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8.心配するなら




 一般的な護符魔術と僕の紙面魔法の違いを言っておこう。

 一般的な護符魔術は多くない種類の魔術を護符に文字を描いて作り、魔力を込めて投げることで発動する。また、その込める魔力量により多少の威力の変化があるが、せいぜいファイヤー・バレットがファイヤー・ボールに変わる程度の差だ。あと特筆するべき点と言えば、護符用の紙さえあればその場で描いて作るという実践的な対応も可能なくらい。

 それに対して僕の紙面魔法はありとあらゆる魔法を備え、それをカードにあらかじめ焼き付けておいて使う。ゆえに多くのカードを持ち歩かなければならないが、その多様性は折り紙付き。威力はカードによって違うが、多くのカードがあるゆえに多くの手札を切ることができる。

 で、なんでこんなことを言っているのかというと、その護符魔術を使う魔術師と言い争いをしているからだ。



 「カードがなければ戦えぬくせになにを偉そうな」

 「いや〜、準備はできてもせいぜい弱い魔術程度の威力しか撃てないんだったらなくても同じでしょ?それにそっちも護符用の紙がなければ描けないじゃん」

 「うっ…だが実戦における我が護符魔術の優位は揺るぎはしない。なにせそちらは使う魔術を選べぬのだからな」

 「でもそのカード一枚一枚は魔術師の家を片っ端から集めたぐらいの量の魔術があるんだよ?たかだか数十個程度の魔術しか描けない護符魔術と比べるなんて勘弁して欲しいよ。こっちに威力も手数も圧倒的に劣っているというのにさ」

 「うぐっ…し、しかし、実際の場でどちらが有利であるかと言えば」


 ああ、なんでこうなったかって?

 今、僕らは報告会をしていたんだよ。自分の家の周りに起きた出来事やら異変などを話す定期報告会。



 「ええい、2人共やめぬか!顔を付き合わせる度に口論しよって」

 「あ、うん。ごめんなさ〜い」

 「ふんっ!元といえばこいつが…」

 「そっちが見下すような態度をとったんでしょ?僕は悪くない」

 「なにを!我が護符魔術を愚弄したのはお前ではないか!」

 「やめいというのが聞こえぬか!」

 「ほ〜い」

 「…失礼しました」


 僕と護符魔術の家”越坂部”の長男、それからここいら一帯を任されている”天沼”の現当主、他いくつかの魔術師が集まっている。

 越坂部と僕は入った当初からソリが合わず…というわけではなく、向こうが一方的に文句を言っている関係だ。初めて顔を合わせた時から高圧的な態度を取ってきて気にくわないのでからかった結果が今。それからというもの毎回僕に突っかかってくるのだ。僕は悪くない。



 「まったく、貴様らときたら…まぁよい。報告会はすでに終了している。貴様らも早々に帰るがよいわ」

 「お先に失礼させていただきます」

 「お疲れ様でした〜」

 「…劣悪護符の。貴様は残れ」

 「え〜…僕なんかしたっけ〜?」

 「大学での行方不明の件…聞いておらぬぞ」

 「あ〜…でも別にいいじゃん?僕らの管轄内じゃないんでしょ〜?」

 

 あれが起こったのは東京のある大学のキャンパス。僕らが住むのはその隣の県。管轄としては完全に別のものになるだろう。

 ま、その場所に直接いたわけだし、僕に関係ないかといえばあるわけだけど。



 「いいから話さんか」

 「はいはい。僕の時の学校のと同じだよ〜。ただちょっと別世界に誘拐されてただけ。それにちゃんと彼らも戻ってきてたでしょ?」

 「…やはりそうであったか。ならばもう帰ってよいぞ」

 「ほ〜い」


 彼ら…飯田先輩たちは僕より2週間ほど遅れて帰ってきた。

 ま、想像通りなら僕の残してきた情報から博士が作り上げちゃったんだろうね。というかそうじゃなかったらどうやって帰ってきたのかわからない。

 それから彼らは向こうの魔術師たちに尋問まがいなことをされかけたようだったけど、生憎今回行っていた世界は魔法の技術が世界に基づいたものではなくそのエネルギー源として魔力を使うだけで、魔法とはかけ離れた正しく魔法工学の世界だったためにこっちの世界でも使える。だから、しっかりと抵抗して周囲の建物を半壊させたそうだ。

