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11.集まるのなら




 とある日の夜のこと。

 僕らは拓巳の店にいた。昼頃から貸切状態で騒いでいて、店的に大丈夫なのかが気になる。貸切って定食屋でやっていいものなの?



 「それにしてもこうやってみんなで集まるのも久しぶりだね〜」

 「そうだな。俺が結婚して以来か?」


 僕、拓巳、石井、石井…もうめんどくさいから和也と未来といこう。それに結城と渡部が集まっていた。

 ちなみにゆーちゃんはこっちの仕事で四国にいるからここにはいない。非常に残念だ。でも、魔術師の中でも階級が上がるような結構重要な案件だったみたいなので仕方がないと思う。

 


 「そうだね〜。僕と結城さんはよく来るけど、みんななかなか来ないから」

 「いや、俺だって社会人になって、上司と飲みに行ったり…マジで大変なんだぞ?」

 「平社員は大変だな」

 「平社員で悪かったなっ!渡部は銀行員だし、未来は弁護士だし、しんちゃんなんか会社持ってるし、結城と拓巳は家を継ぐし…なんか俺だけ」

 「ま、まぁまぁ…取り敢えず飲め飲め」

 「うん、サンキュ」


 和也は拓巳からビールを受け取って一気飲み。

 一種の同窓会。久しぶりに会った僕の大切な友人たちは、相変わらず大切だった。



 「でもあんた、未来と結婚してるじゃない。私なんかまだ独り身なのに」

 「もうみんな二十代後半だからね〜。そろそろ結婚とか考えるんだったら…ねぇ?僕には関係ないけど」

 「実際の年齢だったら俺らもっと行ってるけどな」

 「も、戻ってるからセーフよね…?」

 「別にどっちでもいいな。俺は今ので満足してる」

 「なんか渡部君達観してるね〜…で、誰か付き合ってる人とかいないの〜?ね〜ぇ〜」

 

 実際、僕らの中では結城と渡部のみが残っているのだ。

 …僕は関係ないよ?何せ、結婚どころか一緒にいるのも難しいから。先にみんないなくなっちゃうんだから、深く関わりすぎると辛い。

 そういうところはようやく人間らしく戻ってきたのかなと思う。



 「…い、いない」

 「じゃあ、仕事人間なわけだ〜。ほら、そんな風にしてるといつの間にかおじさんになっていつの間にか誰にも看取られずに死んじゃうよ〜?」

 「考える先が早ぇよ⁉︎俺らまだ28だからな?看取られるって」

 「え〜…だって、うちの父さんだとその頃にはすでに僕が小学生だったよ?」

 「い、いや、それは普通に早いだけだろ?」

 「…ということで、石井君!子供はまだ?僕は拓巳と石井君と安井さんの子供をずっと待ってるんだけど?主に高校生から!」

 「強引に話逸らしたな…いや、というかこれも早すぎるだろ。高校って」


 心待ちにしていたのは事実だよ?

 主に卒業する前ぐらいから。なにせ2回も一緒に召喚されたんだし、もうこのままいくと思ってたわけだからさ。



 「…で、どうなんだ?一応気にはなるから聞いてやる」

 「い、いや…それが…」

 「ちょ、ちょっと…和くん」

 「…あれ〜?もしかして、もしかしちゃったりする?」

 「未ぃ〜来ぅ〜?私聞いてないんだけどぉ〜?」

 「あ、は、春ちゃん!ちょ、ちょっと待ってー!やぁー⁉︎」


 未来が結城に襲い掛かられるのを見てみんなで笑った。

 まぁ、こうやって老いと成長という時が流れていくいうのは取り残されるようで少し寂しいが、それはそれで僕の喜びでもある。だからこそこの時間が長く続くことを僕は祈るのだ。

