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4.働くのなら




 高校を卒業して、早くも1週間。

 僕は早々に推薦で大学に受かったので、魔術師としての仕事を本格的に始めていた。

 出だしは僕の家づくりだ。魔術師たちが特異な存在であるがゆえに、その家にも様々な様式がある。例えば、地下に魔術を打つ練習施設があったり、真剣を振り回せるような道場があったり、敷地内に滝があったり、魔術の道具を作る工房があったり、まるでお屋敷のような立派な建物でその地に長年住み続けていたり…といろいろなものがあるのだ。

 で、僕の家といえば父さんと1年以上会社の経営だなんだと話し合ってやっている工房と魔術師としてのお仕事の報酬で貯めてきた資金を使って土地を買い、昨年の9月末から建設を始めてようやく完成したところ。ちなみにその建設費は半分を魔術師関連から、一部を父さん、残りを自分で支払っている…というか、建設会社が魔術師関連のものだったため格安だったということで魔術師が半分支払っているようなものというだけなのだが。

 おかげで完成した夢のマイホーム。場所はかつて廃工場だったあの場所。土地としては悪くないが、治安が悪かったり工場の工業廃水だとかのために土地も安くなっていたからここにした。



 「これで引っ越しも終わり〜」

 「お疲れ様です、主」


 木造2階建て、庭付き、工房付き、事務所付き。

 工場だったこともあって敷地が結構広かったのだ。おかげで家も普通の家よりかは広いし、色々と僕の仕事ができる工房も建てたし、残った敷地も庭にするなら家庭菜園を楽しめるどころかちょっとした庭園を作れるぐらい広く、ついでとばかりに事務所を立ててしまったぐらいだ。

 そんなに広いのにひとりで生活するのは引っ越しの片付けとか掃除とかが大変…ということで、手伝いにロメを呼んだのだ。

 


 「お疲れ、ロメ」

 

 引っ越したからといってお隣さんに挨拶に行く必要はない。

 なぜなら左右の家は空き家だし、そもそもこの周辺が人のいない区域だし。原因は素行の悪い連中がこの辺をうろうろとしていた時期があったせいとこの工場跡の場所で猟奇的傷害事件があったから。被害を被りたくなくてこの場所に愛着があるとかお金がないとかでもない限り大半が引っ越して行った…まぁ、要するに原因の片棒を担いでいるのは僕ということだ。

 でももうそれを気にする必要はない。

 過去のゴタゴタはうまく魔術師関連の人が片付けてくれたし、そもそも僕が気にしていないし。それにこの辺も安全になってこれから人も戻ってくることだろう。

 いやぁ、平和になってよかったよかった。

 …まぁ、そんな冗談は置いておいて。


 これからこの場所は僕の拠点となる。それが意味するのは魔術師が襲ってくる可能性を包含しているということ。



 「さて…じゃあ結界でも張りますかな〜」

 「手伝いましょうか?」

 「いいよ。代わりにお昼作ってて〜」

 「承知しました」


 僕は家から出る。

 左右の家は木造の二階建て。その屋根の上からも攻めてくる可能性があるし、そもそもこっちの世界の魔術師は意外と器用で空とか飛んできたりするから、僕の家を綺麗に覆うような形状の結界がいいだろう。

 そうと決まれば準備だ。

 まず、こっちの世界では向こうの世界の魔道具は機能しない。なぜならその魔道具に刻まれる術式が世界の干渉ありきで作られたものだから。こっちの世界では完全に世界の補助がないので、自力で現象を起こすことを前提とした術式が必要となる。



 「…でもやっぱり魔力は自動供給しないと面倒だし、ちゃんと考えて作ろうかな」


 一般的に向こうの世界において”結界”というのは、一種の光魔法に分類されていた。聖域(サンクチュアリ)守護領域(プロテクト・ゾーン)のように守るとか、神聖なイメージが強かったからだ。

 …ま、実際の所た属性どころか属性がなくても結界は貼れるし、魔法研究所でも光魔法の一種だとは全く思われてなかったからね。その考えが認可されたのは結構最近になってからだったけど。