 ちなみに、こっちの世界に魔導機は持ち帰ってこなかったよ。さすがにあんな大きいものを持ってきて隠すのは無理だからね。彼らが持って帰ってきたのは武器と防具の類、それから便利用品。



 「…『紋章(クレスト)聖騎士(パラディン)解放(オープン)』」


 建物…”i”を出た直後、横から飛んできた火の玉を不可視の壁が防ぐ。



 「危ないじゃないのさ〜」

 「ふん。どうせお前は防ぐのであろうが」

 「お、これは僕の能力が信頼されてる証拠かな?」

 「ぬ…そ、そうではない」

 「あ〜ら、照れちゃって〜」

 「う、うるさいわ!………父上に言われたのだ。我らは同じ道をゆくもの。敬いはすれど、蔑むべきではないと。先ほどはすまなかった」


 彼は本来正直者だ。その上真面目で、他人を思いやれるような優しさも持ち合わせる。

 ああ、彼は(・・)いい人だよ。実際僕をバカにしているのではなく、自分が上だと証明したい…いわば、僕を好敵手(ライバル)のように見ているだけだからね。

 どちらかといえば問題はその父親の方だ。

 彼は父親のいうことをよく聞く。上辺ばかり取り繕われた、内心では微塵も思っていないようなその言葉を。



 「あら珍しい〜。君の方から頭をさげるなんてさ〜」

 「くっ…だからお前と話すのは嫌なんだ」

 「なに?言われてたことを忘れて今まで僕と口論してたの?」

 「そうではない。ただ、少しばかり言い過ぎたのではないかと…」



 彼は子どもらしい後ろめたいという感情をその顔に浮かべた。


 越坂部家というのは古くからこの地に住む魔術師の一家で、その本拠地は毎年祭りを行っているようなそれなりの規模を誇る神社…僕が何時ぞやに不良の木につるした神社だ。古く強い魔術師であるゆえに発言力も強く、またそのルーツも深く黒い…なにせ彼らはもともと陰陽師と呼ばれて人を(・・)を狩っていたのだからね。それにそもそも魔術師っていうのはあまり手札を晒したりはしない。せいぜいどんな魔術を扱っているのか…例えば、護符魔術だとか宝石魔術だとか水魔術だとかっていうのを協会に登録しているぐらいだ。要するにそれを堂々と見せびらかす事ができるぐらいには強い家ということだ。



 「ふ〜ん。まぁ、仲良くやろうよ…だってあれ、君は護符魔術を自慢したいだけでしょ?僕の紙面魔法より優れてるってみんなにさ」

 「ち、違う…」

 「ふふっ…ま、今はそういうことにしておいてあげるよ」


 表に魔術を出したくないと思っている僕らの中には違法なことに手を染めていたり、道徳的にどうなのっていう魔術を使ったり、人体実験を繰り返していたり…まぁ、碌でもないのが混じっている。

 僕が魔術師として登録する際に、ここら一帯の魔術師の当主と顔を合わせた。この周辺にいる僕ら側の陣営の魔術師は15家。さっきも言ったここら辺一帯をまとめる複製の”天沼家”、次に大きな勢力をもつ護符魔術の”越坂部家”、ゆーちゃんの解析の”米崎家”、医療魔術で有名な”結城家”、身体強化の”李川家”、火魔術の”臼井家”、精神魔術の”姫路家”、蟲使いの”島村家”、地魔術の”石田家”、探査の”浅井家”、操作魔術の”大河内家”、幻影魔術の”前川家”、合成獣の”垣内家”、魔武術の”野分家”、そして僕の”松井家”。

 で、その碌でもないことをしてきたのは越坂部、結城、李川、姫路、島村、大河内、前川、垣内。まぁ、そのやってきた内容は想像に任せる。それに未だにそれを続けているところもあるんだからもうどうしようもない。

 


 「それだけだ。僕はもう帰らせてもらおう」

 「はいはい。じゃ、気をつけてね〜」

 「そちらこそ夜道にでも気をつけるがいい」

 「…いや、それって咬ませ犬のセリフじゃない?」


 僕のつぶやきが聞こえたのか聞こえなかったのか、彼は早足でその場を立ち去っていった。


 ちなみに、この彼は今も続く家の悪行とも言える行いを知らない。

 何をしているのかといえば、護符を人に貼って化け物へと変化させて使役しているのだ。昔はそれを狩っていたが、今はそれを飼っている。邪を祓う護符が邪を作るなんて、なんとも滑稽な話だ。



