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9-2.後片付けの前に





 「どういうこと…なんだ?」

 「お、いっちゃんおかえり」


 しばらく呆然としているいっちゃんを放置して比呂とお茶を飲んで待っていたらようやく復活した。

 表情がころころと変わるもんだから面白くて観察して待ってたわけだけど…多分自分の体のこととか考えてたんじゃないかな?



 「俺は…この体はそれが原因なのか?」

 「うん。あ!先に言っておくけど魔術によるものでもなんでもなくただそういう家系なだけだからね?」

 「…それならいい」

 「煮え切らない顔だね〜?」

 「そりゃそうでしょ。いっちゃんは今まで普通だと思ってたわけだし、俺も普通だと思ってたし、正直俺もわけがわからないし」

 「ははは〜…まぁ、とりあえず適当にかいつまんで説明するよ。いっちゃんの両親はバカみたいな成長素質と異様な治癒能力を持ってるんだ。まぁ、これについては本人がいない前で話すつもりはないからこれだけだけど、いっちゃんのその体はその遺伝…その両方をうまいこと引き継いだために生まれたものだよ。あ、一応言っておくけど、本人たちはそれをどうこうするつもりは一切ないし、表沙汰にするのも何も望んでないからね?」

 「なぁ、親父もお袋も…それとも片方でも俺みたいな体なのか?」


 いっちゃんの表情は何かにすがるようで、同族を求める滅びかけた一族の目とよく似ていた。

 やっぱり、不安なんだろう。

 どうしても心配なんだろう。

 …いじめたいような衝動にかられるね。



 「さてね?…まぁ、僕は本人がいない前で言うつもりはないよ〜」

 「新兄!」

 「いやぁ、言いたいのも山々なんだけどさ、僕にも一応信用とかそういうのもあるし…ほら何よりさ、大切な友人の秘密をやすやす暴露するような人でなしじゃないよ?」

 「…そう、だな。わり、今のは俺が間違ってるよな」

 「なぁ、俺が聞いたらそれは答えてくれると思うか?」

 「さぁ〜?それはあの2人次第だからね」

 「 新兄ぃ?」


 僕のはっきりしない答えにうずうずとしている比呂に笑みを向けてからお茶を飲み干した。 

 茶飲みを持って立ち上がり、2人の表情を伺う。



 「おかわりいる〜?」

 「いや、いい」

 「はぁ…俺もいいや」

 「そう?じゃあ、本人のところにでも聞きに行く?」


 僕の問いに2人が一瞬固まった。

 きっと僕が答えないと言ったのにもかかわらず直接聞くのは構わないというのに驚いたといったところだろうね。まぁ、僕は答えちゃってもいいかなとも思ってるんだよね。

 一応あの2人は僕が答えてもいいって言ってたし。とは言っても僕は答える気ないけど。

 そういうのは本人の口から告げられるべきだ。ほら、告白は本人の口からするからこそ意味があると思うんだよ。何においてもね?



 「さっきの反応はなんなんだよ」

 「いやぁ、別に何も言ってないじゃないのさ。お茶を濁しただけで」

 「それが問題なんだっての」

 「…結局新兄はどう思ってるんだ」

 「ん?何が〜?」

 「俺が聞いたら答えると思うか?」


 …十中八九答えるだろうね。

 むしろ余計なことまで口走るんじゃないかな?僕のこととか。

 まぁ、その場合は止めるけど。



 「答えるんじゃないかな〜?」

 「…さっきまでのはなんだったんだよ」

 「特に意味はないよ〜。ほら、つい」

 「だろうと思った!ほら、いっちゃん、帰ってみようぜ」

 「そうだな…」

 「いっちゃん?」


 2人のやりとりを見てどうしようもなく懐かしく感じるのは、僕がまだ人であれている証拠なんだろうか?

 僕と拓巳の姿を重ねているのだろうか?

 …まぁ、正直どうでもいい。そう思えてしまう僕の感情が寂しい。

 神として造り直された僕の感情はかつてより随分と乏しいものになっている。喜怒哀楽だってちゃんと残っている…ただ、その歩合がおかしいだけで。

 問題はそこじゃない。

 僕の精神はその感情を大切に思えない点だ。

 感情は一時的なもの。冷めやすく、温まりにくい。そして、かつての感情と今の感情が組み合わさって出来た僕は本格的にかなり異常だ。簡単に言うと人間離れしている。人の感情が読めない。

 嘘は見抜ける。

 表情からその時々の言いたいことぐらいは当てられる。



 「不安〜?」

 「…そうだな」

 「ははは〜」

 「ちょっと新兄⁉︎」

 「そんな気負うことは何もないよ。少し話を聞いて、少し考えて、これからのいっちゃんが変わるだけ。言うなれば一種の成長というやつだね。確かに今までとは関わり方が変わるかもしれない…でも、それは聞くという行為によって生まれる必然。それが嫌なら聞かなければいい。ほら、簡単な話だ。いっちゃんはどうしたいの?その体について…聞きたいの?考えはもう決まってると思うよ」


