40.訓練をつけました
俺らは、城の第3訓練室にいる。
「とりあえず、模擬戦ね〜。」
「いや、ちょっと待て!なんで城の中に入れたんだよ⁉︎」
「言ったじゃん〜。国賓だって。」
「マジだったのかよ…」
なんだ、信じてなかったのか。本当なのに…
「まぁ、そんなことは置いといて、模擬戦だ。僕からは手を出さないから、かかって来なよ〜。」
「大丈夫なのか?こんなところ使って。」
「大丈夫。誰もこないから〜。」
そうなのだ。神野たちは昨日から外で、魔物を狩りに行ってる。だから、この部屋は基本的に、誰も使わないのだ。まず第一に、兵士たちは第1訓練室を使うから来ないし。
「そうなのか?まぁ、そう言うんなら…」
「とりあえず、僕に一回でも攻撃を当てたら終わりね〜。」
「わかった!一回でも当てればいいんだな!」
「じゃあ、いつでもかかっておいで〜。ただし、魔法は禁止ね〜。」
「おう!じゃあ行くぞ!」
アルは俺の方に向かって駆け出してくる。
「おりゃあぁぁぁぁ!」
俺が貸してやった短剣を振りかぶって、こちらに来る。
「はい、駄目ぇ〜。」
「へぶぅ⁉︎」
俺が出した足に引っかかって、アルが盛大にすっ転ぶ。
「相手の全体を見ながら攻撃しなきゃ〜。」
「お、おう。」
「ほら、攻撃当てないと〜。終われないよ〜?」
「おう!やってやる!」
随分と威勢のいいこと。だが、今日中に当てるのは無理そうだな。
「てやぁぁ!」
「ほい、残念っ。」
「ふぎゃっ⁉︎」
今度は勢い余って、前に転ぶ。
「勢いつけすぎ〜。アホか。」
「うぅ、今度こそ…」
まぁ、こんな風なやり取りを繰り返す。
ではその間に、アルの武器について説明しよう。
まず、アルが選んだのは短剣だ。火属性は攻撃魔法が多い。だから、両手を意識しながら魔法を使うのは難しいので、片手だけの短剣にした。俺は思考補助系統のスキルを持ってるから問題ないが、アルはそうじゃない。まぁ、そのうち身につけさせるが、今は少なくとも出来ない。なので、短剣にしたのだ。
そして今、アルが使ってる短剣は、俺が暇つぶしに作った”木の短剣”だ。これは、外から持ってきた木を短剣の形にして、それの状態を限界まで硬くして、そこそこ重くしたものだ。つまるところ、異常に丈夫な木で出来た短剣だ。一応切ることもできるが、もともと素振り用に作ったものなので、殺傷力はほとんどない。
まぁ、こんな感じだ。
さてと。だいたいアルの能力はわかったので、訓練に移るか。
「うん、ここまででいいよ〜。」
「はぁはぁ…え?まだ当ててないぞ?」
「いいよ〜。どうせ当たんないから〜。」
「くっそー!」
「ふふふ〜。」
当たるわけないじゃん。やっぱりアホだな。
「さて、まずは基本の型から教えるね〜。これらを基準として、応用を加えて使うから、しっかり覚えてね〜。」
「わかった。」
「じゃあ、まずはこれね〜。」
ヒュン
俺はただ短剣を縦向きに振り下ろす。
「え?それだけ?」
「そ。アルは短剣を振ってる時に、刃が縦向きじゃなかったから。」
「それじゃダメなのか?」
「当たり前でしょ〜。切らないで短剣で殴るつもり〜?」
「あ、そっか。」
「じゃあ、とりあえず縦横、斜め、後ろに200回ずつね〜。」
「マジで…?」
「マジでだよ〜。ほら早くやんないと、次のやつになんないから〜。」
「わ、わかった!」
ヒュイ ヒュイ ヒュン ヒュウ…
アルが素振りを始める。何回か一回はきちんと振れてるな。きちんとできるまで、追加しまくってやろ。
「きちんと振れてなかったら、追加するから〜。」
