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3.関わったなら




 かれこれ帰ってきてから早くも10ヶ月。

 夏休みに入るすぐ前のこと。



 「いやぁ、遅刻遅刻〜」


 高校3年。

 最後の部活に向けて猛練習をするもの。受験に向けて勉強するもの。遊び呆けているもの。

 まぁ色々といるわけだが、そんな中で僕は色々と別の仕事に勤しんでいた。

 学生の本分は勉強…なんていうのはよく言ったもので、僕は勉強なんてそもそもする必要がないから仕事をしている。父さんに色々と手伝ってもらいながら会社の基盤がやっと出来始めたというところ。父さんと仲直りをしてからというもの僕は定期的に真と遊び…もとい、父さんと話し合いに行っていた。



 「…昼前なのに学校に向かってゆっくり自転車こいでるやつのセリフではないね」


 どうせ学校に行ってもやることはないし、テストで散々色々とやったら先生方が諦めてくれたので僕はこんな時間にゆっくりと遅刻して登校している。

 ああ、もちろん合法ではない。普通に先生には面倒くさそうな目を向けられるよ。だが、単位数は足りるように受けてるし、留年になるようなことはないので問題はない。しかも、僕がやってることを知っている先生もいるのだから大きく口を出されもしない。



 「…?今日なんかあったっけ?」


 と、ゆっくり学校まで来てみたものの、校門がやけにうるさい。というか正確には学校全体としてうるさい。



 「ちゃんと授業中に来たと思うんだけど…」

 

 校門付近まで来て、いつもは見ないような車があるのが見えた。

 バンが止まっており、その周囲には音声とカメラと人…ああ、誰か有名人でも来てるのかな。あれ?うちの方出身の有名人なんていたっけ?いないよね。母校を訪ねるんでもなければなんでこんなところにいるんだろ?この辺で有名な食べ物とか建物とかはないだろうし…罰ゲーム?

 いや、まぁさすがにそれはないとしてもなんでこんなところに来たんだろ。ドッキリのロケ地にでもするの?



 「まぁいいや…こそっと横を通り抜けよ」


 別に有名人にさして興味はないし、うるさいのに付き合う気もない。

 だって面倒だし、何より周りが邪魔くさい。


 そう思って校門をくぐろうとした直前でガララララ…と音を立ててバンが開いた。

 中にいたのはどこかで見た覚えのある顔。

 僕が見たことがあるってことは相当有名な人のはず。金髪で長身、イケメン……困った。どこにでもいそうでわからない。誰だろ?

 というかそんな人がうちに何の用だろ?



 「あ…お客さんか。あのブログの、えっとなんだったっけ?なんとかせいじ」

 「いや、なんで俺の名前がネタみたいになっとるんや。俺の名前は一条誠司や」

 「あ〜、そうそう。一条さんだ。確か本名も一条で、名前の方が司だったっけかな。どうも、ご贔屓にありがとうございます。”自然妖精の工房”の松井です」

 「自然妖精の工房…って、このネックレス作っとるとこか!それと本名ばらすな」

 

 そうそう。うちのことをブログでべた褒めしてくれた人だ。

 いやぁ、どうりで顔に見覚えがあったわけだね。さすがにその時のは後々になってだけどちゃんと相手のこと調べたもん。

 確か俳優の人で、最近売り出し中のイケメン。バラエティー番組とかにもよく出てて…もうあとは覚えてないや。というか調べてないや。結局、有名人であることと何やってるかしか調べてない。



