閑話:松井 新一郎の崩壊《上》
3話連続です!
俺はベットにいた。もう、今日の検証も終わって、寝ようと思った頃だ。
俺は今でも時折、向こうの世界のことを思う。
高校に入って、神野たちとこっちに来る前…中学のあの事件を起こした頃から、俺の家族がいなくなるまでのことだ。
その頃から俺の世界は壊れた。色褪せた、つまらないゴミ屑へと変貌した…
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「くそっ、なんで鈴たちが!」
「新、落ち着けよ。まだ何もされてないんだ。」
その時は、まだ廃工場に不良が鈴たちを連れてきてすぐで、不良どもが仲間を呼ぼうとしていた時だった。
「あっ、奴ら仲間呼んでんじゃねぇーか?」
「チッ…とめるぞ俊也。」
「はぁ?俺らがあいつらに勝てるかよ?」
「それでも、今やんねぇと、敵が増えてどうしようもなくなる。」
その頃の俺らじゃ、不良には勝てなかった。
「…それでも、俺らじゃどうにもできねぇ。」
「くそっ…なら、俺だけで行く。俺が限界だったら助けてくれ。」
「おい、新!お前、死ぬ気か⁉︎」
「誰が死ぬかよ。じゃあ頼んだぞ。」
俺は俊也が止めるのを聞かず、不良どもに向かって走り出した。
「おい、なんだテメェ?」
「死ねクズ。」
「こいつ、ふざけてんのか⁉︎やっちまおうぜ。」
「おりゃぁぁ!」
ドカッ…
俺は不良に殴りかかり、躱され殴られた。
その後も俺はリンチされ、俺から気がそれて鈴たちに向かおうとしたら、俺が不良に散々喚いてまた殴られて、また気がそれて行こうとしたら、俺が不良をバカにしたりして気を引いてを繰り返した。
『おい、こっちだ!』
『ああ?なんだテメェも殴られてぇのか?』
俺が殴られてるのを見て俊哉が助けに入ってくれた。
「おい、バカ!クソ!死ね!」
だが、お前が殴られる必要はねぇ。こいつらは俺が止める。
俺はひたすらそんなことを繰り返した。
まぁ結果は俺は大怪我、途中から助けに入った俊也も結構な怪我をした。
その後、神野が来て、救急車に乗せられ、俺の意識は一旦途絶えた。
「う、ぅうう。」
目を覚ました時には、病室にいた。体のそこらじゅうが痛み、動こうとしただけで激痛が走る。
「どう…なった、んだ?」
その時、俺はあの後にどうなったのかを知らなかった。ただ、誰かが来るのを待つだけだった。
だが、いつまで経っても誰もこなかった。いや、3日が経って人は来たが。その間に来たのは看護婦だけだった。
寂しかった、痛かった、怖かった、何より俺自身がバカみたいだった。
あんなにも痛い目にあって、誰一人見舞いにすら来ない。そんな状況だった。
だから俺は思った。”誰も必要となんてしなくていいんじゃないか”と、”誰かを思う必要があるか”と、”誰かのために苦しむのは必要なのか”と。
そんな考えが頭をよぎるなか、やっと人が来た。俊也の母親だった。
「あなたが新一郎くん?」
「え?あ、はい。」
「金輪際、うちの俊也に近づかないで下さる?」
「へ?」
久しくあった知人は、ひどく冷たい悲しみを運んできた。
「それだけよ。」
「え?あの…」
そして、何も言う暇を与えず去っていった。
俺は思った。思ってしまった。”人なんてどうせそんなもんだ”ってね。
そうして、俺の世界は壊れていった。
俺は他人を諦めた。全て自分でこなそうと、他人なんか頼らないようにしようと思った。だから、邪魔な他人を捨てた。
他人を捨てた結果、俺の両親は離婚した。俺の両親はもともとよく喧嘩をしていたが、それを俺と鈴で止めて仲裁していた。両親が俺の見舞いに来た時もそうだった。入院して5日目のことだった。
「新一郎。見舞いに来たわよ。」
「…あ、母さん。どうしたの?疲れてるね。」
「聞いてよ。また、お父さんったら浮気してたのよ!今度したら許さないって言ったのによ!」
「…ふ〜ん。」
自分たちが喧嘩していたせいで、母親も父親も見舞いに来なかったそうだ。こいつらは俺のことなど…どうでもいいらしい。
「…で、どうしたいの?」
「もう離婚よ離婚!」
「…ふ〜ん。生活はどうすんの?」
「お母さんが働くわ。お父さんは家を出て行くそうよ。」
「…食事とかは?鈴もいるんだろ?」
「その辺は鈴と協力してやってちょうだい。お母さんは、夜は遅くなると思うから。」
「…ふ〜ん、そっか。」
「え、ええ…あっ、もうこんな時間!お母さん仕事の面接に行くわね。」
「…あ、そう。いってらっしゃい。」
そうして、家事全般を俺らに押し付けて、母親は仕事を始めた。
だが、父親は見舞いには来なかった。そして神野も…
そうして、俺は冷めたまま退院の日を迎えた。
「では、できるだけ安静にしていてくださいね。」
「はい。わかりました。」
「ではお大事に。」
「ありがとうございました。」
医者にいろいろ言われた後、俺は病院を出た。
そして、明日からは学校に行ける。
「さて、じゃあやることでも済まそう。」
俺は今までの日常をやめることにした。
全てを自分でこなし、できないことをなくそうとした。勉強、家事、運動、戦闘、他にも様々なことを…
そして、俺は人前で”俺”でいるのもやめた。優しい、いい人な”僕”を演じようと思った。
俺は病院から家に帰りながら、これからの計画を立てていた…
俺は家に戻ってきた。だが、家には鈴は学校、母親は仕事で誰もいない。実に好都合だった。
「…じゃあやるか。」
