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6-2.救出大作戦の裏側っていうね





 密偵からの鳩を受け取った2日後。

 その作戦は実行された。



 「ああ、うん。そうね。暇だね〜」


 電柱の上であぐらをかいて様子を眺める僕の膝の上でティアラがそう主張する。

 まぁ事実暇なんだから仕方はないけどね。

 一つ隣の電柱のうえに乗ったウサギのような使い魔がこちらを睨む。



 「ははは〜。ごめんごめん。いやぁ、無論怠けてるわけでも手を抜いたりしてるわけじゃないよ?」


 ウサギのような使い魔は再び下の観察を始める。

 暇なのは仕方がない。こういった作戦が暇であるというのは常だからね。むしろ暇じゃないというのなら一大事ってものだよ。そこまでして僕が意識を集中しないといけないっていうのならね?



 「ティアラ。起きて」


 そうして数分後、ちゃんと誘導されたいっちゃんが姿を現し、その前には向こうの魔術師が現れた。

 ティラを起こして、周囲を警戒しつつその様子を伺う。

 何かを話している様子。いっちゃんがそれを拒絶したところで周りが動いた。物陰から2人の魔術師が飛び出し、片方がいっちゃんの首元に針を刺し、もう一方が腕を掴んで地面へ転がす。そもまま両腕を拘束し、いっちゃんを担ぎ上げる。それと同時に別の場所からスーツの男が比呂を担いで歩いてきた。



 「…余計な人まで攫って。あとでお仕置きかな」


 たまたまいたから捕まえたのだろうけど、そこはうまくやり過ごしてくれないと。見なかったことにして撒くとか、こっそりと別の場所へ誘導するとかさ。これじゃ助ける人が増えたじゃない。



 「さ、行くよ」


 魔術師たちが歩いて行ったのを見て、僕らは地面へ降りる。

 ティアラを地面に下ろし、そのあとを追った。



 「ん?いいのいいの。予定外に一人捕まったところでどうせ助けることには変わりないからね〜。それに、その方があとで説明するのも楽になりそうだし」


 ある意味ではむしろ好都合だ。僕があとでいっちゃんに説明をする手間が省ける。比呂ならある程度理解したうえでの説明をしてくれるだろう。僕のことも含めてね。

 まぁ、ちょっとばかし怖い目にはあうかもしれないけど、比呂のことだし僕が助けに来ることぐらい想像しているだろうから問題はないはず。僕がいっちゃんたちのことになれば必ずひどいことになる前には止めるってことぐらいはわかってくれてると思うから。

 


 「まぁ、その場合はいっちゃんに怒られちゃったり嫌われちゃったりするかもしれないけどね…」


 それでもいっちゃんのためだからね。僕が嫌われても仕方ないことだし、あとでどうにかして許してもらうよ。やってることはどう考えても僕が悪いからね。敵に捕まらせて怖がらせた上で助けるなんて、自作自演もいいところだよ。

 他にも方法はあったはずだし、事実あとになって考えれば結構いろんな方法があったんだけど、向こうの都合も考えるとこれが一番都合がいい。向こうだっていっちゃんを襲わないということの明確な理由があった方が諌めるのが楽だからね。

 …まぁ、いっちゃんを襲おうとするやつは今回で消えるからもうそんなこともなくなると思うけど。



 「ここ?」


 そうこうしながら歩き続け、ティアラが止まったのはマンションの前。

 ウサギのような使い魔の方を見れば頷いている。

 中に入ろうとしてもなにもないし、周囲を確認してもこれといって怪しいものもない。ただ、確かに地下に空間があるというのはわかる。ティアラがさっきからそう主張しているからね。

 …さて、入り方は?


 

 「ん?そっち?」


 ウサギのような使い魔に先導されてマンションを通り過ぎる。

 その2つ隣の家の前にマンホールがあり、ウサギのような使い魔はそこの上に乗って開けろと言わんばかりにこっちを見ていた。

 おとなしく開けてみればその中へウサギのような使い魔が飛び込んで行ったので、そのあとを追って僕も飛び込む…いや、まぁ正確には中の梯子を下りて行っただけど。

 マンホールの下は案の定…というか普通はそうだけど、酷い匂いが漂っている。



 「ティアラ、おいで…『紋章(クレスト)戦乙女(バルキュリア)解放(オープン)』」


 カードを漁って周囲の匂いを自分の周囲を浄化することで防ぐ。

 ウサギのような使い魔がこちらを睨んでいるが、あいにくこれは一人用…正確に言えば今一人分でしか起動していないのでそこは範囲外なんだよ。僕のカードは込める魔力量で魔法の規模が増減する。僕とティアラ分の大きさしかないから、その匂いに耐えられないんだったらもっとこっちまでおいで。足元だけならギリギリ範囲内だからさ。



