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15-1.退屈に浸る

すみません、予約投稿し忘れてました。




 あの少年…零は自分の素性について少し話してくれた。

 零は魔術師の下働きをしていたらしい。なんとも壮絶だった。その魔術師の研究を狙う大きな力を持つ家に襲われ、逃亡生活をしてきたらしい。

 …だったら、零が俺にあんな態度を取るのも当然だ。

 常に誰かに襲われる生活だったというのなら、周囲の全てを警戒するのは当然のこと。ましてや、素性もしれない新兄が家に閉じ込めるような形で零を保護しているところへ素性もしれない新兄の味方が来れば必要以上に警戒するだろう。

 まるで騙されたかのようだ。味方のふりして近づいてきた敵が本性を現したという風に感じたんじゃないだろうか?



 「新兄は…わかってない」


 新兄が零を本気で保護しているのは零の待遇から理解できる。

 基本的に新兄はその気がなければ態度が冷たい。保護しても最低限度のことしかしないし、物を買い与えもしないし、そもそもいつまでも家に置かないだろう。

 新兄はそんな人だ。

 だが、それは俺らだからこそ知っていることで零は知らないだろう。新兄は色々と気を回しているが、むしろ逆効果にも思えた。

 零は新兄が敵か味方かだけを判断しようとしている。新兄が手の内を晒しでもしない限り、きっと新兄のことを信用しようとはしない。思考が読めず、行動が読めず、真意も読めない相手を信用する方が無理な話だ。

 …新兄はそれを理解していない。いや、理解はしているのかもしれないが、少なくとも実行できてはいないらしかった。



 「何がわかってないんだ?」

 「…いつからいたんだよ」


 突然後ろから声がかかる。

 いつの間にか親父が俺の部屋のドアを開けて立っていた。



 「数秒前だ。んで、何だって?また新の奴が何かやらかしたのか?」

 「…そういうわけじゃない。むしろ、やれてない」

 「ほう?あいつがやれないことなんてあんまないと思うが?」

 「そんなことないだろ。新兄は俺らに隠し事多いし、手札晒したりもしないし、何考えてるのかも言わないし…」

 「…ま、それはあるなぁ。あいつは俺たちなんかよりよっぽど力があるから、俺たちにできないことを全部背負ってくれてる。しかもそれを言えば俺たちが気にするからって少しも気取らせないように頑張ってすらくれてる。そりゃわからないのも当然だよな」


 確かに、俺らは新兄に多くのことをしてもらっているという自覚はあれども、どれほどのことを新兄がしてくれてるのかは知らない。だから必要以上に後ろめたい気がせずに済んでいるのだろう。



 「だから俺らは新兄がどこか信用できないような気がする…」

 「…だろうな。けど、言えないあいつの言い分も理解できるから俺は何も言えねぇんだよ。言えばそれが難しくなることもあるだろうし、知らない方が幸せなことも多い…」

 「何だよ…それ」

 「俺が勇者だったって話しただろ?」

 「…実体験かよ」

 「そういうことだ」


 親父は苦笑を浮かべた。

 そう言うのなら親父も何かをかばうかのように戦ってきたということだろうか?誤魔化して、バレないように手の内も何もかもを隠して。

 …きっとそれは辛いことなのだろう。親父の表情はどこか後悔を帯びているようにも見えた。



 「というか、そう言うからには親父は知ってるのか?新兄が何を隠してるのかとか、何しようとしてるのかとか、どんな手を隠し持ってるのかとか」

 「知らん。俺だって知らんわそんなこと。あいつはそもそも隠し事多すぎんだよ。手札なんかそれこそ星の数程持ってんだろうし、俺らに教えたくないことも馬鹿みたいにあるんだろうしな」

