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6.巻き込まれてみたなら




 大学一年目が終わった頃のある日の昼下がり。

 サークルのために来ていた別の校舎にて目の前で足元に魔法陣を光らせる4人組の学生を発見してしまった。



 「これは巻き込まれるのが正解だよね〜?」


 異世界召喚というのはこの世界ではめったにないのだ…いや、正確に言うのであれば遭遇できることがめったにないのだ。異世界召喚というのは実際それなりの回数起こってはいるものの、世界中のどこでも起こりうるものであるために遭遇する確率は低い。

 そんなものを見てしまったからには巻き込まれるより他ないでしょ?



 「距離的には…この辺りかな?」


 ちょうどいい場所に立ったところで白く魔法陣が発光する。

 「わっ!」とか「ぬおっ⁉︎」とか「うわぁああ!」とかいう声とともに世界をわたらされる感覚を味わいながら世界の時間を凍結する。

 その次の瞬間に見えたのは地面にへばっている魔法使いと思しき人たち。僕らが立っているのを見て、「やったのか」とか「成功だ」とか「これで我が国は」とか成功を喜ぶ声を上げている。その魔法使いたちの身なりや表情から伺うに相当切羽詰まった状況の世界に呼ばれたようだ。ちなみにそういった表情の見れない国は他国を侵略しようとしてたりするような国が多い。



 「静まりなさい!」


 そんな中、一人の少女が声を出した。



 「失礼いたしました、英雄様。この度は召喚に応じていただき、心よりの感謝を申し上げたく存じます」

 「え。あ…へ?い、いや、ちょっと、ちょっと待ってくれ。これは夢か…?」


 そんな少女をよそにその4人組のうちの1人がふと我に返って自分の頬をつねっている。

 残りの3人も同じような様子。

 キョトンとしてしまった少女をよそに4人が話を始め、しばらく経った後にようやく返事を返した。

 …ちなみにその間、僕は魔法とかが使えるかをチェックしていたよ。なにせ蚊帳の外だったから。僕この人たちと会ったことないし、先輩っぽかったから話に入ろうと思わなかったし。



 「えっと、ここはどこですか?俺たちはさっきまで大学にいたんですけど」

 「ダイガク…?ここはヴェスタ皇国、シレィヤ城の地下にございます」

 「やっぱ知らねぇよ……えっと、じゃあ俺たちなんでここにいるんですか?」

 「現在、皇国は隣する帝国により侵略され、多大なる被害を受けております。すでに魔導機を用いた帝国軍はこの国の半分以上を乗っ取り、数ヶ月のうちにはこの皇都にも攻め入ってくるものと思われ、私たちはすでにあとがありません。どうか我が国にご助力をいただきたく思い、召喚させていたしました次第にございます」

 

 まぁ、大体の状況は今の話で分かった。

 でも彼らは違うだろう。再び話し合いを再開してしまった。



 「ねぇ、僕も混ぜてくれないかな?さっきからどういう状況なのかよくわからないけど、できれば僕も霧たちと情報を共有したいんだけど」

 「え?…ちょ、ちょっと待った。まだ人いたのか」

 「知らんがな。僕らと一緒に召喚されたんじゃね?ほら、大学だったし人は近くにもいただろ」

 「それもそうか」

 「なぁ、やっぱりこれ異世界召喚じゃね?俺らこれから戦うんじゃね?」 

 「はぁ⁉︎いや、俺ら一般人だからな?そんなこと無理だから」

 「あ〜、ダメだこの人ら。僕のこと見もしないや」


 僕は面倒になってそのまま地面に座った。

 タイルの床がひんやりとしている。



 「えっと、俺らやっぱり状況がわからないんですけど、まずここって何という世界ですか?」

 「レイジャルドですが、どうかしたのでしょうか?」

 「…俺ら地球っていう場所にいたんですけど」

 「………へ?」

 「だから、俺らは地球っていう世界にいて皇国も帝国も何も知らないんですってば」

 「……………」

 

