65.騒ぎになりました
俺は迷宮から出る。今はそんなに暗くなってはおらず、午後の5時前ってところだ。
「おう、今日は早いな…って100階層⁉︎お前ついに迷宮の最上階まで行ったのか⁉︎最上階はどんなところだった?何があった?とにかく最上階に行ったんだな?」
出て早々、門番さんが噂を広める手伝いをしてくれるようだ。全く面倒なことを…
「うん、まあそうだね。でも、できれば騒いでほしくなかったかな〜。」
「あ…わるい、うっかりしてた。すまない。」
まぁ、結構な大きさの声で言ったから、明日には騒ぎになるだろうな。もうそろそろ潮時かな?
ここでの勇者についての噂を流したり、迷宮攻略や魔法実験も大体はやってしまったし、エルシードに魔王のとこを聞いたりもしたから、ここでやることはもう特にはない。
だから、この街を出て行っても問題はないのだ。
「まぁいいや。多分もう来ないかもしんないし。」
「え?ってそうか。もう最上階まで行っちゃったんだもんな。そうだよな。」
「うん、じゃあ元気でね〜。」
「おい、まだ早いだろ。どうせ出るのはまだ先なんだろ?」
「ははは〜、まぁそうだね。じゃあ出るときには声をかけるよ。」
俺は門番さんに別れを言い、宿に向かって歩きだす。
こっちに来てから、最近は時折勇者の噂を耳にするようになった。なんでも、勇者たち一行は城をたち、各地を回って魔物を倒しながら訓練を積み、しばらくしたら城へ戻って王国や帝国などの軍と魔族大陸へ攻め入るそうだ。
まぁそれでも、魔族大陸に一番近いところまで王国とかの軍を集めて、さらにそれと一緒に攻め入るのは、どんなに早く見積もっても1ヶ月以上は先のことになると思う。一応、俺もそれに便乗して魔族の大陸に行こうと思っているが、その前にマドーラに行こうと思っている。マドーラなら”勇者返還”の魔法の解析はできるだろう。俺は協力はする気はないので、この世界の人に頑張ってもらうのだ。
しばらく歩くと宿に戻ってくる。俺は物陰で仮面を外し、中に入る。
「ただいま〜。」
「おや、シンおかえり。早いね、どうだった?」
「まぁまぁかな。ねぇ、あとどのくらい宿の宿泊日数残ってる?」
宿泊日数がなくなったら、ここをたってマドーラに行こうと思う。
「ええと、ちょっと待ってな…3日だね。継続かい?」
「いや、もうそろそろここを出て、別のところに行こうかなぁ〜って思ってるんだ。」
「おや、そうかい。じゃあ寂しくなるね。はい、鍵だよ。」
「ありがと〜。じゃあ僕は夕食食べてくるね〜。」
「いってらっしゃい。」
俺は食堂へ行く。
「あ、シンちゃん。この間のホーンラビットありがとね。これから夕食?」
「うん。今日は何?」
「ええと、今日はランドカウと野菜のパスタだね。」
ランドカウってのは、簡単に言うとめちゃくちゃデカい牛だ。ランドって名前の通り、地魔法を使ってくるDランクの魔物である。
「了解〜。」
「じゃあ席で待ってて。今運んでくるから。」
そう言って、厨房へ向かった彼女はルーネの娘で、レベッカだ。ここの料理を作っているエミリオと結婚していて、夫婦でこの食堂を経営している。年齢は20代らしいのだが、見た目はどう見ても10代だったりする。
「はい、お待たせ。」
俺の前に、パスタがよそられた結構大きめの皿がきた。
「おお〜。じゃあ、いただきま〜す。」
俺はそれを食べ始める。
ここの料理は、もともとそんなにバリエーションが多くなかった。どれくらいかというと、1ヶ月に2,3回くらい同じ料理が出てきていたくらいだ。そんなわけで、俺が日本やフランスなど向こうの世界の料理をこの世界の食材で作ったのを教えてやったら、俺だけ料理の量が多くなっていたり、一品多かったりなど、ちょっとおまけしてくれるようになった。
そんなこんなで、他の客より1.5倍くらいの量のパスタを食べる。
「ふぅ、美味しかった。」
結構な時間をかけ、俺は夕食を食べ終わる。
「エミリオさん〜、ごちそうさま〜。」
俺は厨房にいるエミリオに声をかけて部屋に戻る。
「さて、『扉、メインルーム』よし、じゃあ今日持って帰った、あれを調べよ。」
俺は、空間をまたぐ。
「主、おかえりなさいませ。」
「うん。ところで、俺が新しく作った空間に行った?」
「いえ、いつ作られたのですか?」
