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14-2.勇者さまは勇者さまでいて欲しいんだよね




 半ば強引に部屋を出て、拓巳の手を離してからもう一度部屋に入る。

 入れてもらっていたお茶を一気飲みして、二人に向けて笑いながら話しかけた。 



 「いっちゃん、零のことよろしくね〜」

 「は?」

 「じゃ、いってきま〜す。零、留守番よろしく〜」

 「え、はい?」


 2人を放置して部屋を再び閉める。

 この機会に零にも友達ができてくれればいいな〜っていう目論見と一般人の考えを知って欲しいのといっちゃんの興味を得てもらう目的を持って2人きりにした。

 まぁ、無論他にも理由はあるけどね。



 「さ、行くよ〜」

 「いや、どこへだよ…少しは説明しろっての」

 「え〜…拓巳、随分と感覚鈍ったんだね」

 「はぁ?」


 ドアを開けて、庭に出て、鍵を閉めて、目の前の道路に視線を送る。

 拓巳もそれにつられて視線を向け、そしてようやく気がつく。



 「お向かいさんの屋根に2人、曲がり角で1人ずつ。合計4人かな?今日は少ないね〜」

 「…お客さんってか?」


 僕はカードを数枚引っ張り出し、拓巳はネックレスから長剣を一振り引っ張り出した。

 どうやら、拓巳にこっちの世界での殺人へと忌避感はないようだね。ま、向こうで散々やったから感覚マヒしたままなのかもしれないけど。 



 「ま、こっちは単なるおまけだけどね〜。目的は零のベッドとクローゼットとかを買うことだね。部屋自体は余ってるんだけど、家具がなくってさ〜」

 「おまけって…まぁ、そうか。てか、家具なんか新が作れば良いだろ。どうせ作れるんだろうし」

 「まぁできるんだけどさ〜。僕が作るとどうにもデザインに凝っちゃって、なんか場違いな感じになっちゃうんだよ〜」

 「自重して普通にやれよ…」

 「え〜、楽しくないじゃん。『紋章(クレスト)狂戦士(ベルセルク)解放(オープン)』」


 僕のその声と同時に拓巳は走り出す。

 カードから石の弾丸が二発飛び、蔦が1人を確保して、2人が死んだところで拓巳は1人の首をはねた。返り血一つ浴びてないところから見るにどうやら腕は鈍ってないらしい。きっと拓巳のことだし、未だにちょっとした訓練はしてるんだろうね。



 「さて、じゃあこれは後で尋問するとして…拓巳〜」

 「なんだよ…はぁ。結局こっちでもやる羽目に」

 「あ、こっちでやるつもりはなかったの?そのくせ普通に剣出したくせに」

 「いや、お前だけにやらすわけにはいかないだろ…なんというか、勇者として?」

 「人殺しする勇者ってどうなのさ?」

 「それは思った」

 

 2人してクスリと笑い、それから死体を回収した。

 人払い用の使い魔以外の気配がないので、使い魔をそのまま放置してとらえた1人の元に行く。



 「こうなるのと情報キリキリ吐くの。どっちが良い?」

 「く、クソ…なんなんだお前は!ぽっと出の魔術師じゃないのか!」

 「うるさいな〜…死ぬ?」

 「死…っ!」


 首元にそっと剣を当てる。

 あぁ、剣は拓巳が持ってたのをさらっと拝借したよ?窃盗とかの技能って色々と役にたつからね。しょっちゅう色々してたら楽しくなって…まぁ、この話は置いておこうか。



 「いや、いつの間に俺から剣持ってってたんだよ」

 「さっき死体まとめてる時にこそっと借りた…というか、これ量産の兵士用の剣じゃなくて僕の【武器創造】で出したやつじゃん。回収したの?」

 「観光ついでにな」

 「な、なんなんだ…!わ、わかった!わかったからこの剣を!」

 「あぁ、ごめんよ。どうでも良いから忘れてた。まぁ、話は後で聞くからさ。とりあえず、待っててよ?」

 「は?待つ?」

 「『紋章(クレスト)戦乙女(バルキュリア)解放(オープン)』」

  