 今度は少女が固まった。

 それから少しして周囲の魔法使いたちを呼び集めて、話し合いを始めてしまう。

 今度は僕らが待つ番のようだ。



 「あ、あの…申し訳ありませんが、英雄様ですよね?」

 「残念ながらその英雄様っていうのがなんのことだか自体わかりません。俺らは普通の一般人です」

 「う、嘘…これは悪い夢…そう。そうに違いない。私は夢を見ている。さぁ、目を覚まして!早く目を覚ましてー!」


 少女の悲痛な声が響く。

 どうやら、召喚自体が失敗したのだろう。

 本来は過去の英雄を呼び出したりする魔法陣だったんだろうね。それがなんらかの影響で僕らの世界の人を召喚してしまった。それにより僕らが今ここにいる。

 僕は収拾のつかなくなった現場を眺めながら勝手にそんなことを推察するのであった。



 * * *



 「で、では本当に…」

 「はい。俺らはどこにでもいるような一般人です」


 ここは先ほどまでいた地下の場所ではなく、場内のある応接間の一つ。あのあと、しばらく話し合いをして情報を共有することとなったのだ。

 結論だけ言うのであれば、僕らには用はなかったらしい。僕の推察したように過去の英雄自体を呼び出すのではなくて、英雄の転生体を呼び出して戦ってもらうという考えだったらしい。この世界では英雄は転生を繰り返して生き続けるようだ。

 そして、現在帝国は魔導機と呼ばれるロボットのようなものを使ってこの国に攻め入っているらしい。魔導機というのはもともと帝国が開発したもので、今はもう世界中に出回ってはいるがやはり最先端は帝国であり、旧型の魔導機では帝国兵を抑えられないそうな。



 「…こうなってしまったからには仕方がありません。申し訳ありませんが、あなたがたにも協力していただきます。現在、私たちの国はあなたがたを返還する方法を持ち得ません。返還する方法を見つけ出すと言う条件で協力を願えませんでしょうか?」

 「え、いや…そう言われてもなぁ?」

 「だって僕ら戦ったことねぇーし。そもそも僕は戦いとかやめてほしいわぁ」

 「と言うか、なんで手伝う前提なんだよ。俺らがこの負けそうな国にいるメリットないわけだから帝国に着けばいんじゃね?」

 「いや、無理だろ。ここから逃げようとしたら殺されるぜきっと」

 「で、ですが!あなたがたが呼ばれたというからには何かしらの理由があるものだと思うのです。英雄様は膨大な魔力をお持ちだと聞いています。魔力は魔導機のエネルギー源となるもの。あなたがたにも膨大な魔力があるというのであれば、英雄様と判断されて呼ばれたという可能性も」

 「あー…さっきも言ったと思うんですけど、俺らそういう魔力とか知らないっていうか」

 「それならば調べます。この水晶に手を触れてください」


 少女はちょうど見計らったかのように入ってきた魔法使いの持つ水晶を受け取り、それを僕らの前に差し出す。

 魔力で動く兵器なのだから魔力さえあれば戦いに使えるとか思ってるんでしょうね。残念ながら一般人に人を殺すっていうこと自体が過酷なんだよ?



 「うわっ⁉︎」


 受け取ろうと手を伸ばした瞬間、水晶が粉々に砕け散った。

 ま、当然こうなるよね。なにせ世界を渡る時は足りない部分を魔力とかに近い物質が補うことで肉体を形成するのだから、今の体は魔力に満ち溢れているはずだ。



 「…こ、これほどまでに。どうか!どうか私たちにお力をお貸しください!あなた様程の魔力の持ち主であるならば、帝国を打ち倒すことができます!」

 「え…あ、いや…えっと、その。ちょっと待ってくれませんか」

 「お力をお貸しいただけるのであればいかなる命にも従いましょう」

 「い、いやそうじゃなくって、魔力が多いとどうなるんですか?今のって魔力が多いってことですよね?」

 「はい。魔力は魔導機のエネルギー源となるものにございます。ゆえに強大なる魔力をお持ちであるならば、強力な魔導機を操ることも可能となります」

 「あ、ああー…そういうことですか。で、でも俺らそういうこととかしたことないし」

 「魔導砲をお撃ちになられるだけでも構わないのです。どうかお力添えを」

 「魔導砲…?い、いや、やっぱちょっと待ってください。ていうか俺だけが魔力が多いとも限らないし、みんなのもやってみてくれませんか」

 「はい。仰せのままに」


 ああだこうだ少女を置き去りにして話し合いを始めた。

 少ししてからまたさっきのようは水晶が運ばれてきて全員が同じような結果を出したよ。それで魔力が多ければ見た所いい扱いを受けられそうで、これだったら少しの間この国にいて戦闘とかお金とか知識とかを知った方がいいのではないか。という考えにまとまった。

