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30.作戦日




 大会2日目の開始を告げる花火が上がるのが右目に映った。

 作戦の開始を告げる右手が挙げられるのが左目に映った。


 僕は静かに両目を開く。



 「さよならかな、僕の楽しかった日常。ま、できるだけ頑張っては見るけど」


 右手が振り下ろされたと同時に、僕らは街の一軒家に乗り込む。

 目的地は地下。

 あっちこっちから集めた情報からすると、この地下に邪教の本部があるらしいことがわかった。ということで僕らは今本部へ攻め入っているというわけだ。



 「…さて、お仕事しましょ」


 余計なことを考えていると不意を突かれる可能性がある。

 今の僕の思考は同時に3つまでしかこなせないほどに衰弱していた。由々しき事態だ。学園を出て3日目あたりから急激に眠気がひどくなり、意識がまどろみ始めた。

 …大方、僕の再構築(アップデート)が終わったんだろう。これで寝て起きれば、きっと”()”は”()”に成る。今は気力と体力で頑張っているが、ちょっとしたことですら精神を削っていかれるものだから困りものだ。魔力やら神力を使ったりすれば一気に強い眠気に襲われるくらいだしね。

 今更ながら僕の弱々しさが目につく。



 「ロジー、後ろはよろしく」

 「あいよ、兄ちゃん」


 僕が担当のここにいるのは僕が呼んだ仲間たち。ここ数十年で仲良くなったあっちこっちの友人で、ある人は冒険者、ある人は闇ギルドの会員、ある人は軍人、ある人は僧侶、ある人は商人、ある人は大魔法使い、ある人は研究員、ある人はギャング、ある人は売人…と様々な場所に所属する人たち。

 今更ながらだけど、こうしてみれば僕には結構気の許せる人がいたようだ。結構幸せ者だったんだね僕。

 

 扉を静かに開け、短剣を片手に家の中へ踏み込んだ。

 ギィと床の軋む音を立てながら進み、周囲に意識を払う。地上部に人の気配はないようだ。念のため魔法で探知をかけるが、人どころか生物すらも引っかからない。

 …上は完全にカモフラージュのようだ。でも、そうするんだったらもっとちゃんと生活感とか出しておかないとダメだよね。



 「じゃあ作戦通りロジーとルベッカだけ付いて来て。残りは周囲を囲って警戒。多分、少ししたら中からこの間のアレが出てくるから、対処よろしく」


 ロジーは知り合いの息子で、騎士志望の盾役。身の程に合わぬ大きな盾を片手で軽々と持つドワーフの子。

 ルベッカはその幼馴染で、治癒師を目指す同じくドワーフの少女。ロジーが出過ぎないように注意を払ってくれるからありがたい。

 ああ、一応言っておくけど2人とも60歳ちょっとぐらいの年齢で、ドワーフの中ではまだ子供だっていうだけで戦えないような子供を連れてきたわけじゃないからそこのところは安心してほしい。ま、ドワーフの中で子供扱いされるだけあって精神年齢はまだ結構子供っぽいところもあるけどね。



 「さて…地下への道は〜」


 床が外れるか、本棚の後ろに道があるか、どこかに隠し通路があるか…どれでもいいから見つからないかなぁ?

 まぁ、カモフラージュなだけあって普段から使わないから歩いたりした場所だけ劣化してるために地下への道を見つけるのは結構容易い。綺麗じゃない場所を選んで探せばすぐに見つけられる…邪教は頭が悪いのかな?いや、もう見つけられても問題ないほどの力を手に入れたと慢心しているのかもしれない。

 


 「ロジー、降りるからここで見張ってて。レベッカは階段の途中で待機」


 床に切れ目を見つけて引き剥がしたところ、地下への階段が見つかった。

 そこが正解とは限らないんだけど、とりあえず階段を下り地下へと向かう。他の方法を試すよりも早く終わらせることの方が大切。罠なんかを警戒するよりおとなしく突っ込むね。だって僕にはあまり時間がないんだから。

 必要なことをするついでにやってた冒険者としての仕事を真面目にこなしてるぐらいだよ。そもそも僕の冒険者としての二つ名なんて碌でもないものばっかりだからね。姿を成した暴虐こと”白き暴虐”、まともな物の入っていない宝物庫こと”貯蔵庫(コレクター)”だよ?いや、確かに自業自得だけどさ。無駄に硬い木の枝とかハリセンで敵を殲滅してたんだし、無駄なコレクションとか言われてもしょうがないとは思うし。



 「…階段に罠はなしと。2人共注意しながら降りてきて〜」


 階段を降りた先には魔道具の光の照らす廊下が続いている。

 幾つかの扉が見え、まさに地下施設っていう感じだ。ま、こっちの世界なだけあって研究所のような真っ白い場所というより魔術師の工房のようで、なんとも言えないおどろおどろしい雰囲気を放っているけど。