「夕方だよ。まぁ、そんなことはいいや。今日はそこに行くから。」
「そこに何があるのですか?」
「行ってからのお楽しみってことで。『扉、隔離部屋』じゃあ行こうか。」
俺らは空間を移動する。
「…な、何なのですか⁉︎これは。」
「魂の前の状態のエネルギーの塊だってさ。迷宮の最上階にあった。なんでも、”世界の意思”っていう物で、ー」
俺はロメにこれについて、わかっている事を一通り話した。
「なるほど。どうやら、私に近い物のようですね。ただ、量は私とは比べ物になりませんが。」
「みたいだよ。で、これを俺が取り込んだらどうなると思う?」
「おそらく、今の主ではこれに残る魂の記憶や意思に、飲み込まれてしまうかと。」
「ああ、やっぱり?触らなくて正解だわ。」
やっぱり迂闊に触らなくて、正解だったようだ。今は無理なら、少しずつ練習でもすればいい。
「ならさ、今”アイテムルーム”にある魂を取り込むのは?」
「おそらく、少量なら…もしや、やるつもりですか⁉︎」
「そ。じゃあやってみようか?」
「いえいえいえいえ、そんなの承知できません!もしかすると、主が主で無くなってしまう可能性のある実験など…」
「ふふふ…大丈夫だよ。俺をなんだと思ってる。」
「ですが…いえ、承知しました。ただし、何かあったらすぐ私が干渉しますからね。」
「了解。じゃあとりあえず、『扉、アイテムルーム』…よっと、これだけあればいいかな。」
俺は”アイテムルーム”から幾つか魂を取り出す。
「じゃあ行くよ。」
俺はその魂を一つ手に取り、自らの魂に押し込む。
『助けて…』 『おいでよ…』 『死ね…』
『苦しい…』 『ありがとう…』 『来ないで…』
『あははは…』 『痛い…』 『来るな…』
『これで、完成だ…』 『嫌だ…』 『苦しい…』 『もっと、力を…』
『体をよこせ…』 『欲しい…』 『助けて…』
『この俺様を…』 『来るな…』 『渡すわけにはいかない…』
その瞬間、俺に脳内にいろんな声が鳴り響いた。
「主、どうですか?」
「…もうちょっと。」
あと少しで安定する気がするのだ。というか、この程度なら何の問題もないな。
「…よし。安定した。なんか魂の総量が増えたような感覚がする。」
「どうやら、主の魂に完全に吸収されたようですね。その影響で魂の大きさが増えているのかと。」
「ふ〜ん。じゃあ、もうちょっと増やしてやるかな。」
今度はさっきより4つ増やして5つだ。
俺は、それを俺の魂に押し込んだ…
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魂の吸収を始めて10時間半。今や、200個以上を同時に吸収できるようになった。
「でも、もう今日はこの辺にしておこうかな。」
「そうしてください。見ている私の、気が気ではない状態を理解してください。」
「ははは〜。悪いね。じゃあ今日はもう戻るね。『扉、オービス』…じゃあおやすみ。」
「おやすみなさい。」
俺は、部屋に戻る。
「よし、じゃあ幾らか買い物をして、出る準備を整えておこう。」
なんだかんだで、もう朝の7時になっている。今日は準備をして、エルシードのところにでも行こうかな。
俺は鍵をルーネに預け、街に出る。
街に出ると、いろんな人が走り回っていた。どうしたんだろうか?
『おい聞いたか?”悪霊”が迷宮の最上階まで登ったらしいぞ。』
『まじかよ⁉︎探して、どんなだったか聞こうぜ。』
『それが、いろんな人が探してるんだが、どこの誰だかわかんないらしんだよ。』
『そうなのかよ。残念だな。』
『いや、見つけた奴には賞金が出るとか言ってたぞ。』
『どこでだ?』
『探求者ギルドだよ。そこでも、ほとんど最初から仮面をつけてたらしくて、今ギルド員が躍起になって探してるらしいぜ。』
『へぇ〜、じゃあ俺らも探そうぜ。賞金が…』
なるほど。どうやら、ギルドが俺を探しているらしい。多分、迷宮の情報が欲しいだろうが、この世界の人で頑張ってもらおう。俺は協力する気はない。
「さて、確か食料がもう少しで無くなるはずだったから〜。あっちだな。」
俺は、旅の準備を始めた…
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