 問題は僕の考える一般がずれていること。

 戻らないけど、戻れないけど…僕がそうなってしまったのは仕方ない。そうなったのは僕の望んだものの結果の一つ。そのうち自力でどうにか取り戻そう。



 「…ああ」

 「いっちゃん?大丈夫なのか」

 「大丈夫だ。わかってる」

 「それはよかった。じゃ、いってらっしゃい」

 「…え?そこは新兄が付いてくるんじゃないのか?」

 「僕は片付けしないといけないし、武器も血が固まらない…これは言わなくていっか。とりあえず今回の片付けをしないといけないから後から行くよ」


 それとなく話を濁す。

 これから立心と今回の件の口裏合わせの予定があるし、協会の方へもちょっと誤魔化した連絡が必要だからね。うまくいっちゃんが巻き込まれた理由をすり替えて、逃げ切ったことを聞いてから協会の方へ連絡を入れて、あっちこっちに今回の件の話をして、それから拠点に殴り込みに行く計画を立てて、無人になった拠点を漁らなければならない。

 とりあえず、軽い連絡だけ入れておかないといけないのだ。



 「ティアラ、ちょっとお使い…お願いできる?」

 「にゃ…」

 「いやぁ、さすがにもうちょっとしてからだけどさ、細かい連絡を入れるのは難しいんだもの」

 「にゃー」

 「ごめんよ〜。帰ってきてからなんでも一つ買ってあげるからさ」

 「にゃっ」

 「はいよ〜。じゃあ、鳩がついたらお願いね」

 「にゃ〜」

 

 僕がティアラと会話しているのを二人が怪訝そうな目で見ている。

 頭がおかしいとでも思ってるのかな?

 


 「新兄…その子猫、なんなんだ?」

 「ん?僕の頭がおかしくなったと思った?」

 「いや、そうじゃないんだ。その子猫、俺より魔力が多い。使い魔…なんだよな?」

 「まぁ、そうだね〜」

 「新兄は使い魔嫌いじゃなかったっけ?」

 「嫌いだね」

 「じゃあなんで?…というかその子猫はなんなんだ?」

 「ん〜…自分で聞いてみれば?」

 「…は?」

 「ティアラはちゃんとおしゃべりできるよ〜」


 ティアラの背中をそっと押して比呂に向かわせた。

 僕の意思をちゃんと汲み取ってくれるティアラは比呂の元へ向かい、その横腹に頭を押し付ける。

 その直後に比呂が驚いて飛び上がったのは面白かった。ティアラによくやったと言おう。



 「マジか…」

 「比呂?どうした?」

 「声が聞こえるんだよ。念波と一緒っぽいな…これは一体どうなってんだ?猫はそもそも…はぁ?」

 「比呂?」

 「え?あ、おう。知らない…って、新兄!ティアラはその理由知らないじゃんか!」

 「うん、そうだろうね〜。だってティアラが僕の使い魔になったのはティアラが本当に小さい時だから。本当に子猫の頃だから記憶も定かじゃないだろうし、そもそも使い魔じゃない頃だから知能だって普通の猫と変わらない程度だし」


 ティアラを拾ったのは本当に子猫の頃…多分、生まれて数ヶ月ちょっとのはず。子猫が一番子猫らしい時期。ちっちゃくて、いたずら好きで、あっちこっちに勝手に行っちゃうような頃。

 だから…



 「比呂、俺の話は聞いてるのか?」

 「あ、いや、ちょっと驚きの連続で…とりあえず新兄、どういうことなんだ?」

 「ティアラはね、僕が拾った時瀕死だったんだ」

 「え?…それって何があったんだ」

 「交通事故だよ。ギリギリ息があってね、どうにかして助けようとしただけ」

 「それで使い魔にして助けたって…?」

 「なにさ?本当に救ってると思ったかって?」

 「いや、そんなことは思ってないけど…」

 「僕は思ってないよ?」


 みじんも思っていない。

 僕がしたことは単なる自己満足だ。

 可愛らしい子猫が死にかけてたから救いたかった…そんなものと同等だ。しかも、その代償に僕はティアラにほぼ永遠の命を押し付けた。まぁ、ティアラが死にたくなればいつでも死ねるけど。

 それでもそれを押し付けたのは僕だ。ティアラには普通の猫としての幸せはかなり失われている。成長はしないし、知能だってかなり上がっているし、種族そのものだって変質しているのだから。

 それに僕の都合により行動にも少し制限しているし、頼みごとをしたりなんだりと面倒もかけている。

 救う?