 で、何が言いたいのかというとその気になればどんなものでも貼れるということ。



 「最低限必要なのは探知、時点で適正魔術師の魔術防御…かな」


 人が入ってきたことがわかるのが第一。その次は外部からの攻撃を防ぐこと。 

 まぁ、この世界じゃそんな術式は存在していないけどね。そもそも、魔術師たちでは半永久的に結界が貼れないからさ。この世界の魔術というのは自前の魔力を現象へと変換するというもの。ゆえに魔力が尽きれば魔術は起動しない。世界の魔力に干渉して現象を起こせないのだからしょうがないだろう。

 だからこの世界の結界といえば現代の防犯カメラやセキュリティーの範囲外の部分を使い魔のようなものに見張らせたりするというのが一般だ…つまり、結界じゃないんだよね〜。

 例外的に言うなら”i”には人除けの結界が貼られているが、あれは使い魔を放ち、周囲に惑いの魔術を放ち続けているものだし。

 まぁ、そんなことは置いておこう。どうせ僕が結界を張っているということには気づけない。


 なにせ、世界の魔力によってそれは行われるのだから。



 「まずは、周囲の魔力の変換。ここはもう面倒だから属性と方向性を固定しちゃうのがいいかな…闇属性と敵対意思を持つ者への魔力干渉するようになっている状態の魔力を吐き出すように設定した杭を作って、後は家の四方と中央に打っておけばいいかな?」


 まず、この世界の魔術というものについて説明しようか。 

 魔術というのは自分の体内に魔力を貯めるというところから始める。この世界の大半の人は体内にかなり微量しか魔力を蓄えられない。それは意識とかそういう問題ではなく、そうやって体ができているのだ。最初に魔術師に成った人の2つ前の台の人間がそれを多く蓄える方法を開発し、代を重ねてやっとそれが可能になったというのが魔術の第一歩。僕らのように一度別世界へ渡れば大半ができるようになるが、そうでない人間に魔力を多く蓄えるすべはない。

 次は体内で魔力を練る。ただの魔力では外に出た瞬間すぐに世界の魔力と同化してしまう。自分の吐いた息が空気と同化するように、普通の魔力では魔術になれない。だから、同化するのを防ぐため魔力の濃度を上げるのだ。それにより外気と完全に同化するまで少しの間ができる。

 その次はその魔力に属性を持たせること。魔術の全てには属性がある。無属性だって濃度を濃くするという方法でできた一種の属性。魔術への入門はその無属性魔術の行使から始まる。初めは身体機能の強化。体内であれば魔力が霧散しないので初めは体内での魔力を魔術へと変換する練習から始まる。その主だったものが魔力視と呼ばれるもの。目を強化し、本来は見え得ないものまで見えるように強化するのだ。ま、初心者はそれを失敗して微生物とかを眺めちゃったり、細菌を眺めたりしてトラウマを作るわけなんだけど今はどうでもいい話だね。

 で、その次がやっと体外へ放出する魔術。だが、これも体内で魔力を練り、命令式を書き込んだ上で手やら足やら体から放出して現象へと昇華させる。命令指揮の書き込まれた魔力は体外に放出されてから初めて世界に認知され、魔力に書き込まれた情報が世界に現象を起こさせる。

 詳しい説明をするのであれば、現象とは全て固有の情報であり、その情報を元に世界はありとあらゆるものを構成している。魔術とはその情報を魔力で再現することにより世界が現象が構成されているはずなのに構成できていない状態…言うなればバグだと勘違いしてそれを修正するために現象を発生させる。これが魔術の原理。


 で、こんなに長々と話をして何が言いたいのかといえば、魔力が練れなければ魔術は発生しないというのと、世界に魔力に情報が読み込まれなければそれが現象だと世界に認可されずに消えるだけということ。

 僕は世界の魔力を周囲から吸収して命令式を書き込み、魔力をその周囲で循環するようにしてから放出と僕への敵意のある者の魔術を認可しないというものを作りあげた。



 「とりあえずこれを適当に地面に埋め込めば…第一段階終了。とりあえずこれで僕の家の中で魔術は使えない」


 これで僕の家は侵入者を無力化出来るようになった。

 今作ったのは内部にいる場合のみの防御策なので、次は飛んできた魔術への対策だ。



 「…ま、単純に防護壁でいいかな〜」


 ある程度の攻撃を防ぐ盾のようなものがあればいいので、ちょっと特殊な防護結界を張る。

 どんなものなのかといえば、この家への攻撃を不自然でない程度に世界の魔力で捻じ曲げるというもの。例えば火の玉が飛んできたとしよう。その場合、その火の玉は風にでも吹かれたのか、僕の家の横を飛んで何処かへ行ってしまう。例えば岩の塊が飛んできたとしよう。その場合、うまいこと僕の家には当たらずに別の場所に落下するか、重力で緩やかに地面に落ちたり、わからない程度に削れて小さくなったりする。