 「まぁいいや。じゃ、ご苦労さんです」

 「待たへんかーい!俺がここにおるのスルーしてくか、普通⁉︎」

 「僕は普通から外れてるのでよろしく〜」

 「ああ、よろしゅう…やないっ!」

 「え〜…なんでここにいるのかとか聞いて欲しいやつ?」

 「せやないねんけど、気にならへん?」

 「多少かな〜。うるさいのは勘弁だし、面倒ごとも勘弁して欲しいからさ」

 「そないな、えげつない…」


 目に見えてがっくしとしている。

 なんか直接会ったことはなかったけど、意外と面白い人なのではないだろうか?どうせ授業に遅れるぐらいどうってことないし、しばらく話し相手になってあげよう。

 僕は自転車をその場に止めて、その前に立つ。



 「でも、まぁしばらく付き合ってあげるよ。何かの機会だし、うちの工房の愚痴を書かれたら困るしさ」

 「ほんまか…ちゅうか、そんなんはしやんから」

 「で、こんなところでどうしたの?有名人が来るような場所でもないでしょ、この辺」

 「それがな、俺がこの辺に住んでおった時があったんや。ほんで、ロケの帰り道やったから寄ってみってんてわけや」

 「ふ〜ん。で、なんでカメラと音声が外にいるの?」

 「車の中で落としてしもうたから、点検中ちゅうわけや」

 「ああ、それは随分と不幸だね…そこ、段差あってすっごい揺れたでしょ?最近、その辺で事故だか何かがあったらしくってまだきちんと道路が舗装されてないんだよねぇ〜」


 事故というのは僕ら関係のものだ。

 そこら辺に魔術が打ち込まれたのを強引に修復した跡があるせいで自転車とか車が通るとすっごい揺れる。しかも魔術で直したせいか一見平に見えるから想像以上に揺れるのだ。

 本当にいい迷惑である。



 「せやったんか。まぁ、ほらなしゃーない」

 「だから止まってたんだ〜。で、なんで出てきちゃったわけ?こんなところで出てきたら注目集めること間違いなしだよ?あ、むしろ集める方が正解か」

 「せやな」

 「でも見せるだけ見せておいて帰るってひどくない?」

 「うっ…確かにそら」

 「まぁ、僕にはどうでもいいんだけどね〜」

 「お前とおるとほんま調子狂うな⁉︎」

 「じゃあ帰ろうか?」

 「いや、暇やからおってくれ!」


 なんで漫才みたいなことしてるんだろう?

 


 「あ、要するに人見つけて暇だから降りてきちゃったわけね。構って欲しかったんだ?」

 「そら言いまへんでほしい」


 なんともどうしようもない。

 もうちょっと有名人らしくしようとかは思わないのだろうか?というか、そもそも見られていいように来てるわけじゃないだろうに変装も何もしなくっていいの?



 「…ところでさっきからずっと気になってるんだけどその絶妙に違ってるようなあってるような関西弁風は何?」

 「あ、わかるか?俺、生まれは大阪なんやけど、こっちの方で育っとるからなぁ。この業界はいる時に何かキャラ付けせなあかんなーとおもて、今更になって関西弁学んでおるんやけど…まぁ、この通り」

 「なんかもう…大変だね〜。方言とかって一種の他言語だし、今からやるのだって結構大変でしょ?」

 「おお〜、わかってくれるか!一応、日常的に使ってみよう思っとるんやけど、なんかちゃうんやんな」

 「もう聞き取りづらいから普通に喋っていいよ…」

 「いやぁ、こうやって喋るも意外と辛いんやけど、半分癖みたいになってもうててな」


 どうやら頑張っているようだ。 

 まぁ、確かに今まで普通に喋ってきたのを突然方言に変えるのは難しい。有名人とかってそういうものなのだろうか?

