閑話:安井 未来の不安《上》
3話連続です!
私たちは今、ルクシオ帝国に向かう途中の街で休憩をとっていた。
「しんちゃんが俺らと別行動になってから、もう少しで半年が経つな。」
「そうだね。しんちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。新ちゃんのことだ。きっと、元気にやってるよ。」
「ええと〜…しんちゃんって誰なのです〜?」
私の横から、途中で仲間になったシャンディネが話に入ってくる。シャンディネはエルフで、魔法使いの可愛い女の子だ。他にも、何人かの仲間が増えていた。
「ああ、知らないのか。ずいぶん前に話したかもしれないけど、新ちゃんは…」
拓巳くんがシャンディネにしんちゃんについて教え始めた…
突然なんだけど、私はしんちゃんのことが怖い。いや、嫌いなんじゃなくて、ただ何を考えているのかわからなくて、どんな人なのかわからなくて怖い。良い人だとは思うんだけど、どうしてもそれが本当なのかがわからない。
私がしんちゃんと仲良くなったのは、期末テストの一週間前ぐらいの時だった。その頃から、春ちゃんや拓巳くんや和くんとはとよく話していて仲が良かったけど、しんちゃんとはあまり話さなかったから、そんなでもなかった。
しんちゃんと話すようになったきっかけは、テスト勉強の為に図書館に行ったことだった。
その日は、私と春ちゃんでテスト勉強の為に図書館に行っていた。
私の家の近くの図書館の中には、勉強をしたり本を読んだりするための机がある。私たちは、そこで勉強をするために図書館に向かっていた。
「ねぇ未来、ちゃんと勉強してる?」
「うん、やってるよ。春ちゃんは?」
「私、結構わかんないところ多いんだよね…」
「あはは…できるところだったら教えてあげるよ。」
「本当!ありがと〜。数学が全然わかんなくてね。」
一回目のテストでは、学年で1位が私、春ちゃんは27位だった。それでも、学年は6クラスで400人くらいだから、かなり上位だと思う。
「でも本当に暑いね。」
「そうだよね。もう夏って感じね。早く、図書館で涼みたいわ…」
「じゃあ、ちょっと急ぐ?」
「賛成〜。早く行こ、未来。」
私と春ちゃんは、急ぎ足で図書館へ向かった…
「ふぅ〜、涼しいね。」
「そうだね。さぁ、じゃあ早く席取りに行こうよ。空いてる席なくなっちゃうよ?」
「うん。」
少しして、私たちは図書館に着いた。
図書館の中は、冷房が効いていて快適なので、この時期は多くの人が利用する。なので、早く行かないと空いている席がなくなってしまう。ここにある席は、丸い4人掛けのテーブルが10個だけなので、すぐに空いている席は無くなる。
「あ〜…やっぱり席埋まっちゃってるね。」
「本当だね。どうする、未来?」
空いている席を探したけど、もう11時なのもあって全てのテーブルに誰かしらが座っていた。
「う〜ん、誰か知ってる人でもいればいいんだけど…」
知っている人の使っている席が残っていれば、相席で使わせてもらえるかもしれないのだけど…
「ねぇ、あれしんちゃんじゃない?」
「え、どこ?」
「ほら、右から2つ目の席の髪の長い人。」
「あ、本当だ。そうかも。行ってみる?春ちゃんよく話してるでしょ?」
春ちゃんは、拓巳くんのことが好きだった。なので、よく一緒にいるしんちゃんや和くんと仲が良かった…でも、そのことを知ったのは随分と後だったけど。
「そうね。行ってみよっか。」
私たちは、しんちゃんらしき人のテーブルに行く。
「あ、やっぱりそうだ。しんちゃんおはよ〜。」
「あれ?結城さんと…安井さん。おはよ〜、どうしたの?」
その頃は、私はあまりしんちゃんと話していななかったので、名前をしっかり覚えられていないようだった。
「ええとね、勉強しようと思ってきたんだけど、もう席が空いてなくて…」
「ということだから、空いてるところ使っていい?」
「別に構わないよ〜。勉強なんて真面目だね〜。さすが、上位ということかな?」
「ありがと。ところで、しんちゃん何読んでるの?」
しんちゃんが座っているテーブルには、勉強道具はなく、本が幾つか積まれていた。
「ええと〜…いろいろ?」
「いろいろって何よ…あ、この本家にあった。しんちゃんよくこんなの読めるね。」
「え?何で?簡単じゃないの〜?」
春ちゃんが指差していたのは、医学の本だった。春ちゃんの家は小さな病院で、今大学生のお兄さんがそういった難しい本をたくさん持っていた。
そんな中にあるような本を、しんちゃんはあろうことか”簡単”と言ったのだ。
「これのどこが簡単なのよ。しんちゃんって本当、よくわからないところに頭使ってるよね。」
「そうかな〜?」
「そうよ。まぁいいわ。私たちこっち使わせてもらうね。」
「了解〜。」
そんなやり取りの後、私たちはテーブルを借りて、勉強を始めた…
「う〜ん…」
「あれ?どうしたの、未来?」
「ええとね、ここの計算問題がよくわからなくて…昨日、先生に聞いておけば良かったな。」
「ああ〜、ここね。私もわからないのよね。ねぇ、しんちゃんわかる?」
「ん?どうかしたの?」
春ちゃんが、未だに本を読んでいたしんちゃんに声をかけた。
その時私は、しんちゃんは授業中はいつも寝ているか、何か別の本を取り出して何かをひたすら書いていたので、しんちゃんは勉強ができないものだと思っていた。
「この問題分かる?」
「ええと…ああ、これね。練習しないと結構難しいよね〜。これは…ちょっとその教科書借りるね。この公式に代入して、計算すればできるよ〜。ここは…」
しんちゃんは優しげに微笑み、わかりやすく私たちに解説をしてくれた。私は、しんちゃんは勉強ができないと思っていたので、驚きだった。
「…で、こうなんだけど。わかる〜?」
「え〜と…あ、わかった。ありがと。」
「よくわかるわね、しんちゃん前回のテスト、数学何点だったのよ?」
「えっと…確か48点だったっけな〜?」
「なんで点取れてないのよ…」
「ははは〜、ど忘れしちゃってね〜。」
「アホね。今回はきちんとやりなさいよ?」
「善処する〜。」
その後も、わからないところはしんちゃんに教えてもらって、テストに向けて勉強を続けた…
その時は気づいていなかったが、後から考えれば不自然だった。しんちゃんが、真面目に授業を受けているのを、私は一回も見たことがなかったし、教科書を机に出しているどころか、学校に持ってきているのさえも見たことがなかった。
「じゃあ、ありがとね。」
「うん、気にしなくていいよ〜。」
「テスト頑張ろうね。」
「頑張ってね〜。」
「「しんちゃんも!」」
「ええ〜。面倒い…」
その日だけで、私はしんちゃんと打ち解けていた。
「じゃあ、また明日ね〜。」
「うん、気をつけて〜。」
「じゃあ、また明日。」
私たちは、しんちゃんと別れて、家に帰った…




