59.迷宮都市に着きました
「では、お疲れ様でした。」
護衛開始9日目。9時頃、サルバンに着いた。
ちなみに、フライトボードなら4時間程度で着ける程度の距離だ。
俺らはセリムから報酬を受け取るための、ギルドに持っていく紙を受け取り、ギルドで報酬を受け取った。あと、途中で狩った賞金首たちもここで換金した。ちなみに言うと、賞金首たちは結構な金になった。
「じゃあ、また機会があったらね〜。」
「おう。またな。」
「また、機会がありましたら。」
「元気でな。」
「じゃあね〜。」
カランカラン…
俺は護衛で一緒だったメンバーに別れを告げ、ギルドをあとにする。
「よし、ここからはボードで移動しよ。護衛依頼は結構めんどい。」
今回、護衛依頼を受けてみたのだが、結構面倒だった。遅いし、だるいし、飽きるしでいいことは特にないのだ。たまに受ける分には構わないが、これで移動するのは当分は御免だ。
俺はサルバンを出ると、扉を設置して、中央の迷宮のある都市…ルファーリオに向かう。
「うわぁ〜、テンプレとか面倒だわ〜。」
今、俺はルファーリオが近くなったので、歩きで移動中なのだが、ちょっと先に貴族っぽい馬車が騎士っぽい奴らに襲われ、壊滅状態に陥っているのが見えるのだ。つーか、なんでこんな迷宮都市の近くに、貴族の馬車があるんだよ。これ絶対面倒ごとだろ…
『…くっ、お嬢様、お逃げください。』
『いやよ!あなたを置いてはいけないわっ!』
『いけません!私がここを食い止めます。せめてお嬢様だけでもお逃げを!』
執事っぽいのが、女の子を騎士っぽい奴らがいない方の森…今、俺がいる方に向かって押し出した。
ちなみに、俺は”身体制御”で聴力と視力を強化して、少し離れた森の木の後ろで見ている。今は、別に助けようって気分じゃないのだ。4時間も移動し続けて、何もやる気が起きないんだからしょうがないだろ。
「さて、じゃあ行くかな。」
俺は執事っぽいのがやられたのを確認すると、その馬車を避けて移動を再開し…ようとした。
「はぁはぁ…そ、そこのあなた!助けてくださりませんか!」
移動しようとした瞬間、さっきのお嬢様が俺の目の前に現れた。
あ〜、ミスったな。お嬢様とやらが、こっちに来てるんだった。執事っぽいのの健闘を見てて忘れてたわ。
よし、スルーしよう。
ガシッ
「え?」
「そこのあなた!」
なんか掴まれたわ。どうしようか?
「はぁ〜…何なのさ〜?」
仕方ない。話だけ聞いてスルーしよう。俺は今、何もしたくないんだ。
「わ、私を助けてくだらないかしら?報酬ならいくらでも払いますわ。」
「なんで?」
「い、今追われてますの!だから、近くの街まで護衛してくださらないかしら?」
「なんで?」
「そ、それは…と、とにかく!報酬ならいくらでも払いますわ!」
「いやだよ〜。」
理由言わないとか、絶対に貴族同士のゴタゴタとかから逃げてるんだろ?そんなの匿ったら、碌なことになんないわ。
「な、なんでですの?」
「理由も言わずに、助けてくださいって、怪しいでしょ?」
「た、確かに、それは…」
「それに、僕は貴族とかがあんまり好きじゃないの。じゃね〜。」
アーノルドの件で貴族と関わるのは当分は御免なのだ。
「あ、ま、待って!」
俺はお嬢様を放置して移動を再開する…
「おい!貴様。その辺で貴族の娘を見なかったか?」
俺は少し歩いたところで、さっきの騎士っぽいのに出くわした。
はぁ〜…本当についてない。今日は厄日か。
「見たよ…その辺を走ってたよ。」
俺は正直にさっき来た方を指差し、方向を教えてやる。
「そうか、協力感謝する。おい!行くぞ!」
俺の横を騎士っぽいのが駆け抜けていった。
ったく。本当になんなんだよ。
「さて、もうちょっとだし頑張って歩くかな〜。」
ここからルファーリオまでは歩いて1時間程度。この辺は人通りが少ないが、もう少しすると街道に出て人も増えるので歩いているが、面倒だ。
俺は、そのままルファーリオに向かって歩き続ける…
「ようこそ。ルファーリオへ!」
やっとの事でルファーリオにたどり着いた。いやぁ〜長かった!