 …そのためには汚れ仕事も面倒ごとも多少は請け負う。



 「で、ヒゥルは大丈夫なの〜?」

 「ん?おう。順調だな。まだ安定してないけど、結城と新がいるからな」

 「…俺も結城としんちゃんに頼んでおきたいんだけど」

 「まったく…そうならもっと早く言いなさいよ」

 「う…それはごめん。ちょっと恥ずかしかったっていうか、俺もどうしていいのかわからなくて」

 「言い訳しないっ…もぉ。未来、とりあえず近いうちにちゃんとうちに来てよ?」

 「わ、わかったから、それやめて…っ」


 結城にグリグリとこめかみにゲンコツを食らっていた未来がようやく解放されて椅子に腰を下ろした。

 いやぁ、でもということは石井家と神野家はちょうど同じ年の子供ができるというわけだ。計らずして幼馴染ができたよ。流産とか死産とかは僕がついてる限り絶対にあり得ないので、もう確定事項。



 「はぁ…なんか、私だけ残されたみたいじゃない。しんちゃんと仕事人間のこいつはいいとしても」

 「俺までこいつと同じ扱いか」

 「当然よ。あ〜、なんで私あの家に生まれたのよ〜」


 梅酒を一気に飲み干して、結城が愚痴り始めた。

 酒瓶片手に渡部がそれに付き合い始めたので放置しよう。きっとその手の愚痴には慣れているだろうからね。銀行員に対する単なる偏見だけど。



 「で、拓巳。そっちはどうなの?」

 「どう…ってなにがだよ?」

 「いや、普通に近況〜。経営とかもうそろそろ慣れてきたでしょ?ついこの間まで僕のゲームセンターに遊びに行こうっていう誘いを断るぐらいには忙しかったんだからさ」

 「ああ、まぁ…慣れてはきたなぁ。仕入れ先とかいろんなところに親父に連れて行かれたし、メニュー全部覚えたりもしたし、何つうか…本格的に”俺の店”に成ってきたよ」


 まるで夢を語る青年のようだ。

 …いや、まぁ事実夢を語る青年な訳だけど。実際、この店を継ぐっていうのは中学の頃からずっと言ってるわけだからね。

 やったね拓巳、夢がかなったよ。



 「そか。じゃあ、充実してるみたいだね〜」

 「おうよ」

 「じゃ、遊びに行こう?」

 「その誘いは続くのかよ⁉︎かれこれ1年以上され続けてると思うんだが…というか今の今までの真面目さはどこに行ったんだ」

 「いやぁ、だって拓巳が構ってくれないんだもん」

 「もんっておま…いや、まぁ遊びに行きたいのは山々なんだけど、ヒゥルのこともあるから――」

 「うん、知ってる。言ってみただけ〜。ちょっとリア充してる僕の親友をからかいたくなっただけだよ」

 「…まったく。まぁ、落ち着いたらどっか遊びに行こうな」

 「いいよ。その時間はヒゥルに使ってあげて。僕はこうやってここに来るだけで結構満足してるからさ」


 それに、きっと拓巳の子供が生まれたら僕は近所のお兄さんポジションに収まってここに入り浸る予定だから結果は同じようなものなのだ。

 早く産まれないかね〜。



 「拓巳〜、お代わりくれー」

 「はいよ…って、そんな酒弱かったか和也?顔真っ赤だぞ?」

 「別に酔ってないんだよ。俺なんか赤くなりやすいみたいで、すぐこうなっちゃうんだよ」

 「へぇー…まぁ、大丈夫ならいいんだがよ」

 

