閑話:松井 新一郎の崩壊《下》
合格発表からしばらくが過ぎ、制服が届いた。
「よし、じゃあ改造するとしよう。」
俺はこの日を待っていた。高校の入学式まであと1週間。
制服に内ポケットを大量に増やしたり、道具を付けれる部分を作ったりしようと思って、いろいろ準備していたのだ。
「じゃあ、とりあえずポケットを付けるかな。」
俺は、後は付けるだけの状態まで作ってあったポケットを取り付け始める…
そんなことをしているうちに、入学式の日になった。
その日も直前の日までいろいろやっていて、相変わらず睡眠時間が2時間を切っていた。
「やべ、もうこんな時間じゃん。」
学校までの時間ギリギリだった。俺は急いで家をでる。
「とうちゃーく。神野くん、おはよ〜。」
やっと学校に着いた。神野とは同じクラスだった。
「あ、やっと来た。もう時間ぎりぎりだぞ。」
「本当だ〜。危なかったね〜。」
「本当だよ、まったく…ああ、そうだ。こいつが新ちゃんだ。」
神野は、俺を隣に座っているやつに紹介していた。
「ええと、神野くんその人は誰〜?」
「ああ、和也だ。」
「はじめまして〜。松井 新一郎だよ〜。」
「ああ、石井 和也だ。よろしく。」
「よろしくね〜。」
俺はそいつに軽く挨拶をした。
ガラガラガラ…
「よし、全員いるか?体育館に移動するぞ。」
その後は俺らは体育館に移動し、入学式を行った。
まぁ、俺は寝ていたがな。
「あぁ〜、疲れた疲れた。」
入学式が終わり、俺らは教室に戻る。
「新ちゃん寝てただけだろ。」
「しょうがないじゃん〜。だって、暇なんだもん。」
「しょうがなくねぇよ。そういえば、和也が行くとき、一緒にいた子は誰なんだ?」
「ああ、安井のことか。この間、コンビニに行く途中で会ったんだ。」
その時石井は、俺が不良どもに復讐しようとした時と、同じような目をしていた。
多分、誰かに絡まれるかなんかあったんだろうな。
「ふ〜ん。そこで、安井さんを助けたんだ〜。」
「え?何がだ、新ちゃん?」
「多分、安井さんが誰かに絡まれてたのを、助けたんでしょ〜?」
まぁ、助けられたかどうかは知らんがな。
「そうなのか和也?」
「あ、ああ。なんでわかったんだ?」
「まぁ、新ちゃんだからな。昔からなんだよ。」
別にそんなことはないぞ?
嘘をつきまくってたら、嘘をついているやつの目が、わかるようになっただけだぞ。ただその原因が、自分の目を見てたからなのが、残念なところだがな。
「いやいやそうじゃなくて。しんちゃん、どうしてそう思ったんだ?」
「あ、知りたい〜?」
「うん、気になる。」
「目だよ。」
「へ?なんでそんなので?」
「一瞬だけ、僕と同じ目をしたから。」
ただし、今は違うがな。今はただ冷めた目になってる気がする。
「まぁ、特に気にしなくていいよ〜。分かるの僕だけだろうし〜。」
「そうか、じゃあいいや。」
そんな会話をしながら、俺らは教室に戻り、高校生活が始まった…
高校が始まって半年、俺は結城と協力して石井と安井をくっつけた。そして、その4日後のことだった。
「おかしいな〜。今日は三者面談で遅いって言ってたけど、さすがに遅すぎでしょ、これは。」
鈴も中3になって、高校受験のために学校で三者面談が始まっていた。
今日は母親がそれに行っているので、帰りが遅くなるって言っていたが、もう7時を超えている。どう考えても遅すぎる。
そんなことを考えてた時だった。
ぷるるるるるる…ぷるるるるるる…ガチャ
電話が鳴った。
『そちらは、松井 純子さんと鈴さんのお宅ですか?』
「え?はい、そうですけど。」
『本日、午後5時25分。学校からの帰り道、交通事故に遭いました。どちらも即死でした。』
「は?え、いやどういう…え?」
『ですから…え…事故で…ふ…用…が…
その後の言葉は俺の耳に入ってこなかった。
ただ、気分が悪かった。
なんでまた俺なのかって…ただそう思うだけだった。
葬式の日を迎えた。涙も出なかったし、悲しみも、寂しさもなかった。俺の中ではこれも、いつもの日常と変わることはなかった。ただ、家族が死んだ。それだけだった。
そして、葬式が終わった後。
「新一郎。」
俺は父親に呼ばれる。
事故は、二人が歩いている時に横を走っていた乗用車がハンドル操作を誤り、突っ込んできたそうだ。
運転手はかすり傷。俺に損害賠償を払い、その後は知らない。
「お前はこの後どうしたい?」
「どうしたいって、どういうこと?父さん。」
「俺は再婚して、今月の末には子供が生まれるんだ。これからは新しい家族と人生を歩んでいきたい。」
つまり俺は邪魔だ。そう言いたいのか…
「僕は邪魔だと?」
「…ああ、保険金も、純子の貯金も、損害賠償も、すべてやる。高校の金も払ってやるから、俺の人生に入ってこないでくれないか?」
金はやるから、これからは自分でどうにかしろ…つまりは、俺が邪魔だ。そう言いたいんだな?