 おそらく地魔法で作り上げたであろう地下施設は軽く探知をかけた結果アリの巣状に広がっているようで、実験に使われている場所と思われる部屋が18つ、研究員の使っているだろう部屋が21つ、幹部の部屋と思われる部屋が9つ、構成員の部屋と思われる部屋が18つ、実験台の隔離部屋と思われる部屋が6つ、内部がなぜか探知できなかった部屋が1つ。

 とりあえず研究員は皆殺しにして、部屋を燃やして潰す。構成員はどうせ警備とかとして使われてる下級構成員だろうからとりあえず外に放り出して任せる。どうせ大した知識は持ってないだろうし、さっさと始末するに限る。んで、幹部の部屋は人がいれば尋問コース。構成員は可能な限りではなく、絶対に全員見つけ出して始末する。実験台は連れ出して事の次第によりけり。わからなかった部屋はどうせ碌でもない物だろうから僕が直接行く。



 「じゃあ、行くよ?適当に部屋ぶち壊して行くから、何かあったら教えてね。少ししたら君らの仕事だから…頼んだよ」


 どうせ隠し通路とかがあって幹部は逃げるだろうから、この地下空間を完全に隔離するためにことごとくぶち壊す。

 僕の任務は内部を完全に潰すことだからね。

 さ、今頃他の拠点の制圧も始まっているはずだ。気合い入れていこう。



 「さて、じゃ…『爆ぜろ』『朽ちろ』『滅べ』」


 通路が粉々に砕けた部屋の残骸にまみれる。

 部屋という部屋が破壊し尽くされ、人だったものが飛び散ったり、資料が燃えて些細な火災が起きたり、ちょっとした地獄絵図。

 …ま、これで一般的な人は死んだでしょ。死ななかったとしてもどうせ生き埋めだし、うまく生き延びてたとしても部屋から出られないように壊したし、そのまま生き延びたとしたって最後にはここ崩落させるからやっぱり死ぬし。

 あと、思ったより一つ一つの部屋が巨大で壊すのが大変だった。まぁ、結構多くの構成員を収容してるんだから当然と言えばそうなんだけどさ。



 「そ、そういう壊し方…」

 「じゃ、今ので敵が湧いてくるだろうから気を引き締めて〜。まぁ、外に出ようとするか事態の収束のために動こうとするだろうからできる限り引きつけて連れて行ってね」


 とりあえず今の爆発とかで敵も僕らの侵入に気がついたことだろう。

 こういう事態で最初に出てくるのは下っ端…今回も例に漏れず改造魔法をかけられていない下っ端ども。剣やら短剣やらを構えて次々に奥の方の部屋から出てくるのが砂埃の向こうにチラッと見えた。こいつらも邪神の使徒になる結晶を持たされているだろう。

 でも、それは僕の仕事じゃない。



 「ロジー、ちゃんとレベッカを守るんだよ」

 「うす!」


 僕は瓦礫にまみれた部屋の一つに身を潜め、気配を殺す。

 一応通れるように壊した通路を通って下っ端どもがこちらに来た。ロジーとレベッカを見て声をあげ、切り掛かる。

 ロジーがそれを防ぎ、少し時間を稼ぐ。奥から次々に出てきて魔法の詠唱やらも聞こえ始めた。



 「い、一旦引くぞー!」

 「わ、わかった!」


 ロジーはそう叫んで階段を上り始めた。好機と見た下っ端どもはそれを追う。

 ま、つまり誘き出すための作戦なんだよ、これは。騒動を起こして、その元凶のふりをして2人が雑兵を外へおびき出してみんなで叩くという単純なもの。まぁ、さすがに1回じゃ大量の兵士を外に引っ張り出せはしないだろうけど、外に僕の仲間たちが控えるのを見れば中に連絡が入って下っ端どもの大半を外へ排出してくれるだろう…うまくいけばね。

 別にこれはいかなくたっていいんだ。僕の負担を少し減らしてもらうだけだから。

 本来の目的は中に邪魔を入れないこと。今の僕は力をセーブして戦うなんてことは正直できない…それこそ、邪魔をされれば手が滑っちゃうなんてこともあるかもしれないくらいにね。



 「これで雑兵は半分くらいがいなくなったかな…みんな、後は任せたよ。さぁ、僕も頑張っていかないと…ふぁぁ。眠気になんて負けずにさ…?」


 立ち上がり、地下全体へ探知をかける。

 こういった自体があった時に備えてあらかじめ決めていたのか、大量の魔力を持つ者たちが一点を目指して移動しているように見える。残りの雑兵もその近くへ向かっているから多分作戦でも立てるつもりなのだろう。

