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25.苛立つ日




 訓練所のステージの両端に立った状態で始まった決闘。

 先に走りこんできていた従者は僕の落とした荷物に一瞬注意を払ったが、僕が邪魔だと判断して荷物を降ろしただけだと考えたのだろう。従者はそれに見向きもせずに僕へ接近する。

 …残念ながらそれが間違いだよ。

 


 「なっ⁉︎」

 

 振り下ろす短剣は袋から飛び出した鱗数枚に弾かれる。

 彼女はそのまま一歩退き、後ろから来ていたフレッドも同じく間合いを取って待機。

 


 「撃て!」


 待機していたファイアー・ランスが僕に向かって飛来するが、さらに袋から出てきた鱗が形成する壁に防がれる。

 次々と鱗は袋から飛び出し、袋が空になる頃には僕の周囲に鱗が光に集まる虫のように舞っていた…というか言い方は汚いけど多分見た目的にはそうだろうね。鱗は小指の爪ほど小さくて、キラキラとしているから。



 「ふむ。出方を伺うね…まぁ、いい判断だと思うよ。一般人相手に限るけど」


 宙を舞う鱗は僕の手足へ集まり、籠手とブーツのようなものを形成する。

 一部が竜化したみたいに見えるね。

 動作確認のために数回跳躍。そして、地面を蹴って短剣を構える従者の目の前に。



 「人を殴るっていうのは思いの外痛いんだよ…ねぇ、作用反作用の法則って知ってる?もしくは力積。あとは反射とか?」

 「は、はやっ…⁉︎」

 「思うんだ。だったら自分が直接に触れなければ…痛くないんじゃなかなって」


 腕を突き出す。

 それに伴って鱗が動く。



 「か、はっ…⁉︎」

 「鱗と自分の手の間に空間を開ければ衝撃はこない。いい考えだと思わない…?って、聞いてないか」


 正拳突きで吹き飛ばされた従者の横を並走し話しかけてみたが、すでに気絶していたので聞こえてはいなかっただろう。そのまま壁に衝突して消えた。



 「さ、次はどう来る?前衛はパーティの要だよ。それが抜けた今、君たちはどうやって対処しようとする?」


 後ろ振り向く。

 フレッドを前衛に移動して陣形を新たにこちらを見ている。さっきまでがやる気がなさそうだったとは言わないけど、さっきより僕を脅威とみなしてかかっているようだった。

 魔法を使う従者が詠唱を開始し、フレッドが僕に槍を向けて牽制している。間にいる彼といえばただこちらを見ているだけ。指揮官としてではない。ただ守られる役としてそこにいるだけのように見える。

 


 「さて…」


 再び跳躍して調子を確かめ、それから地面を蹴る。

 これ、実は僕自身の筋力はほとんどしようしていない。足に纏う鱗の移動に体を引っ張らせているのだ。だから鱗のブーツによって動いているのだから変則的な動きもできる。

 ま、今回は必要なさそうだね。



 「へ…?」

 「君は後回し。邪魔にすらなれないし」


 フレッドの横を素通りし、魔法使いへ。

 振り向いて追おうとするフレッドと近づかれて逃げようと動き出す彼。

 そのままの速度で魔法使いの頭部を鷲掴みにして、残る2人から距離を取る。

 


 「多分君の魔法が一番邪魔。ということで退場〜…っせい!」

 「ぶぐっ…⁉︎」


 僕の拳は腹部を貫通した。

 血は流れない。痛みは一瞬だ。

 腹部を貫かれた魔法使いは死亡扱いとなって光になって退場させられた。



 「じゃ、残るは2人だけだけど…どっちから消えとく?」

 

 にこやかに2人に微笑みかける。

 怯えとも取れる表情を彼が浮かべる。

 フレッドは何かを彼に耳打ちし、彼はこちらを向いた。


 その表情には粘着質な笑みが浮かんでいた。



 「そ、そうだ…俺にはあの神とやらからもらった力が…」

 「さぁ、あんなやつ倒しちゃいましょう」

 

 彼は懐からなにやら黒い結晶を取り出す。

 それに魔力を込めたのが見えたかと思うと、結晶は崩れ去って彼に吸収されていった。

 …ふと思い出した。最近似たようなものを見たな、と。

 


 「ふ、ふはははは!なんだこの体にみなぎっている熱は!力だ!力が溢れている!」

 「…それは確か邪教徒の殲滅だったかな。似たようなものを砕いて使った後ね」

 「ふはは、ふは…え?あ、暑い!あづい!い、痛い、痛い痛い!」

 「体から大量の熱を発して化け物へと変化したんだよ」


 そして、その化け物は…ちょうど僕が戦争で戦ったあの化け物に酷似していた。

 2m半はあろうかという巨体と元の腕の太さからは考えられないほどに膨れ上がった筋肉。全身は残った傷跡のように赤黒く変化し、下手な金属よりも硬い。



 『ウボォォォォォオオオオオオ!』

 「はぁ…めんどくさ」

 「す、素晴らしい力です。さすがは…え?」


 フレッドは横に降った彼の腕に消し飛ばされて消えた。

 


 『イタイ、コロゼ、ノロエ…ワレラガテキヲ!』

 

 僕らはこの化け物を”邪神の使徒”と呼んだ。

 邪教の信者が変化する化け物。邪教を信じる使徒。



 「やれやれ…仕事が増えたじゃないか」


 このままここで殺したら待機部屋で復活してしまうだろう。

 どうしたものかな?

