13-X.勇者の修行
息子の普通拳を父親がいなす。
絵面がすでに碌でもないな…日本で見るような風景からはかけ離れてる。何より、その速度すら異様だ。
ほんと、どこのラノベか漫画だよっていうレベルだ。
だが…
「無駄が多い」
「かっ…⁉︎」
俺は速度と力に任せた突きをはたき、ついでとばかりに回し蹴りを叩き込む…もちろん、十二分に威力を抑えるという手加減を以って。
「早いだけなら見えさえすれば対処できる。初めは有用でも目が慣れてきたらどうするんだ?そもそも遠目から見ればいくらでも目で追えるぞ」
「な、なんなんだよ親父は…」
「こんなでも一応勇者を名乗らされてたんだ。それなりに世界最強じゃなきゃ許されなかったんだよ…ったく。新のやつマジでなんの説明もしてないんだな。というか、なんで武術の武の字も教えてないんだ…あぁ、そうか。あいつ今動けねぇのか」
「は…?」
「まぁいい。じゃあ、初めっからやり直しだ」
俺は地面に転がった彩月に手を差し伸べる。
その手を握り、立ち上がったところへ蹴りを入れて吹き飛ばした。
「んッ⁉︎けっ…⁉︎」
「油断するな。俺がいつやめるって言った?」
「ま、まじかよ…親父の方がよっぽどスパルタじゃねぇか」
「ちゃんと手加減してるだろ」
「どの辺が…?」
「死なないように蹴ってる」
俺の時は死ぬ勢いで蹴られたからな…まじであの世界は切羽詰まってたんだろうな。
「…冗談だよ。はぁ…さて、まず武術の基礎から始めるぞ」
「え?は?いや、一応新兄からは…」
「知るか。というか、新のやつが俺に任せる時に初めからやり直してくれてもいいんだよとか言ってたからな」
「ま、まじか」
「あいつは一応魔術面ではちゃんとやったんだろ?多分、こっちについてあんま話さなかったんじゃないか?」
「確かに、あまり言われなかった。言われたのは自分の動きやすいように動けくらいだ」
「あいつ…そんなのいつ終わりにするつもりで言ったんだよ。というか短期間ってことは殺す気かまじで」
相当本気だなあれは。
多分、魔術面については俺がとやかく言わなくてもいいだろう。だが、体術系は俺に任せるつもりだったんだろう…元から。
今のあいつはちゃんと動けない。
新の体は依り代だって言っていた。向こうほどのステータスもなく、そもそもこっちの世界基準でもちょっと体を鍛えてる人程度の筋力しかないらしい。外見があんなにも格闘家じみてるのに、それでも体のスペック上それ並みの力を出すと筋肉がちぎれて使い物にならなくなるそうだ。
だから、きっとちゃんとした実践ができないから俺が教える上で阻害にならない程度のことしか言わなかったのだろう。
「…新兄一体何するつもりだったんだよほんと」
「どうせ、本気で魔術だけで追い詰めるつもりだったんじゃないか」
「本気でってどの程度だよ」
「さぁ?こっちの世界であいつがまともに何かしてるの見たことないし」
「向こうでは…?」
「魔法関連だと…あぁ、一番わかりやすいのはあれか。都市半壊」
「それは…どの程度のだ?」
「東京の小さい区一つ分くらいだったか?まぁ、そんなところだ」
まぁ、俺も似たようなことできるあたり何も言えないが。
「まぁ、そんなことは置いといて、武術の基礎からやり直すぞ」
「わかった。で、何するんだ」
「素振りとか体幹トレーニングとか…基礎だな」
「そこから?」
「どうせ新は本当に何も教えてないだろ?多分最初から俺に丸投げするつもりだっただろうから」
「あぁ、それでか。俺がさせられたのは魔術師への対処法と基礎戦闘に必要な魔術系統と身体能力強化だけだった」
「そんなところか…じゃ、まず基本の動きからか。あー、こんなのやるのいつぶりだかな。覚えてるのかこれ…?」
ひとまず軽く動きの基本を思い出す。
筋肉の動かし方、体の重心移動のし方…基本はだいたいそんなものだった。ひたすらに動かされて、初めは剣すら持つのを許されなかった記憶がある。
「まずは、俺と同じ動きをしろ」
「わかった」
「重心の位置と筋肉の動きに注意してやれ。基本技術の上昇は戦闘の幅を広げてくれるし、何より無駄な労力が減る。さっきの自分の動きを理解してるか?」
「…微妙」
「前に新が言ってた。ただ突っ込んでくる牛と技術を駆使して突っ込んでくる牛、どっちが怖いってな。今のお前は前者だ。確かに十分に脅威ではあるが、対処法さえ手に入れれば怖くない」
「なるほど」
どうせ何の目的かもわからずにやるよりは必要性を教えてやったほうがいいだろうと思ってのことだが、効果はてきめんだったようだ。
「俺たちは速さは重要視されることが少ない戦場で戦ってたから、彩月の戦闘スタイルについて教えることができることは少ない。だから、基本的な技術と経験だけ積ませる」
「わかった…でも、何で重要視されないんだ?」
「素早くても意味がなかったからな。ドラゴンにものすごい速さで近づくくらいなら重い一撃を喰らわせることに意識を割いたほうがよほどいい。確かにそういう役割も必要ではあったけど、俺たちの仕事じゃなかった」
「…そういうことか」
ひたすらにゆっくり、ただ同じ動きを繰り返しながら時折会話を交わす。
そんな時間が過ぎていった。
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