7.捕まるのなら
召喚されて約2ヶ月が経った。
彼らは国を知り、民を見て、うまいこと誘導され皇国に付くこととなり、毎日魔導機の操縦と改造に勤しんでいる。
魔導機…それは魔力をエネルギー源とする一種の機械のようなもので、この世界では向こうの世界よりも技術が進み、ありとあらゆる場所に使われていた。すべての人が多少なれど魔力を持つこの世界では全ての機械類のエネルギーは魔力に頼っており、一般的な携帯やゲーム機などのものまで魔力を電源にしている。
ちなみに家庭に電気を供給しないで照明とか家電とかはどうやって動かすのかというと、魔力を供給する会社が存在し、そこの社員がコアと呼ばれるものに魔力を貯めて電気のように家庭へと送っているらしい。それゆえに魔力供給会社はこの世界で一番の規模を誇る大企業だったりする。
で、そんな中僕が何をしているのかというと、魔導銃を作っていた。
「とりあえずこれで完成〜」
飯田先輩たちが巨大な魔導機を操縦し、技術班と連携してどんどんその機能を上げている中、僕はやっぱり魔導機を操縦しても武器が役に立たず、牽制に使うか特攻する以外に脳のない粗大ゴミになるので乗るのを諦めたのだ。格闘ゲームとかと同じ要領だから操縦自体は結構楽にできたんだけど、なぜか銃とかミサイルとかが当たらないという事態となった。
それで、なんで魔導銃なんて作っているのかと言えば、ただ単に剣で戦いたくなかったからだ。
この世界は魔法を放つほどの魔力があれば魔導機に乗ったほうが強いために魔法が浸透していない。そのため、一般的な兵士は銃を扱って戦うのが基本だ。銃を打ち合う中で剣を使うなんていう猛者も居らず、仕方がないので僕も銃を使おうということだ。
さて、そこで思うだろう。僕は銃が使えないのではないかと。
正解だ。僕は銃を使えない…正確には狙った場所に当てることが絶対にできない。狙った場所に発射された弾はなんらかの理由で別の場所へと着弾し、そのずれることを前提に撃ったとしても外れる。どうやら僕が狙おうと意識したものに当てられないようになっているらしい。
そこで、僕は考えた。
いっそのこと弾を命中させようと思わなければいいのではないかと。
これだけでは言いたいことがわからないだろうね。何が言いたいのかというと僕が撃ったものは対象に当たらないようになっている。ならば、当たらないという状況を生み出せなくすればいいじゃないだろうかということだ。
僕が国を滅ぼすようなミサイルを打ったとしても狙ったものには当たらない。だけど、その衝撃や被害は受ける。
「エネルギーの供給開始…」
どう見ても小型の銃にしか見えないそれは僕の右手に握られ、赤い光と鉛色の輝きを放っている。
「さて、発射〜」
高台に寝そべり、上空に向けて放たれたそれは周囲の風景を真っ赤な光に染め上げ、直径数百mの光線を生み出す。
つまりだ。外れるものを作るのが悪い。当たらない可能性を消してしまえば僕がどんなに命中はさせられない呪いがあるとはいえども絶対に当たる。とんだ抜け道だ。
「…さて、これをどうしようか?」
と、まぁ作ってみたはいいものの、これを撃てば敵を倒すどころかその敵の背後にある国を地図から消せる。もうこれだけで世界の脅威だ。
魔力供給量によって威力は左右するが、今のは最大ではない。せいぜい60%くらいだ。そんなものを個人で持ってるといえば…まぁ、ね?