 どちらにせよ僕には関係のない業界だし、気にすることもないかな。



 「お疲れ。で、暇とはいうけど何するの?」

 「…あ、せやったらお前の話聞きたいわ。こういう物つくっとるんだろ?」

 「そうね〜。とは言っても授業中とかにデザイン案を描いて、それを家で見直して、彫って、金属流し込んで作ってるくらいだよ?」

 「が、学校なんやな」

 「そもそも僕学校行く意味ないからね〜。高校の範囲だったら大概のことはできるし、大学の範囲も一部は終わってるし」

 「な、何者なんや…いや、こんなん作っとるくらいやから、普通やないのは確かか。もうそれやったら学校に行く意味ないやろ…?」

 「ないね。今もカバンにデザイン案とかしか入ってないぐらいだし、これから学校でその片付けするつもりだったし」

 「せやったら!俺と今から遊び行かへん?」

 「後でその旨を学校に話してくれるんだったらいいよ?ほら、有名人に言われて断れなかったって言えば多少は問題ないだろうし?それといい大人が学校サボるのを促すのはいかがかなのかなぁと思うけど」

 「うっ…ま、まぁええわ!よっしゃ、とりあえずその辺の喫茶店に行こか」


 一条さんはマネージャー?だか、なんだかの人に声を掛けに行き、意気揚々とした様子で帰ってきた。

 その手にはメガネとマスク。

 …かけた後でもあんまり隠しきれてない感じがする。でもそっくりさんかなぁ、ぐらいにはなってるから大丈夫なのかな?そういう基準がよくわからない。僕も向こうの世界では有名人だけど、こっちの世界のような扱いではなかったわけだし。



 「で、この辺の喫茶店ってどこにあんねん?」

 「ん〜…一条さんはコーヒ飲める?モンブラン嫌いじゃない?」

 「飲めるで。モンブランは結構好きやな。あと、そないな他人行儀やめてくれ。なにかもっと…なんかないか?」

 「え〜…」


 それをやめろと言われてもなぁ…ああ、でも一条じゃバレるのか。



 「じゃあ司さん?」

 「呼び捨てとか、先輩とか、なんかもっと親密なもんはないんか?」

 「む…じゃあ、兄ちゃん?」

 「おお、それええな!今日からお前は俺の弟分や!」


 できの悪い兄を持った人はこういう気持ちなのだろうか?

 生憎僕には兄がいないのでわからない…というかそもそも兄も姉もいないわけだし、もっと言えば僕が兄だし。

 でも、あまり悪い気はしない。



 「じゃ、僕の行きつけの喫茶店に行こう。相当わかりづらいところにあるから僕とか常連でもない限りわかんないような場所にあるんだ。せっかくだからそこに案内してあげよう。ついでに僕はそこで仕事する」

 「おっ、ええなぁ。俺は行きつけとか常連とかないから楽しみやわぁ。よろしゅう頼むで…あー、俺はお前をなんと呼べばええ?」

 「好きに呼ぶといいよ。色々と呼び名はあるし。なんならもう1回自己紹介しようか?僕の名前は松井新一郎。クラスからはしんちゃんと呼ばれて親しまれています」

 「さよか。ほな、新て呼ぶわ」

 「自己紹介の意味なかったような気がするよ…ま、いいや。じゃあ行こうか〜」


 僕は自転車を押しながら歩き始める。

 たわいのない会話と共に歩いて行く先は…まぁ、僕の行きつけと言ったのだからわかるとは思うが”i”だ。

常連しか行きつけないと言ったのは道自体が魔術で見つかりづらいようにされてるから。まぁ、自分で探して行こうとされると困るからあっちこっちで無駄に曲がって道順をわからなくなるように工夫している。

 あそこに一般人を連れ込むのは実際あんまりよろしくないのだ。関係者だと思われて敵対勢力に襲われる可能性だってあるしさ。

 ただ、なぜ今回そこに連れて行こうと思ったのかといえば、魔術師の中での数少ない僕と仲のいい人…浅井貴世子さんっていうおばあちゃんがこの”一条誠司”のファンなのだ。なんか、ドラマに出てたのでハマったらしく、僕の工房のお客さんだという話をしたら随分と聞き入っていた。



