1-0.元凶はすでに
今日から再開します。
ちょっと諸事情で3日に1回更新になります。すみません
漸く…そう、漸くの成功。
私が生涯をかけて生み出した唯一にして無二の完全なる生命。
この成功例は…この子は…誰にも渡すわけにはいかない。
「0号、こちらへ来なさい」
「はい、ご主人様」
私のDNAを基にしたためか、設定された外見とは少し異なり生まれたこの成功例はその美しく儚げな外見には不似合いな黒い髪と黒い目を持っていた。
少しばかり日本人のような面影のある彫の浅い顔に、生存期間の短さよる幼げな表情…ほんの13年間。成長が人と同じだということに私の逃亡生活は困難を極めた。まさか、成功例にこんなデメリットのようなものが付随してくるとは考えもしなかったが、すでに家族をすべて失った私にはひどく愛らしい期間であったと今は思う。
私の持ちうるすべてを教えた。この子は人並み外れた知識欲と知能による学習によって得た知識はとうの昔に私を超えている。
…もう、これで最後だ。
私は0号を抱き寄せ、その頭を撫でる。
「ここに、日本行きの航空券が一枚ある。私の生まれた国だ。誰もかれもが平和な世界だと信じて生きている。銃もナイフもない、幸せな場所だ。お前は、そこで生きて行け。可能な限りの追っ手は私が殺そう。あの憎き家々も私が仕留めてやろう。だから、お前はそこで幸せに生きなさい」
「ご、ご主人様は…?」
「私はもう十分生きた。もう、満ち足りたのだよ」
「で、でも!叡智の書はまだ…っ!」
「お前にその気があったなら、お前が引き継いでくれればいい。私は、満足してしまった。お前という成功例を生み出し、私は、もう満足してしまったのだよ。その先を求める気力はもうない」
「で、では、一緒に!一緒に行きましょう!ご主人様も共に行けばいいのです」
少年の幼い表情は不安と寂しさと恐れだった。
私も、可能であるならそうして生きたかったと思っている。この子と2人、家族のように生きる未来が欲しかった。
だが、それは無理だというのは体が告げている。
真っ白に染まった髪を掻き上げ、その言葉を遮った。成功例の肩を掴み、言い聞かせるように告げる。
「私は行けない。この髪を見よ。老人のそれだ。私の寿命はもう永くない。もって2年といったところか」
「で、でしたらその期間を」
「お前にはまだ先がある。私の願いはお前が継いでくれる。ならば、私は次世代へ願いを託すためにこの身を賭すのみだ。さぁ、行け。じきにここにも追っ手が来るだろう。準備はもう出来ているだろう?」
「は…い」
「私が助けられるのはこれが最後だ…強く、生きよ」
「わかり…ました。あ、ありがとう…ございます。ご主人様」
年老いたこの身の代わりに持っていた大きな荷物は昨日告げた通りその小さな体にあった小さな荷物へと変わっている。
リュック1つとスーツケース。そして、肌身離さず持たせた私の手記。
私はその背中を押す。
「さぁ、行け。お前の未来は、私が作ろう」
「ぼ、僕は…ご主人様の願いを…きっと…!」
「そうか…ありがとう。では行け。今後のことは手記に記してある。機内で読んでおくといい。あとは頼むぞ、0号」
「はい…」
今にも泣き出しそうな少年の背中を見送る。
タクシーのドアを開け、空港へ走り出したタクシーの仲からこちらを見る顔からは強い決意と強い寂しさを感じた。未だ名残惜しげに私を探そうとこちらを見る様子はひどく愛らしい。
愛着の湧かぬように、情の湧かぬように名付けなかった成功例。結局は無駄になってしまったが、それでも良かったのだと感じる自分がいる。
「…私も征こう。この身を賭した、最後の大魔術。とくと味わうがいい」
齢70にもなるこの身を動かし、このために作り上げた地下の部屋へと進む。
私の友人たる魔術師たちにも協力願いを出した。0号を知る者たちは快く引き受けてくれたものだ。老人となったその身にはあの子はまるで皆の孫だった。その子を守ろうという私の願いを共に持ってくれた。
「すまない。待たせてしまった」
「なぁに、私たちの仲だろう?気にするようなことじゃあない。なぁ?」
周囲を見渡せば、皆がうなづく。
かつては筋骨隆々だった青年も、今やしわがれた老人。
私の友人たちは各々の身と魔力を持ち寄りこの場に集まっている。外国の老人が流暢に日本語を話すのは少しばかり似合わないと、今更思いふと笑いがこみ上げた。
「ふっ…あぁ、そうだったな。では、我らが最後の大魔術。奴らに見せつけてやろうか?」
地面に配置された大量のクローン。各々の立つ場から描かれた大量の魔術陣はそのクロンの元へとつながっている。
すでに、この身から魂を引き剥がしその器へ移す手法は完成させた。理性も知性も残らぬが、構いはしない。その器はただ従順に我が命を燃やして私の最後の願いを叶えてくれる。
…叶うことなら本当に完成させ、私も共に行きたかった。
「準備はよいか?」
顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
私は陣を起動させて激痛を待った。
一瞬の激痛ののち、意識が飛ぶ。視界が数十個にも別れ、その視界がゆらりと立ち上がったのを感じた。
…どうやら、成功したのだろう。
全身タイツのような黒い服とローブを着た何十、何百ものクローンたちは階段を上がり、異様な集団となって私の家だった場所を出る。
「#$mK1JN#H1nO#n1N!」
言葉にならない音を吐き出し、走り出す。
言葉は理解できなかったが、その意思だけは理解できた。
『我が敵を殺せ』それだけだ。
「>D0'=VJM~$#<#"M"LFN!」
命がエネルギーとして消費され、意識の薄れるのを感じる。
一人、また一人と視界が消えていく。
そうして残った最後の一人の視界が見たものは、憎き家へと飛び込み、その身を爆散させるその瞬間だった。
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