「な、何事ですか!」
「ごめん、実験」
「じ、実験⁉︎と、とにかく一度皇国城までお戻りください。この場はすぐに騒ぎになります」
「そうだね〜」
大急ぎで迎えに来たファロンの後ろを歩いて城に戻る。
郊外の高台を自腹…正確には研究費の中から捻出して購入して実験したのだが、すでに周囲から人の声が聞こえてきた。まぁ、こんな光線が国内から立ち上ったのだから騒ぎにもなるよね。
「ふ〜む。ま、とりあえずこれどうしようかな〜?」
「ま、魔導銃ですよね?護身用にと渡した」
「そういえばそうだったね〜。悪いけどちょっと改造したんだ。僕は銃とか弓を当てることができないから、威力をあげて当たるようにした」
「え、ええと…それは…?」
「つまり、的が小さいから弾を大きくした」
「…使用をお控えいただけませんか?」
当然言われると思っていた答えだ。
無論、僕だってやたらめったら打つつもりは毛頭ない。だって危ないし、味方に被害が及ぶかもしれないし。
「別に敵以外に撃つつもりはないよ〜。安心して」
「それは…私たちが敵になれば?」
「撃つよ?」
「………」
「なんてね〜。ファロンはわかってるみたいだし大丈夫でしょ?今もうまく五月蠅い連中を抑えてるみたいだし、今回の件もうまいこと交渉手段に加えるといいよ。ほら、僕らを敵に回したら国自体が消えるよ〜ってね?」
「え、ええ…そう、させていただきます」
俯き口ごもったファロンをよそに僕は皇都に戻る。
どうせすでに僕をどうこうしようっていう考えは多数発せられているのだろう。なにせまともに戦えない無能だと思われてたからね。実際に魔導機で戦ってみても突進ぐらいしかできないし?
あれだね、魔導機に腕をつければいいところまでいけるかも。多分バランスが崩れて立てなくなるけどね。
ということで厄介者扱いされてた僕がこんなものを作り出したのだ。今度はどうなるかといえば僕は武器を作る側の部署に回そうとするだろう。
…まぁ、無駄だけど。この魔導銃は過剰なまでに魔力を必要とする。今のを撃つだけでも一般人は命と引き換えで600人は必要だ。ちなみに飯田先輩たちなら一人一回ぐらいは100%を撃てるだろうね。その代わり気絶するだろうけど。
「ま、これ撃つのにも大量の魔力がいるから兵器化は難しいんだけどね〜」
「そう、ですか…」
「ははは〜、ちょっと期待したでしょ?まぁ、これ一発で飯田先輩たちが倒れるくらいの魔力がいるからさ〜」
「そ、そんなに…」
「おかげで僕の特権だよ。やったね〜」
それを主張しておけば部署変更はやめてもらえると思う。まぁ、代わりに危険だからって撃つのが許可制にされるかもしれないけど。
ああ、でもそれはむしろ好都合かな。撃たないで負けた場合に責任を僕は全部回避できる。あらかじめそうなるように指揮官には念書を書かせようか。
「まぁ、貯めておけば飯田先輩たちにも使えるだろうから…って、ファロン?」
「申し訳ありません…」
無論気がついていなかったわけではない。
さっきからちょっと見覚えのない道を通り、だんだんと兵士が僕を囲むように近づいていたというのも。
多分、ファロンの望みではないだろう。じゃなかったらこんな悲痛に満ちた表情を浮かべはしないはずだから。僕の知っている情報の中から推測すると、僕のことを無能なので縛り上げてエネルギー供給源にしてしまいたいという会社の人と軍の人がいて、僕を差し出すことでこれからの戦争に関わってくることに協力してくれるとか何だとかっていう取引がファロンの知らないところで行われていたことの結末。すでにその取引は退けないようなところまで進んでいたのだろう。
「さて…ファロン。さっき撃った魔導銃がここにあります。そして、僕の視界の範囲内にはこんなにも人質に使えそうな住宅」
「…まさかっ⁉︎」
「そして僕はこの魔導銃に一つの機能をつけました。魔力を貯蓄する機能です。これを僕は…ファロン、君にあげる」
僕はその銃をファロンの手に握らせた。
そして、困惑した表情を浮かべるファロンに笑みを送り、僕はその手を離す。
「使い方は簡単。その引き金を引く強さで威力が増減するよ。あと今、使用者を固定したからもうそれはファロン以外には認証されない。残魔力量はそこの赤い石の光っている数でわかるから」
「ど、どうして…」