 剣を拓巳に返して死体もろとも部屋に送る。

 多分、今頃縛られた状態で1mくらいの高さから落ちたところだろう。地面はコンクリートだからちょっと痛がってくれれば良いな。面倒ごと運んでくれた腹いせに。



 「…もうなんでもありだな」

 「まぁ、魔法だからね〜」

 「そうだな。お前のは突っ込み始めると終わりがない」

 「え〜、ひどくない?」

 「ひどくないわ!今まで一体何したと思ってんだ」

 「ん〜…まぁ、それもそっか」


 確かに色々したね。 

 森の道を作るのがめんどくさくって斬撃もどきの魔法で開拓したのはいい思い出だね。あれは傑作だった。騎士団たちがしばらくうるさかったけど。

 

 

 「んで、どこに行くんだ?」

 「ん〜…どこがいいかな?とりあえず車を出してくるね」

 「あのちっこいのじゃないやつにしろよ」

 「当然でしょ〜?あれに拓巳と一緒に乗ったらむさ苦しいじゃん」

 「うるせぇ。むさ苦しいとかいうな」

 「あ、やっぱり運転めんどくさいから拓巳が運転で」

 「はぁ…鍵よこせ」

 

 鍵を投げ渡し、助手席に乗り込む。

 ちょいちょいこうやって運転を押し付けるから慣れてきちゃったのか、拓巳は僕の車なのに慣れた様子で乗り込んだ。



 「………」

 「いや、なんだよ?」

 「なんかティアラが膝にいなくて落ち着かない」

 「知るかっ!ほらさっさとシートベルト締めろ!」

 「ほ〜い」


 シートベルトを締めてる間に発進する。

 


 「んで、どこに行く?」

 「ん〜…とりあえず値段はどうでもいいから適当なとこ行こうか」

 「はいはい」

 「それなりにちゃんとした物がいいかな〜?」

 「…はぁ。本当にお前はあの子を守るつもりなんだな」

 「うん?そうだけど、それがどうかしたの?」


 拓巳がやや呆れ気味な表情を浮かべていた。

 その表情にどこか憐れみのような何かが垣間見えてちょっと不愉快だ。



 「お前って結局どっち寄りなんだ?」

 「どっちって〜?」

 「前にその体の時は神様なんかじゃないって言ってただろ」

 「うん。そうね?」

 「でも性別的な感覚はどうなんだ?あっちは女の子だろ」

 「あ〜…ほぼ男だね。向こうの感覚が多少混じってないとも言い切れないから」


 昔より随分と優しくなったのはその影響かな?

 母性本能か何か?…そもそも神様にそんなものがあるのかは知らないけどさ。



 「親か何かのつもりか?」

 「ん?」

 「あの子のだ」

 「いやぁ〜、ちょっと違うかな…あぁ、話してなかったね。いっちゃんの前だったし」

 「は?」

 「あの子ね、ホムンクルスなんだよ。つまり人造人間。作られた生命」

 「…魔術はそんなことできないんじゃなかったのか?」

 「ほとんどね〜」


 そうできないっていうだけで、一応は実現可能だ。まぁ、それこそ人の身で到達することはほぼ不可能とも言えるほどの気の遠くなる年月の先にな訳だけど。

 ま、だからこそ魔術師の到達点とされてるわけだし、こんなにもあの子は追われてるのだ。

 というか、そもそも魔術に生命を作ることはほぼ不可能だからね。魔術には自分以外の魔力を使用するという考えがほぼない。それに対し生命は世界から成るもの。

 要するに根本が違うのだ。それに気がついたって、人を作るのは容易じゃない。あの子を想像者は相当な奇跡を起こしてるよ。



 「…どうせ説明聞いたってわからないから聞かないが、そのせいで追われてるってことでいいんだよな?」

 「そうね」

 「だからあの子に親身になるのか?」

 「ん?だからって?」

 「お前は基本的に身内以外には冷たい。だけど例外がある」 

 「そうなの?」

 「お前は、理不尽に迫害されたりしてるやつを見捨てられない。俺が勇者としての行動が基底にあるように、新は気に入らないものを認めない」

 「…あ〜、確かにそうね」


 言われてみれば確かにと思う。

 僕は基本的に理由なき理不尽を認めない。まぁ、僕はするけど。

 マリーの時もそうだし、今回だってそうだね多分。



 「入れ込みすぎるなよ…?」

 「なんで?」

 「お前は過剰なんだよ。どうやってもお前が傷つかないことを知ってる俺とかヒゥルはいい。だけど、知らない奴から見れば、お前の行動は危なっかしいんだよ。自分の身を顧みてない行動にしか見えない。傷ついてまで自分を守ってもらうってのは…なんというか、心苦しいもんだぞ?」