 彼だった邪神の使徒は僕に突っ込んでくる。それを籠手で受けて流す。



 「あ。そういえば…」


 ここは訓練所。

 多くの目撃者がいる…普通に殺してもそれはそれで問題になるだろう。なにせ元は人だったのだから。

 やっぱり多少の被害はしょうがないとして待機部屋に復活してもらおう。

 地面を踏み抜く勢いで降ろされたかかと落としを交わす。



 『ルォォォォオオオ!』

 「でも、訓練所にいる人に被害が及ぶのもあんまり好ましくないし、追い出しておこう」


 学園長が知り合いだからある程度は僕をかばってはくれるだろうけど、それにも限界がある。

 だって学園内は表向き平等の世界とされているのだから。

 


 「…でもどうやって追い出そうか?今僕がここから出たら生き残った従者たちに代表の選考に入る権利をあげるという仕事ができちゃうし」


 振り抜かれた拳を蹴って退く。

 僕が出たら失格扱いになっちゃうだろう。このまま時間稼ぎすれば従者たちが応援のために観客席にこないかな?あ、でもこんな状態になったから心配して見に直接入ってくる可能性は…ないな。入らせてもらえないだろうから。 

 とりあえず観客席にいないか見て…あ。



 「ハイドっ君!ちょうどっ…いいところにいた!」

 「へ?あ、はい」

 「復活するっと…思われ…る!控え室に〜…いる人全員!追い出して!きて!」

 「えっとなんでですか?」

 「死ぬ〜よ?…ああ!もううっとおしい。吹きとべアホ!」


 会話の邪魔をする邪神の使徒の頭を蹴っ飛ばしてステージ中央まで吹き飛ばす。



 「さ、もう1回言おう。あれは魔物に変化した人だ。もう戻ることはないから安心して殺していいよ」

 「え?え?」

 「ここで殺しても意味ないでしょ?だから追い出してからにする。そのため、控え室に人がいると巻き添え食らうかもしれないから追い出してきて」

 「は…はい。わかり、ました」

 「よろしい。じゃ、1分ぐらいしたら倒すから」


 観客席にいたハイド君が走り出す。

 僕は振り向いて邪神の使徒に目をやる。今起き上がってこちらを睨んでいるところだった。

 そして僕を見定め、全身の筋肉を隆起させて突っ込んでくる。



 「よっ…そういえばなんで試合止められないんだろ?普通こんなに外見が変化してたら…あ、そっか。種族スキルの一種だと思われてるのか」


 身長が伸びたり外見が変わったりは結構よくあることなのだ。

 獣人種の【獣化】なんてその種族の元となってる動物に変化するほど強く獣化する人もいるぐらいだからね。こういう変化をする種族がいてもおかしくないとか思ってるんだろう。

 …見た目思いっきり人間種だったし、明らかに何かしてたんだから止めてよとは思うけどさ。

 


 「ふっ…ほっ…っと」

 『ヌゥゥガァアァアアルゥゥアァアアア!』

 「…多分逃げるなとか言ってるんだろうけどもうほとんどわからないね。言葉通り完全に人やめてるよ」


 振り下ろされた拳を横に避け、観客席の入り口とステージの入り口に目をやる。

 ハイド君はまだだろうか?

 いい加減にめんどくさく…もとい、抑えるのが大変になってきた。

 いやね、言い訳をするようだけど攻撃をただ避けてるわけじゃないんだよ僕は。ステージに大きな被害が出そうな攻撃は打ち消してるし、観客席にまで突っ込まないようにちゃんと誘導もしてるし、周りの観客は一部を除いて普通の決闘だと思って楽しんでるみたいだがらそれっぽく振舞ってるし。



 「シエン先輩!」

 