「ははは〜。まぁ頑張ってねファロン。結構楽しかったよ。これからが大変だろうけど、頑張って…ああ、その魔導銃はあんまり見せびらかさないで、いざという時の切り札にでもするといいよ〜」
僕は兵士たちがだんだんと近づいてきているのを片目に、ファロンに背を向けた。
まぁ、どうせこうなるだろうなっていう未来は見えていたのだから。
この世界のシステムは破綻している。全てのエネルギーを人の手で生み出そうというのがそもそもの間違いなのだ。僕の知る限りではすでに魔力の供給は増え続ける人口に追いつけなくなり、一部では人をエネルギー源として使うという計画まで進められようとしていた。
そこに僕がいるのだ。その先は想像に難しくない。
僕の周囲を兵士が囲んだ。
「さて、じゃあ…君がいいな、カロン中将。僕を束縛したという功績は君があげるといい」
「…その言葉。ありがたくいただきましょう」
「罪状は”危険研究”ってところ?」
「ええ…私はあなたとこのような結末は迎えたくありませんでした」
「どうせ、上の命なんでしょ?仕方ないよ。それに大丈夫。僕はそう遠くない未来に勝手に逃げるからさ〜」
「あなたであれば…それも容易いでしょう」
「さ、手錠をかけるといい」
「…はい。午前12時37分、松井新一郎を危険研究による国家反逆罪により束縛する」
ガチャっと、重い鉄が僕の両手を覆った。
周囲の兵士の目に喜びはない。なぜって?この中将は僕が喚ばれたときに話していた魔法使いだ。そのつながりでその部下たちとは仲がいい。それゆえに選ばれたのだろう。
国への反逆心がないかどうかを試すという意味も含めて。
「護送いたします」
「中将。ファロンのことよろしくね〜。あの子、強く見せようと頑張ってるけど、結構弱い子だからさ」
「…その願い、このカロン・アーカイドの名に誓って」
「まったく、君はお堅いね〜」
娘の自慢をするような心の優しい人。
その彼は礼儀と人徳を持ち合わせた素晴らしい人物だと、僕は思っているよ。
その後、僕は牢獄送りではなく魔力供給源として魔導塔に送られた。
* * *
魔導塔…それは国じゅうの魔力を供給する元となる場所。
そこで働く人は自国のエネルギーを賄うべく毎日せっせと魔力を放出し、その魔力を蓄えさせている。
その蓄えられていたエネルギーは、かつてまだ機械が使われていた頃に蓄えられたもの。その量は膨大で、蓄積し続けている限り底をつくことのない無限のエネルギーだと思われていた。だが、その魔力は年々増加し続ける人口と使用量に蓄積速度が追いついていけず、だんだんとその残量をすり減らし続けているのだ。
それゆえに考えられた案がハズレの英雄…つまり僕のエネルギーとしての使用だ。
「やぁやぁハズレの英雄候補君…いや、元英雄候補君だったね」
「…だれ?」
「なっ!この私を忘れたというのかね?この魔導塔を作り上げ、この国の現在と未来を支える会社、”ヘルサー・マジックワーカーズ”の社長であるこの私をッ!」
その塔の管理者兼僕の預かり人となったのがこの男、ワイドマン・ヘルサー。
塔を作り上げた一家の末裔であり、近年幾つもの開発を世に送り出した希代の天才と呼ばれる男。
ちなみに、からかうと結構面白いし、会話が通じるから楽しい会話相手の一人。聞いてる限りではいがみ合ってるように聞こえるかもしれないけど、これは恒例のやり取りだから。
「うん。忘れた」
「かーッ。これだからハズレは、まったく…まぁいいさ。君はいい知らせを持ってきてやったぞ」
「ん?皇国の勝利宣言の話ならさっき聞いたけど?」
「んなっ!まったく、誰だね。この私を差し置いてそんなことを口走った者は」
「そこの秘書さんだよ」
「オウ⁉︎そんな馬鹿な…私の楽しみだったというのに」
「いえ、社長があまりに楽しみにしている様子でしたので…つい」
ちなみに秘書さんと社長は夫婦だったり。
「では、そういうことだよ。是非とも私が話したかったのだがね」
「それは残念だったね〜、ワイドマン博士」
「まったくだよ、シン君」
「で、今日はどのような御用件で?それは昨日の出来事だし、勝ったという報告自体はずっと前から聞いてるからね。何か来た理由があるんだろう?」
僕はガラス越しに話しかけた。
ここは塔の最上階。僕はガラスに覆われた柱に住んでいて、その周囲には大量の管が走ってる。ちなみに中はワイドマン博士が色々と入れてくれたため充実していたり。