「本当に父さんは、僕のこと嫌いだよね〜。」
「…っ⁉︎」
「随分前からだよね〜。父さんは鈴のことは可愛がったけど、僕が近づくと露骨に嫌そうな顔をしたでしょ?喧嘩した時、僕が母さんを慰めて、鈴が父さんを謝らせる。それはこれが原因だったし。」
俺は、父親に好かれていなかった。いや、むしろ嫌われていた。
だが父さんや。俺が一体いつ何をしたと言うのだろうか?
「他にも、鈴のいうことは聞いていたけど…僕のお願いを、一度だって聞いてくれたことはなかったね。」
「いや、だから…」
「でもそんなことは別にいいよ。僕はこれからは一人で生きていくから。だから、家と生活は保障してよ?」
俺はこれから父親と一緒に暮らすなんて、真っ平御免だった。
それくらいなら、こちらの要求を飲ませたほうがよほどいい。
「ああ、わかった。どうすればいい?」
「とりあえず、あの家は売るよ。でかいし、一軒家に一人で住むのもどうかと思うしね。」
「そうか。ならその金はお前の口座に振り込むようにしよう。」
「あと、あそこの近くにアパートがあったよね?」
うちの近くには、そこそこ新しくできたアパートがある。
「ああ、あそこか。」
「そこに一部屋とってくれればいいよ。」
「わかった。それは、出来次第お前に伝える。」
「後、生活費は口座に振り込んでくれればいいし、高校のお金はそっちでどうにかして。」
「わかった。それでお前は、俺の生活の邪魔をしないでくれるんだな?」
「うん、それでいいよ〜。」
それでいい。他のものは自分でどうにかすればいいし、必要なものは他にはない。
まぁ、こんな会話は葬式の後にするもんじゃないと思うがな。
「そうか。じゃあ元気でな。」
「うん、そっちは元気な赤ちゃんが生まれるといいね〜。」
心にもないことを言い合って、俺らは別れた。
それから1週間後。俺はアパートに引っ越した。
冷蔵庫やエアコンなど、使える電化製品はこっちに運んで、他の使うことのないものはすべて売り払った。
こっちに運んだのは俺の学校の物と、参考書などと料理関連などの本、使える調理器具、掃除用具、ベット一式、後は机やソファーなどと日用品だけ。
「ん?写真だ。」
本を棚にしまっていたら、本に挟まっていた写真が出てきた。多分、母親が読む時に、しおりにでもしていたのだろう。
その写真は、鈴が小学校に入ってすぐの時に家族全員で撮った写真だった。
そして、その写真の俺と父親は笑っていた…
「…ふふふ。」
俺の家には、絵も写真も何もなかったのでちょうどいいだろう。
俺は、その写真をリビングの机の上に飾った。
そうして引っ越しが済み、俺はいつものように学校ヘ行き、つまらない日常を繰り返した。
それからしばらくして、この世界に呼ばれた。
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俺は、俺しかいない一人ぼっちの色褪せてしまった世界で生きていた。
そこはひどく退屈で、暇で、腹立たしく、気分が悪かった。
だが、こちらの世界は違う。
いつまでも俺を不愉快にするゴミはいないし、しばらくは退屈もしなくて済みそうだ。
「ふふふふ…」
「キュウ?」
「ああ、なんでもないよ。ただ、楽しくてね。」
「キュ?」
ニーズが首を傾げている。
今の俺には、眷属たちがいる。おもちゃもたくさんあるんだ。飽きるのは随分先だろう。
俺は、いつものように眠りについた。
時折見る、悪夢のような記憶の元へ…
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