俺は部屋にある、別にどうでもいい物をまとめて売ることにした。これがあっても、別に何にもならないのだと思っていたのだ。その中には”大切な思い出の品”なんて物もあったかもしれないが、どうでもよかった。
「…いらない、いらない、あ、これはいるな、いらない、いらない…」
小説や漫画、ゲームなどは全部売ることにした。どうせ、もうやることもないだろうし、必要もない。
「…さて、じゃあ売りに行くかな。」
俺は、それらをまとめて紙袋に入れてリサイクルショップに持って行き、全て売り払った。
そして、その金で参考書や指南書などを買い集めた。
「…よし、どうせ2ヶ月は動けないからさっさと始めるとするか。」
俺はその日から勉強を始めた。その日は親が帰ってくるまでやり、夕食をとった後も部屋に戻り、寝る間も惜しんで続けた。そうして夜が明けた。
「…あぁ、学校だったな。行くかな。」
俺は学校指定のカバンに、やっている途中だった参考書などのみを詰めて学校に向かう。
「あ〜、あ、ああ…これでよし、じゃあ行くか。」
俺は声の調子を変え、笑顔を作り、にこやかに神野の家に向かった。
「おはよ〜神野くん!」
「えっと、新?どうしたんだ?」
「僕は何もしてないよ〜。神野くん、頭大丈夫?病院紹介しようか?看護婦さんたちと仲良くなったし。」
俺は楽しい愉快な”僕”を演じ始めた。神野のことなど、別にどうでもよくなっていた。その辺にいる他人と…いや、地面の石ころに落ちたとなんら変わりはなかった。
「いや、俺は正常だからな⁉︎つーか怪我は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ〜。折れたのは、左手だけだし。他はひどい打撲だけみたいだったから〜。」
「いや、それは大丈夫とは言わない…」
心配しているようだし、後悔しているようにも見えた。
だが、そんなことはどうでもよかった。神野は俺にとって”大切な友人”から”単なる知人”に変わっていた。
その後は部活をやめることを神野に伝え、入院中のことを嘘を交えて教えながら、学校に向かった。
「じゃあ、また後でな。」
「あ、でも僕は部活行かないから、先に帰っちゃうよ〜?」
「あ、そうだったな。まぁそれでも、後でな。」
「ほ〜い、じゃあね。」
学校では神野は3組、俺は6組だったせいで、授業中に会うことはなかった。授業中は、先生の話など全く聞かず、勝手に別のことをしていた。
その後も、寝る時間も削ってひたすらに進めた。
学校の授業は聞いていなかった。その時間の間も参考書のページをめくり、中学の勉強を終わらせていた。その甲斐もあり、2週間と少しで中学の範囲は終わった。そこからは高校の勉強以外にも、機械工学、薬学、生物学、情報処理、外国語、哲学、人間科学、心理学など様々な学問にも手を伸ばした。
かかる時間も増え、その頃の俺の睡眠時間は2時間を切っていた。目元にできたくまは、母親の化粧品で隠した。それでも、学校のテストなどでは同じ程度の点数を取り続けた。
誰かに努力は知られたくはなかったというよりは、邪魔をされたくなかった。目立つのは御免だった。他人と会話するのも嫌だった。
そんなことをしているうちに、ギプスが外れ、腕の怪我も治った。
「…それにしても、髪伸びたな。」
忙しくて髪を切りに行っていなかったせいで、もともと長めだった髪が肩あたりまで伸びていた。
もう切りに行くの面倒だし、結くかな?
この間、先生に文句言われたのだが、全く気にしていなかったらかなり伸びていた。
まぁ、そんなことはどうだっていいいのだ。
「…そろそろやるか。」
俺は、俺を殴った不良どものグループを潰そうと思っていた。俺だけが殴られて、蹴られて、怪我をした。誰も俺を心配してくれなかった状況を作り出した奴らが、腹立たしかった。だから、奴らの人生を壊そうと思った。
俺は準備を始めた。武術の指南書を読みながら、体を鍛え、動きを身につけ、作戦を立てた。
他にも、必要な知識を学んだ。睡眠ガスを作ろうと思い、薬学、生物学、などを学び、精神を壊してやろうと思い、拷問や脅し方法も学んだ。
そんなことを続け、神野の大会が終わった頃、実行に移すことにした。
作戦は簡単だった。その辺の不良からケータイを奪い、あの廃工場に呼び寄せ、一網打尽にするつもりだった。
だが、作戦は失敗だった。下っ端程度じゃ、多くの不良が集まることはなかったのだ。
「…くそ、もっと上のやつじゃねぇと無理か…なら、そいつを探すか。」
俺は、手当たり次第に不良をボコボコにした。そうすれば、上のやつが出てくるんじゃないかと思ったのだ。
そして、それは正解だった。そんなことを繰り返している時、ある一人が『四丁目の後藤さんがお前を探してる』って教えてくれたのだ。お礼に大怪我程度で済ませてやったよ。そいつから、その後藤ってやつの見た目や特徴を聞き、探した。そして、見つけた。
「後藤さん、俺ら今日あたり行くんすけど、一緒に来ないっすか?」
「ああ、俺は別にいいよ。お前らだけで行きな。あと、あれには気をつけろよ?」
「あれ?」
「あの、仲間がやられてるってやつだ。」
「ああ、わかったっす。あざす!」
「おう、じゃあな。」
そいつは180cmくらいのガタイのいい高校生で、この辺の頭だった。俺はそいつからケータイを盗むことにした。そいつがこっちに歩いてきたので、ぶつかってケータイを掏る。簡単だった。
俺はそれを持って家に帰る。