「ああ。ようやく…君を解放できる」
「と言うことはつまり?」
「ついに…そう!ついに私は開発したのだッ!この破綻した魔導塔のシステムを一新する技術を!」
「おお〜。やったね。いやぁ、思いの外早く完成したようで何よりだよ」
「なんだって⁉︎思いの外ということはつまり、君は私がもっと時間をかけると踏んでいたというのかね?」
「まぁ、博士が想像以上に天才だったってことだよ。さすがは希代の天才。あっぱれだね」
ここでの生活は実際楽しかった。
まず第一に僕を使おうとしていたのは社内の過激派。その狼藉は見過ごせないと、僕が連れてこられた日に博士が叩きのめしに行ったよ。
じゃあ、それなのになぜ僕がここにいるのかというと、僕と博士との個人的な契約だ。博士はこのエネルギーが永久に使えるものではないと随分前から気がついていた。だが、既存の方法ではこの問題を解決する術は知り得ず、手をこまねく状態。
「なにを今更言うのだね?これは私と君との共同研究だろう」
「僕は情報を与えただけ。頑張りも、その知識を活かしたのも君だろう?謙遜する必要もなにもない。堂々と、それを世界へと発信するといいじゃないのさ」
そこで僕は提案した。
僕はこの期間で結構この世界が気に入っていた…ゆえに、消えゆく命運はあまり気持ちの良いものではない。だからと言っていつまでも僕がここにいることは人としての寿命的に考えれば無理。
ならば、情報のみを与える。
僕は世界への過剰な干渉は自粛することにしていた。だから研究自体は博士に任せ、一切の手出しをしない。
「…それは、私のプライドが許さない!これは君の情報があったからこその成功だ。ゆえに、私はたとえ国に阻まれ世間に知られないとしても、これを君との共同研究として世に発する」
「ああ、そう言えばそういう人だったね〜、博士は。ま、博士がそう言うんだったらそれでいいよ。僕は目立つことを避けたいと思ってるわけじゃない。ただ、僕の友人のワイドマン博士という天才を世に知らしめる手伝いがしたくなってただけだから」
ただ、博士の名を世界に知らしめ、僕の友人を誇りたいのだ。
今までワイドマン博士という名は知られていたが、国の機密という名目で顔も姿も隠され続けていた。僕はそれが気に入らないのだ。確かに彼はちょっと変わり者だし、過剰なまでに頑固で、性格も善人とは言い切れない。だけど、博士はすべての人に幸福な生活をさせるという壮大な夢を語る人物だ。
「なに。私と君の仲だ」
「ま、たった2ヶ月ちょっとの付き合いだったけど、ここでは随分と濃密な時間を過ごせたよ…主に博士との会話でね。なにせ博士は僕に知りうることすべてを聞き出そう勢いで質問するんだからね〜」
「研究者たるもの、好奇心を除けばなにが残るというのだね?」
「いや、普通は結構残ると思うよ〜?ほら、博士だって秘書さんがいるでしょ」
「ふむ…それはに違いあるまいな」
「ははは〜。まったく、どうしようもないのは博士じゃないのさ」
「この天才を前にどうしようもないとね?」
「うん。だって、最後までわがままなんだからさ」
「…それを言うのであれば私はなにも言えまい」
この2ヶ月で皇国は見事に帝国に撤退を強いり、国の未来を切り開いた。
新たな英雄と呼ばれるようになった飯田先輩たちを祝福するパレードが行われ、その裏ではエネルギーの問題も解決。ファロンもうまく周囲の鷹派を抑えているという。
もう、この国は安泰だろう。
「…じゃあ、そろそろ僕は帰るとしようかな」
「ああ、そう言う契約だ。君はこの場で死んだと伝えようではないか」
「うん。お願いね」
「我が友よ。最後まで願いを聞き入れてくれたことを…研究者として光栄に思おう!なんといっても異世界へと渡る術。この目で見ぬわけにはいかまいよ!そのような愚行、このワイドマンがすると思うかね!」
「思わないね!きっと博士ならこれからも素晴らしいものを作れるさ。僕が保障しよう。それじゃ、元気で」
「ああ、私は良き観察対象を得たものだよ!」
僕はしんみりとした雰囲気をぶち壊し続ける博士に手を振り、魔法陣を形成する。
そして白い光が広がり、再び世界を渡った。
きっと、博士の目元が光って見えたのは気のせいだろう。
意見感想等もらえると喜びます