 …僕以外は。

 そもそも僕はさっきから全く話し合いに参加していない。後を向いて魔法使いと出された紅茶を飲んで話している。いやぁ、だって興味ないし、魔法使いの娘自慢を聞いてる方が楽しいし。

 


 「…まだ力になれるかわからないです。ですが、少しの間俺らに知る機会を与えてもらえませんか?俺らは戦い方どころかこの世界のことすら何も知りません。だから、少し時間が欲しいんです」

 「わかりました…ですが、時間はございません。私たちにはすでに追い込まれている状況。長くても3ヶ月…それが猶予となります。それまでの期間であなた様方には力を付けていただかなければなりません。それでも構わないと言っていただけるのであれば、是非もありません」

 「よし。じゃあ、お願いします。俺、飯田(いいだ)智則(とものり)です」

 「僕は安西(あんざい)裕哉(ゆうや)。よろしく」

 「俺は(あずま)(ごう)

 「俺は岸本(きしもと)篤哉(あつや)。お世話になります」


 じっと僕の方を見ていることに気がついて魔法使いとの話を打ち切る。

 これは自己紹介した方がいい? 



 「どうも、田中太郎です」

 「いや嘘だよな」

 「じゃあ、東京太郎です」

 「おい」

 「えー…なら、埼玉太郎?」

 「なんで例みたいな名前名乗ってるんだよ⁉︎」

 「なんとなく?…まぁ、とりあえず千葉太郎にしておこうか」

 「いや、普通に名乗れよ」

 「嫌だってもしかしたら名乗った瞬間、隷属させられるとかあるかもしれないでしょ?」

 「…た、確かに」

 「松井新一郎だよ。どうぞよろしく〜」

 「って普通に名乗るのかよ⁉︎…なぁ、俺こいつ面倒臭い気しかしないんだけど」

 

 苦笑いを受けつつ、少女の方を見た。


 

 「私はヴェスタ皇国第3皇女、ファロン・フィ・ヴェスタと申します。イイダ様方…どうかこの国をお救いください」

 「ま、まぁ、頑張りはします…ところで、この後ってどうすればいいんですか?」

 「どう、と言われましても…英雄様でしたらそのまま会議に加わり戦争への準備を始めるところでしたので何も決まっておりませんが」

 「じゃ、じゃあ、その魔導機っていうやつ?俺見てみたいんですけど、いいですか」

 「ええ、大丈夫ですが…その、申し上げづらいのですが、魔力の操作もわからないようですので、見てもわからないかと」

 「あ、それはいいんです。俺、工学部…って言ってもわからないですよね。俺らは地球で機械を学んでいたんでぜひ見てみたいっていうか」

 「そういうことでしたら、これからご案内いたします」


 少女…ファロンが魔法使いの一人に声をかけると、魔法使いは外へ出て行った。おそらく許可とかでも取りに行ったんだろう。

 魔導機と呼ばれるそれは魔法使いに聞いたところによれば、ガン◯ムとかみたいな完全な二足歩行ではなく、巨大な足が操縦席を支えるような形をしたもので、その操縦席の周囲に機関銃とかミサイルのような兵器がついていてそれらを魔力で動かすものだそうだ。

 何が言いたいのかというと、僕が使えない兵器だ。この手の威力とかの固定された量産型の兵器は僕が使うことができないものの一つ。撃った弾丸が僕の呪いによって命中しなくなる。その中でも弓と銃はご法度。そのうちの一つなのだから僕の見せ場はない。