 「ほら、さっさとこんなとこ抜けちゃおうよ」


 なんとも言えない表情を浮かべたウサギのような使い魔をよそに再び歩き出す。

 数回曲がり、なにもない壁の目の前で立ち止まった。

 ウサギのような使い魔はそこへ魔力を送る。



 「おぉ〜。手が込んでるねぇ…ここってもしかしてこの辺の一番いいとこだったりする?」


 頷いたウサギのような使い魔に僕は苦笑いを向けてから開いた壁の中へ進む。

 できれば本拠地なんてものは潰したくなかったんだけど、この際だから仕方ないね。全員致命傷一歩手前ぐらいでいこうか。

 


 「じゃ、ここでお別れだね。案内ご苦労」


 僕と一緒にいるのを見られたら色々と都合が悪いのでウサギのような使い魔とはここで別れる。

 まぁ、できればここからの道案内こそ頼みたいんだけど、彼女もここの拠点にはあまり詳しくないらしいので、あまり意味はないだろうし。



 「さて、じゃあ進もうか。いっちゃんと比呂を救出して、それからもののついでに本命を片付けて早く帰るよ。救出が目的でギリギリ逃げおおせたみたいな感じだったら拠点を叩き潰さないで済むからさ」


 開いた壁の向こうは今までの汚かった通路とは打って変わって白くて清潔な雰囲気。

 少し先へ進めば通路が分かれて四方八方へ広がっている。多分2人がいるのは今は牢獄かそこらだと思うんだけど、それがどっちだかわからない。



 「ティアラ。追ってもらえる?」

 「にゃ」


 任せろと言わんばかりに…というか事実任せろと言って僕の腕の中から抜け出し、地面に立った。

 それからキョロキョロと周囲を見回してはあっちへ行ったりこっちへ行ったり。そのうち僕の方を見た。

 …どうやら、どっかに使い魔がいるらしい。匂いやら痕跡を綺麗に掃除してくれちゃうような奴がね。さすがにそれがなければティアラとて追えない。いきなりここにきて手詰まりかな。



 「じゃ、まずは一番左から行こうか。ほら、作られた跡だとここが3,4番目に古いみたいだからさ」


 道を作った順序から考えてみる。

 多分、はじめに作るのは自分たちの住居スペースとなる場所。次は実験室。じゃあその次となれば、新たな離反者のための住居スペースか余裕を持った時なら監獄だろうという安易な考えから。 

 まぁ、ここから先も分岐してたらもうどうしようもないので、適当でもあるけどね。

 適当に後先考えず…ともいかないので、適当に壁を握って砕き、通った跡がわかるようにパラパラと地面に置いていく。まぁ、痕跡とかが消えてるから使い魔に片されちゃう可能性の方が高いんだけど、何もしないよりかはマシだろうってね。巡回するようなタイプなら時間によってはまだ残ってる可能性もあるし。

 …ほんと、こういう入り組んだ場所は苦手だよ。覚えてはいられるけど、使い魔によって認識阻害だとか何やらとされれば、さすがの僕でも迷うからね。多分、何かしらの物を持たない人は認識阻害とかに引っかかるようになってるんでしょ?ここはさ。


 通路を進み、今度は十字路。

 やっぱりまた分かれたね。ほんとに、こんな場所に住んでて普段から迷わないのかね?何もしなくたって迷いそうだと思うんだけど。

 


 「おっと…」


 人が近づいてくる音がした。

 コンクリートの床だし、通路もそこまで広くないから音は良く響く。

 …あれ?音を聞いてくればよかったんじゃないかな?