 実に都合がいい。これで一網打尽にできるね。


 2人が外へ出たのがわかったので、情報が伝わるのを待ちながら移動を開始する。

 多分、今集まっていたここの構成員たちは情報を得てその対策のために動こうとし始めていることだろう。

 すでに追い詰められて総力戦をするしかないような状況なのだから、幹部を内部の所々に配置し、通路のあちらこちらに下っ端を配置するといった布陣かな。言っておくけど、肉体変異種と完成種にはかなり大きな差がある。だから完成種は同等程度の力を持つ者が共闘するならまだしも、弱い者は巻き添えにして殺してしまうために集団戦には向かないのだ。今はいたずらに兵力を減らしたくはないだろうからね。

 


 「…おっと、動き出したね」


 そうこうする間に下に溜まっていた人の気配が動き始めた。

 大きな力を持つ気配は9個、ちょっと強めは27個、我先に外へと走り出している雑兵と思われるのが40個程。多分、自分の意識を失う邪神の使徒は外で戦わせる心算なのだろう。なにせ、体は大きいし力任せに戦うのだからこんな地下で戦われた日には崩落して生き埋めになりかねないからね。


 そんなことを考える間にも下っ端が僕の隠れる瓦礫に埋もれた部屋の前を素通りして地上へと出て行った。

 結局地下2階にある大部屋に幹部と思われる人以外が待機し、地下3階に幹部が待機し、教皇と思われる人が中がきちんと探知できなかった部屋の手前で待機しているといった形になったようだ。

 この地下施設はこういった事態を予期してなのか敵を迎え撃つように廊下が所々で広くなっている。そこに数人ずつで分かれて待機しているらしい。1箇所に大体4人程度。人の冒険者が立ち向かうのならばBBランクの中でも強い冒険者のパーティで立ち向かってぎりぎりといったところだろうか?



 「ま、僕には関係ないか」


 階段を下り、初めの集団が見えた。

 廊下はこちらから奥に行くにつれて幅が広くなる作りになっている。向こうが戦いやすいように作られているのは当然のことだ。



 「…来たか!やいやい、この俺は」

 「ああ、いいよ。そういうのは必要ないからさ」


 肉体変異種というのは人から半端に魔物へ姿を変えられるようになったもの。見た目的には肌が少し青っぽくなり体のどこかしらに魔物に近い部位を持つ…例えば爪や牙や角や鱗などをね。ちょっと劣化した魔族という表現が一番しっくりくるんじゃないだろうか?

 で、能力値の方は邪神の使徒より少し強いぐらいだが、まともな意識があり訓練も積んでいるのでこちらの方が圧倒的に厄介。力が強くなるということは人の域を超えた動きができるようになるのだからそれは当然強くなるに決まっている。


 そんなことを考えながら目の前にいた4人の首を創り出した短剣で切り落とした。まだ余計な考え事をしていられるほどの余裕があるらしい。まぁ、能力値を制限していないというせいもあるだろうけど。

 こんなものが存在したという痕跡を消すためついでにその肉体をそれ用に作っておいた空間へ放り込む。



 「…あと23人…ふぁあ」


 肉体変異種はこの階から降りる階段までの入り組んだ通路に分かれて存在している。

 曲がりくねっていて移動が少しまどろっこしいが、全員処分しないといけないので全ての道を制覇しないといけない。全くもって面倒臭いね。ゲームみたいに次から次へと向かってきてくれないかな?

 …ほんと、そんなことがあったらご都合主義としか言いようがないけど。



 「あと20人…………あと16人………あと11人……あと8人………ふぁぁ………あと4人……これで、最後っと」


 僕は通路を壁を蹴って、天井を走って、床を駆け巡って、目にも留まらぬ速度で標的の首を切り落としていく。連絡させる隙は与えない。そんなことをされたら下にいてくれてる幹部が上にあがってきてしまうかもしれないからね。もし地上にまで出られちゃうと困るんだよ。

 まぁ、何はともあれ肉体変異種は首を切れば死んでくれるので楽でいい。まだ一応人という部類に分類できるだけましだ。

 残りの幹部と言えば…あれ?そういえば幹部は8人だけど完成体を作るために実験で使われた奴隷とかもいるよね?だったら強い気配は9つじゃ足りないはずだ。

 今更ながらもう一度確認すると9つの気配のうち、2つは地下につながれている奴隷っぽい。あと、消えかかってて気づかなかったけど4人ほどの完成体っぽい奴隷が同じ場所につながれているのがわかった。



 「じゃあ2つ分気配足りてないよね?あれ〜?これって不味くない?今から世界中に探知かけるにしてもそんなことしたら僕の意識が落ちかねないからここを殲滅したあとにしないといけないわけで、そうなると…」

 「なんだぁ?侵入者だっつうから俺らここにいんのに1人じゃねぇか」


 とりあえず、目の前のことをさっさと片付けよう。

 残りはもう幸運を祈るしかない。

 目の前にいる6人の完成種となった男女に目を向ける。

 …僕の腕輪の一つが砕け散った。


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