 お代わりを注いで和也に差し出した横で、結城が未だに愚痴を言っている。



 「ねぇ、ちょっと聞いてるの!」

 「ああ、聞いてる」

 「聞きなさいよ!」

 「…おい、拓巳。この女をどうにかしてくれ」

 「それでさ〜、この間なんだけど、ヒゥルと買い物に行ったんだよ〜。そこで」

 「松井ぃ〜!」


 面白いので結城の相手は渡部に任せよう。

 助け舟なんて出さないよ?というか結城が渡部のことを標的にしている以上逃げられないとは思うけどね。なにせ一度始まると長いんだよ、あれは。



 「ははは…泰治も大変だな」

 「だね〜」

 「いや、押し付けたのお前だからな⁉︎」

 「いいじゃん。ほら、本人もあんまりいやそうじゃないし?」

 「そ、そう…なのか?」

 「いやじゃあないが面倒なんだよ!」

 「なによ!私が面倒な女だっていうの⁉︎」

 「あー…まぁ、頑張れ。俺は巻き込まれるのごめんだわ」


 拓巳がなんとも言えない表情と苦笑いを浮かべ、2人を眺める。

 まぁ、結城がお酒にあまり強くないのはこの中では結構公然の事実なので、みんなして微笑ましいものを見るように…もとい、渡部を除いたみんなで見ていた。



 「ほぇ?」


 それから訳のわからないと言ったような表情を浮かべた結城を見てくつくつと笑いがこぼれ、結局みんなして大笑いした。

 あまりにも気の抜けたような表情だったのだ。普段だったら絶対に見られないだろうね。



 「ところで拓巳、ヒゥルちゃんは最近どうなの?大丈夫なのか?」

 「ん?大丈夫って…ああ、そうだな。そっちももう少ししたらそうなるから心配だと」

 「まぁ…俺も未来の体のことも心配だし、いろいろ調べてはみたんだけど。こういうのって実体験のほうがいいよな?」

 「確かにそうかもしれないわな。いやぁ…でも、特にどうとも言えないか。俺もどうしたらいいのかわからないし」


 そんな話を始めたので僕は未来の横へ移動する。



 「で、未来さんはお仕事順調なのかな?」

 「…え?わ、私?えーっと、そうだねぇ。順調…かな?」

 「へぇ〜。それはよかった。それでお仕事は続けるの〜?それともお休み?」

 「まだ、頑張るよっ!ほら、今から休んだら仲間にも迷惑開けちゃうし、それに…」

 「それに?」

 「和くんの負担になっちゃうかも、しれないし…」

 「ははは〜。本当、相変わらずの心配性だね〜。まぁ、何かあったらうちにでもおいでよ。どうせ日中はうちにいるし、協力できることなら手伝うよ」

 「うん、ありがとう…しんちゃん」

 「僕は君らの子供を楽しみに待ってるんだからね。早く産まれないかなぁ〜」

 「気が早いよー。まだ、1ヶ月も経ってないのに」

 「あら、そうだったの?じゃあ、生まれるのは来年のこの辺りなんだね。うわぁ…夏のど真ん中なんて、暑そうだね〜」

 「うーん。じゃあ、しんちゃんに魔法かけてもらいにくるね」

 「え〜、自分でかけなよ。一応使い方は教えたんだからさ〜」

 「でも私たちは魔法は使えないってことになってるんでしょ?ダメじゃん!」

 「あ…そういえば」


 ゆーちゃんも含めここにいる全員が魔法(・・)を使えるが、そのことは魔術師関連には漏らしていない。あくまでも僕だけ…正確には僕と結城とゆーちゃんのみがそれに関わっている。

 みんなには幸せな世界を堪能してほしい。

 その姿を、いつまでも見ていたい。



 「まぁ、実際俺とかこっそり使ってるけどな」

 「え?拓巳、どこで使ってんだ?」

 「家の中でクーラー代わりとか。ばれないように気をつけてるけど」

 「まぁ、魔術師の探知は意外と甘いからね〜。近くにいて、魔術を使っている状態で初めて魔力が探知できるぐらいだし…というか、魔法は探知できないみたいだし。あくまでも個人の魔力の動きをみるものだから、世界の魔力の揺らぎはわからないみたいだよ」

 「あ〜…まぁ、よくわからないけど、目の前で使ったりあからさまなのを使ったりしなきゃばれないってことらしい。おかげで先月の電気代がめっちゃ浮いた」

 「ということで、ばれないようになら使っても問題ないよ〜。最近、魔術の探知についてちゃんと調べ上げてきたからさ」


 この前、ゆーちゃんの家のお父さんとそんな話をしたのだ。

 おかげで多少なれど探知とかの魔術について詳しくなったよ。やったね。



 「しんちゃん、本当そっちの世界に馴染んでるよな。俺たちのことわざわざ隠したりしてくれてるんだよね。なんか申し訳なくなってきた…」

 「いいよ、別に。僕が好きでやってるんだからさ〜。大丈夫、僕は君らの安寧と一般的な生活のために尽力する次第だよっ!勇者の陰で動く黒子役だからね、僕は」

 「あー、久しぶりにバスケしたくなってきた。泰治、新、このあと公園行こうぜ」

 「無理だな。俺はこれを送っていかなくてはいけなさそうだ」

 