 まぁ、過剰な攻撃が飛んできたらさすがにどうしようもないけど、魔術の対策としてはこのぐらいが限界だ。あからさまな結界を張ると実際に襲撃を受けた場合にどう見てもおかしな現象が起こって面倒ごとが発生する。この世界の魔術師たちは基本秘密主義だが、こう言った守るための情報を秘匿するのにはうるさい。魔術師たちの連合で大々的に公表しろだとか、襲撃に来る奴が増えたりとか、今後のことを考えると運が良かった程度に済ませられるものにしておく方が利口だ。



 「で、あとは人が来た時の探知だよね」


 いくら襲撃に備えたといえど、敵が拳銃やら刀剣の類を持っていたら意味がない。

 そのためには敵が入ってきたということもわかるようにすべきだろう。

 


 「…やっぱり使い魔かなぁ?」


 使い魔というのは普通の生物を魔術によって変化させたものたちが基本だ。

 例えば、コウモリを変化させて超音波を人がセンサーとして使えるようにしたり、幻覚症状のある毒を持つキノコを変化させて人よけの結界を張るようにしたり、中には蟲を代々変化させ続けて体内で飼ってるなんていう家や同じように変化させた植物を身体中に植えているなんて家もある。

 …でも正直なところ僕はあんまりそういうのは好みじゃないんだよね。そのものの魂をないがしろにするのが許せないとかいうわけじゃないけど、魂あるものをただの道具にするっていうのは何というか…おもしろくない。だって意志があるからこそ面白いのに、それをなくしてしまったらただの機械と一緒だ。そんなものはおもしろくもなんともないと思わない?



 「魔術として認識されるのは変化した痕跡があるから…」


 魔術だとバレるのはそのものに変化したという形跡が残るから。空気に術式を混ぜるのは常に混ざり続けていれば問題ない。だが、探知なら入った瞬間に魔術が発生したという形跡を生み出してしまう。

 …いや、そもそも探知しなければいいのでは?探知した瞬間に形跡は生まれるのだから、探知しなければいい。別に探す必要はない。入ってきたというのが分かればそれで。だったら入ってくることによって打ち消される術式を作ればいい。

 魔術師が潜入する時は最低でも不可視などの隠密系魔術を使う。これから事件を起こすのに表の人間に見られるのは都合が悪いから。

 だったらその不可視などの魔術に反応する魔術を作っておけばいい。

 不可視の魔術は自らを魔力に近い存在として世界に認識させ、その存在を見えないものへと変化させるもの。ゆえに魔力視が使えればバレるのだが、一般人には見えないという現象が起きる。



 「…そもそもそれなら入ってきた瞬間に魔術が消えるから意味ないね」


 いくら魔術を使った状態で入ってこようと、周囲の魔力をあらかじめ書き換えておくのであれば意味はない。入った瞬間それを世界が認識できなくなり、魔術として成り立たなくなる。

 どうせ侵入した時点で見えるようになってしまうのであれば一旦引いて作戦を立て直すなりなんなりするだろう。もしヤケにでもなったなら攻め入ってくるだろうけど、どうせ見えるようになった状態じゃ大きな魔術を使えないし、そもそもこの中で魔術は使えないので銃やら何やらで襲ってくる。そうなれば別の方法はいくらでもあるからね。



 「主、昼食の用意ができましたよ」

 「ん。りょうか〜い。じゃあ今いくよ」


 とりあえず昼食だ。

 もしもの場合に備えて何かしらの対策ぐらいは立てておこう。しばらくは僕も家の片付けをするだろうし、その時間を利用すればいい案くらいは浮かぶだろう。


 僕が仕事をする場所だ。

 働くからには十全にしなくては。


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