 どう考えても僕が利用していると言ったほうがいい。



 「え?」

 「まぁ、そんな話は置いておいて、魔力が多い理由?それは僕はやったから以外に理由があると思う?」

 「ま、まぁ…ないよなー」

 「細かい話が聞きたければ話すけど…多分比呂にはわからないと思うよ?」

 「それって…魔法?」

 「まぁそうね〜」

 「つかそもそも魔法ってなんなんだよ、新兄」

 

 魔法ってって言われると…なんだろうね。

 説明がとてもしにくい。

 それは最初からちゃんと説明しないといけないからなんだけど、それを除いて一言で魔法を表すなら…



 「魔術とは違った神秘への干渉方法。魔術が自前の魔力を変換するのに対して、魔法は全く別の魔力を使用する…ほら、立心が魔法に向いてたのは主にそこが理由だよ」

 「使い魔を経由するってこと?」

 「魔法がそれだってわけじゃないんだけど、それを初めからやり続けてた立心はそうやって他の魔力を扱うのに長けてるんだよ」

 「他の魔力を使って魔術と同じことをする…他のって何だよ?」

 「世界は魔力に満ちている。魔力を持つのが魔術師だけなのはなんでだと思う?」


 これに関してはとっても簡単な理由。



 「それは貯められるように自分たちで…」

 「じゃあ、その貯める魔力はどこから来てる?」

 「普通に自分で生成してるんだよな?」

 「そ。じゃあ、他の人たちの生成してる魔力はどこに行くと思う?」

 「それは…世界が満ちてるっていうのはそういうことだっていうのかよ」

 「うん。人に限らず、すべての生命…命、魂を持つものは魔力を生成する。その魔力は体内に蓄積しない限り世界に放出されてるんだよ。魔法はその魔力を使って魔術と同じことをするんだ。まぁ、細かいことをもっと言えば色々とあるし、正確には魔術とは結構違うんだけどね」

 「まぁ、だいたいわかったわ」


 魔術と同じ術式では魔法は発動できない。

 そもそも、魔法と魔術は根本的なところが違う。魔術は自力で世界へ干渉して現象を誤認させて発生していたことにするというのに対して、魔法は世界にあるルールに基づいて現象を発生させる。

 どう違うのかといえば、主に順番だ。

 魔術が初めからそこにあったことに対して、魔法は新たにそこに生み出す。



 「さ、行っておいでよ。考えるより行動ってね。ほら、比呂がそうやって僕と話してるといっちゃんが泥沼状態においちっちゃうよ…と言うか陥ってるみたいだよ?」

 「え?あ、マジだ。いっちゃん、行こうぜ」


 再び考え混んでいるいっちゃんに目をやり、比呂に声をかけた。

 微妙な表情が浮かべては消えてを繰り返している。

 ごめんね、いっちゃん。でも、それは僕じゃなくて君が考えるべきものだし、僕が言うべきでもないし、解決の手助けはこれ以上できないから。

 これ以上口出しすると僕がいっちゃんの思考の方向を決めることになる。僕が述べる内容は僕がこう考えて欲しいという願いも含む。だから、これ以上は言わない。これ以上言うのは僕が願ういっちゃんの成長の邪魔にしかならない。

 例えばこれ以上言うのなら、いっちゃんは拓巳のことを深く考える機会を一度失うわけだし、僕が口出しすることで親子間で言い争いをしたりそういうことが起こる機会も失うことになる。

 僕はそういうのを割と大切だと思うんだ。

 …生まれてこのかた僕は一回もそういうのがなかったから。親子間でそんな言い争いをするほど仲が良くなかったから、そんな人らしい時に親子ゲンカはできなかった。



 「ほら、自分で聞いて、自分で考えて、自分で先に進みたまえ、若人よ!」

 「なんだよそれ。じゃあ新兄、また後で…来るんだよな?」

 「うん。先に行ってて。片付け次第行くから」

 「わかった…おーい、いっちゃん?」


 考えて込んでるいっちゃんを揺すり、現実に引き戻して比呂は僕の家を出た。



 「さて、じゃあ僕も仕事しないとね。ティアラ、お仕事は夕方だからいっちゃんについて行ってあげて」

 「にゃー」

 「頼んだよ〜」


 その後をテクテクとついて行った。

 僕はコップを片付けて、部屋に帰る。自分の部屋で広げるのは今回使用した武器類…鈴鳴と返り血に染まった服、それから実は使ってた鉄杭。

 血は武器を悪くする要因の中でも個人的にはかなり上位。ちなみに一位は忘れること。まぁ、数百年も使わなかったら朽ちるわけで…



 「さて、やること済ませて早く行こう」


 パソコンを開いてメールを打ちつつ、窓の縁を叩く鳩を見た。


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