 観客席の入り口からハイド君が叫ぶのが確認できた。



 「よし、じゃあ終わりっと」


 こちらに殴りかかってきた邪神の使徒の頭部へ拳を叩き込む。

 邪神の使徒は脳が揺すられ、気絶して倒れこんだ。気絶して少ししたら追い出されるので、それまでの間に移動しなくては。



 『え〜、勝者は4年、シエン!』


 観客の歓声が聞こえた。

 地面に落としたままの袋を拾って、僕は片腕を掲げながらステージから出る。そして、観客から見えなくなったところまで行くと走り出した。



 「気絶させたから復活しても数十秒ぐらいは…」


 待機部屋で意識を取り戻す前にトドメを刺そう。

 訓練所を出てすぐ、待機部屋の扉の前でどうしていいのかわからずあたふたしている従者3人が見えた。



 「邪魔、退いて」

 「な、なぁ!あれは神の力じゃないのか⁉︎私らは…私らはどうすれば…」

 「知らないよ」


 腕にしがみつこうとした短剣を持っていた従者の腕を振り払う。

 扉を開けるとさっき気絶させたままの状態の邪神の使徒が倒れていた。僕はそのまま中に入って1本剣を作り出して心臓を貫く。



 「ぇ…?」


 後ろから疑問の声が上がった。

 そして、僕に向かって走ってきて胸ぐらをつかむ。



 「な、なぜ殺したんだ⁉︎エッフェンド様が何をした!」

 「うるさいなぁ…あれは君らの知る彼じゃないよ。あれは人をベースに作り変えられた化け物。僕ら一部のこれを知る人が”邪神の使徒”と呼ぶもの」

 「ふ、ふざけるな…!ふざけ……ふざ……うわぁあぁああああ!」


 そのまま従者は泣き崩れた。

 邪神の使徒へと変化した人は二度と元には戻らない。きっとそんなことは知らなかっただろうし、そもそもあれがこんな結果を生み出すというのも知らなかっただろう。

 彼だったものに従者はしがみついて泣いた。残り2人の従者はただ呆然とその光景を見ていた。



 「とりあえず2人とも、中に入ってくれる?色々と話があるからさ」

 「は、はい……」

 「え、ええ…わかり、ました」

 

 困惑している2人を待機部屋に入れ、扉を閉めて鍵をかける。

 待機部屋にはベンチとカーテンで仕切られたベッドと4人の人と化け物のみ。なんとも異質な雰囲気を作り上げていた。



 「さて、まず言っておこうか。彼を殺したのは僕じゃなく、君だよ。フレッドだっけ?君」

 「…え?な、なんで俺が…こ、殺したのはあんたじゃないですか!」

 「ん?だってあれ使わせたの君じゃん?あれ使った瞬間に彼、死んだよ?」

 「で、でもそ、そんな…」

 「責任感じて?あれを使うということがどういうことだか、今からしっかり教え込んであげるよ」


 ブツブツ言ったままうつむいちゃったので、僕は彼だった物の遺体をベッドに移動して布をかぶせた。

 泣き喚いている短剣の従者は引き剥がしてこっちに連れてくる。いまだになんとも言えない表情を浮かべる魔法使いは椅子に座らせた。 



 「さて、まずひとつ。君ら、随分とふざけたことしてくれたね?自覚ある?あれって…王国だったら1発で死刑だよ?」

 「そ、そんな…お、俺らは知らなかったんですよ!」

 「そんなことはどうだっていいよ。君らが使った物についてあまりにも無知だった自分たちを恨め。あれは、世界が邪教認定している宗教のものだよ。それぐらいは知ってるでしょ?というか知った上で入信してたでしょ?」

 「ぅ…はい」

 「そもそもなんでその宗教が邪教認定されてると思う?人間種を至高としているからだと思ってるんだったら大きな間違いだからね。元々その理由で大陸から無くそうとしてたけど、今はそんな理由じゃないから。今は彼だった化け物…それを生み出してるから邪教認定されてるんだよ。ああ、そういえば君ら僕のこと知ってる?」

 「し、知りません、けど…」

 「僕の名前はシエン・クラウディア。わかると思うけど剣聖の弟だよ。僕らは王命を受けて動いてる。その王命が邪教の鎮圧、もしくは殲滅だよ」


 全く、面倒な仕事を押し付けてくれたものだよ。

 確かに原因の一因は僕にあるわけだしなんとも文句が言いづらいんだけどさ。ま、人の身に余る作業だししょうがないってことで引き受けている。



 「邪教の目的は邪神の完全復活。その邪神が意味するのがなんなのかは知らないけど、またあの戦争に近いものが起こるっていうことには間違いないだろうね。君らはその片棒を担いだわけだ。ま、その戦争は体験してないから知らないだろうけど、確か死傷者は街が4つ分ちょっといたはずだよ。君らはそれをもう一度起こしたいって言うんだよね?」

 「ち、ちがっ…!」

 「じゃあ何?君らのその軽率な行動でどれだけの人に迷惑がかかると思ってるの?割と今僕は怒ってるからね。知らなかったで済まされるとでも思ってるんだったらさ…一度死ねよ?」


 そういう人間が僕は嫌いだ。

 知ろうともしなかったくせに責任逃れする?無知なことは罪だ。子供じゃないんだから、許されるわけがないだろう。



 「ど、どうすれば…どうすればよかったんだよ!俺らにできることなんて…」

 「知らないよ。君らの言い分を聞く気は一切ない。近いうちに協会の人呼んでおくからおとなしく裁かれてね」

 「あ、あんたは俺らに死ねというのですか⁉︎」

 「うん、死ね。ああ、逃げても無駄だよ。逃げるくらいなら僕が殺す。安心して?その時は拷問にでもかけて死ぬまで苦しめ続けてあげるから。ま、おとなしく協会の人とお話しすることを勧めるよ。以上、僕は帰る」


 彼だった死体をポーチへ回収し、部屋を出る。


 その数日後、僕は協会の友人から一人が斬首、残りの二人が今後の戦闘に参加したいというので捨て駒として使われることになったという話を聞いたのだった。


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