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5-X.悪いが見ちまったぜ




 「後は…ってあれいっちゃんじゃん。どうしたんだ…チッ。またいっちゃんに近づきやがって」


 視線の先で道端に立っているいっちゃんを見つけ、それから横で死角になるような位置に立って話す魔術師の姿を見て舌打ちをした。

 まただ。

 俺の親友をこっちの世界に引き込もうとしやがって…



 「新兄は何してんだっての…」


 この間の体育祭の時だって新兄はほとんど何もしてなかった。

 新兄は俺たちのことをすごく大切にしてくれる一方でひどく過激な人だ。後になって思えばよかったとは思えるようなことだけど、何の説明もせずに無理難題を叩きつけてきたり、とんでもない状況に放り込まれたりする。新兄は大切にしてる人に対して無自覚に厳しい。しかも新兄はそれを素でやってきたからそれをあまりおかしいこととは認識してない。

 きっと今回だっていっちゃんのこれからのためにとか言ってたけど、過激なことをすると思う。多分、一度自分の置かれてる状況をしっかりと理解させるような…



 「あ…まさか新兄」


 いっちゃんを危険にさらすつもりだ。

 確かにすぐに自分の状況は理解できるだろうけど、それを一般人に求めるのは…いや、いっちゃんが一般かどうかは置いておくけど。



 「止めないと…いっちゃんが、こっちの世界に…もう片足は突っ込んでるだろうけど、それ以上来たら戻れなくなるじゃんか」


 魔術師という人種は、基本的に魔術を研究するというだけあって頭は悪くない。

 俺も小さい頃から色々と叩き込まれてきたから頭の回転は早い方だ。学校のテストの点数があんま良くないのは授業中に寝てるせい。

 だからすぐにピンときた。

 新兄は向こうの奴らにいっちゃんを連れて行かせる気だと。

 今、向こうは戦力を欲している。いっちゃんみたいな魔術に耐性のないけど強い人間は是非とも欲しい駒。洗脳でもかけて無理やり戦わせられるかもしれない。新兄のことだ。すぐに助けには来るとは思うけど、それが手遅れになる前…いっちゃんが誰かを傷つける前とは限らない。



 「誰かに伝えて…誰か…誰に…?誰に、伝えればいいんだよ。くそっ」


 うちの両親は治癒師と銀行員。戦闘には向かない。連絡できて俺の話を聞いてくれて、その上で役に立つ人は…俺にはいない。

 自分のつながりのなさが嫌になる。学校の生徒なんかじゃ使い物にならない。学校の…学校!学校には李川先生がいる。あの人は生徒のことならすぐに助けに行くはずだ。

 だったら……新兄、この間の体育祭の時に先生に会いに来たっていっちゃんが聞いてた。それが李川先生たというのなら、先生すらもこのことを知った上で協力しているんじゃ…



 「先に連絡してみよう。ダメだったら次を探す。早く、早く出てくれ…!」


 連絡先から李川先生を選び、通話をかけようとしたところでスマホを取り上げられた。

 視線を向けると、スーツの男が立っている。

 


 「いっちゃんの前にいたはずじゃ…!」

 「えぇ、いますねぇ。私が」

 「じゃあこれは…くそ!幻影か!」


 いっちゃんの前にいるのは幻影。

 俺がいることになんてとっくに気がつかれてた。

 そんな俺を放っておくわけなんかない。いっちゃんのことに気を取られすぎた。


 俺の口に布が押し付けられる。



 「さて…ご主人様には言われてませんが、見られてしまいましたもんねぇ?ついでに連れて行きましょうか。あぁ、また怒られてしまいますよ」

 「ゔぅー!ゔー!」

 「あ〜あ〜。暴れないでくださいよ。とりあえず眠って」

 「ゔー!ゔ…!ぅ…」


 男の肩に乗った鳩の目が光る。

 俺は体内の魔力を循環させて催眠に耐える。俺の家は治癒の家。耐久や解除に関しては俺もそれなりにできる。だけど、まだ習ったばかりのそれが何年も使い続けられてきた使い魔のものに対抗するのは難しい。

 というかこいつ、炎の柳枝(やなぎえだ)家の次男じゃないのか…⁉︎そもそも何で催眠なんてものを…?くそ!意識が…



 「ああ、不思議そうな顔をしてますねぇ。そうですよ。私は柳枝立心(りっしん)であっていますとも。えぇ。使い魔になぜ炎を使わせないのか?そんなもの決まっているじゃあありませんか…私は兄と同じ炎など使いたくないのですよ。あの愚かな兄などとね!」


 心底嫌そうな表情を浮かべ、そう言い切った。



 「ですからこそ!私はご主人様と共に行くのですよ!あの家を継ぐのは私です。あの愚兄などさっさと滅ぼしてやりますよ…おっと、言い過ぎましたかねぇ?まぁ、いいでしょう。ですから、今あなたに邪魔されるのはよろしくないのですよ。あぁ、どうしましょうか。どちらを取ってもご主人様に怒られてしまうではありませんか…あぁ、きっとこの様子もごらんになられているのでしょうねぇ」

 「は、なせ、畜生が…」

 「おや、まだ話す気力が残っていますか。さすがは結城家といったところですかねぇ。ですが、仕方がないので諦めてください。大丈夫ですよ。ほんのちょっとばかり、牢屋でおとなしくしていればいいのですから…ほら」

 「く、そ…」


 一気に強まった催眠に意識を持って行かれる。

 こんなことなら攻撃魔術の一つぐらい、覚えておくべきだった。



 「では、またお会いしましょう。結城比呂さん」


 視線の先でいっちゃんが担がれていくのが見えた。


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