 「………」

 「ま、それでもしようとしてることの一旦ぐらいは教えてくれるし、付き合いも長いから手札の一部くらいは知ってるけどな」


 親父のニヤリと浮かべた笑みが無駄に腹立たしかった。

 自慢するかのようで、俺を見下すかのようで、俺をたしなめようとするかのようで…腹立たしかった。

 きっといつかわかる日が来る。そんな風な目を向けられたような気がしてならなかった。



 「…親父は、昔そう言うのがわからなくて新兄を信用できなかったことはないのかよ」

 「は?あるに決まってるだろ。そもそも俺と新は喧嘩しまくってるしな。言い合いしてるのがデフォルトだっての」

 「でも…今、親父は新兄が信用できるみたいな言い方してるだろ」

 「ま、今は信じてはいるからなー。新だって俺たちが苦労することはあっても本当に嫌な目にあったりするようなことは基本的にしない。したとしてもなんかしらの目的があるのもわかってる。信用というか別のものな気もするけどな」

 「…それは」

 「それに、色々と恩もあるからな。ヒゥルがこっちの世界に来れてるのは新のおかげだし、俺たち向こうに行った人が帰って来られたのも新のおかげだ。疑うことはあっても嫌いになることはないな…昔からの付き合いだ」


 親父はなぜか少し悲しげだった。

 もしかしたら親父も新兄の理解できないところに思うところがあるのかもしれない。そんなに長い付き合いがあっても理解できないなんてとも思うが、それが新兄なのだろう。



 「だったら今なにしてるのかは知ってるのか?零を保護して、息子か弟みたいに大切にしてる理由は?」

 「…まぁ、知らなくはないぞ。あいつも今日肯定したからな」

 「ならそれを零に話してやればいいだろ。今、零は誰も信用できない中にいる。あんなだったらいづらくてしょうがないだろ…」

 「お?どうしたんだ?彩月にしては珍しく人の心配だな。同情でもしたのか?」

 「は?…いや、別に」


 そうだ。今なんで俺はそんなことを言った?

 というよりそもそもなぜ俺は帰ってきてから零のことなんて考えてる?新兄が保護しているから?事情を聞いたから?それとも零に興味が湧いたから?

 


 「まぁ、年齢も近いしお前もあんまり友達多くないだろ?いい機会だから仲良くしておくといい」

 「うるさい」

 「…っと、忘れるところだった。さっき新が今日手伝ってくれたお礼だとか言ってケーキ持ってきたんだけど、食べるか?」

 「こんな時間に新兄は…いや、今日はいい。明日食べる」

 「そうか。じゃ、そんなに遅くならないうちに寝るんだぞ」

 「わかってる」


 用事を思い出してそれを伝えると、親父は何事もなかったかのように部屋を出て行った。あからさまに話題をそらし、俺に答えも告げぬままに。

 そのおかげで代わりに置いていかれた俺は余計な疑問を持つ羽目になった。



 「…理由か」


 確かに新兄が保護してるというのが大きな理由になっていうのはある。

 俺にとって、新兄の存在はそれなりに大きい。今までずっとよくされて生きて来たし、今も優遇されているという実感はある。

 それゆえに、零があれほどに大切にしようとされているということに感じるものがあるのだろう。

 どうして、新兄はあの少年…聞けば、この色々な出来事の中心にいた人物たる零にそこまで気を使うのか。なぜ、そこまでその原因であるはずの零を庇い保護するのか。どうして…そんな人物を俺に近づけたのか。

 


 「俺たちに何かあるようなことはない…はず?」


 俺たちが本当に被害にあうようなことはしない。

 親父の言う通りなら…今までの俺らが知っている通りなら、新兄は零がいることで俺らが被害を受けるようなことはしないだろう。俺が誘拐された時だって向こう側にあらかじめ手を回し、攫ったと言う演技だった。

 …今回、新兄は「零が中心だと言うことは知らなかった」と零が言われたというのを聞いた。つまり、何かしらのつてを以って俺らに何かを教えたり経験させようというものではないはずだ。少なくとも魔術的、戦闘的な面においては。

 そこから考えられる可能性は…?



