつけください。私は書斎にいますので、何かあったら声をかけてください。」
昨日も、途中からロメには戻って研究結果をまとめてもらっていた。なんたって、ロメがずっとそばでそわそわしてて、落ち着かないんだもん。
「りょ〜かい。じゃあ、『扉、空白世界』行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。くれぐれもお気をつけて。」
俺は、空間を移動し、魂を取り込む訓練をし始めた…
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