 「…?そういうものなのかな?」

 「そういうもんだろ。というか、新はもっとその体を大事に扱えよ。結構酷使してるんだろ?どうせ」

 「うん、まぁそれなりには酷使してるね?別に本体じゃないし、傷ついてもそのうち乗り換えればいいから」

 

 最近ちょっと劣化が見られるようになってきてるしね。

 この騒動が終わったら乗り換えないと死んじゃいそうだよ。すでに身体能力は限界が低くなってきて激しい運動はままならないし、感覚だって最近少し悪くなった。そもそもホムンクルスの体っていうのは強引な急成長で作られてるから免疫とか低くなりがちだし、そういうの補うために色々と改良を重ねると、どうしても身体を普通よりも疲労させてしまう。

 そもそもの問題は寿命の短さだからね。この身体はすでに20年近く生きてるし、結構な年なはずだからさ。



 「乗り換える時はどうするんだよ。またいなくなるつもりか?」

 「う〜ん…どうしようかな?色々とこっちの世界は生きづらいね」

 「はぁ…普通にそういう事に首を突っ込まずに生きてれば生き辛くもなんともないだろうに」


 暗に僕が拓巳たちを巻き込まないために色々とやったことを責められてる気がする。

 …いや、まぁ常日頃から文句は言われてるけどさ。

 そういうことをするならせめて事前に相談くらいしろって。もうした後だから今更出ても僕の行動が無駄になるから何もしてないけど、そうじゃなかったらきっと拓巳たちが誰かしらこっちに首突っ込んでただろうしね。

 まぁ、うまくやるのは難しいだろうけど。

 拓巳たちは表の世界を生きるのが似合ってる。華やかで、煌びやかで、美しい道を歩くのがふさわしい。だって、それが勇者だからね。



 「そうね〜」

 「ま、だからほどほどにしとけよ?」

 「うん。善処する」

 「それしないやつだな」

 「そうだね〜」

 「お前なぁ…」

 「ははは〜。ま、心配してくれてありがとね。その気持ちだけは受け取っておくよ」

 「…そうかよ」


 なんとも言えないような表情を浮かべる拓巳を見て、やはりこっちの世界を歩かせたくないと思ってしまう。

 勇者として生き、英雄として生きて、人の黒い部分も見て生きてきた拓巳だから、僕の行動もいくらか理解してこうやって止めようとしてくれる。僕のやってることの片棒を担ごうとすらしてくれてる。

 だけどね、それは僕の望むところじゃないんだよ。僕は勇者には勇者として生きて欲しいんだ。この黒い部分を知ってもなお、それを照らすような人物であって欲しい。一緒にこっちに浸かり、共に泥沼を歩く必要はどこにもないんだから。



 「あ、そう言えばスマホとかもないや。あれって本人いなくても買えたっけ?」

 「買えるだろ、多分」

 「じゃあ、デザインとかだけいっちゃんと一緒に決めておいてもらおう。連絡入れとかないと〜」

 「はぁ…やっぱ俺もいて正解だったな。お前がこっちの世界での子供の必要なもんとかあんまわかってないような気がするし」

 「むむ。そんなことはないぞ〜。僕だって、色々とプレゼントしてるのだよ?」

 「それとこれとは別だろ。それはもらって嬉しいもの。こっちは生活にあったほうがいいものだからな?」

 「た、確かに…た、拓巳に負けた。がっくし」

 「喧嘩売ってんのか…?」

 「ははは〜。冗談だからその拳を下ろして?今この狭いところでやられると流石の僕でも躱せない…」

 「ったく。で、今までには何を買ったんだ?」

 「ん〜とね〜。とりあえず衣類と食器類は買った。それから生活してて必要になってきたものを少しずつ買い足してるところ」


 家の中に新しく増やしたものを思い出しつつ、拓巳に怒鳴られての買い物がスタートした。


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