 「では、ご案内いたします。参りましょう」


 ファロンが席を立つと、それについて飯田たちは出て行く。

 僕はその後ろを歩いて行った。



 「えっと、松井だったよな?俺、飯田智則。よろしく」

 「ん?よろしく。どうしたの?突然。さっきまでみんなで固まって話し合ってたのに」

 「あ、いや、悪かったな…って思って。俺ら自分たちのことしか考えてなくて、松井のこと蚊帳の外にしちゃってたし」

 「別にいいよ〜。こんな状況だもん。混乱するでしょ?」

 「ありがとう…ところで、松井は俺らと同じ大学だよな?一緒に呼ばれたってことは」

 「うん。そうだね〜。君らの後ろ歩いてたらここに来たわけだし」

 「じゃあ工学部じゃないのかー…あ、いや後輩って可能性もあったか」

 「たぶん後輩かな?でも僕は文系だよ。経済学部。2年になったばっかりのね」


 仕事に使えそうだったから学ぼうと思ったんだけど、既に知ってることだらけであまり行っていないとは言えない。



 「ていうことは俺らの1つ下か」

 「敬語使ったほうがいい?」

 「いや、こんな状況で先輩も後輩もないだろ。いいよ、普通で」

 「そか。で、こんな状況なのにもう落ち着いたの?」

 「え?いや、落ち着いたっていうかむしろ興奮してるだなぁ。ほら、俺らはロボット作りたくって工学部に入ったからこういうのって」

 「ふ〜ん…ああ、ここの魔導機は二足歩行のロボットだけど、でかい足が操縦席を支えてるような感じだってよ」

 「ファ◯ナル◯ァンタジーの魔導アーマーとかメタル◯アのロボみたいな?」

 「多分そうだね〜」

 「…意外とお前話わかるんだな」


 そうこう言いながらも歩き、着いた場所は魔導機の整備場と思われる場所。

 そこには30機ほどのその魔導機と思われるものが置かれ、整備がされていた。



 「これしかないの〜?」

 「へ?…申し訳ございません。大型魔導機は高価である上に乗れるほどの魔力を持ち合わせる者がほとんどおらず」

 「ふ〜ん…で、その魔力を持っている者はこの国に何人?」

 「…13人です」

 「だってよ〜、飯田先輩。つまり、残りは好き勝手に改造してもよさそうだよ」

 「マジか!…あ、作業中うるさくしてすいません」


 声が整備場内に響き渡った。

 中にいた作業員がチラッとこちらを見たので飯田先輩は軽く頭を下げる。



 「好き勝手に見て回ってもいいですか?」 

 「作業の妨げにならない程度であればいくらでも」

 「よっしゃ、行こう、行こう」


 子供のように彼らは走って行った。

 僕は整備場内を見回す。



 「で、その動かせる人で戦力にできるのは?」

 「…そこまでお見通しなのですか」

 「まぁ、動かせるとは言ったけど、戦えると言ってなかったしね〜。で、どのくらい?」

 「僅か6名です…」

 「上々かな〜?で、対する帝国は戦える人はどれくらい?」

 「約60名程と聞いています」

 「ふ〜ん…ま、多分戦争には勝てるよ。戦争には(・・・・)ね?」


 おそらく、戦争自体には勝てるだろう。

 10倍程度の差は、異世界人が来た時点で覆される。問題はそこからだ。

 そんな強い者を抱え込んだ国はどうなるのだろうか?



 「それは…?」

 「次は権力争いだ〜。そんないい戦力をみすみす返すわけないじゃん。帰還方法を探してるって言いつつ、次の戦争を始めるんでしょ?」

 「そ、そんなことは…っ⁉︎」

 「言い切れないよね〜?だって第3皇女でしょ?多分、英雄様のご機嫌とりにでも使われる予定だったんじゃない。違う?」

 「い、いえ…その通りです」

 「そうして次の戦争にも勝って、また戦争…きっと飽きるまでみんな続けるんだろう?そうしたらどうなると思う〜?」

 「そ、それは…国が一つに併合され」

 「そんな気楽なこと言ってられるわけないじゃ〜ん。次は内戦だ。いつまでも帰れない勇者…ああ、英雄だったっけ。きっと彼らによって国が割れる。そんなに強い戦力、自分の手中に収めたいって思う人はいくらでもいるだろうからね〜。騙して唆して、新たな国を作ろうとする…最後に残るのは疲弊しきった国と民だよ」

 「…っ⁉︎」

 「ま、これはあくまでも可能性の1つに過ぎない。それか実現するかどうかは君の手腕にかかってるよ。さて、僕も遊びに行こ〜」


 ファロンに微笑みかけて僕は階段を下りていく。

 僕でも使えそうな兵器を探さないと1人だけ剣と魔法で戦う異質な人になっちゃうからね。


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