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21.合宿日〜その2〜



 合宿開始から5日。

 ディランと赤色君は今日も半分海に浸かって模擬戦。だんだんと慣れてきたためか動きに無駄がなくなってそこまで早くないけど観れる試合をやっている。

 エルシーとハイド君は今日も的あて。ひゅんひゅんと風をきる弓矢をハイド君がアクロバティックに避けていく。もう昨日あたりから当たらなくなってきた。

 水色君は水面に浮いてウォータードラゴンを作り、輪くぐりをさせている。あっちこっちからウォーターボールとアローが飛び交い、一種の曲芸状態。

 マリーはというと体術の基礎練中。そのあとは剣術、槍術、棒術。さらにアルドを呼び出して回避の訓練。



 「暇になっちゃったな〜…」


 みんなひと段落ついたせいで僕が暇になった。

 もう手取り足取り教えなくても見守るだけで十分なので僕の仕事がないのだ。



 「シエンせんぱ〜い…当たらないですよぉ〜」

 「ん?ああ、エルシーか〜」


 仕方ないので砂で城を建てているとエルシーが泣きついてきた。

 ハイド君が悠々と矢を避けるようになったので参っちゃったのかな?



 「どうすればいいんですかぁ。あたし、このままじゃ今日も罰ゲーム…うぅ」

 「ええ〜。僕は弓は撃てないからなぁ〜…あ、いや、撃てないこともないか。まぁどうだっていいね。エルシーの矢は単調になってるんだよ。フェイクと本命とって色々とやってごらん」

 「お手本…お手本をお願いします!」

 「僕は弓は撃てないから魔法で代用するけどいい?ちゃんと真っ直ぐしか飛ばさないしゆっくりだからさ」

 「それでいいです。だからお手本を〜」


 僕は立ち上がり、ハイド君へ声をかける。



 「ハイド君、ちょっと僕が相手するから頑張ってね〜」

 「わかりましたけど…」

 「じゃ、行くよ〜」


 弓を持つように右手を前に出す。

 そして、その指先から水の矢が放たれる。ハイド君の足元に刺さり、飛び退く瞬間にもう一発撃ち込む。

 空中で体をひねって避け、着地した瞬間の足元へ一発。そっちに気を取られてるところに本体へ一発。

 横に飛び退こうとした瞬間より早く横に撃ち込んで移動してる最中のボールを打ち抜いた。



 「ほら。こうすればどれが自分を狙ってるのかわからなくなるでしょ?」

 「な、なるほどです。これだったら私でもできそうな気がしてきました!」

 「…ま、実際はそんなに簡単じゃないけど頑張って〜」

 

 走って行ったエルシーを横目に再び砂浜に座り込んで城作りを再開した。

 土台を作り、城の本体、突き出る塔、城壁、さらに門や窓を作り上げて完成。

 オリジナルはシルフィード王国城。中央に立つ塔の部分を変えて、そこにテラをポンと載せておく。

 …王国はテラによって占拠されました〜。



 「さて、じゃあ水色君に次なる試練でも与えようか」


 止まった状態での並列起動は様になってきた。もうそろそろ戦闘を考えて動き回りながらできるようになってもらおうか。

 僕は水色君に向けてボールを撃ち込む。

 それに気がついて水色君が避けた。そしてこっちを見る。



 「枝は…これでいいや」


 適当な枝を拾って砂浜に文字を書いていく。

 ”これからは僕の方から魔法が飛ぶから魔法だけじゃなくて敵にも注意を向けるように”



 「…通じたかな?」


 水の輪っかをこちらに向けているので多分わかったということだろう。

 砂浜に適当な魔法陣を描く。そして、そこへ魔石を砕いて撒き散らす。小さな水弾が水色君へと飛び出していった。

 陣にばらまかれた魔石から魔力を吸い出して水弾に変換して飛ばすだけのちょっと複雑な魔法陣。

 向こうで水色君が頑張って避けながら変な顔して魔法を維持しているのが見える。今までは魔法のみに集中してれば良かったのにこれからは周りのことまで気を巡らせないといけないので大変だろう。ま、当たって死なないことを祈っておく。

 まぁ、でもこれを普通にできるようになったら一人でも戦える魔法使いになれるよ。詠唱しながら逃げれるし。もっと欲を言えば戦闘までこなせるようになってほしけど、あと2日じゃ無理かな。

 …とは言っても明日からは強制的に戦わざる得なくするからなぁ。

 海に浸かって模擬戦をしているディランと赤色君に目を向ける。

 そこそこに疲弊しているようだ。ちょうどいいし2人にはお昼休憩にしてもらおう。



 「ディラン、赤色君、そこまでにしてお昼食べに行ってきな〜」

 「………わかった」

 「了解っす」


 ざぶざぶと間合いを取ってから返事をした。

 2人は海から上がっていくのを横目に僕は横に目をやる。



 「マリーも。そこまでにして一旦休憩にしていいよ。あと、この魔法陣見ておいて。僕はちょっと出かけるから」

 「はぁ…はぁ…わかり…ました……ふぅ。お兄ちゃ、様、どこに行くのですか?」

 「ちょっとね…?」

 「?…わかりました。聞かないでおいてあげます」

 