 「ティアラ、いっちゃんたちの声聞こえる?」

 「にゃ?…にゃ!」


 やってみると意外と聞こえたようで、ティアラは歩き出す。

 ちょうどすれ違いそうになった人の首を掴んで地面に叩きつけてから僕もそれに続く。音が響いて僕がいるのがばれただろうけど、そもそも入ってきた時点でバレると思うので問題はない。

 ついでになんか認識阻害をどうこうしてくれそうな物を適当に奪ってはみたけど、せいぜいシケた中身の財布とか微妙なお値打ちの指輪とか魔術の媒体用ネックレスとかしかなかった。ちゃんと調べてみてもいまいちハズレだったのであらかじめ登録しておくとかそういうのかもしれないね。

 


 「あれ?戻ってきたよ」

 「にゃう」

 「でもほら、そこに僕が撒いたやつがあるよ?」


 地面にばらまいたコンクリートの壁の破片を見た。

 確かにここはさっき通過した通路だ。それでもなおティアラが進めと言うのだからと理由を考え理解する。いっちゃんたちが移動しているのだ。いや正確には移動させられているかな。

 2人共がいるとは限らないけど、多分一緒だろうね。実験台を運び出すのに二度手間を踏む意味はないからさ。どうせ一度にやってしまおうというのがあれの考えることだろう。



 「…ああ、移動してるのね」

 「にゃ」

 「そういうことなら、ちょっと急ごうか」


 そういうことならば、僕はちょっと急いだ方がいい。

 ちょっとばかしいっちゃんに現状を理解してもらうはずが、トラウマを刻みかねない状況に変わっちゃうからね。今、僕がここに来ているのはいっちゃん救出のため。あくまでもそれが一番重要なことであることは忘れない。ゲーム的に言えば、こっちがメインクエスト…でも、僕の本命はサブクエストに分類されるものなんだよね。申し訳ないけどさ。

 あくまでも個人的私情だからね。

 そうこうしながらもあっちこっちに枝分かれする通路を小走りに移動し、数回道を曲がってはまた同じ道に戻り、あちらへこちらへすでに来た道はわからなくなっている。認識阻害が邪魔でどっちから来たのかが曖昧になるのだ。しかも時折使い魔によるトラップが発動されて戦闘になるのだから、もう仕方ないよね。

 それでもティアラの反応を見る限りだとそれはだんだんと近づいている。相変わらず方向が定まらないのは未だ移動し続けているからという安心を得て、僕はひたすら道を進む。



 「こんなことなら呼び寄せておけばよかったよ。まぁ、向こうも向こうで時間稼ぎでもしているんだろうけどさ」


 ここを拠点をしている密偵を呼び寄せておけばよかった。

 そう思ってももう遅いし、多分呼び寄せなかった方がうまくいくのでこれでいいんだけども、それでもこんなあっちこっち行ったり来たりさせられてたらそう言いたくもなる。

 まぁ、使い魔が色んな能力を詰め込んだティアラだけで、人海戦術を使えない僕が悪いんだけどね。量さえいれば今回の作戦はもっと楽に進んでたはずだから。最悪どっかから借りてくることもできなくはなかったんだけど、使い捨てるようなことをする以上そうする気にもならなかったし。



 「にゃ」

 「ん?ああ、この道をまっすぐで着くのね」


 ティアラがあちらこちらへ耳を傾けるをのやめた。

 先に続くのはただひたすらに真っ直ぐな通路。どうやら移動が終わったらしい。この真っ直ぐな通路も動けないいっちゃんたちのために多分トラップだとか何かを避けるために曲がりくねって移動したのだろうけど、トラップを踏みにじって移動する僕らには関係ない。その点についてはよくやったと言ってやろう。敵ながらあっぱれ…じゃないか。

 


 「さぁ、行こうか」


 ティアラを片手に抱き、僕は通路を進む。

 壁から這い出てきた虫を叩き潰し、天井から降りてきた何かを殴り飛ばし、背後から近寄る誰かを蹴り飛ばす。

 そういえばあまり人には会わなかったけど、今は出てるのかな?それとも何かで一箇所に集まってるとか?ああ、そもそも魔術師はそこまで戦闘に秀でてるわけじゃないから使い魔にだけ任せて本体は引っ込んでるのかな。

 ま、倒さないで済むに越したことはない。今の現状から見て誰かの手のひらで踊っているのは間違いないからね。できればまだ使える魔術師たちの将来を消したくはない。ほら、ひょんなところで助けた命があとで…なんていうのはある種のお約束でしょ?童話とか絵本とかさ。

 実際そんなことを期待してるわけじゃないけど。事実、僕が魔術師を殺さないでおくことに対するメリットはそれなりにあるんだよ。交渉手段だとか、そういった方面でね。この世界では表立った力技が使えないからさ。



 「さて…久しぶりだね」


 僕は目の前にある扉を押し開けた。


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