「さて、じゃあ当分泊まる宿を探して、迷宮に行くとしよう。」
俺はそんなことを思いながら、城壁をくぐる。
「…おぉ〜。」
城壁を抜けると、目の前に巨大な塔が建っていた。天辺は雲に隠れ、ピサの斜塔のような洋風な外観で、ここからでも見ることができるほど巨大だった。
「はっはっはっ。若者よ、驚くなかれ。この迷宮、”ルンベルの天塔”は200年の間、誰一人として最上階にたどり着いた者はいない。さらに、このー」
城壁を入って、すぐのところに座ってるエルフに話しかけられた。そのエルフは迷宮を、自分の子の自慢をするかのように俺に話してくる。
「ーなのだよ。いいかね、若者よ。」
「うん、ところであなたは誰?」
「儂はエルシード・グラスフェア。この迷宮を200年の間ずっと見ている者だよ。」
「ふ〜ん。ねぇ、この辺でいい宿ってどこ?」
「”天使の安息”がお薦めだな。儂の紹介だと言うといい。よくしてもらえる。」
200年もいれば、いい宿も知ってるんじゃないかと思って聞いてみたが、よくしてもらえるって結構すごい人だったりするのかな?
「わかった。それってどこにあるの?」
「そこの道を真っ直ぐだよ。」
「了解〜。ありがとね。」
「頑張りたまえ、新くん。」
「へ?なんで?」
俺はこいつと初めて会ったんだが?なんで俺の名前を知ってるんだ?
「はっはっは。君のことは、カリーナから聞いてるよ。すごい記憶力で、すぐに図書館の本を読みつくしてしまったと、カリーナが手紙で言っていたよ。」
カリーナって、司書のか?
「王城の司書のカリーナ?」
「そうだよ。カリーナは儂の娘のようなものでね、今でも時折手紙が届くんだよ。」
はぁ⁉︎娘だと⁉︎全ッ然似てないし、第一種族が違うだろ。
「娘?」
「ああ、あの子がまだ小さい頃に捨てられていたのを、儂が拾って育てたのだ。今ではあんなに大きくなって…カリーナは元気でやっていたかい?」
「うん、楽しそうに見えたよ。」
「そうか、よかった…」
エルシードが嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、もう僕は行くね。」
「あ、ああ。引き止めてしまって悪かったな。じゃあ、またそのうち会おう。」
「うん、じゃあね〜。」
俺は、エルシードと別れ、エルシードが薦める”天使の安息”へ向かう…
「ここかな?」
言われた通り、道をまっすぐ行ったところに、天使の羽の描かれた看板の宿屋があった。
チリンッ
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「うん、一ヶ月くらい。あと、エルシードさんに勧められてきたんだけど?」
「エルさんにかい?珍しいねぇ、あのエルさんが誰かをここによこすなんて。」
「ねぇ、エルシードさんって、なんかすごい人なの?」
「おや、知らないのかい?ちょうど…ああ、あった。この本に出てくる、魔導師ってのがエルさんだよ。読んだことないかい?」
そういって、受付のおばさんは、そばにあった本棚から”英雄伝説”と書かれた本を取り出し、俺に見せる。
「えっ。エルシードさんって英雄なの⁉︎」
「ああ、そうだよ。あたしらも昔命を救ってもらったんだ。」
”英雄伝説”は王城の図書館にもあったが、確か400年前の4人の英雄…人間族の剣士、エルフ族の魔導師、獣人族の拳闘士、妖精族の僧侶…が、復活した魔王を封印する話だったはずだ。前は勇者を召還できなくて自分たちで魔王をどうにかしたらしいのだ。
今、復活している魔王というのは、その封印が解けた奴だ。今までも封印を繰り返していて、その度に弱体化はしながらも復活を遂げ、魔物を増やして世界を我がものにしようとしているアホだ。いい加減に諦めればいいのに…
おっと話が逸れたな。と言うことは、エルシードって、そのエルフの魔導師か。もしかして、実はものすごい人と知り合いになったんじゃね?
「ふ〜ん。じゃあ、僕はすごい人と知り合いになれたんだね〜。」
「そうだね。ああ、そうだ、泊まりだったね。エルさんの紹介だし、一ヶ月なら300Bでいいよ。」
300Bつまり日本円で言う所の30000円。安すぎないか?これじゃあ、一日約714円で泊まれることになってるぞ?
「安すぎない?」
「いいんだよ。エルさんには、今でもお世話になってるんだ。これくらいのことなら構わないよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。でも代わりに、食材とか採ってきたらあげるね。」
ありがたいが、さすがに申し訳ないので、別のもので賄おう。
「それはありがたいね。料金は先払いだけど大丈夫かい?」
「うん、300Bだよね?」
俺は銀貨3枚を手渡す。
「よし、じゃあ部屋の鍵はこれだよ。出かけるときはあたしに預けな。部屋を掃除しておいてやるよ。あと、朝食は6時から9時、夕食は8時から11時の間なら食堂があいてるからね。」
「わかった。あと、僕はシンだよ。」
「あたしはルーネだよ。よろしく、シン。」
俺はルーネとそのあとも少し雑談をしたあと、部屋に行く…
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