 こっちに歩いてきて僕の真横まで来たマリーにタオルを渡して、僕は立ち上がる。

 すねたような顔をしたマリーに苦笑いを向け、ごめんねと頭を撫でた。

 そしてディランの方へ目をやって銀貨数枚を投げる。



 「ディラン、これでお昼食べて」

 「…金ならある」

 「じゃ、頑張ったご褒美ってことで。あと僕はちょっと離れるから」

 「なんでだ」

 「秘密〜。じゃ」

 「またか…」


 不満げなディランをよそに僕は砂浜を離れる。

 さて、これからどこに行くかというと闇ギルドと呼ばれるところだ。 

 やることは後でわかるからいいとして、そもそも闇ギルドとは何かという話をしようか。闇ギルドって言うと後ろ暗い仕事を引き受ける犯罪組織…みたいなイメージがあると思うが、ここでは正確に言うと違う。

 闇ギルドというのは、世界的に有名である冒険者ギルドに取り込まれることなく残った個人経営のギルドのことだ。昔はギルドといっても今でいう冒険者たちが集まっている酒場のような場所で、そこで依頼を受ける形を取っていた。ある時、1つの国が諸事情(・・・)によりギルドを1つにまとめようとした結果が、今の冒険者ギルドだ。

 そして、そのまま個人で残ったのが今の闇ギルドと呼ばれるものである。元々は冒険者ギルドと同じように通常の依頼を受けていたのだが、冒険者ギルドよりも闇ギルドの方が得になることも特にないので民が利用しなくなった結果、ギルドとして生き延びるために非合法な依頼も受けるようになり、日陰者たちという意味合いで”闇ギルド”と呼ばれている。

 だから、実は闇ギルドと言ってもそういう依頼以外を受けるギルドもある。例えば、冒険者ギルドでは危険度が高すぎて受け付けてもらえない依頼や依頼に対する報酬が低すぎて誰も受けてもらえない依頼だ。

 …まぁ、逆に言えば暗殺や誘拐だとか真っ黒い依頼を受けるギルドも存在してるわけだけど。というかそれが半分以上だし。



 「えっと…こっちかな?」


 商店街から横道に逸れる。

 そのまま細い道を進み、危険な雰囲気を放つ通りを進んでいく。



 「どこだったっけ?…街の構造が変わったせいで迷子になりそうだよ」


 そして、この街に存在する闇ギルドは複数の街に拠点を持つ結構影響力のある闇ギルド。そして、後ろ暗い依頼を受けるギルドでは、上位から数える方が早いぐらいのポジションに値するギルドだ。


 記憶にある位置を頼りに目的地を探す。

 数十年前に来た時は街がまだ小さかった上に闇ギルドが手を出そうとしているという噂を聞いてちょっと下見に来ただけだったから位置が正確じゃないせいで迷っている。 



 「ふむ…探知しようか」


 周囲の気配を見て歩き出す。

 この街にある闇ギルドはありもしない噂を吹聴したり、言いがかりをつけて脅迫、喧嘩や騒動を起こすなど、程度の低いことをして相手の印象を悪くしたりする仕事を客…主に商人や貴族から受けている、ってのが表向きの話。

 このギルドは大陸中で最も人を殺しているギルドだ。ありとあらゆる方法で人を追い込み殺す。あくまでも自分達は悪くないと言い張れるところがすごい。



 「…じゃあ、お邪魔しておこうか。『仮装(セット)』」


 指輪…”怠惰の衣装箱”を嵌めて、服装を変える。

 ベージュのズボンと黒いベストに青色のジャケットを着た上に、真っ白いマントのファーのついたフードをかぶり、目元を隠す仮面、聖剣を彷彿させるような煌びやかな剣を帯び、翼の描かれた銀色のグリーヴを履いている。

 中の服はまちまちだが、これがハイガミとしての正装。ゲームのキャラクターにいそうな格好だ。 



 「あ、あ〜…よし。いいだろう」


 扉を開ける。

 扉を開けた瞬間、中から視線が刺さる。

 中にいたのは黒い布で口元を覆った男や一般の冒険者のような風体の男女、吟遊詩人分の青年もいれば、踊り子のような女性も。とにかく様々な人がいた。



 「お?お?あれってハイガミじゃね?」

 「いや、こんな場所に来るわけねぇだろ。どうせまた模造品きた偽もんだよ」


 兄弟のような二人組がこっちを見て言う。

 僕はそちらに目線をやる。



 「げ。こっち見た」

 「そんな顔するんじゃねぇって。客かもしんないだろ」

 「安心しろ。客ではない」

 「しゃ、喋ったー!」


 僕が反応を返すとビクッとして退いた。

 