 「新兄は本当に保護してるだけ?いや、でも…確かにそれは…」


 親父は理由を知っているとさっき言っていた。

 俺の「零を息子か弟みたいに大切にしている」という言葉を否定せず、さらにそれを肯定したとすら言ったのだ。

 新兄が本当に零を大切に保護しているだけだというのなら、それだけの理由はあるだろうが…生憎俺は新兄のそういった過去や心に秘めた思いを知らない。どういった心算なのかは知らないが、少なくとも新兄の何かしらの考えに基づいて保護されているだけということもありうる…というか正直それが一番可能性が高いような気がする。

 厄介事を突き放すだけというのなら、大人しく零をどこかへ差し出してしまえばいい。それをしない以上、零を何かに利用するつもりなのか、零が持っているという研究が欲しいのかだろうが…新兄はそういうものを欲さないであろうことはよく知っている。

 新兄は協会に所属したのは親父たちが魔術の世界に入らなくて済むためにしたことだと言っていた。そもそも新兄は魔術にあまり興味がない。知識は多量に持っているが、玄丸さんが言うには魔術を兵器か便利道具か何かにしか思っておらず、無駄な研究こそすれど深淵を求めるほどではない、と。



 「新兄は…」


 俺らは……いや、そもそもどうしてここまで考え込む必要があるんだ?

 第一に俺が零を心配する必要がない。俺とは無関係…でもないが、少なくとも親しい仲じゃない。今でこそ新兄の家にいるから気にもするし関係もあると言えるが、個人的に仲が良いわけでもなければ深い関係性があるわけでもない。かなり仲のいい友人の家で匿われているただの身寄りのない少年。

 …だったらなんでこんなにも気になるんだ?

 何かが引っかかり、どうしてか頭から離れない。



 「俺がこっちに入り込む原因の一端だからか…?」


 それが全ての原因…と言うわけではないが、そのことがなければ俺がこっちの世界へ踏み込むこともなかったかもしれない。それがなければ魔術師が俺に目をつける原因が減ったかもしれない。こうやって余計なことを考える必要もなかったかもしれない。

 …後悔はないがそれでも思ってしまうのかもしれない。

 こうして知ったことには文句はない。そのおかげで比呂のやっていることを知り、新兄が俺らにしてくれていたことを知れた。そのことに文句はないし、知れてよかったと思う。

 だが、それでも俺があの時感じた恐怖や現実に嘘はない。俺は知れたことについてはよかったと思っているが、それでもああ言う形で知ったことにはいい感情を持っていない。可能であれば別の方法で知りたかったと思う。もっと普通で、あんな偶発的で強引な方法じゃなければよかったと…まぁ、普通にというのもどういった形かはわからないが。



 「少なくとも、恨んではない…か」


 ここまで気になるのも不思議だ。

 理由はわからないが、何か感じるところがあるもの事実。少しばかり、仲良くしてみると言うわけではないが零を知ってみるのも悪くないだろう。

 どうしてかがわかるかも知れないし、わからなくとも新兄の家でこれから生活していうのだから悪いことはないはずだ。どうせこれから会うことは少なくないはずだし、知っておくことに無駄はないだろう。少なくとも険悪な関係にならない場合は、だが。



 「次あったら…もう少し話してみるのも悪くない」


 機会があれば、もう少し話しをしてみよう。

 どう言う性格なのか、どう言うことを考えているのか、周りをどう思っているのか…俺は零のことをほとんど知らない。聞いたのはここにきた経緯とここまでであった出来事だけ。そこで感じたことや思ったことは何も教えてはくれなかった。まるで自分のことを教えるつもりはないとでも言うかのように。

 だから、次は少し踏み込んでみる。ほんの些細なことでいい。ここにきての生活で感じたことや新兄をどう思っているのか、今はどうしようと考えているのか。

 …答えてくれるかはわからないが、それでも少しぐらいは教えてくれることを祈ろう。



 「…寝るか」


 そうして、俺は目を閉じた。


意見感想等いただけると喜びます。

また、今回のでストックが切れてしまったので二週間ほど間が空くと思います。すみません。

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