 「でもきっと…近いうちに恋君は知るんだろうなぁ〜。大丈夫かな?」


 僕の勝手にライバル視する彼…越坂部(おさかべ)(れん)は、越坂部家の長男。

 今の報告会だって、本来は当主が直接来るようなことだ。そこに顔を出しているということは次期当主としての教育の一環なのだと思う。あとは他の当主への顔見せ。

 だからきっと近いうちに彼は見せられるはずだ。ただも使い魔だと思っていたものの材料や地下にある

おぞましい実験場、過去に越坂部がしてきた残虐な真実を。

 あの腹に一物抱えてそうな父親ならまだしも、あの彼にそれを受け入れられるのかがすごく心配だ。



 「…ふむ。それにしても随分と僕は優しくなったもんだね」


 昔ならその壊れる様を嬉々として眺めていただろう。それにこの間の召喚された件だって、塔に幽閉された時点で隣の国あたりを消しとばして一体何を敵に回したのかを思い知らせているところだ。

 随分と優しくなったものだ。



 「あ、浅井さ〜ん」

 「おや、新ちゃん。今日もお仕事かい?」


 歩いていると、少し先に浅井さんが見えた。

 今来たところを見ると、幼稚園に孫を送りにでも行っていたのだろう。報告会には息子が出てたし。



 「うん。あ、あとこの間のおはぎ、ご馳走様。美味しかったよ」

 「そうかいそうかい。それは良かった。また作ったら持って行ってあげるねぇ」

 「ありがと〜。浅井さんのおはぎはすっごい美味しいからとっても嬉しいよ。ゆーちゃんも喜んでたし」

 「じゃあ、また作るねぇ」


 浅井家は魔術師の家系であるとともに老舗の和菓子店である。 

 まぁ、浅井さんはもうお菓子職人は引退しているけど、たまに作るお菓子を"i”に持ってきてくれることがあるのだ。

 全く、こんな人から今の当主が生まれたとは思えないね。



 「じゃあ、またね〜」

 「えぇ、またねぇ」


 僕は手を振って浅井さんと別れる。

 

 そもそも、魔術師にあまりいい人がいないのだ。昔は浅井さんだって極悪非道なことをする人だったのかもしれない。ま、今は違うからどうでもいいけど。

 この世界の魔術というものによって作り出された集団はひどく歪だ。

 テロ事件の一端を担っていたかと思えば、発展途上国で医療団を作っていたり、国の暗部的役割をしてると思えば、警察組織に紛れて治安を守っていたり。

 魔術師たちは協会と呼ぶ一つの大きな集団に属し、裏側から世界を回しているのだ。危険思考な人もいれば平和主義者もいる。多分その割合は今ぐらいがちょうどいいんだと思う。世に出ず、それでいて世界に大きな影響を与える。

 だが今、その均衡は破れ始めている。

 他でもない、僕らというイレギュラーによって。


 

 「…まったく、どうせなら拓巳も巻き込んでおけば良かったよ」


 その時、世界はどう変わるのだろうか?

 現在、召喚された者たちは厳重な警戒の元、どの勢力にも関わりを持てないよう見張られている。

 だがそれも近い将来なくなるだろう。なにせ魔術師はそんな馬鹿みたいにいるわけじゃないのだから。おそらく、十年…それぐらいでその警戒は解かれる。

 それぐらい経てば人は大きく変わってしまう。家庭を持ち子供だって生まれるかもしれないし、仕事に打ち込みいい役職についてるかもしれないし、折れて死んでしまうかもしれない。

 そこに魔術師たちは付け入る。

 魔力を持った子供…早いうちから洗脳すればいい兵器にできるだろう。

 心の折れた大人…力さえ与えれば世界に反撃を始めるかもしれない。



 「本当になんで僕だけ毎回こんな損な仕事をしないといけないんだろうね?」


 僕が原因のこの事態を抑えるのは当然…な訳がない。正直どうでもいい。強いて言うならルディが創った世界だから壊れないように見てはあげるけど。

 今この件に関わるのは拓巳や石井たち、あとは僕の弟の将来のため。僕は彼らの未来を見るのを楽しみにしている。なにせ彼らは僕のお気に入りだ。

 


 「今しばらく…こんな仕事にも我慢してあげるよ」


 だからせめて…いや、どうか僕を楽しませて欲しい。


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