閑話:安井 未来の不安《下》
テストからしばらくが経ち、私たちは夏休みを迎えて、今。
「次はどこに行く?」
「え、ええと…じゃあ、わたあめ食べたい。」
和くんに誘われ、夏祭りに来ていた。
「よし、じゃあ行こうか。」
「うん。」
私たちは、夏祭りの人だかりの中を一緒に歩く。
「ちょっとそこで待ってて。今買ってくる。」
「う、うん。」
私は、和くんが言うように、そこで待つ。すると、
「ねぇ、君。今暇?俺らと遊びに行かない?」
「え。い、いえ。人を待ってるので…」
また、いつかの不良に絡まれた。
「いいじゃねぇか。待たせてるやつなんか、放っておいてさ。俺らと遊ぼうぜ。」
「そうだよ〜。僕と遊ぼうよ〜。ははは〜。」
「え?しんちゃん?」
いつの間にか、しんちゃんがそこにいた。
「ああ?てめぇ誰だ?邪魔すんなら、殺すぞ?」
「きゃ〜怖い怖い。逃げなきゃ〜。こんな怖い人なんかに迫られてたら、誰でも引くわ〜。ははは〜。」
そう言って、しんちゃんは逃げ出す。
「てめぇ、ふざけやがって!おい、お前ら!追いかけるぞ!」
「「うっす。」」
それを追いかけて、3人が追いかけていく。
「ふぅ、ごめん。待たなかった?人混みが多すぎて、なかなか買えなくって。」
「うん。ところで、しんちゃんがいたけど、知ってる?」
心配をかけたくなかったので、不良のことは黙っておいた。
「え⁉︎まじで?」
「うん、さっき会ったよ。」
「あいつら来てるのかよ…」
「あいつらって?」
「え?いや、なんでもない。とにかく、広いところに行かない?」
「うん、そうだね。もうすぐ花火も始まるみたいだし、よく見えるところに行こうよ。」
「よし。じゃあ、あそこの神社の前が人も少ないし、花火も見やすいからそこに行こっか?」
「うん。」
私たちは、場所を移動する。
ピュ〜…ドン!
「あ、始まったね。」
神社について、しばらく経ち、花火が始まった。
「あ、ああ。そうだね。」
「どうかしたの?」
「い、いや。なんでもないよ。花火、綺麗だね。」
「うん。」
さっきから、和くんの様子が変だった。なんか、”頑張らなくちゃ”とか、”やれる、できる”とか小声で言ってるのが聞こえてくる。
そのあとも、しばらく花火を二人で見た。その間…というより今日一日中、私はずっとドキドキしていた。
「…よし、安井。」
「ん?どうかしたの?」
和くんが、突然真面目な顔でこちらに話しかけてきた。
「よし言うぞ……安井、好きです!付き合ってください!」
「え、えっと…はい。」
私は、思わず”はい”と言ってしまった。
いや、私も和くんのことが好きだったし、悪いことではないけど、少なくとも今までで一番じゃないかっていうくらいに驚いた。
「ほ、本当⁉︎」
「え、えと。本当に。」
「はぁ〜。よかった〜。」
そのあと、和くんは気が抜けたみたいで、地面に腰を下ろした。私もそれに続いた。
「いや〜。よかったよかった。はぁ、緊張して死ぬかと思った。」
「そんなに?」
「うん。」
その後は、特に何も話さず、ただ一緒に花火を見ていた…
しばらくして、花火が終わった。
「よし、じゃあ帰ろっか?」
「うん。」
私たちは、ゆっくりとお祭りをやっている神社から、家に向かって歩き出す。
「あ。な、何あれ?」
神社から帰る途中にある大きな木に、3人の人が縄でぐるぐる巻きにされてぶら下がっていた。見た所、さっき私に絡んできた人たちだった。
「ん?何が…って新島先輩⁉︎どうしてあんなところに…?」
「知ってる人?」
「あ、うん。一応ね。中学の時の先輩。それに…随分前に絡まれてたでしょ?」
「あ…うん。でもなんであんな所に?」
その人たちは、3人とも体を縄でぐるぐるに巻かれて、5mくらいの所にぶら下げられ、顔に『修行中、触らないでね☆』と、綺麗に太字にされた文字で書かれた紙が貼ってあった。
その文字は、しんちゃんが書いた文字に似ているような気がした…
「どうする?」
「助ける…のは無理だよね。誰か呼んでこようよ。」
「でも、前に絡んできた人だよ?それにこの人、結構いろんな所で悪いことしてるよ?」
「でも、助けてあげない?かわいそうだよ。」
「あれ〜、安井さんと石井くんじゃ〜ないか〜。ふふふ〜。」
「しんちゃん⁉︎どうしてここに⁉︎」
「邪魔者排除だよ〜。お二人さん、お暑いようで何よりだね〜。」
「邪魔者排除…ってこれやったのしんちゃんなの⁉︎」
私は、さっきしんちゃんがこの人に追われていったので、逃げたのかと思っていたけど、どうやら逆に、返り討ちにしてしまったみたいだった。
「そうだよ〜。気絶させたのを体に負担がかからないように縛って、それを縄を木にかけてそのまま引っ張って、そこに見つからないように結んでおいた。そこの縄を切ると落ちてくるよ〜。落とす?」
「落とさねぇよ⁉︎助けてやれよ、普通に。」
「え〜、やだよ〜。僕の邪魔する奴らは、晒し者にしないと〜。」
「なんでそんなことするの?」
「…目障りだから。」
しんちゃんはいつものように、私に勉強を教えてくれたように、誰かと話している時のように、優しげに微笑んだ。
けれど、私にはそれが悪魔の微笑みに思えた。
「ほら、しんちゃん。冗談はいいから、下ろしてやんなよ。」
「しょうがないな〜。せっかく面白く張り紙しておいたのに〜。」
文句を言いながら、しんちゃんは渋々その人たちを下ろした。
「じゃ、僕はもう帰るね〜。ひゅーひゅー。」
「って、なんで知ってるんだよ!」
「さぁ〜。なんでだろ〜?」
「明日覚えてろよ!」
「がんばれ〜。」
「なんなんだよ、まったく。」
「でも、よくあんなところにできたね。」
「本当だよ。さぁ、今度こそ帰ろっか?」
「うん。」
私は、和くんに家まで送ってもらった。
その後は、いろいろとあったけど、気になるようなことはなく、いつもの日常が続いた。そして、私たちはこそ世界に呼ばれた。
その頃から、私はしんちゃんが少しだけ怖くなった。
いつものニコニコと優しげに笑っているしんちゃんが、なんだか偽物のような気がして…
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「未来、未来…聞いてる?どうかしたの?」
「え?あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた。」
「大丈夫か?何かあったら、いつでも言えよ。」
「うん、ありがと。」
私たちは、ルクシオ帝国へ移動を続けた…
意見、感想等ありましたら、お願いします。