 「まぁ、マスターに用があることには違いないがな」

 「…?それって客じゃね?」

 「依頼ではなく、お願い(・・・)に来たのだ。客ではないだろう?」

 「へぇ…お願いねぇ。おい、マスター!また変なのが来たぞー」


 後ろにいた踊り子がカウンターの横にいる青年に声をかける。

 どうやらそいつがマスターのようだ。

 その青年は右目に眼帯をした銀髪のイケメンだった。



 「なるほど…貴殿がマスターか?」

 「いかにもって、そういうのはそっちから名乗るもんじゃない?」

 「ふむ…それは失礼したな。私は剣聖ハイガミ。ハイガミ・クラウディア。これでいいだろうか?」

 「へぇ〜。で、その剣聖さんはなんの用?まさか剣聖だから試験も無しにギルドに入れろとか言い出すわけじゃないよな?」

 「…?なぜそのような話になるのか理解しかねるな。私はただ、お願いをしに来たのだと言ったが」

 「れ?違うんかよ。んだよ〜。また剣聖を語ってうちに入ろうって輩かと思ったのに……ん?じゃあなんでうちに来たんだよ?摘発?」

 「私が兵士に見えるか?」

 「いや、貴族の私兵って結構偉そうだしな。見えなくもないかもしれないが…あんたからはそういういやらしさは感じないわ。あんた何者だ?」


 どうやら偽物のせいで迷惑していたらしい。

 ま、実際にそういう輩は結構多かったらしいし、実は闇ギルドの人間だとかギルドの裏の人間だとか色々な噂が飛び交っていたのも事実。どこにいたのかがわかっていない正体不明だったのだから。



 「言っただろう?私は剣聖ハイガミだと」

 「…もしかしてマジもんだったりする?いや、いや。じゃあなんでこんなことに来てんだよ。やっぱり偽もんだろ」

 「試してみるか?私に二つ名の意味は貴殿ほどになれば知っているだろう?」

 「曰く、白黒混じった絶対強者、灰色の神様…だったか?」

 「私に二つ名は闇ギルドによって付けられたタグだよ。触れるな危険、とね…そういえば貴殿はあの会議にいたかな」

 「あ〜…お前ら、こいつには手ぇだすなよ。マジもんだ」


 そうマスターが告げると、後ろにいた人がささーと引いていった。

 


 「ふぅ…用件を伺わせてもらうぜ」

 「何、大した用ではない。ただ少し忠告に来たまでだ」

 「忠告?」

 「今、この街には私の妹と弟…それからその友人がいる。彼らに手を出さないように、とね」

 「へぇ…一応聞いておきたいけど、もし手を出したら?」

 「私はあずかり知らぬよ」

 「あんたは関与しないと?」

 「ああ。私は平和主義なのでな」


 別にそうではないけど、この街でわざわざこの姿にまでなって騒ぎを起こそうとは思わない。

 やるんだったらいつもの方でやるよ。



 「じゃあなんで忠告を?」

 「”白き暴虐”という者を知っているだろうか?」

 「戦争前に突然現れた冒険者だったか?確かガーネットを数日で跡形もなく消したっつう」

 「あれが私の弟だ。一つ付け加えるのなら、ガーネットが消えた原因は妹を誘拐しようとしたためだったよ」

 「…りょ〜かい。あんたんとこのもんに手は出さないよういっとくよ」

 「そうか。理解が早くて助かる」


 僕は立ち上がって出口へ向かう。



 * * *



 カラランとうちのギルドの入口が閉まった。



 「はぁぁぁ…マジありえねぇっての。どの口が平和主義者だなんて言うんだっつの」


 やばい。あれはマジもんだ。

 マジのハイガミだ。



 「マスター、あの二つ名の理由ってなんなの?」

 「んぁ?ああ。数年前に行われた全大陸の人を集めて行われた会議は知ってるだろ?」

 「あの戦争の後片付けの?」

 「そ〜、それ。そこであいつは逆らおうとしたやつを全員切り捨てたんだよ」


 今も思い出すだけで手が震えやがる。

 あれは絶対に逆らっちゃいけないナニカだった。



 「へ?」

 「その後に恨んだ所からいろんな刺客が送られたんだが、そのことごとくを切り刻んで送り返してきたんだとよ」

 「へ、平和主義ってなんだろうね、マスター?」

 「おれに聞くなよ…まぁ、そんなことのせいで清濁混じって行動する様と髪の色をかけて灰神ってな」


 抗うことのできない絶対強者。

 SSSランクに昇格した時にデモンストレーションだとか言って王都近くの森に剣の一振りで道を作った。

 王城での宴のためにドラゴンを狩ってきた。

 皇国に残る反乱軍を剣を一振りするだけで片付けた。

 他にも様々な逸話があるが…恐ろしいことにその全てが事実。



 「マスター?」

 「あ?ああ、なんだったっけか?」

 「なんでもないよ?」

 「そ、そうか。じゃあ、皆に手は出さないように伝えないとだな」


 うちの誰かが手を出して滅びないことを祈るのみだ。


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