 「ということでここだよ。僕の中のいい人が兄ちゃんのファンでさ、せっかくだからここに来てみたんだ。いたら相手してもらってもいいかな?」

 「別にかまへんよ」

 「それなら良かった。ま、ここのコーヒーとモンブランが美味しいのがお勧めできたっていうちゃんとした理由もあるから、それはおまけってことで勘弁して」


 小道の端にポツンと建っている店に入った。カララン…と店内に鈴の音が響く。

 中はカウンター席とテーブル席の並ぶシックなカフェ。カウンターの向こうでは燕尾服のような格好のおじいちゃん、テーブルには今ちょうどその浅井さんと石田さんが軽めの昼食を取っているところだった。

 この店には戦闘能力のないおじいちゃんのために常に数人が控えている。そのローテーションのうちの昼の担当が浅井さんと石田さんなのだ。多分、もう少しすると数人増える。



 「いらっしゃい…学校じゃ、なかったのか」

 「学校だけどちょっと浅井さんに用ができたからさ〜。まぁ、とりあえずいつもの2人分ね」


 カウンター席に腰掛け、その横に兄ちゃんも座る。

 僕が浅井さんに用があると言ったのがそっちの(・・・・)用だと思ったのか食べるのをやめてこっちに浅井さんが歩いてきた。



 「どうかしたのかい、新ちゃん?」

 「この間さ、一条誠司が好きだって言ってたよね?」

 「え?あ、ああ、そうだねぇ」

 「その人とバッタリ道であったから連れて来てみたよ〜」


 僕はちらっと横に座る兄ちゃんに目をやり、それに気がついて兄ちゃんがこっちを見る。



 「どうも、初めまして。一条誠司です」

 「おやまぁ…本物かい?」

 「そのメガネも外したら〜?」

 「せやな」

 「おやまぁ、まぁ…加代さん加代さん、誠司くんだってよ。こっち来てみなさいな」


 僕は魔術師たちの中での評判はすこぶる悪い。

 ただ、なぜかおばあちゃん達には好かれた。おかげでこの時間に来たらゆったりと時間を過ごせる。そんな仲間の浅井さんに石田加代さん。

 


 「あぁら、本当だ。テレビで見るよりイケメンさんだねぇ。この前のドラマ見たよ。探偵役?かっこよかったねぇ」

 「おおきに」

 「今日ちょうど学校に行こうと思ったら校門のところでバッタリ会ったんだよ〜。なんか学校の前の事故跡のところで車が揺れて車内で落としちゃったらしくてね、その点検してるところに出くわしたんだ」

 「それは大変だったねぇ」

 「いえ、そのおかげで新にここに連れて来てもろたさかい。今日の仕事も終わりやったし、ちょうどよかったわ」


 そんなところでコーヒーとモンブランが届いた。

 おじいちゃんが微妙な表情を浮かべている。

 多分、僕が一般人を連れ込んだっていうことと浅井さん達を喜ばせようとした僕の気持ちを考えて文句を言うに言えないからだろう。おじいちゃん良い人だから。

 別に僕もおじいちゃんに嫌われてるわけじゃないし、嫌われたいわけでもないので後で謝っておこうと思う。



 「ま、とりあえずお昼休憩にしようか〜。あ、僕らもそっちの席行く?」

 「せやな。こないな時はみんなで食べる方がおもろい」


 コーヒーとモンブランを持って僕らは席を移る。

 その後は楽しくおしゃべりしたり、記念写真を撮ったり、店にサインを残していったり、学校を結局サボったりした。しばらくしてから仕事場が見たいという要望に応えて僕の家に寄って、その後マネージャーの人からの電話があって学校まで戻り、兄ちゃんが帰るのを見送ることとなった。

 兄ちゃんは日頃のストレスが解消できたと喜んでいたので良しとしようと思う。


 その後、僕が何の連絡もなしに学校をサボったことを拓巳たちに怒られ、知らぬ間に有名人と楽しく遊んでたということで文句を言われ、アイスを奢ることになったというのは余談だ。


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