「ええっ!マジで⁉︎」
「されたくなかったら、ガンバ〜。」
「11,12,13,14,15,16!…」
しっかりやりだしたので魔法の実験でもするかな。
俺は魔法陣を幾つか描き出す。
『重力操作』『風操作』起動。
陣を起動すると、俺の体が宙に浮く。これは、”重力操作”で体にかかる重力を操作して宙に浮き、”風操作”で体の周りの風を動かして動こうという魔法だ。つまり、飛行魔法の製作をしようと思ったのだ。
「はぁ⁉︎何してんだ⁉︎」
「うるさいな〜。100回追加ね。」
「ええええ!」
「おとなしく、剣振ってなさい。増やすよ?」
「わかったから、もう増やさないで!」
仕方がない、実験を続けよう。
俺は”風操作”で空中を動いてみる。
う〜む、動きが悪い。しかも、顔に風が当たって目を開けづらいし。
重力の加減をちょっと変えよう。あと、目の前に空気の壁作ろ。
少し陣を書き直す。
よし、こんな感じかな?
『重力操作』『風操作』起動。
俺の体が今度も宙に浮くが、さっきより軽く動くのが感じられる。じゃあ、動いてみよう。
うむ、少しつらいな。操作が面倒だし、何より”風板”作って蹴って飛ぶ方が楽だし。
”風板”ってのは、空気を足場にしようと思って作った魔法だ。
方法自体を変えようかな?
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「よし、こんな感じかな?」
俺は作った”空泳”で、空中を自由自在に舞う。
「…497.498.499.500! おわった〜!」
アルのもちょうど終わったようだ。というか、作るのが終わるまで、ずっとやらせてただけだが。
「うん、まぁ大体いいかな〜。」
「よっしゃ!で、次は?」
「魔法ってどれで使ってる〜?」
「え?普通は詠唱だろ?」
どういうことだ?
「僕は陣使ってるんだけど〜?」
「マジかよ⁉︎あんなに面倒なの使ってたら、戦えないじゃん!」
ああ、なるほど。前衛が戦闘中に使うのはそれが普通なのか。図書館には、使い方ばっかりだったから気づかなかったわ。確かに、基本的に守られる後衛には、使い方しかわかんなくても問題ないからな。
「そっか。僕はできるんだけどなぁ〜。できないの?」
「そんなこと、出来るわけが…もしかしてやらせる気か⁉︎」
「そ。こっちの方が使い勝手がいいし、応用が効くし〜。」
「マジか…」
「大丈夫だよ。基本は詠唱で、闇とか合成魔法だけ魔法陣だから〜。」
「合成魔法ってなんだ?」
「こういうやつ〜。『空泳』起動。」
俺が空を飛ぶ。
「あ!さっきのやつ!それ何なんだ?」
「風魔法と闇魔法を組み合わせて使ってる魔法だよ〜。」
「そうだったのか!」
「こういうやつは陣じゃないと出来ないから〜。」
「へぇ〜。わかった。」
スタッ
俺は地面に降りる。
「よろしい。じゃあ、陣の基本を書いた紙あげるから、覚えてきてね〜。」
「…え?」
「今日はここまで。また明日城門の外においで〜。」
「もう終わりなのか?」
「そ。あと、その剣はあげるから自分で素振りしなよ〜。」
「貰っていいのか⁉︎」
アルにその剣はくれてやろう。どうせいらないし。
「いいよ〜。ちゃんと、素振りして陣も覚えて来なよ〜。」
「わかった!」
「じゃあ、また明日ね〜。」
「わかった!ふふんっ。」
アルはご機嫌で帰って行った。単純なやつだな。
さて、明日の準備でもしておくかな。
俺は部屋に戻る…
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