 渡部の肩にもたれかかって眠りこけている結城を指差した。

 …面倒になったからって飲ませて潰すのはダメだと思うんだ。



 「そうなるまで飲ませたのは渡部君でしょ〜」

 「まぁ、さっきから次から次へと注いでたしな」

 「結城さんに飲ませたらすぐ寝ちゃうって〜。せっかく未来さんが飲みすぎないように注意してたのに」

 「あ、いや。それは悪かった」

 「さて…じゃあ、そろそろお開きにするか。もう8時だし」

 「そうね〜…じゃ、拓巳公園に行こうか〜」

 「おうよ」


 ガタガタと席を立ち、食器類を洗面台に置いてからみんなで店を出て、ちゃんと鍵を閉めたあと歩き出す。

 こうやってみんなと歩くのは向こうの世界以来?それとも…



 「あれだな。昔は広かったのに、今じゃこんなにも道が狭くなったってこういうことなんだな」

 「そうだね〜。昔は自転車で走り回ってたのにさ」

 「いつの間にか、俺たち大人になったんだね。なんか、みんなで召喚されたのが昨日のことのようにも思えるのに」

 「それはない」

 「えっ⁉︎ちょっとひどくない?俺、本当にそんな感じがしてるんだけど。なんか昨日のことのように思い出せたりしない?」

 「まぁ、帰ってきてすぐはどこかの頭のあまりよろしくない学生が苦労していたな」

 「あ、いや…やっぱり昔のことってことで思い出さないで」


 まぁ、僕からすれば確かに昨日のことのようでもあるんだけど。

 でも本当、いつの間にか歳をとったんだね。周りを見れば、いつものように笑うみんながもうすぐでおじさんと言われるような年齢になっている。

 きっと、また取り残されるんだろうね。仕方のないこと。



 「まぁ、勇者だった俺らもいつの間にか普通の人になったよな」

 「日常で魔法使う人には言われなくないと思うよ?」

 「あ、それはまぁ、便利なんだからしょうがないってことで」

 「ははは〜…でも、いつの間にか君らは普通の人になっていくんだね」

 「……そう、なんだよな」


 ここにいる中で僕が神様だと知るのは拓巳だけ。

 それでも、他のみんなだって僕が長く生き続けてきたということは知ってるし、ちょっと嘘はついてるけど僕がこれからも死なないような人種であることも知っている。



 「で〜も残念。どうせ君らは近い未来でまた一般人から外れる運命にあるからね」

 「…は?」

 「僕ら召喚された組は敵魔術師たちから目をつけられてるのは知ってるでしょ?でも、それが干渉してこないのはなんでだと思う?」

 「え?いや、突然どうしたんだよ」

 「正解は今は監視の目が強いからだね。今は僕らの魔術師たちが目を光らせてる…けど、君らの子供の代になったらどうかな?魔術師だってそこまで多い人数に手は打てない。だから多少監視の目が緩くなって掻っ攫いに来るかもしれないんだ」

 「…それって、俺らの子供が襲われるかもしれないってことか?」

 「そういうこと〜。だから、また普通の人から離れるね。一応僕が注意はしているけど、もしものこともあるから気をつけてはいてね?」


 注意はしておく。

 いざという時に間に合わなかったでは僕も面子が立たないし、なにより気にくわない。僕だって完璧ではないのだ。出来る限りの事はしておきたい。



 「お、おう…まぁ、気はつける」

 「まぁ、僕は君ら勇者のために色々と頑張るのは吝かでもないからさ、死ぬまで…君らみんながいなくなるまでは、ずっと味方だよ」

 「だから今から死ぬとかは早いっての」

 「そうだね〜」

 

 きっと、みんなにとってはまだ先のこと。

 でも、僕にとってはもはや数日後のことのように感じるのは…まさに神のみぞ知る悲しみだろう。


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